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修理屋の悠々 ~故障品再生スキルで転生スローライフ~ 【書籍化決定!】  作者: 相有 枝緖
第三章

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第67話 「彼に似ているカイには、興味を抱かざるを得ない」

ぼとり、とヒルダは手から小麦粉の袋と塩の小袋を落とした。

フィーネは耳をピンと立てて目を見開き、アウレリアも驚いたように目を瞬いている。


「我の魂の片割れは、とても不思議な魅力のある人物でね。いつでも、気づいたら人に囲まれていた。我がこうして旅をしているのも、彼がもっと世界を見たいと言っていたためだ」

周りの人たちの驚きをよそに、セリスは柔らかく微笑んだまま話し続けた。


「普通、エルフとヒト族の間に生まれるのはエルフだ。だが彼は、珍しくヒトの血を強く引いていた。ほんの小さな子どものころだけだが、里では少し遠巻きにされていた。長じてから理由を知った彼は『それは希少種ってことか!』と喜んでいたよ」

どうやら、かなり前向きな人物だったらしい。


「その方は……」

口を開いたものの、どう言ったらいいのかわからずにカイは言い淀んだ。

『魂の片割れ』のことを語るセリスの言葉は、すべて過去形なのだ。


「ああ、ヒト族としての寿命をまっとうした。もうかなり昔の話だよ」

その表情に、陰りは一切ない。

もうとっくに重いものは呑み込んで、ただ温かい記憶になっているのだろう。


ただ、セリスがあまりにもカイを熱心に見つめるので、どうするのが正しいのかわからない。


「あの!エルフの里では、他種族はあまり歓迎されないんですか?」

落とした袋を拾ったヒルダが話に入ってきた。

心なしか、小麦粉と塩を持つ手に力が入っているように見える。


「いや、そこまで排他的というわけではないのだよ。ただ、そう。人生のパートナーとして他種族を選ぶことはあまりない。寿命が違いすぎるからな」

セリスは、微笑みを残した表情でヒルダを見た。

美しすぎる笑顔を向けられたヒルダは、思わずといった風に頬を赤らめていた。


それについては、カイとしてはわかりみしかない。


「じゃ、じゃあ、その人のご両親って」

「母親がエルフで、父親がヒト族だ。熱心に口説かれて、絆されたと聞いた。結局ほかのパートナーを得ることなく今日まできているから、絆されたというよりは伴侶として自ら選ぶに至ったんだろう」

カイを見ていたのとはまた違う、柔らかな笑みになったセリスを見て、フィーネもほんのりと頬を染めている。


「エルフのお母様は、まだご健在なんですか?」

カイの隣に並んだヒルダが、いつも通りの笑顔に戻ってからそう言った。


「ああ、エルフだからな。エルフは、長生きがゆえに感情が薄いと思われがちだ。しかし、実際には愛情深いし記憶も薄れない。我にとって、魂の片割れはずっと大切な人だ。彼に似ているカイには、興味を抱かざるを得ない」

さらりとプラチナ色の髪をゆらして、セリスはカイを見た。

カイは、思わず息を止めた。


視界の端で、ヒルダの耳がピンと立ったのが見えた。

アウレリアはずっと口元に手を当てたままじっとこちらを見ているし、フィーネの尻尾は立ったり下がったりと忙しい。


どう反応するのが正解かわからなくなったカイは、笑って誤魔化した。



セリスたちとはそこで別れ、どこかピリピリしたままのヒルダにお金を支払って小麦粉と塩を受け取った。

変に弁解するのも違う気がして、ヒルダにはいつも通りの挨拶をしただけだ。


昔よく知っていた人と似た人がいたら、気になるのはわかる。

だが、セリスは絶世の美女で、見た人すべてを惹きつけるようなエルフなのだ。

とても心臓に悪い。


ゆっくりと歩きながら、カイは呼吸を整えた。


デニスの家のあたりには、魚の焼けるいい香りが漂っていた。


「こんばんは。お言葉に甘えて、魚をいただきに来ました」

裏口に回って声をかければ、すぐにイーリスが扉を開けてくれた。


「いらっしゃい。ちょうど焼けたところよ。お皿に入れるから、中に入って少し待ってね」

「はい、お邪魔します」

こういうときに遠慮しなくなった自分に気づくと、村に馴染んだなと思う。


「ワイン工房のお仕事はもう終わったの?」

イーリスは、手でダイニングの椅子を示してから、扉を開けたままのキッチンに入っていった。


「いえ、まだ明日続きがあります。もしかしたら、明後日もですね」

キッチンに向かって少し声を張って返事をしたカイは、椅子を借りて座った。

家の中は、相変わらず少しごちゃっとしていて、落ち着く雰囲気だ。


「あらあら。大変なのね。それじゃあ、この魚でも食べて力をつけないと。お皿はまた今度でいいわよ」

イーリスは、蓋付きの皿を持って戻ってきた。


「ありがとうございます。正直に言うと結構疲れているので、とても助かります」

かなりだるいので、もしイーリスに魚をもらわなければ、夕飯はパンをかじって終わりだったかもしれない。


カイが苦笑しながら言うと、イーリスは大きな布で皿を包みながら何度かうなずいた。

「たまにはそういうこともあるわね。そういう日に限って食堂は休みだし。さ、これで持って帰りやすいわ」


あちこちを結んで、持ち手を作って肩から掛けられるようにしてある。

これなら、皿をまっすぐにしたまま持って帰れそうだ。

「すごいですね。どうやって結んでるんですか?四角い布だったのに鞄になってますよ」


カイは、思わずまじまじと見た。

日本で生きていたころにテレビで見た、風呂敷結びに似ている気がする。

覚えておいたら便利そうだ。


「あら、これ? かなり昔に、ツーレツト町の布屋さんが教えてくれたのよ。籠がないときに便利でね。基本は、こう折って、こっちの両側をこう結んで、それからひっくり返して広げて、残った角どうしの端を結ぶの」

イーリスは、四角い布を三角に折り、底辺の両端をくくってから、ひっくり返しながら折り目を広げて底を作り、残りの角の端っこを結んで鞄のようにした。

謎の技術だ。


「うーん、すぐにできる気がしません。これって、みんなできるんですか?」

「そうねぇ。ツーレツト町では、みんな当たり前みたいにしてたわ。布なら、置き場所に困らないからいいんですって。あの町は、使える土地が限られてて、家も小さくなるからね」


ツーレツト町は、海と川と山に囲まれた町だ。

山の方は少し開墾されて広がっているけれども、山の向こう側にはヴィーグ村の方とは別の魔物の森があるので、それ以上は難しい。

人口の増加で土地が足りなくなったので、家の大きさを削ることで対処しているようだ。


「アパートが多いですもんね」

「そうなのよ。だから籠なんて置く場所がもったいないんですって」


なるほど、とうなずいていると、エルゼが野菜の入ったかごを持って裏口から入ってきた。

「ただいま。あら、カイじゃない。いらっしゃい」

「こんにちは。お邪魔してます」


エルゼはそのままキッチンに向かい、カイは席を立った。

「そろそろ帰りますね。お魚、ありがとうございます」

「はいはい。気を付けて帰ってね」


イーリスと話して肩の力が抜けたカイは、どこかほっとして家路についた。

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