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修理屋の悠々 ~故障品再生スキルで転生スローライフ~ 【書籍化決定!】  作者: 相有 枝緖
第三章

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第62話 「やべぇ、美味い」「でしょう」

見積もりについてもう一度確認して、いったん昼休憩をとった。

わざわざ家に帰るのも手間なので、カイは弁当持参である。


工房の裏手に回れば、いくらでも空き地がある。

適当な切り株に腰を落ち着けて、カイはドゥン巻きを包んだものを取り出した。

「クレープもどきっていうか、タコスっぽいというか。醤油があればなぁ」


カイは、口を大きく開けてパクリとかぶりついた。

「ん、おいしい」


記憶を頼りに適当に作ったソースだったが、思ったよりもおいしい。

惜しむらくは、レシピなど覚えていないことだ。


「何だったかな……。商店で買った魚醤と、多分油と、あとお酢?ジャムもちょっとだけ入れたっけ」

美味さの根源は油と砂糖だと聞いた記憶があったので、思い切ってジャムを入れてみたのだ。


「これは正解だな。また今度作ってみよう」

次は、メモを忘れないようにしたい。


もごもごと食べていると、向こうから人がやって来た。

見知った人たちだ。


「カイ、昼飯か?」

こちらに気づいたエーミールが、軽く手を上げた。


「はい。皆さんは、森から戻られたんですか?」

エーミールの後ろには、アウレリアとフィーネ、そしてセリスがいた。


「ああ。セリスの付き添いついでに、ちょっと魔物を狩ってきた」

答えたアウレリアが背負ったハルバードの向こう側に、青っぽい魔物が見える。


「魔物も討伐されたんですね。お疲れ様です」

すると、アウレリアはゆるりと目じりを下げた。

「ブルーピジョンは、炭火焼きにするとおいしいんだ」


ふふふ、と笑ったアウレリアを見て、フィーネは肩をすくめて耳を下げた。

「ウチはちょっと苦手かも。ちょっと香りが独特で」


「それが酒に合うんじゃないか」

「これだからアウレリアは」

きゃっきゃとじゃれだした二人を追い越し、セリスがカイの目の前まで来た。


「それは、ドゥンだな」

「はい。見栄えも何もないですが」

カイがかぶりついたところからは、焼いた肉とたっぷりの野菜が見えている。


「なるほど。カイは器用だな。しかし、野菜を入れるとは随分としっかりしている」

ふむふむ、とセリスは珍しそうにこちらを見た。


確かに、カイの年代だけでなく、多くの男性は野菜より肉を好む傾向にある。

これだけ野菜をもりもりに入れる男性は少ないかもしれない。


「本当だな。そんなに葉っぱばっかりで、味が薄くなりそうだ」

セリスの後ろからちらりとカイの手元を見たエーミールは、うぇ、と言うように口を尖らせた。


「大丈夫ですよ、ちゃんと味付けをしていますから」

「サラダにもかけるようなやつか、塩だろう?美味くはないな」

首を横に振ったエーミールを見上げて、カイはまだ口をつけていないドゥン巻きを差し出した。


「ソースを作ったんですよ。すごくおいしいですから、一度食べてみてください」

差し出されたエーミールは、ドゥン巻きとカイを見比べてから、恐る恐る受け取った。


「一口だけもらうぞ」

「どうぞ」


遠慮がちにぱく、とドゥン巻きを口に入れたエーミールは、数回咀嚼してから動きを止めた。

そしてもう一度もぐもぐと口を動かしたと思ったら飲み込み、もう一口かじりついた。


「やべぇ、美味い」

「でしょう」


自慢げにカイが胸を張ると、セリスがエーミールに手を差し出した。

「我にも食べさせてくれ」

「ああ」


エーミールは快く渡し、受け取ったセリスは躊躇なくドゥン巻きをかじった。

「……ふむ。これは、なかなか」


それを見ていたフィーネとアウレリアも寄ってきて、セリスからドゥン巻きをもらった。


「ん?なにこれ、すっごいおいしい」

フィーネは、尻尾をぴょこんと揺らした。


「美味いな。これなら野菜もたくさん食べられそうだ」

最後の一口を放り込んだアウレリアは、指についたソースをぺろりと舐めた。


カイの昼食が少し減ってしまったが、おいしさが伝わったのならなによりである。

「ね、味付けを工夫したら野菜もおいしいんですよ」


「わかった。そうだな。俺の負けだよ」

エーミールは、降参するように両手を軽くあげた。


その様子を見ていたセリスは、柔らかく笑った。

「カイは、料理にも長けているのだな」


「長けているというか、どうせならおいしいものを食べたいじゃないですか」

へらりと笑い返したカイは、ドゥン巻きを持っていない方の手で耳元を掻いた。


「おいしいもの、か」

「はい。おいしいは正義ですからね」

そう言ったカイに、セリスは眩しいものでも見るような視線を向けた。





昼食を終えて、カイはワイン工房の倉庫に向かった。

三台は、スクリュー部分の修理をすることがほぼ決まっている。

残りの一台を桶ごと修理するかどうか、ファイトが悩んでいたのだ。


別に今日決めなくてもいいのだが、ワインの醸造を始める前には修理を終わらせないといけない。


昼休みを使って色々と考えたらしいファイトは、カイを見るなり口を開いた。

「やっぱり、木部が柔らかくなっている絞り機は、全体的に修理してもらおうと思う。きっと、父さんもその方が良いって言ったんだよね?」


そのあたりの言動はさすがに見抜いている。

さすがにすべてとはいかないが、やはり親子なのでわかることも多いということだろう。


しかしカイは、ベルントに約束した手前肯定せず、にっこりと笑顔を返した。



「それにしても、父さんがぼくのことを考えて身を引いたなんて思ってもみなかったな。この分だと、出ていった兄さんのことも誤解している気がするよ」

方針を決めて一区切りついたところで、ファイトがグイッと背伸びをしながら言った。


「お兄さんがいらっしゃるんですね」

カイはまだそこまで村人の事情に詳しいわけではないので、普通に初耳である。


「うん。ぼくより八つ年上でね。『調理の達人』っていうスキルだったんだけど、ワインを使ったレシピを考えたりして、父さんとも役割分担できる後継ぎだったんだ」

「なるほど」

調理だと少し分野は違うが、醸造したワインを生かせるスキルなので大きく外れてもいない。


ファイトの言い方だと亡くなったわけではないようだが、はたして。

「ぼくのスキルが『醸造家』だとわかって、兄さんはあっさり後継ぎを下りたんだ。そのまますぐに家を出て料理人として修行を始めた。それまで、包丁なんか握ったところを見たこともなかったのに」


なるほど、ファイトさんがどこか強く主張できずにいるのは、お兄さんが出てしまったこともあるようだ。

「ファイトさんが後を継ぐ方が良いと判断されたんですね」


ファイトは深くうなずきかけて、首をひねった。

ふっさりした尻尾も、斜めになって止まっている。

「そうだと思ってたんだ。もっと言えば、ぼくが遠慮しないように、自分のスキルを生かす仕事に就いて見せたんじゃないかなって。でも、もしかしたら違ったのかもしれない」


今回ベルントとすれ違っていることがわかって、疑問に思ったようだ。

「本当の理由は、聞いてはいないんですね」

「うん。決断してから家を出るまでがものすごく早かったんだ。『どうして』なんて聞く暇もなかった。母さんとは多少手紙をやりとりしているみたいだけど、ぼくはなんていうか照れくさくて。籠り月にカードを送るだけなんだ」


籠り月とは、年末年始の間にある、どの月にも属さない期間のことだ。

一月は二十五日で、籠り月だけ十日。

一年は、十四カ月と籠り月。

合計三百六十日で一年となる。


「籠り月にも、戻られないんですか?」

籠り月はほとんどの職業で休暇になるので、里帰りする人が多い。


「うん。今は王都を挟んで向こう側の町にいるんだって。さすがに遠くて、十日じゃあ往復もできない」

ファイトはゆるりと首を振った。


「それは、かなり遠いですね」

王都でも、歩いたら片道二週間ほどかかる。

馬車を使えたとしても半分になるかどうかというところなので、まったく足りない。


「だから、ここ数年は顔も見れていないんだ。一回手紙を出して聞いてみても……。いや、母さんなら、何か知ってるかもしれないな」

言いながら、ファイトは耳をピコンと動かした。

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