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誰にも言えないLv1の恋〜課金だけが取り柄だった私、担当のプロゲーマーに溺愛される〜  作者: 希羽


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第28話 けじめ

 決勝トーナメント開幕を数日後に控え、蒼真くんの練習は過酷さを極めていた。

 夜遅くまでのスクリムに戦術分析。毎晩のログインなんてとても無理なほど缶詰状態の彼のために、私は退勤後、預かっていたシルバーの鍵を使って彼のマンションを訪れていた。


「……あ、亜紀さん。おかえり」


 リビングのソファに腰掛けていた蒼真くんが、疲れた顔をふっと綻ばせて立ち上がる。

 買ってきた軽食と温かいスープをローテーブルに並べ、隣に腰を下ろした。少し痩せた彼の横顔を見ていると胸が痛むけれど、その瞳の奥にある勝負師の光は消えていない。


「……あのね、蒼真くん。話しておきたいことがあって」

「ん? なに?」


 私は意を決して、ミアと喫茶店で直接会ったこと、そして彼女とどんな言葉を交わしたのかを、包み隠さずすべて打ち明けた。


「……ごめん。大会直前なのに、余計なこと言っちゃって」


 話し終えて俯く私に対し、蒼真くんは驚きに目を見張ったあと、痛ましそうに眉を寄せた。


「……謝らないで。俺の方こそ、ごめん」


 静かに息を吐き出した彼の声が、すっと引き締まり、改まった丁寧な響きへと変わる。


「前に断ったからって、幼馴染だからって、俺が曖昧な態度を放置してたせいです。亜紀さんにそんな思いをさせて……本当にすみません」


 蒼真くんは私の冷えた指先をぎゅっと包み込むと、まっすぐに私の瞳を見つめた。


「俺から、ミアにちゃんと話します。大会が終わるまで……いや、これからも個人的には会わないって、きっちりけじめをつけます」

「……蒼真くん」

「亜紀さんを不安にさせるくらいなら、そんな関係いらないので」


 不器用で、けれど一切の濁りがないその言葉が、胸の奥にじんわりと熱く溶けていった。


 ◇


 翌日の昼過ぎ、スマホに蒼真くんから短いメッセージが届いた。


『ミアに話しました。納得してくれたかは分からないけど、ちゃんと線は引いたから』


 言葉通りの有言実行。画面を見つめながら、私は深く息を吐き出し、胸のつかえが取れるのを感じていた。


 ◇


 その日の夕方。

 仕事を終えてオフィスビルのエントランスを出たところで、見覚えのある長身の男性に呼び止められた。


「篠宮さん」


 振り返ると、完璧に着こなしたスーツ姿のRENが、穏やかな笑みを浮かべて立っていた。


「少しだけ、歩かない?」


 夕暮れのオフィス街を並んで歩く。

 以前のように高級なディナーに誘うでもなく、ただ静かに歩幅を合わせてくれる彼の横顔は、どこかすっきりとしていた。


「風の噂で聞いたよ。如月、ミアちゃんとの関係を完全に断ったらしいね」

「……はい」

「あいつ、普段は感情を表に出さないくせに、君のことになると本当に容赦がないな」


 RENは小さく肩をすくめて苦笑いを零すと、ふと足を止めて私に向き直った。


「条件や稼ぎで言えば、僕の方が君をずっと贅沢にさせてあげられる自信はあったんだけどね。……でも、君が求めていたのはそういうものじゃなかったんだって、今の君の顔を見ていたらよく分かるよ」


 夕日に照らされた彼の瞳に、一片の未練も濁りもなかった。


「それに……あいつがどう思ってるかは知らないけどさ」


 RENは少し照れくさそうに、夕焼けの空へと視線を逃がした。


「俺にとっては、如月はライバルでもあり、親友でもあるから。そいつが本気で選んだ相手を、横から掻っ攫おうなんて、やっぱり無粋だよなって思ってさ」


 穏やかに笑ったRENは、ポケットに両手を突っ込んだまま、軽く肩をすくめてみせた。


「……お幸せに、篠宮さん」

「……ありがとうございます、RENさん」


 大人としてのスマートで綺麗な引き際に、心からの感謝を込めて微笑み返した。


 ◇


 その日の夜。

 再び訪れた彼の部屋で、私たちはソファに並んで腰掛けていた。


 テレビもつけず、ゲームの画面も開かない。

 ただお互いの肩の温もりを感じながら、静かに流れる時間を分け合う。


「……明日から、本戦です」

「うん」

「……勝ったら、またここに来てくれますか」

「もちろん」


 笑って頷いた瞬間、彼の腕がすっと伸びて、私の背中に回された。


「……蒼真くん」

「……少しだけ」


 引き寄せられた距離のまま、涼しげな瞳が至近距離で私を捉える。


「……今のうちに、我慢しないでおこうと思って」


 低く掠れた声が耳元に落ちた次の瞬間、唇に柔らかな熱が重なった。


「……っ」


 驚きに固まる間もなく、大きな手のひらが後頭部にそっと添えられ、角度を変えてもう一度深く塞がれる。トクトクと速い彼の鼓動が、密着した胸から伝わってきた。


「……っ!!」


 思わず小さく声が漏れると、彼は満足そうに、けれど照れくさそうに目を細めた。


「……そんな可愛い声、初めて聞きました」

「も、もう……!」


 顔から火が出そうなほど熱くなりながら、私は彼の胸をぽかぽかと叩く真似をする。蒼真くんは声を立てずに笑いながら、もう一度そっと私を抱き寄せた。

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