↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰にも言えないLv1の恋〜課金だけが取り柄だった私、担当のプロゲーマーに溺愛される〜  作者: 希羽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/43

第19話 クレーンゲームだけは勝たせてください

 日曜日、午前十時三十分。

 待ち合わせの三十分前、私は新宿駅東口の待ち合わせ広場に到着していた。

 白のタートルネックニットに、ラベンダーのワンピース。

 早く着きすぎた恥ずかしさから、私は広場の柱の陰に隠れるように立ち、スマホの時計をチラチラと確認していた。


(……二十歳の子と並んで歩いて、浮いて見えないかな)


 落ち着かない手元を気にしていると、ふと視界の端――広場の反対側の植え込みの陰に、見慣れた長身の黒い影を見つけた。

 オーバーサイズの黒のチェスターコートに、チャコールグレーのタートルネック。

 目深に被ったキャップの隙間から覗く、驚くほど小さな顔と澄んだ瞳。

 いつものジャージ姿とはまるで違う、息を呑むほど洗練された私服姿の如月蒼真が、電柱の陰から周囲を警戒するようにチラチラと見渡していた。


(……あの子も、早く来すぎて隠れてる……!)


 思わず吹き出しそうになりながら、私は柱の陰からすっと歩み出た。


「……蒼真くん」

「っ……!?」


 びくっと肩を跳ねさせた彼が、ゆっくりとこちらを振り返る。

 私を見るなり、彼の耳の先が一瞬で真っ赤に染まった。


「……おはよう、ございます。……じゃなくて、おはよう、亜紀さん」

「おはよう、蒼真くん。……すごく、格好いいね、その服」

「……亜紀さんも、綺麗です」


 ぎこちないタメ口と、お互いに視線を泳がせるぎこちない始まり。

 初心者マークの二人の初デートが、静かにスタートした。


 ◇


「――ここ?」


 蒼真に連れてこられたのは、駅前の大型ゲームセンターだった。


「せっかくのデートなのに、ゲーセンでごめん。でも……ここなら、亜紀さんに良いところ見せられると思って」


 照れくさそうに頭を掻く彼が向かったのは、プライズゲームコーナー。

 ガラスケースの中には、『アストラル・オンライン』の公式マスコットキャラクターの特大ぬいぐるみが並んでいた。


「あれ、亜紀さん欲しいって言ってましたよね。……取ります」


 国内トッププロの意地を見せるように、百円玉を投入する蒼真。

 モニターを見つめるその眼差しは、先日の決勝戦さながらの真剣そのものだった。


 ウィィィン……ガコン。


 アームが降りる。

 だが、プロゲーマーの精密な操作をもってしても、アームの爪は無情にもぬいぐるみの頭をかすめて空を切った。


「…………」

「あ、惜しい! もうちょっと右かな?」

「……もう一回」


 百円、二百円、五百円、千円……。

 五千円が消えた頃、蒼真は両手をガラスケースについたまま、絶望したように額を押し当てていた。


「……設定が、鬼すぎる。フレーム単位の目押しが効かない……」

「ふふっ、蒼真くん、ちょっと交代してみて?」


 笑いを堪えきれない私が百円玉を入れ、適当に狙いを定めてボタンを押すと――。


 ゴトンッ!


 アームの根元がぬいぐるみのタグに奇跡的に引っかかり、一発で取り出し口へと転がり落ちた。


「「あ」」


 二人の声が重なる。

 大きなぬいぐるみを抱き上げた私を見て、蒼真は耳まで真っ赤にして俯いてしまった。


「……プロゲーマーなのに、格好つかない……」

「ううん、すごく嬉しい! 蒼真くんが何回も挑戦して位置をずらしてくれたおかげだよ」


 フォローを入れると、彼はキャップを目深に引っ張りながら、小さく「……次は絶対取ります」と呟いたのだった。


 ◇


 午後、カフェで運ばれてきたのは季節限定の特大ストロベリーパフェだった。


「わあ、すごいボリューム……」

「いただきます」


 スプーンを手にした蒼真は、さっきの落ち込みが嘘のように無言でパフェを食べ進めていく。

 幸せそうに頬を緩めるその横顔を見て、会食の夜にミアが言っていた言葉を思い出す。


『ある子なんて告白の途中で「あ、購買にチョコパン買いに行きたいんで」って言い残して去っていったんですよ〜!』


(……本当に、甘いものが大好きなんだな)


 誰の手にも届かなかった孤高のプロゲーマーが、今は私の目の前で、パフェの生クリームを口元につけながらスプーンを動かしている。

 何気なくバッグからハンカチを取り出し、彼の口元をそっと拭った。


「あ」

「ふふ、クリームついてたよ」

「っ…………」


 蒼真は固まったまま、カッと顔を赤くしてスプーンを止めてしまった。


 ◇


 夕暮れ時。

 駅へと向かう並木道は、休日を楽しむ人々で賑わっていた。

 並んで歩く、私たちの影。

 歩幅を合わせてくれる蒼真の手が、私のすぐ隣で揺れている。


(……手、繋ぎたいな)


 そう思うのに、タイミングが掴めない。

 蒼真の手が微かに動き、触れそうになるたびに、お互いビクッと手を引っ込めてしまう。

 三回連続で空振りしたあと、人混みの波に押されて私の肩が彼にぶつかった。


「あっ、ごめ――」


 言いかけた私の右手を、ぎゅっと、大きな温もりが包み込んだ。


「……っ」


 見上げると、蒼真は前を向いたまま、逃げ場をなくすように指と指を絡め合わせて――いわゆる恋人繋ぎの形を作っていた。


「……すれ違う人に、ぶつかるから」


 ぶっきらぼうな言い訳。

 だけど、繋がれた手のひらはじんわりと汗ばむほど熱くて、強く握りしめられていた。


 駅の改札前。

 離しがたい手をゆっくりと解きながら、蒼真が躊躇いがちに私の瞳を見つめてきた。


「……亜紀さん」

「ん?」

「……次は、俺の家、来ますか」


 秋風が吹き抜ける夕暮れの街で、私の心臓が、今日一番の音を立てて跳ね上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。