第18話 初心者マークの二人
「――部長、ご報告とお詫びがございます」
翌朝、午前九時。
私は、高梨部長の前に直立していた。
「私、篠宮亜紀は、昨夜付で『チーム・ゼニス』所属の如月蒼真選手と……その、個人的なお付き合いを始めることになりました。担当マネージャーとしての職務における公平性を欠く懸念があるため、担当の変更、または相応の処分を――」
「あー、篠宮」
高梨は持っていたマグカップをコトッと置き、めんどくさそうに片手をひらひらと振った。
「まあ、そうなると思ってたよ」
「……はい?」
予想外の反応に、私の完璧なビジネスフェイスが呆気なく崩れ落ちる。
「お前、あいつの試合見てるときだけ普段の三倍くらい血圧高そうだったしな。向こうの代表の佐々木さんからも『うちの蒼真が篠宮さんに迷惑かけてませんか』って嬉しそうに連絡あったぞ。案件の進行も完璧だし、担当変更なんて余計な工数かけるな。公私混同さえしなきゃ問題ない、そのままやれ」
「は、はあ……ありがとうございます……」
拍子抜けするほどあっさりと公認をもらい、私は深々と頭を下げて自席へと戻ったのだった。
◇
夜、二十二時。
自室のベッドの上で、私は緊張で震える指先でスマホの画面を見つめていた。
ゲーム『アストラル・オンライン』。
ギルドハウスの暖炉前で、私は意を決してチャット欄に文字を打ち込んだ。
アキ:皆さん、ご報告があります……!
アキ:実は、私とソラさん、現実でお付き合いすることになりました……!
アキ:掟で『リアルの詮索禁止』となっていたのに、勝手に会ってしまって、本当に申し訳ありません……!!
怒られるかもしれない。ギルドを追放されるかもしれない。
心臓をバクバクさせながら送信ボタンを押した、そのわずか数秒後。
レイナ:知ってた
ぽてと:知ってた〜!
ちくわ:知ってましたなぁ
間髪を入れない、三者同時の即答だった。
アキ:ええええええっ!?
レイナ:いや、あんたたちログインとログアウトの時間丸かぶりだし、オフ会のドタキャンも一緒だし、チャットの空気が完全に両片思いのそれだったじゃないのよ
ちくわ:はっはっは! おめでたい話は大歓迎ですよ
ぽてと:おめでとう〜! わ〜い、ギルド内カップル誕生だ〜!
画面の前で、全身の力が一気に抜けてベッドに倒れ込んだ。
大人たちの包容力と洞察力に、完全に完敗である。
掟の運用はこれまで通り、詮索はせず、居心地のいい居場所として維持されることで全員の意見が一致した。
◇
日付が変わる前、ギルメンがログアウトし、暖炉の前にソラと二人きりになった。
ぽつりと、個別チャットが開く。
ソラ:……部長、怒ってなかったですか
アキ:はい、あっさり『そうなると思ってた』って言われちゃいました
ソラ:……俺のところの代表も、同じこと言ってました
画面越しに、お互いが照れくさそうに苦笑いしているのが伝わってくる。
ソラ:あの、アキさん
アキ:はい?
ソラ:今更ですけど……その
ソラ:敬語、やめませんか。二人きりの時くらい
文字を見つめたまま、カッと両頬が熱くなる。
二十歳の彼が、画面の向こうで一生懸命に指を動かしている姿が浮かんで、胸の奥がくすぐったい。
アキ:う、うん……分かった。
送信ボタンを押すと、数秒の沈黙ののち、震えるようなメッセージが届いた。
ソラ:今度の休み、会えますか
ソラ:……仕事じゃなくて、デートで
トクン、と心臓が跳ね上がる。
画面の中の剣士が、私のすぐ隣で、静かにこちらを見つめていた。
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