電気男
本日のお題
・家
・ヒップホップ
・エネルギー
ヒップホップを歌うと発電できることがわかった。
何をいってるかわからないと思うが、俺も何が起きているのかよくわからない。
とにかく、俺がヒップホップを歌うと周囲の家電に電気が流れるのだ。
最初はスマホの電池が少し回復する程度だった。今では一曲歌えば電子レンジでコンビニ弁当を熱々にできる。
「便利な能力じゃん」? 残念ながら、全くもってそんなことはない。
最大の問題は、電気を流す機械を俺の方で選べないことだ。
最後にカラオケに行った時は、最初の曲を歌い切ったくらいのタイミングでカラオケの機械がぶっ壊れた。
昨日は風呂に入ってる時についラップを口ずさんで、風呂場の電球をご臨終させた。
今もほら、冷蔵庫が異音を立てている。さっき鼻歌を歌ったせいだ。
とにかく厄介でしかないので、明日は病院に行こうと思う。
現代医療に治せるかどうかはわからないが、何もしないよりはマシだからだ。
最悪だ。
俺は病院で医者に、馬鹿正直に俺の悩みを話した。
「ヒップホップを歌うと発電できる体になったんす」
「それは面白い、ぜひ一曲歌ってみてくれ」
俺は嫌だと言った。病院ってのは精密機械の塊みたいな場所だ。そんな場所で俺が歌うと何が起きるかなんて、想像に難くない。
が、医者は俺の言うことなんて微塵も信じちゃいなかった。仕方ないから、被害が最小になるように、ワンフレーズだけ歌ったんだ。
その診察室は、病院の非常電源を置いてある地下室の真上にあったらしい。
非常電源が誤作動してハイパワー電流を流し込んだ結果、病院の全ての電子機器がクラッシュした。
警察の取り調べが終わったのは翌日の朝だった。病院に行ったのは朝だったのに。
いや、終わったというのは正確じゃない。とりあえず一旦釈放されたが、すぐに迎えが行くから泊まりの準備をしておけと言われたんだ。
俺は言ったのに。絶対にやばいからやめとけって、オチが見えてるんだから避けようぜって。
人死にがなかったのだけが幸いだ。あの病院には生命維持装置が必要な病人はいなかったらしい。
そろそろ警察が迎えに来る時間だ。着替えとスマホ、あとは充電ケーブル……はいらないから、暇つぶし用に本を数冊持っていこう。
大事になってきた。
どうも、俺の体質が世間的に公表されたらしい。
エネルギー問題のターニングポイント、温暖化の解決、そんなワードがずっとテレビで流れている。
この前なんて、ペンギン愛好家から感謝の手紙が届いた。あなたのおかげでペンギンたちの命は救われましただってさ。そりゃよかったよ、確かに南極の氷が溶けちまったらペンギンの家もなくなっちまうからな。
まぁ、代わりに俺は家に帰れなくなったんだが。
感謝はいいから、俺を家に帰すよう日本政府に直訴してくれって返信したら、それっきり手紙も届かなくなった。薄情な連中だ。同じホモ・サピエンスがこんなに困ってるっていうのに、飛べない鳥ごときの方が優先度が高いらしい。
まぁそれも仕方ない。
俺だって、これが大事なのはわかってる。家に帰れないくらい我慢するさ。
ただ最近、ちょっと韻を踏んだだけで周囲の人間を感電させるのは本当になんとかしたい。うっかり駄洒落も口にできん。
貴重なテレビを壊したりしないよう、部屋にいる間は口を洗濯バサミで閉じて暮らしている始末だ。意識してなくても、寝言とかあるからな。
いっそのこと、絶縁体で宇宙服みたいなものを作ってくれないだろうか。いや、俺が感電死するか?
人生って、どん底だと思っててもまだ先があるんだな。
まさか俺の存在が戦争の引き金になるとは、さすがに予想していなかった。
石油と天然ガスの価格が急落し、資源で食ってた国はあっという間に戦争に走った。
タチが悪いのは、日本とその同盟国はレールガンが打ち放題ってところだ。
わかる? レールガン。自衛隊が開発してたやつね。俺も仕組みはよく知らないけど、電気の力で砲弾をぶっ放すアレだ。
どうやら完成してたらしい。コストも玉代くらいしかかからないから、非常にクリーンなそうだ。
こうなってくると、俺はもう歌わない方がいいんじゃないかって気がしてくる。
これまでは電気がないと困る人もいるだろうからって思って協力してきたけど、さすがにこんな使い方をされると思うところはあるよな。
ただ、ここで俺が電力の供給をやめると、それこそ病院とかで本当に寝たきりの人が被害に遭うだろう?
それは嫌だ。俺の電気で勝手に殺し合いをするのはそいつらの責任だけど、俺が電気を止めることで人が死ぬなら俺の責任だと思う。
どうしたもんかな。
どうやら俺は殺処分が決まったらしい。
まぁ気持ちはわかる。俺のせい……じゃないけど戦争起きたし、あと最近は発電量が大きすぎてやばい危ないんだよな。
ワンフレーズだけとかリリックだけとか、歌う部分を押さえて出力をコントロールしようとはしてるんだが、いかんせん元の威力が高すぎて上手く制御できない。
過剰な電流が流れると電池ってのは爆発する。
貯蓄できない余った電力は最近は宇宙に向けて放出してたらしいけど、それもそろそろ限界なそうだ。
ただ、納得はできない。
散々都合よく使っておいて、いざ危なくなったらポイっていうのは、さすがに筋が通らないんじゃないか?
まぁ、何を言っても意味はない。せいぜい最後の日まで役に立ててほしい、俺が望むのはもうそれくらいだ。
まさか俺の存在が宇宙に平和をもたらすとはな。
驚き続きの人生だったが、これを上回る驚きはそう出てこないだろう。
話を整理すると、どうも宇宙には世界征服を本気で企むヤバい星があったらしい。
で、その星の連中に対してレジスタンス的に争ってた連中がいたらしい。
そのヤバい星の連中とレジスタンスの最終決戦で、地球から放たれた超強力な電磁波が決め手になって、レジスタンスが勝ったらしいんだ。
何を言ってるかわからん? 俺もわからん。
レジスタンスの連中は、これまで地球に何度も呼びかけてたらしい。
それをずっとシカトし続けて、半ば見放されてたところにファインプレーをかましたもんだから、地球の評価は鰻登りだ。
今度地球を主題に映画が作られるらしい。宇宙人にも映画って文化あったんだな。
その最大の功労者である俺は、宇宙人のスーパー技術力で、ついに発電能力を分離することに成功した。
そう、分離だ。消し去れたわけじゃない。
分離された力は今どうなってるかと言うと、月面に安置しておいて、必要になったら発電した電力を地球に向けて照射するんだそうだ。
俺の電力の使い方にも国際的な条約が結ばれるらしく、一旦は戦争も終わるらしい。
晴れて俺の役目も終わり。今後は適当にヒップホップ歌ってれば金がもらえるらしい。分離できたとはいえ、発電のトリガーは相変わらず俺のヒップホップだからな。
まぁ、音楽は世界を良くも悪くも変えられるってことだ。よかったよかった。
そうして俺は家に帰った。数年ぶりの家だ。ペンギンよ、当たって悪かったな。俺も家に帰れたぜ。
玄関を開けて靴を脱ぎ、廊下の電気を付けようとして、俺は思わず悪態をついた。
「電気止められてやがる」
2026/06/14
読みやすいよう改行の仕方を変えました。




