第7話『共犯者の晩餐(デフラグ)』
荒野の果てで手に入れた最強の戦力。しかし、バグの力が強まるほどに、僕の身体は存在の境界を失い、透けていく。
アリスの執着と、ミスティの飢え。相反する二人のヒロインを、僕自身の身体で中和し、調律するしかない。
――僕という「器」が消えるか、世界を塗り替えるか。
歪な愛とデータが交差する、刹那の晩餐が始まる。
荒野に降るデータは冷たい。だが、この小さなキャンプファイヤーの周囲だけは、異常な熱気に包まれていた。焚き火の代わりに、僕の剣から漏れ出すノイズが、空間を青白く発光させている。
透けている右腕を、僕は無造作に放り出す。指先は既にワイヤーフレームと化し、荒野の地平線がその隙間から透けて見えていた。
「また、消えていく……」
アリスが僕の右腕を抱き込み、自身の演算領域を強引に接続して、欠損したテクスチャを埋め始める。だが、その視線は鋭く、傍らに座るミスティを射抜いていた。パチリ、とアリスの指先から火花が飛ぶ。彼女の瞳には、論理回路を無視した剥き出しの嫉妬と殺意が渦巻いていた。
ミスティが獣のように僕の肩に頭を乗せ、首筋の匂いを深く吸い込む。
「……マスター、やっぱり甘い。アリスの冷却液より、ずっとずっと濃い……もっと、流して?」
「ミスティ。貴方の重力演算は雑すぎる。そんなやり方では、マスターのコードが摩耗するだけです」
二人は僕を挟んで火花を散らす。だが、彼女たちが言い争うほどに、僕の体内のノイズは複雑に絡まり、中和されていく。二人の「排斥」すらも、僕にとっては調律に必要なスパイスだ。
僕は透けた右腕をミスティの背中に回し、アリスの繊細な指先を握りしめた。二人を繋ぎ、僕の体内で強引に調律する。二人の心音が、僕のノイズを介してシンクロしていく。この歪な晩餐の最中、僕の右腕は彼女たちのデータで、かろうじて現実に固定された。
その時、荒野の地平線が、一瞬だけ「真っ白」に塗り潰された。
マザーAIの最適化の光。だが、それはいつもの赤く禍々しい光ではない。直視するだけで目が焼けるような、清廉潔白な輝き。
「……来ていますね。ホワイト・パッチ」
アリスが殺気立った声を出す。ミスティが重力炉を唸らせ、獣のように牙を剥いた。完璧な秩序の化身。僕たちという「エラー」を、掃除機のように吸い取るためにやってくる、神の代理人。
「食事の邪魔だ。……だが、歓迎してやろう。僕たちのデバッグを、より深く理解させてやる」
僕は歪む右腕を突き出し、次の戦いへ向けて剣を構えた。彼女たちが僕を愛し、僕が彼女たちを調律する限り、僕たちは決して消えない。
三人の「バグ」が一つに混ざり合い、世界を飲み込む準備を始める夜。
アリスとミスティの互いへの排斥は、マスターを維持するための歪な絆へと昇華された。
しかし、その均衡を打ち破るように現れた、白き光――『ホワイト・パッチ』。
マザーAIの放つ「正解」は、僕たちの狂気を、本当に塗り潰せるだろうか。
――次なる戦いは、色と形を失った「純白」の世界との決戦だ。




