第二章ー14
「ほら」
「貴人ーこれ何ー?」
「ハンバーガーっていう食べ物だ」
燈が貴人から手渡されたハンバーガーを見て問う。
ショッピングセンターから少し離れた大きな広場に腰を降ろした貴人達。
休日なだけあって人も多く席を確保する事が出来なかったため、食べ物だけを買って外に出てきたのだ。
「まるで肉汁のバーゲンセールやー」
「ピコマロの影響も受けてるんだ……」
口元にケチャップをつけた燈が発した言葉に悠奈が苦笑を浮かべた。
「師匠、燈ちゃんってウィザードなんですか?」
津々良がポテトに手を付けながら問う。
「ああ、昨日俺のディーヴァが見えるか確かめた所どうやら見えているらしい。まだ自分では使えない様子だ」
首肯する貴人。
昨日家で貴人が試しにディーヴァを纏ってみた所、「貴人がふわふわに覆われたー」と燈がディーヴァに手を伸ばした。
それを聞いた津々良は一人で「んー」と唸りだした。
「一体何者なんでしょうね、燈ちゃん」
「お、お姫様とか……?」
「確かにお姫様の雰囲気はあるよな」
「私お姫様ー」
「お姫様はもっとお淑やかにしないと駄目なんだぞ」
そう言いながら燈の頬についたケチャップを拭ってやる。
「ていうか、師匠の両親って何者なんですか? 燈ちゃんとどう言う接点が?」
津々良の最もな質問に貴人は些か返答に困った。
どこまで言っていいものかと。
貴人自身、完全に把握しているとは言い難いのだが。
「まあ仕事で世界を飛び回ってるそれなりのウィザードだよ」
少々言葉を濁した貴人。
津々良はそれに対し「そうなんですかー」とだけ言うと何気無い会話に戻っていった。
ーーーー
しばらくの談笑の後、空になったペットボトルを見た燈が手を挙げて
「私、飲み物買ってくるー」
「確かあそこに自販機があったな」
「貴人、私はお茶で」
「私はリンゴジュースがいいです! もちろん奢りで!」
「師匠をパシるとは……未来は何がいい?」
「わ、わたしはお汁粉で……」
「了解。燈、それじゃあ行こうか」
「合点承知の助」
「そんな死語何処で仕入れてきたんだよ……」
そう言って苦笑する貴人と燈は自販機へと向かう。
「燈、楽しいか?」
「うん! 津々良も未来も優しいし面白い!」
燈の暖かい笑みに貴人まで笑顔になってしまう。
「それは良かった」
「貴人は楽しいのー?」
「ああ、俺だけじゃなくて、悠奈も津々良も未来も楽しんでるよ。燈と友達になれて嬉しそうだ」
「私も嬉しいー」
「そうか」
貴人は無邪気な笑顔を見ながら昨日の夜の事を思い出す。
(あの時……)
昨夜、燈に用意した部屋の中から小さくすすり泣きするのを貴人は見ていた。
家族も、友達も親しかった人もいない、そんな孤独。
今まで確かに生きてきたと証明する事が出来る唯一の記憶すらも曖昧であるという恐怖、不安。
それを考えるだけで貴人は見えない鎖のようなものでがんじがらめに縛られるような気持ちになる。
そんな大きなモノをこの華奢な体で抑えることがどれだけ残酷で辛いか。
(今の燈はまるで……まるで……)
「貴人ー大丈夫」?」
「ん? あ、あぁ何でもない」
ふと声をかけられ貴人は我に返った。
気がつくと、既に自販機の前へ到着している。
燈が目当ての物を全て買い終え、戻ろうとした時、前方から十人程の人間が現れた。
そのいかにも不良チックな連中はすぐに燈と貴人を囲んだ。
その中から、一人、恐らく貴人よりも年上の男が前へ出てきた。
どうやらこの集団のリーダー格らしい。
「おい、にーちゃん、そこの女置いてってもらうぜ?」
ぐへへ、と下劣な笑みを浮かべながら、その男は燈を舐め回すように見つめた。
貴人は辟易しながらその男を一瞥する。
周りを見渡すが自分達以外に人の姿は見当たらない。
(さて、どうするか……)
冷静に貴人は考える。
すると
「無視してんじゃねえよ!」
と取り巻きの男達がざわつき始めた。
男はそれを片手で制して
「うるせぇ! どうやらこいつには痛い目を見てもらわなきゃ行けないようだなぁ!」
男はそう怒鳴りながら右腕に土属性のディーヴァを纏い始めた。
どうやらウィザードらしい。
しかしそのディーヴァは右腕のみにしか纏われておらず、その上、六王家の清嗣のディーヴァに遠く及ばない。
そして男の右腕が土で纏われた。
ウィザードであることに変わりは無く、周りの男達も「流石兄貴っす!」と囃し立ている。
それに対して貴人は全く思う所もなく、無難に対処する事に決意した。
「どうしたぁ? そのまま女を置いて逃げても良いんだぜぇ? ちゃんと後は俺達で可愛がってやるぜ?」
男が少しずつ貴人へ近付いて来る。
そして貴人が男の領域に入る。
そして
「くたばれやぁ!」
男が拳を放つ。
その時ーー
「いやーーーーーーっ!!!!」
「な!? ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
男の顔が恐怖に染まったかと思えば貴人に肉薄していたはずの土で覆われたはずの右手が、土は粉々に砕け散り、その腕は明らかに本来とは別の方向に折れ曲がっていた。
貴人も驚きに目を見開いていた。
「「ひぃ……」」
取り巻き全員が恐怖を抱いたように腰を抜かしている。
全員が燈と貴人の足元を見た。
そこには円形の幾何学模様があった。
そしてそこからドーム状に薄いディーヴァが膜のように張っていて、貴人と燈を包み込んでいる。
(こ、これは……!)
貴人はその術式を知っていた。
否、それに近い術式を聞いていた。
その術式はドーム状に今回と同じような薄い膜のようにディーヴァが現れる所までは燈の術式と同じだが、貴人が聞いていた術式ではその膜に攻撃、もしくは侵入しようとする人を通さないというものである。
しかし
(あの男の腕……あれはむしろ清嗣先輩と葉月のアレに近い……)
そして貴人の脳内に五月祭で清嗣と葉月が互いの拳を受けて吹っ飛んでいった事を思い出す。
男と清嗣達の怪我の仕方があまりにも酷似していたのだ。
(ホルダーのプライベートアビリティをアームズに組み込むと性能は落ちやすい……)
マギというのは、一般的に発動手順が増えれば増えるほどマギの質が落ちてしまう。
マギを術式に組み込むとディーヴァ消費が大きくなるのは、その質の落ちた分であると言われている。
実際、貴人がこの前に使った神の再創造は術式に組み込んでいるため結構なディーヴァを消費した。
そして、術式からさらにアームズに持っていくとディーヴァでは補えないレベルでマギが変容してしまう場合が多い。
この燈の術式と、貴人の考える術式は明らかにその関係に当てはまっている。
(まさか……)
貴人がそこまで考えた時、燈の体が不意に揺れる。
「燈!? 大丈夫か!? 」
燈を抱え、様子を伺うがどうやら気を失っているだけのようだった。
男達はリーダー格の男と一緒に何処かに逃げ去ってしまっていた。
それと同時に悠奈達が急いだ様子でこちらへやって来た。
「貴人!? 燈ちゃんどうしたの!?」
「さっき男の人達が血相を変えて走り去っていきましたよ!」
「あ、燈ちゃん……大丈夫?」
「色々あってな……。大丈夫だ、燈は気を失ってるだけだから」
燈の悲鳴が聞こえて駆けつけたらしい三人は燈の容態を見るや否や三人とも燈を介抱した。
その様子を見ながら貴人は一夜から見せてもらった写真を思い出す。
(不可侵の指輪……あれは燈が……)




