第二章ー9
陽が傾き、辺りに道沿いに埋められた木々の陰が伸び始めている時刻、貴人と悠奈は一夜達との話を終え、自宅へと帰っていた。
貴人は近くのスーパーで買った食材が入った袋を右手で持ちながら、隣の悠奈と談笑していた。
「相変わらず、みんなが悠奈の方を振り返ってるな〜」
そう言いながら貴人は辺りを見渡す。
すると、行き交う人達殆どがこちらに視線をよこしているのが分かる。
いつも通りの出来事に思わず笑ってしまう。
しかし、悠奈はやれやれと言わんばかりに
「貴人を見てる人もいるんだけどね。女の子の視線は貴人に対してだよ?」
「俺を? ははは、そんな訳無いだろう。どこにそんな要素があるんだ? 」
「自覚して無いのね……」
「自覚もなにも本当に俺を見る理由が分からないな。今までで一度も声をかけられた事なんてないぞ」
「それなら私だって無いよー」
「そういえば、悠奈は神々しくて声を掛けることすらためらわれるって周りの奴らが言ってたな」
「貴人も似たようなものだと思うんだけど……」
「そんな馬鹿な……それより一夜さん達の話なんだが……」
悠奈のお世辞を聞き流し、貴人は依頼の内容について悠奈に話そうとする。
こういう時は大抵、悠奈と自分の認識が食い違っていないか確認を取っている二人。
悠奈が僅かに真剣な面持ちに変わった。
「俺達がする事はこの二ヶ月の間、つまり今月から七月末までの間、夢ノ丘市全域における不審者の監視及び拘束。それと……」
そう言いながら貴人は制服のポケットに入れておいた指輪の写った写真を取り出す。
「このアームズを発見した場合は確保。で合ってるよな?」
「うん。ちなみに、夢ノ丘市を監視するのは貴人と私と会長の三人、それと数人の世界警察の人だよ」
「あぁ、大丈夫だ。ちゃんとその人達の連絡先も教えて貰ったしな。そんくらいだっけか?」
大して確認する必要も無かったと思う貴人だったが
「デバイスの事忘れてるよー」
と悠奈に言われすぐに失念に気づく。
「そういえばそうだった……。この二ヶ月の間はデバイスの所持を認める措置を取ってもらってるんだったな」
「会長もデバイスを持ってることに驚いたよ」
「まあ、光さんの立場上貰える機会も多かったんじゃないか?」
「だろうね。 ところで貴人はデバイスを使うつもりなの?」
「使わないつもりでいる」
「まあ、使わずに終わらせられたらそれが一番いいよね」
その後もしばらく二人で話し合う内に、二人の自宅へと辿り着いた。
「まあとりあえず今は明日の買い物だな!」
「そうだね! 燈ちゃんも外に出たがってるだろうし」
燈に必要な物を頭の中で羅列しながら貴人は玄関の扉を開けて、自分達が帰った事を知らせる。
「ただいまー」
「おかえりー、貴人、悠奈」
するとリビングからドタドタと貴人の寝間着姿の燈が出て来た。
「それ何ー?」
スーパーの袋を指差しながら燈が問う。
それに貴人が答えた。
「今日の晩御飯だ」
そう言いながら貴人がリビングに入り、スーパーの袋をテーブルに置くと
「今日の晩御飯は何なのー?」
と矢継ぎ早に燈が質問してくる。
今度は貴人に代わり悠奈が反応した。
「オムライスだよ」
すると、オムライスという言葉に燈が目を輝かせた。
「それって、今日の朝にテレビでポコミチが作ってたやつー?」
「あぁ、そういえばそうだね。でもオリーブオイルは使わないよ」
「えーざんねんー」
そう言って、頬を膨らませる燈。
朝のテレビ番組ではイケメンがオリーブオイルをオムライスに使っていたのを貴人は思い出す。
(美味しいのかあれ?)
甚だ疑問を感じずにはいられない貴人。
最後までは普通のオムライスを作っていたのだが、最後の最後でオリーブオイルをかけ始めた時は目を疑った。
その話題には飽きたのか、次に燈はテレビに映っているニュース番組を見て
「今は円安なのかー」
と感想を述べている。
まるで日本人だ。
そしてようやく貴人は気付く。
「あれ?」
燈を見ていた悠奈も異変に気付いた。
固まる二人を見て燈が口を開く。
「二人ともどうしたのー? 鳩が豆鉄砲を食ったようーー」
「ストップストップ!」
「?」
貴人は右手で燈を制した。
燈が首をかしげる。
「何で日本語を自由自在に使いこなせてるんだ……?」
「テレビと本を読んで覚えたよー」
「燈さん、半端ないっす……」
貴人が懸念していた事項の一つが取り除かれた瞬間だった。




