第一章ー48
「実はあの事件が起きた時に僕も別件でフランスにいてね、手伝う事になったんだ」
貴人達にカミングアウトした後も一夜は続ける。
「すると何故か芸術家を最初に見つけたのが僕だったからそのまま幻影牢獄に送ってもらったんだ。でも公には出来ない事だから秘匿するために自殺という事にしたのさ」
一夜がここまで言った時、爆弾魔が「こいつはーー」と口を開いた。
「私達の偉大なる芸術家を傷つけ、挙句には地獄と呼ばれる場所に連れて行ったんだ! そんな事をしたこいつは死ぬべきなんだよ!」
爆弾魔が声を荒げる。
まるで芸術家を人では無く神のような存在としてみなしているかのような考え方だ。
実際爆弾魔にとって芸術家はそんな存在なのだろう。
芸術家が人を殺すのは罪ではない、しかし芸術家に危害を加える者は死んで罪を償わないといけない、暴論以前に前提が違う。
「確かに幻影牢獄には僕が送った」
一夜が肯定する。
「その理由はねーー」
そして次の言葉が爆弾魔を凍りつかせた。
「その時芸術家は自殺しようとしていたからだよ」
「は?」
余程衝撃的な事だったのだろう、爆弾魔は何も言わなくなった。
一夜は続ける。
「『もうあれ以上の作品を作る事は私には出来ない』、芸術家はそんな事を言ってたよ。でもだからといってそこで自殺しようとしている芸術家を止めない理由にはならないから身柄を確保、という事で幻影牢獄に送ったんだ」
一夜が一通り説明し終える。
呆然と立ち尽くす爆弾魔。
「そんな……。芸術家がそんな事を言うわけ……」
小さな声でそう呟く爆弾魔。
芸術家を神と崇めていた爆弾魔にとって相当なショックを与えたようだ。
「芸術家は神と同義のはずなんだ……私が孤児院を爆破したのも、多くの命を散らせたのも全て芸術家に近付く為に……それなのに……私は一体何を目指して……神は無限であって有限などではけっして……」
「貴人君、それに悠奈さんに夢さん」
まるで壊れてしまったかのような爆弾魔を見ていると、一夜が真剣な表情で貴人達に話しかけて来た。
「爆弾魔はあんな状態だから僕と光が身柄を確保する。それでね貴人君、あの術式の事をよろしくしていいかな?」
「え?」
一夜の言葉に貴人は少し驚いた。
自分が術式を破壊出来る事を信じてもらえると思っていなかったからだ。
「まあお手並み拝見ってやつさ。もし破壊出来なくても僕達で対処出来るから」
「やたら楽しそうですね……。分かりました」
いかにも興味津々な一夜。
まるで子供だ。
年下の貴人はそう思う。
「私も楽しみにしてるわよ」
貴人の後ろにいた夢も一夜と同じ表情を浮かべながらそう言った。
「危機感の欠片もないですね……」
貴人は思わず呟いてしまう。
実際彼等は危機感など微塵も感じていないのだろうが。
そんな事を呑気に考えている自分も含めて。
「頑張ってね、貴人」
悠奈が満面の笑みでそう言った。
瞬間、思わず貴人は顔を下に隠した。
(可愛い、可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い……)
一つの思いが貴人の脳内を支配した。
いくら目の前に爆弾があったからといって可愛いものは可愛いのだ。
必死に貴人は感情を隠す。
(駄目だ、この場面はシリアスにカッコ良い返答をしないと……。落ち着け俺! 煩悩を消し去れ! 無表情! 能面!)
色々な思いを巡らしつつ貴人は必死に冷静な表情を装い顔を上げ
「あぁ、がんばーー」
「貴人! 鼻血出てるよ!?」
「まじかよ!?」
失敗した。
必死に鼻血を拭う。
「はあ、何をやってるのかしら……」
このやりとりを尻目に光が爆弾魔の身柄を確保するため近付こうとすると先程までうなだれていた爆弾魔がいきなり無属性のディーヴァを全身に纏い始めた。
咄嗟に全員が戦闘態勢に入る。
『もういいや、全てがどうでもいい。殺そう、俺の敵はみな殺しだ。殺してやる!!』
英語で放たれた爆弾魔のこの言葉を皮切りに戦いが始まった。
きりがいいためここで一度区切ります。次話は明後日くらいに投稿します。




