第一章ー19
時を遡ること約二週間、一人の男が日本の地に足を踏み入れていた。
『あっついな、ちくしょう』
空港から出てきた男は前髪をかきあげながら英語で不満をこぼす。
すらっとした体に白色のスーツを着た金髪のロング、鋭い目つき、ヨーロッパ系の顔立ちだ。
手には大きな鞄を持っている。
『しっかし、平和ボケした国なこった。国際空港に世界警察の人間が数人だけとは』
そう言いながら男は近くに止まってあったタクシーに乗り込んだ。
「お客さん外人かい?日本語わかる?えーとドゥユーノウジャパニーズ?」
タクシーの運転手が自信なさげに英語で話しかける。
すると男は笑顔で
「大丈夫ですよ、日本語でも。私は日本とイギリスのハーフなんで。行き先は世界警察日本支部の近くにあるホテルでお願いします。出来れば一番綺麗な所がいいですね」
と流暢な日本語で答えた。
「そうですか、よかったよかった。どうも英語は苦手でして。それにしてもお客さん、日本支部の近くって事は世界警察の人間か何かかい?」
相手が日本語が通じると分かり安心した運転手だったが、男の注文に不思議に思う。
「まぁそんな所です」
男の言葉を聞き運転手は凄いですね、と言いながら車を発進させる。
しばらく運転手が車を走らせていると
「すみません、運転手さん。この五月祭と言うのは何ですか?」
男が運転席の後ろに貼られている様々な紙の一つを見て質問する。
「あぁこれね。これはこの近くにある大きな会場で高校生のウィザード達が学校対抗で戦う行事さ。その行事に乗っかって屋台とかがあちこちで出るんだよ。世界警察の日本支部の人達が開催してるんだよ」
運転手の言葉を聞いた瞬間、男の表情が微妙に変化する。
「へぇーそうなんですか」
男はこれっきり一言も喋らなくなった。
二時間程経って、高層ビルが立ち並ぶ場所に着いてようやく車が止まる。
タクシーの目の前には見上げても頂上が見えない程立派なホテルがあった。
「ついたよ、お客さん。ここが日本支部の近くで一番綺麗なホテルだよ、そんであそこにあるのが世界警察日本支部だ」
運転手が窓際からその場所を指差す。
そこにはこのホテルと何ら遜色無い建物が立っていた。
「あれが日本支部ですか……大きいですね。乗せてもらいありがとうございました」
そう言いながら男は車から降りる。
男がタクシーから降りると運転手はまだお金が払われていない事に気づく。
運転手が男を呼び止めようと窓を開けようとした。
次の瞬間ーー
ドンッ!!!!!!
タクシーの中で爆発音が起こる。
運転手の背もたれが爆発し、運転手の体の半分が一瞬にしてこの世から消え去った。
『運転してくれたお礼として楽に殺してあげたよ。それにしても日本語は疲れるなぁ』
男は英語で呟く。
男は酷薄な笑みを浮かべながら振り向きもせず歩き続ける。
ハーフ、というのは嘘だ。
この半年間で日本語を会得したのだ。
世界警察の関係者でもない。
『それにしても……五月祭か……いい時期に来たもんだ。すぐにあいつをぶっ殺すつもりだったが、五月祭までここにいようじゃないか』
男は静かに笑う。
『待ってろよ皇帝、あの方は返してもらうぞ』
その男ーー爆弾魔はそう言いながら笑い続けるのであった。




