第一章ー18
「師匠! さっきのあれ《・・》は何ですか!?」
「お、教えて下さい……!」
津々良と未来に詰め寄られる貴人。
決勝戦が終わった後、貴人、悠奈、津々良、未来、さらに生徒会メンバーと寧々、楓までもが第三会議室、つまり貴人達の部室に集まっている。
貴人が決勝でした事を聞きに来たのだ。ちなみに貴人は一人用の椅子に座り、悠奈は貴人の隣に立っていて、他の人たちはソファに腰掛けている。
「そうは言われてもなぁ……ここで言っちゃうと明日あたるかもしれない人に知られちゃうんだよな……」
渋る貴人。
そんな貴人に悠奈が声を掛けた。
「別に教えてもいいんじゃない?ていうか教えた所で不利になる事は無いと思うけど……」
「まあそうだな……と言っても、説明する程でもないんだけどな」
貴人が説明を始める。
「無属性のディーヴァにしかない特性が二つあるだろ?」
「身体強化と変換ですか?」
津々良が答える。
「そうだ、あの術式破壊は変換に関係している」
「おい、変換って何なんだ?一年の頃のテストの時に確かそんな言葉を見た気がするんだが」
貴人の言葉を遮る寧々。
授業を受けていない寧々はその意味が分からないのだろう。
楓が貴人の代わりに答えてくれた。
「コアと呼ばれるものは知ってるな?」
「確か、ウィザードの体内に存在しているとか言われてるヤツだよな?」
「教師に向かってタメ口とは……まあ今はいい。そうだ、そしてそのコアは一人一人異なっていて、そのコアが変換出来る属性をそのコアの持ち主は扱えるんだ」
楓が丁寧に説明し、貴人がそれに続く。
「簡単に言うとコアは無属性のディーヴァを他の属性のディーヴァにするための変換装置みたいなものなんです。また、コアの性能が優れていると変換の際に無駄に消費される無属性のディーヴァが少なくなったりします」
なるほど、と納得した様子の寧々。
「少し話が逸れたけど、とにかく無属性以外のディーヴァはコアと無属性のディーヴァによって変換されるのは分かるだろ?今回はそれの逆をしたんだよ」
「逆?」
津々良が首を傾げる。
「そのままの意味だぞ。自分のコアで津々良達の術式に使われたディーヴァを無属性のディーヴァに変換したんだよ」
「な!?」
愛斗が驚いた顔をする。
悠奈と貴人以外の全員も愛斗のような表情になっている。
香が口を開く。
「そんな事なんて出来るの?」
「まあ俺も初めて出来た時は驚きましたよ」
「でも逆に言うと何故他の人は千凪君みたいな事をしないのかしら」
阿澄の疑問に海が答えた。
「し、しないんじゃなくて……で、出来ないんだと思うよ……」
「で、出来ない?」
今度は未来が尋ねる。
それに楓が答える。
「コアを本来とは逆の使い方をするから変換する時に自分の無属性のディーヴァを大量に消耗するからだろう。よっぽど大量のディーヴァを貯蓄しているか、質が相当高くないとそんなことは出来ないって事だ」
「まじかよ……」
寧々が驚いた様子で言葉を失う。
「卑怯ですよ! 師匠!」
「そ、それはズルい……」
津々良と未来は貴人に対して文句を言う。
普通では考えられない事をされたからだろう。
「そんなの知った所で対処の使用が無いじゃない……」
「同感ね……」
個人戦に出場する香と阿澄も貴人を半顔で睨んでくる。
なんだか怖い。
「おい海! あいつ滅茶苦茶強いぞ!」
「なんかホルダーの僕よりインパクトあるよね……」
興奮する寧々と溜息をつく海。
「貴人……」
名前を呼んだだけでそれ以上は何も言わなくなった愛斗。
「暇な時それのやり方を教えろよ」
貴人に指導を求める担任。
「なんかみんなひどくない? もっとすげー、とかかっこいい、とか……卑怯って……」
貴人が予想とは違う言葉が返って来て悲しくなる。
「確かに術式破壊はずるいよね」
「グフッ!」
悠奈のとどめの一言で貴人は机に突っ伏した。
こうして二日目の予選トーナメントは終了したのだった。