第一章ー17
海達のやり取りの間も津々良達の四人はしのぎを削っていた。
「はぁ、はぁ」
呼吸が乱れる津々良。
自分でも肩で息をしているのが分かる。
風属性のディーヴァを両腕に纏いながら貴人との接近戦を挑んだため、ディーヴァの激しい消耗による疲労と肉体的な疲労が津々良を襲っていた。
「はぁ、一発も……当てられないなんて……」
津々良は悔しい気持ちで一杯だった。
練習の時のように貴人へ攻撃をする事が出来ない。
「攻めて来られると思った通りに攻められない……」
練習の時、貴人は攻撃して来なかったため、自分の攻撃のテンポが崩される事は無かった。
それにしてもここまで自分の攻撃が出来ないとは思っていなかった。
「ふぅ」
貴人は軽く呼吸を整えていた。
津々良とは対極で、疲れた様子は無い。
「はぁ、はぁ、未来ちゃん大丈夫?」
未来が津々良の近くに寄って来る。
未来も立て続けにマギを行使したため、津々良程では無いが疲労の表情を隠せていない。
貴人の後ろにいる悠奈は未来と同じくらいのディーヴァを消耗したが疲れた気配は無い。
「そろそろ最後の攻撃になるかも……」
「私も後一発が限界……」
二人は最後の攻撃を仕掛けようとする。
ーーーー
津々良達が何かを相談している時、悠奈が貴人に声を掛けてくる。
「貴人! 悠奈ちゃんの術式はちょっと厄介だよ!」
「そうなのか? 津々良の術式もめんどくさい奴なんだよな」
津々良の術式を、知っている貴人は少し唸る。
「未来の術式を見たかったんだけどな……となると……これは両方か」
そんな貴人を気にせずに津々良と未来が最後の攻撃を仕掛けようとしてくる。
「行くよ未来ちゃん!」
「了解!」
二人は同時に声を上げる。
「「術式展開!」」
ーーーー
観客席からおおー、というどよめきが起きた。
「おいおい……六王家と風属性の術式だぜ……」
観客席で観戦していた寧々が興味津々な様子で言う。
今までろくに学校に出席して来なかったため恐らく今まで見た中でトップクラスのマギを見れるだろう。
「津々良ちゃんの術式は知らないけど、未来ちゃんの術式は凄いよー」
集団戦での練習で未来の術式を見た事がある香が教えてくれた。
その言葉により興味が沸く。
「さて、千凪達がどう対処するのか楽しみだな」
楓は興味深そうに貴人と悠奈に視線を向けていた。
ーーーー
術式を展開した二人。
津々良は自身の目の前に大きな円状の風属性のディーヴァで形成された幾何学模様、未来は自身の右側に三角状の水属性で形成された幾何学模様が浮かび上がる。
誰もが二つの術式が発動されるのを待っていた時ーー
「悪いな二人とも! 」
そう言いながら貴人が二人に接近し、津々良の術式に無属性のディーヴァを纏った右手を置く。
するとーー
「なっ!?」
パキッ、という音を聞き津々良は目を剥く。
円状に形成された幾何学模様にひび割れができ、粉々に砕け散ったからだ。
観客席も何が起こったか分からない様子だ。
「そんな……!」
貴人がした事に気を取られたのだろう、術式の展開が遅れた未来。
その隙に貴人は未来の術式にも同様に右手を置く。
「うそ……」
未来も津々良と同じ表情を浮かべる。
さっきと同じような音がして術式が破壊される。
未来にとってこんな事は初めての経験だったのだろう。
そもそも術式を破壊することが出来るなんて未来は知らなかったかもしれない。
こうして意外な終わり方で勝敗が決した。
観客席からは何が起きたのかついて行けずに歓声があがることは無かった。