表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やりたかないのに陰陽師  作者: 辻本 真悟
第五章 『神話受肉、メリケン・イレース』
30/30

ラストエピローグ:『未解決(アンデリート)な日常、あるいは観測者たちの食卓』

エピローグ描くのも難しいものですね。

北野の丘を吹き抜ける海風は、土蜘蛛の怨念なんて最初からなかったかのように涼やかだった。再建中の学園はまだ休校中だが、俺の店『フォックス・テイル』のフロアには、戦いの日々よりも騒がしいノイズが充満している。


「……やはり、このメロンソーダの炭酸の弾け方は、葉子さんのオムライスの『黄金の比率』を際立たせるための計算ロジックが含まれているね。安倍くんの適当なサーブとは格が違う」


 カウンター席で、保憲が銀縁メガネをらんらんと輝かせながら、完璧な断面のオムライスと鮮やかな緑色のメロンソーダを交互に口に運んでいた。


「保憲さん、それただの気のせいやと思いますよー! でも見てください、この保憲さんの『オムライス全集中』動画、土御門のグループチャットで伝説のアーカイブ扱いになってます!」


 隣で有世が、保憲の執着ぶりをタブレットで激写しながら大はしゃぎしている。


「おい有世、あんまり保憲をいじるな。……それより、あいつら本当に大丈夫か? 晴明のやつ、あんな面倒くさそうな顔して……」


 博雅がメロンソーダのストローを噛みながら、呆れたように店の外をチラリと見た。視線の先では、俺がサンダル履きのまま、博雅の言う通り「この世の終わり」みたいな面倒くさそうな顔で、隣に並ぶ美少女――『もりかす』姿の道満に引きずられていく。


「源くん、心配は無用だよ。安倍くんの『魂の震え』を最も効果的に中和リカバリーできるパッチは、今の彼には一つしかない。……芦屋のお嬢ちゃんが、わざわざあの姿を選んだ理由を、君の単純な脳細胞でも推測できるだろう?」


 保憲は冷静に(だが目はらんらんとさせたまま)オムライスを咀嚼し、確信に満ちた声を出す。


「ま、そうですね! 晴明先輩、自分一人で死に戻った制約を抱えて、指先が震えるたびに『資格がない』なんてヘコんでましたけど。……あのもりかす道満先輩の怒号を聞けば、そんな感傷、一瞬でデリートされるに決まってます!」


 有世がケラケラと笑う。店の外、北野の坂道からは、案の定「なんでこの姿やねん!」「修行の一環や言うてるやろ!」「次は酒呑童子編らしいで!」という道満の叫び声と、「はぁ、やりたかないねー……」という晴明の、最高にダルそうで、それでいて一年前にはなかったはずの、どこか安心しきったボヤき声が遠ざかっていくのが聞こえた。


 なぁ、あんたならどう思う?

 一年前、一人で死んで、全部なかったことにしようとした俺のログ。

 それが、こんなにうるさくて、予測不能で、消したくても消せない連中にハックされ続けてる。

 

 店の奥では葉子母ちゃんが「あらあら、いい食べっぷりね」と扇子を揺らして笑っている。

 俺の右手の指先は、まだ時々、情けなく震えるけれど。

 この「震え」ごと面白がって、強引に連れ出してくれる馬鹿野郎たちがいる限り、今日という未解決なノイズは、デリートせずに取っておくのも悪くない。


「……はぁ。やりたかないねー、ホンマに」


 店内に残った晴明の空気が、新しい日常のノイズに溶けて消えていった。

 そんな日があっても良いだろ?今の俺には。


 なぁ、あんたもそうおもうだろ?

……又いつか、北野の風が吹く頃に……

やりたかないのに陰陽師弐を執筆してシリーズにしていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ