第十九話 ロック
頭が痛い。寝不足のせいかもしれない。俺は大きなあくびをしながら、寝惚け眼を擦った。もうすっかり月が出ていて、夜も夜。鴉の子も鳴りを潜める深夜だった。俺は今、何故か寝室のベッドの上で寝ている。確か、ソファで寝落ちしたはずなんだが。しかし、眠る前の記憶は不確かなことが多いので、特に気にしないことにした。もし、誰かが俺をここに運んだとして、そいつは悪いやつじゃないだろうから。
しかし、眠ったのに眠った気がしないことは大問題だ。やはり、ほぼ気絶みたいなカタチで意識をふっとばしたのがいけなかったのだろう。今度は生活リズムを整えて、夜寝て朝起きる。これを徹底しなければならないな、と思った。ヴェアティとベハオプテンのやつ、人外だからって二人とも夜行性なのかよ、と内心悪態をつく。
ゆっくりとベッドから起き上がり、せっかく目が覚めたのだから街に行こうとして、服を探し始めた。いつまで経ってもこのボロきれみたいな服では、格好がつかない。今思い出したが、先日俺を着せ替え人形にしたベハオプテンが買ってくれた服があったはずだ。俺はあまり気に入っていないが、ああ言う系が似合うのはなんとなくわかったので──それに、ベハオプテンのセンスには信頼をおいていた──、それを着ようと考えた。ベハオプテンの侍従に聞いたら、場所を教えてくれるだろうか。ともかく、俺は知ってそうな人を探し始めた。
そして、十数分後。ようやく侍従の一人に会えた。迷路のような屋敷を彷徨っている間、誰一人として出会わなかった。もしかすると、ベハオプテンはあまり従者を抱えてないのかもしれない。俺はドアにもたれかかり、電子端末を弄っている吸血鬼の少女に話しかけた。
「申し訳ないんだが、ベハオプテンが買ってくれた服の場所知らないか?」
数秒遅れて、俺が声をかけたことに気づいたようで、顔をこちらへ上げた。
「いや……知らないよ。服の場所なんて。ベハオプテン様のことだから、自室のクローゼットの中に入れてるでしょ。私今休憩中だから。じゃ。」
早かった。元の体勢に戻るまで。一瞬で俺との会話を切り上げて端末に視線を戻しやがった。ただ、情報は手に入れられたので、ひとまず結果オーライ、といったところか。とりあえずベハオプテンの部屋へ向かおう。
「……そういえば、俺が勝手にベハオプテンの私室に入っていいのか?」
ため息交じりに、
「いいと思うよ。」
と侍女は答えた。何から何まで適当すぎるが、解雇されてないということは家事をしっかりこなす力があり、それを発揮できているのだろうと思った。そうでもなければ説明がつかない。もしくは、ベハオプテンがツラの良さで採用したか。もしくは全く別の理由──眷属だから、とか。ただ、これは本人に聞かないとわからないし、その本人がいないからどうしようもないので、俺は考えることをやめて足を動かした。
俺はベハオプテンの自室前に到着した。やっとたどり着いた。迷宮である貴族の屋敷、とても迷いまくる。同じところをグルグルしたり、昇り降りが激しかったり。様々な障害を乗り越え、ようやく辿り着いた。達成感のまま、ドアノブに手をかけた。……ノブが下がらない。これは、もしかして。
「鍵が、かかってるのか……!?」
おい、おい。またこの大迷宮の中を彷徨い歩くことになるのか?勘弁してくれよ。もういっそ扉をぶち壊して、とも考えたが、ゴージャスな装飾の硬そうな扉を蹴破ったらどんだけ金払えばいいんだという恐怖が体を支配した。
「おとなしく、また冒険だな……。」
俺は涙を垂らしながら、トボトボと来た道を引き返しだした。カーペットを踏みしめるやや冷たい足音が、廊下に響いた。今日の夜はやけに冷え込む。




