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職場の地味OLが、幼馴染みの俺にだけ距離ゼロで甘えてくる件【ネオページ 現代恋愛 新作人気6位(2/14時点)】  作者: マルゲリータ鈴木


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6/10

エナドリに恐怖する、幼馴染み

 ガコン。


 自動販売機から缶コーヒーが転がり出て、乾いた金属音が休憩室に響いた。

 席はどこも空いているのに、俺は自然と壁際、隅の席へ滑り込む。眉間を指で押さえ、深く息を吐いた。


 真ん中で手足を投げ出すほうが好きなやつもいるんだろうが、俺は目立たない場所のほうが落ち着く。


「よーす、浩一もサボり~?」


 缶に口をつけようとした、そのタイミングだった。

 家にいるときと同じ温度感で、麗佳がひょい、と休憩室へ入ってくる。


「いいのかよ、そんなテンションで」

 

「いいのいいの。いま誰もいないし」


 ひらひらと手を振りながら自販機へ向かい、麗佳は迷いなくエナジードリンク――あの、緑の派手なやつを買った。

 そして当然のように、俺の正面に座る。


「お前……またそんなもん。身体に悪いだろ」

 

「ちっちっち。それは浅慮というものだよ、相沢くん」


 人差し指を立てて、妙に偉そうな言い方で即座に否定してきやがった。


「いいかね? 確かに砂糖は多い。けどコーラだってオレンジジュースだって同じなのだよ」

 

「カフェインが、大量に入ってるだろ」

 

「カフェイン? コーヒー一杯と大差ない。むしろビタミンB群が入ってる分、理論上は“やる気ブースト飲料”で身体を整えることができるのだよ」

 

「理論上な」

 

「そう、理論上! でも人類は理論で生きているのだよ」


 どや顔。腹立つわー。

 ……腹立つのに、顔が可愛いから余計に腹立つ。


「問題は摂取量だよ。毎日三本四本飲めば、そりゃ身体も怒る。でも一本程度なら、普通の甘い飲み物と決定的な違いはない。イメージで叩かれてるだけなのだよ、相沢くん?」


 「なのだよ」をやたら連呼して、力説してきた。

 それで賢い雰囲気を出してるつもりなのか?

 

「主張が正しくても言い方がムカつくな」

 

「褒めてる? それ」


 ぷしゅ、と缶が開く音。

 麗佳はぐいっと一口飲んで、満足そうに目を細めた。


「……うん。うまい」


 そのまま、勢いよく飲み干して――


「じゃ、もう一本いこっかな」


 立ち上がりかけた麗佳の腕を、俺は反射で掴んでいた。


「……え? なに?」

 

「お前がさっき一本程度ならって、言ったばっかだろ」


 俺の声が少し低くなったのが分かったのか、麗佳は瞬きを止める。


「いいか、これは大学時代の友達が体験した話しだ。

エナジードリンクを飲みすぎると、まず手が止まらなくなる」

 

「え、なに急に……?」


 戸惑う麗佳を無視して続ける。

 

「意思と関係なく震える。ペンも持てない。文字がぐちゃぐちゃになる。心臓はドクドクどころじゃない。ドンドンドンって、内側から叩きつけられてるみたいになる」


 麗佳の表情が、少しだけ固まった。


「で、最初は勘違いするんだ。“効いてる”って。冴えてる気がするからな」

 

「……やだ、なんか嫌な予感」

 

「でもな急に来るんだ。理由もなく不安感がな。呼吸が浅くなって、“やばい”ってなる。部屋にいるだけなのに逃げ場がない感じがする」


「……それ、パニックじゃん」

 

「そうだ、次に来るのは吐き気だ。トイレに駆け込んで吐く。吐いても動悸は止まらない。横になっても止まらない。眠れない。瞼閉じても、心臓だけがうるさい」


 麗佳の喉が、ごくり、と鳴った。


「そいつはな、最終的に救急で運ばれた。過換気で手足が痺れて、指が硬直して。救急車の中でも“心臓止まるかも”って泣いてたらしい」

 

「そ、そんなに……」


 俺はわざと視線を逸らし、重く続ける。


「ああ。でもな、病院に着いても終わりじゃない」

 

「……まだあるの?」

 

「ある。処置室に運ばれて、押さえられて……そこで、“胃の中を洗う処置”をされる」


 麗佳が青ざめる。


「ちょ、ちょっと待って……」

 

「太いチューブを口から入れられる。喉に触れた瞬間、反射で吐きそうになる。でも吐けないんだ、チューブが塞いでるからな」

 

「いや……いやだ……」

 

「息してって言われても、異物感でうまく吸えない。涙もよだれも勝手に出る。喉が焼けるみたいに痛いんだ」


 麗佳は無意識に自分の喉を押さえた。


「で、水を入れられる。胃が一気に膨らむ。気持ち悪さが限界まで跳ね上がって、すぐ吸い出される。中身と一緒にな」

 

「やめて……聞きたくない……!」

 

「それを、透明になるまで何度も繰り返す。終わる頃には喉はヒリヒリ、胃はネジ切られたように痛い」


「いや、いや怖い……そんなの……」


 麗佳は両肩を抱いて小さく震え出した。

 俺はそこでようやく手を離し、ぽん、と肩に触れる。


「分量を考えて飲めば、ジュースなんだろ?

だから、飲むなとは言わないがほどほどにしとけ」

 

「……う、うん……今日は……いや、明日もやめとく……」

 

「それがいい」


 麗佳はオロオロと立ち上がり、足早に休憩室を出ていった。


 ……よし。

 さすがに効いたな。


 エナジードリンクの飲みすぎが本当に良くないのは、脅しじゃない。

 だから、これくらい怖がらせておいてちょうどいいだろう。


 俺は冷めかけた缶コーヒーを見下ろし、小さく息を吐く。


 ……友達がって麗佳に話したが、あれは俺の話なんだよな。


 あのときの喉の痛みと、心臓のうるささを思い出して、胃の奥が嫌に重くなった。

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