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中編:リグレットは微睡んだまま

 皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申すものでございます!


 早いものでもう2月となりましたが、皆様はお元気に過ごされていますか? 寒い日も続きますが、体調には気を付けてくださいね。

 それでは、本編スタートです!

「…………っ、」

「……? 智樹(ともき)、大丈夫?」


 悪夢なような記憶。

 尽きぬ後悔と、出せなかった勇気の残滓(ざんし)

 それは、俺の心に呪いのようにこびりついて離れなかった──近くにいる誰かが離れていってしまいそうな予感が、絶えず胸のなかに渦巻くようになって。


「あ、……ぁ、ごめん千紗(ちさ)。大丈夫、……大丈夫だから」

 傍らで眠っていたのを起こしてしまったらしいことを詫びる言葉もそこそこに、俺は千紗を抱き締めていた。冬の寒さのせいにすれば許されるだろうか──いや、そんな言い訳をいちいち考えなくてもいいから、俺はこうして千紗と過ごしていられるんだ。

 ありがとうという言葉すらもどかしく思いながら、千紗の熱を身体いっぱいに感じる。どこかピンと張り詰めている柔らかさに安心感を覚えているうちに、さっきまで俺のなかに(よど)んでいた(おり)みたいなものは消え失せていた。


 汗が引くのを待ちながら見上げた天井に向かって、温まった身体から湯気が立ち上っていく。どうかこのまま、せめてこの夜は安らいで過ごせますように。

「ありがとう、千紗」

「……ん、うん」

 そんな祈りを、俺はこのところ繰り返していた。


   * * * * * * *


 千紗と出会ったのは、大学に入って最初の冬──ちょうど、美佳(みか)が卒業間際に高校を自主退学した1年後だった。

 その頃、俺は何をするでもなく過ごしていた。いつ死んでもいいような、たぶん死んだって誰からも顧みられることのないような虫けら──自分が誰にとっても価値がなく、必要のない存在みたいに思えていた。だから、とにかく流されるままに生きていた。そうして、死にかけていた。

 誘われるままに肌を重ねた上級生の彼氏に俺の存在がバレて、有り金全部奪われた挙げ句に立てなくなるまで殴られた。もしかしたら最初からそのつもりだったのかも知れない──そうとまで思ったが、相手から見て俺がそこまで金を持っているとは思えなかっただろうから、単純に上級生の浮気癖に巻き込まれたのだろうと、どこか他人事みたいに思っていた。


 冬の路地に座り込み、もう何も考えられなくなっていた俺を拾ってくれたのが、同じ科目を履修していて何度か話していた千紗だった。たったそれだけの縁で傷だらけの男を助けるなんておかしなやつだと思っていたが、それがどこか昔の美佳を思わせて妙に心が落ち着いた。

 美佳の面影がきっかけで千紗と一緒に過ごすようになり、気付いたらこういう関係になっていた。恋人と呼ぶには、俺が本当に千紗その人を愛せているのか自信を持てないが、それでも千紗は俺のことを好きだと言ってくれている。

『なんか放っておけない気がして、気付いたらずっと智樹のことばっかり考えちゃってるんだよね』

 最初に肌を重ねた後、そんな言葉を添えながら告白してくれたのは千紗だった。俺は、千紗といられればそれでよかったからそれを受け入れた──ひとりでいると、美佳のことばかり考えてしまいそうだったのだ。


 そんな風にして、大学卒業を間近に控えた今まで付き合いは続いている。といっても俺は就活に勤しむあまり卒論が疎かになっていたので、何とか受理されるクオリティのものを作らなければせっかくの就職先もふいにしかねない状況なのだが。


「そういえば智樹、地元帰るのって明日だっけ? 里帰りか~、わたしもしばらくしてないなぁ」

「ああ。まぁ帰るって言っても日帰りか、延びたって明後日には帰れるくらいだと思うけどね。なんか従姉が赤ん坊産んだから見に来いってさ」

「ふぅん、いくつくらい?」

「確か俺の3つ上くらいだったかな……。結婚とは程遠そうな人だったけど、いつの間にって感じだよ」

「…………」

「千紗?」

「わたしたちもそろそろ考えちゃう?」

「────、」


 一瞬。

 ほんの少しだけ、答えに詰まった。


 結婚には賛成だった──というか今すぐにでもしたいくらいだ。だがそれは千紗への愛情だとかそういうのではなく、結婚という事実が出来ればそう易々とは離れられないだろうという願望からだった。吹けば飛んでしまうような曖昧な関係ではなく、夫婦という名前のある関係になりさえすればきっと……と。

 そんなことを口にしていいものか、果たしてそれは千紗の望む結婚の形なのか。そんなことを、一瞬だけ考えてしまった。


「────、」

「……なんてね! 身近でそういう話聞くと、ちょっと考えちゃうねって話。そんな驚かなくていいから!」

 冗談めかして笑った千紗の顔に、微かに落胆の影が見えたような気がするのは、俺自身の願望が見せた幻覚だろうか。その後、「明日気を付けてね」と言って眠った白い背中に手を伸ばすことさえ躊躇ってしまう俺は、きっと昔から何も変わっていなかった。


   * * * * * * *


 親族への顔見せは、何事もなく終わった。

 元気にやってるかだの、大学には行ってるかだの、当たり障りのない会話が続き、従姉の子どもをひとしきり可愛がった後、予想よりもだいぶ早く帰途に就いたのだった。


「千紗もびっくりするかも知れないな」

 事前には言わずに帰って、驚かせてみよう。

 そうしたら、千紗に昨日の返事をしよう。理由はもちろん千紗が喜びそうな言い方を考えなきゃいけないけど、俺だって千紗みたく落ち着ける相手と一緒にいられるなら大歓迎なんだから。

 ──────。


「智樹」

「────」

 空には鈍色(にびいろ)の分厚い雲がかかり、今にも雪が落ちてきそうな気配が漂っていた。空気もどこか静けさを帯びて、あとは白く染め上げられるのを待っているようにさえ思える昼過ぎ。

 駅近くの寂れたシャッター商店街を通り抜けて、いかにも田舎臭さを感じさせるラブホテルを何軒も素通りしている俺の耳に、声が聞こえた。


 反射的に振り返った先には、美佳がいた。

 前書きに引き続き、遊月です。今回もお付き合いいただきありがとうございます! お楽しみいただけましたら幸いです♪


 突然ですが、私は某国民的ゲームブランド作品のアニメ版を立て続けに観たことをきっかけに、2000年前後のアニメソングをひたすら聴き漁る毎日を送っております。もちろん懐かしく感じられるものもたくさんあるのですが、中には私が知りようもなかった系統のアニメなどもあったりして(何やかんや言って当時1桁くらいの年齢だったので)、「今観てみたら楽しそうだな」と感じられるようなものが多いんですよね。

 あと個人的な体感では2006年以降が美少女ゲームアニメの全盛期なのかと思っていたのですが、もう少し前の頃の方が密度は高そうだなと思っていたり……。2006年以降だとどちらかというとライトノベルのアニメ化作品が多いのかも知れませんね。某キスから始まるゼロ%ラブコメディとかも2006年に最初のアニメが放送されていましたし(原作が当時発売されていた14巻までキッチリ揃っていたという理由で進学先を決めた中学時代を思い出しました)。

 ちなみに、最近になって視聴してしばらく脳を焼かれている某泣きゲーアニメ(放送年は2002年とのこと)ですが、何となく「主人公にとってのヒロインと物語のヒロインが違うこともあるのかもな」と思ったり思わなかったりしております。



 閑話休題。

 本当は前後編でお届けする予定でしたが、思いの外千紗ちゃんパートが長くなったためにもう1話増えることになりました。やっぱり、今築いている日々をしっかり書いてこそラストがよい感じになるかなという話になる予定なので……ご容赦のほど!


 それでは、今度こそ次回で完結いたします。

 最後までお付き合いくださいませ!


 ではではっ!!

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