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とある何の変哲もない異世界のグロシャーク  作者: Sy
槍の王 番外編
2/3

第1章 グロシャークハウスの朝

 朝日が窓から差し込み、香ばしい珈琲の匂いがキッチンからすると、ハヅキはつい最近までの冒険がまるで夢だったかのように思う。


 まさに夢から醒めた朝なのだから仕方ない。


 逃げるようにあの陽王朝からジャンゴジャンゴに乗って王国へ帰ってきたのはほんの数週間前。


 それにも関わらず驚くほど平凡な毎日に戻ったハヅキは欠伸あくびを漏らした。


 ここは国王の住む王都の宮殿から少し離れた場所にある小さな宮殿。主に国王と血縁関係の薄い王族が住んでいる。その小振りだが可憐な建物はグロシャークハウスと呼ばれていた。


 幼い頃にカナン王に引き取られたハヅキの居住する家でもある。


 「平和。」とハヅキは独り言を言いながら窓の外を眺めた。


 一つ、以前とは違う事がある。


 それは同じ寝室の隣のベットに姉が眠っている事だ。


 「んー、、おはよう…どうしたの、ハヅキ?」とミツキは両手を伸ばしながら仰向けになるが、ベットの外へ未だ出る気配はない。


 双子の姉妹はここグロシャークで当然のことながら相部屋になった。


 こうして姉の姿を見ていると、まるで鏡でも見ているかのように2人は瓜二つである。


 前髪を一直線に揃えた可愛らしい黒髪の小柄な女の子が2人、ごろごろベットの上でまったりしている。


 ハヅキはこうして、長く夢見ていた姉と一緒にいることのできる幸せを噛み締めていた。


 王国への亡命が決まったミツキはまだ右も左も分からず、妹と一緒に暮らすが良いとのカナン王の計らいもある。


 王はとりわけ、ミツキが尋問や数多くの検査を受けないように配慮した。


 そしてその計らいの結果がもう一つ。


 「姫様方、朝食の準備が出来ておいでです。」


 寝室のドア越しに聞こえるその男の声は神経質そうではあるが、紳士的である。


 「あ、コルテバさんだ。」とミツキは慌ててベットから起き上がった。


 陽王朝へハヅキ達を見送った、あの外交官である。


 カナン王の勅命につき、姉妹をよく知る者としてグロシャークハウスの執事として出向を命じられている。


 「ハイ、今行きます!」と2人は声を合わせる。


 朝の身支度を終えた姉妹は早速カフェテリアへ向かった。


 「おはようございます。」とコルテバが姉妹のためにカフェテリアのドアを開けた。


 「んー、珈琲の良い香り!」とハヅキはいつになく上機嫌だ。


 今までほぼ友達ゼロであったハウスに今は姉のミツキがいるのだ。


 脱・ぼっち!


 と誇らしげにハヅキは珈琲のマグを片手に胸を張った。


 この調子で今日から始まるマギア聖学院の新学期でも友達を増やせるかもしれない。


 未だ人見知りのハヅキは友達が片手で数えるほどしかいないのだ。


 (あっ、セレステさんはカウントしていいのかな?)とブツブツ言っている妹を他所に、ミツキはコルテバへの感謝を忘れない。


 「あまり気を使わないで下さいね、コルテバさん。コルテバさんも宮殿でのお仕事があるし。」


 「これはこれはミツキ様。お心遣い、痛み入ります。ですがこれもカナン王からの命ですので。お二人にお仕えするようにとの。ミツキ様はお紅茶ですね。」と手際良くコルテバは姉妹達のテーブルの給仕を始める。


 「要するに左遷?」とハヅキが言い放つと、コルテバはミツキのために注いでいたティーポットをゴトンとテーブルの上に落とした。


 コルテバの動揺は明らかだ。


 「ち、ちょっとハヅキ!失礼なっ。ごめんなさい、コルテバさん!」とミツキが執りなす。


 するとコルテバは額の汗と白いテーブルクロスに溢れた紅茶を拭いながら早口でまくし立てた。


 「いいのです!お気になさらずとも。サセンっ(裏返る声)などと、私は考えておりません。2人の姫君に仕えるなどこの上なく光栄でありまた重要な任務…。そう、任務!これは悪夢…、いや任務。うう。」


 もはや独り言となっているコルテバの話をハヅキは聞いていないが、ミツキが気の毒そうに黒服の紳士を見つめている。


 「朝から賑やかな事だな。」と不意に朝食の席に1人の凛々しい女史が現れた。


 今日も長い黒髪を後ろでポニーテールに束ね、マギア聖学院の制服に帯刀している長剣が背の高い彼女によく似合う。


 グロシャークハウスに顔パスで入る事のできる数少ない人物。


 彼女の功績は例の留学プログラムを修了し、双子の姉妹を無事王都へ連れ帰った事で王より特別に認められている。


 しかしそれが彼女がグロシャークハウスに来る理由ではない。


 この朝食も未だ終わっていない姉妹達を迎えに来ているのだ。


 「ナナちゃん!」とミツキの瞳が輝く。


 七袖ナナソデは時計を見ながら複雑な表情で、それでも幸せそうに微笑む。


 またこの3人で過ごせる日が来るとは。


 まさにこの暮らしは3人にとって奇跡だった。


 ハヅキは始業時間が迫っていることも忘れ有頂天だ。


 が、しかしその上機嫌も次の瞬間突き落とされることとなる。


 「そういえば、ハヅキ、ナナちゃん。あたしはサピエンティアに行こうと思うの。」とミツキは言った。


 ガチャーン。


 今度はミツキが珈琲マグをテーブルの上に落とした。

プロローグしか書いてないのにもう評価を下さっている方がいて、本当にありがとうございます!応援していただけるとより頑張れます。。番外編はゆったりと流れるストーリーなのでゆるゆる読んでいただけたら嬉しいです。Syはただいま並行して「槍の王」第5部を執筆しております。はて、投稿はいつになることやら。。

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