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エピローグ あなたへ 編

 私は基本的に楽天家だと思う。

 でも時々、「もう生きていなくてもいいかな」と思うこともある。

 いや、正直言うと、けっこう頻繁にある。

 それもまた「普通」なのかもしれないが。


「苦痛がなく、楽で、人に迷惑をかけない死に方」を考えたことも、何度もあった。

 一度、夜の一時、職場の駐車場で、血が飛び散らないように巨大なゴミ袋を組み合わせてできた繭の中、刺身包丁を首に突き刺そうとしたことがある。

 失敗して中途半端な大けがをするのが嫌だったので、硬い喉仏を避けた角度や体勢を吟味しているうちに深夜当番の職員に見つかってしまってことなきを得たのだが、まあ、ああいうことはやるものではない(車の中というのは意外に狭くて、力が入れづらいこともあり、やっても失敗していたかもしれないが、そういう問題でもない)。

 今でも「やはり山中で首吊りかな」と足が向きかける時もあるのだが、こういう時に、必ず思い出すことがある。


 以前、Sさんに、「私たちがおじいちゃんとおばあちゃんになっても仲良しでいてね」と言われた。

 今死んだら、それができなくなっちゃうなあ……思ってしまうのだ。


 もし老後に交流を持った場合、私たちはきっと、しわくちゃの顔を突き合わせて、

「今度のあのゲームのキャラ、マジ萌え萌えですじゃのう!」

「そういえば昔あったあのゲームのシナリオ、あのシーンで悶え死んだねエ!」

などと、くそ益体もない会話をノリノリでぶつけ合う、とても駄目な老人になるような気がするが。


 そんなわけで、彼女は本人も知らないうちに、何度も私の命の恩人になったりもしている。

 どこまで私の人生を救えば気が済むのか、一度問うてやらねばならない。


 彼女も私もネット生活は不安定なところがあるので、交流はその後、あったりなかったり、ない時期の方が長かったりもする。

 けれど、どうせどこかで思いがけず再会して、まるで最後に会ったのが昨夜でもあるかのように話すだろうと思う。

 連絡の取れない時間が長くなると、それなりに心配はするものの、寂しさなどはあまりない。

 私は今もここにいると、あの日の彼女の日記のように、それなりの居所を作りながら、ぼうっと待っている。


 ある日、SNSを始めてみようと思った私は、登録を済ませた直後、Sさんのアカウントをそこで見つけた。

 その時にはまた長い断絶を挟んでいたため、なんだか気恥ずかしさでためらわれて、フォローしようかどうか、三日ほど悩んだ。

 いや、そんなに気を遣うようなことじゃないだろう……と、私はようやくフォローのボタンを押した。

 彼女はけっこうフォロワーが多く、もしかしたら気づかれないかもなあ、とも思った。

 その日の夜、私はSNSを開いてみた。

 まだ何を書いていいのかよく分からないが、まあ適当に何か書いてみようか、とあれこれ考えながら画面を見る。


「三秒でフォローし返した」


 これが私が、SNSで初めてもらったリプライである。



 出会って間もない頃、彼女の方が年上ということもあってできるだけ丁寧に接していた私に、Sさんは

「そんなに遠慮ばかりしていると、いつまで経ってもお友達になれないんですよ?」

と言った。

 それから私はど厚かましくなったが、それで彼女にとがめられたこともない。

 私はいつから、彼女の友達になれたのだろうか。


 私は彼女に、何があっても、理想化も幻滅もしないだろう。

 彼女が何かの過ちを犯しても、平気な顔で、彼女の肩を持つだろう。

 昨日のように今日も会い、明日もあなたとともにいる。

 それはとても当たり前の法則で、空気のように透明に私たちを満たしている。


 当たり前なのだ。

 重力は、波だから。

 光は、粒子だから。

 音は、振動だから。

 時間は、非可逆だから。


 熱は、無限に自生しないから。

 質量は、保存されるから。

 存在は、記憶されるから。


 空は青いから。

 ポストは赤いから。

 ひまわりが黄色いから。


 あなたと私は、友達だから。



 あの時もあの時もありがとうございました。

 これからもいつまでもよろしく。

 私は、あなたが呼吸している、この世界で生きています。



2018年11月吉日

澤ノ倉クナリ 拝


ともだちのあなたへ




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