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絶対執事!?  作者: 暇人
執事とVRMMO日記
83/85

執事と落胆

遅くなりました。

「しかし、本当に運営は迷惑なものを残していきましたね~……」

「ええ、本当に……」


 矢で牽制しながら、勇人はボソリと呟きながら前を見た。それに呼応するようにスペルを唱え終えた晴子も溜め息をつきながら同じように前を見る。



「オラオラオラァー!! 先に斬り飛ばされたい奴はどいつだぁー!! だから―――」

狂戦士(バーサーカー)の真髄、見せてやる!! だから―――』


 空気を切り裂く音と何かを叩き潰す音、そして代わる代わる響き渡っていた二つの怒鳴り声が、同時に止む。


「『早くかかってこいやァァァアア!!!!』」


 飛び掛かってくる、いや多くは逃げ惑う蜂たちを殲滅していく二人―――由利と孝章が声を合わせてそう叫ぶ。目の前で繰り広げられるMOBたちとの戦闘、いやMOBたちが瞬く間に蹂躙される様を前にして、勇人はボソリと呟いた。


「……あのMOBって、確か初見殺しで有名なヤツだよな?」


 闘技大会に出場するために次の町へと続くダンジョン《ボルフの谷》に挑んだ勇人たちは、その道中に初見殺しと名高い大型蜂MOB『キラービー』と遭遇、激しい戦闘、と言うか一方的な惨殺を繰り返していた。


 このキラービーと言うMOBは、遭遇すると瞬時に仲間を呼ぶのが特徴で、呼ばれた仲間が再び仲間を呼ぶ、そして呼ばれた仲間がまたまた仲間を呼ぶ、を幾度も繰り返す内に、一匹だったキラービーがいつのまにか数え切れないほどの大群と化すのだ。


 大型の蜂の大群が一斉に襲い掛かってくる。これはいくら戦闘慣れしたプレイヤーと雖も対処する術はないに等しい。因みに、キラービーの対処方法は仲間を呼ぶ前に瞬殺するか、高く振り上げるのが呼ぶ合図となる針をいち早く折るかのニ択しかない。


 しかし、仲間を呼ぶ際に空中で静止するので針を折ること事態は其処まで難しいことではない。さらに大群で襲ってくる分一匹のスペックは低いため、対処法さえ分かってしまえば脅威となるMOBではなくなる。


 故に、ピピッチと並ぶ初見殺しの代名詞としてその名は知られているのだ。


 もちろん、勇人たちは事前に情報を手に入れたからこの結果は予想通りと言えよう。しかし、まさか蜂の大群を何度も蹂躙するなんて状況になるとは予想できただろうか。


 その蹂躙を可能にしたのが、孝章が運営からもらった籠手を装備した時に習得した技『ハウリング』である。


 この技は、一定のHPを消費して少しの間、自らの発する声を空気中に幾重にも響かせるようにし、それを受けたMOBを『怯み』と言う一時的な膠着状態にさせると言うものだ。勿論、プレイヤーに対しても同じ効果を発揮する。因みに、発動したプレイヤーが敵と認知してないプレイヤーには拡声器で話しているように聞こえる。


 更に、この『ハウリング』は空気を振動させると言うことで、空中に浮かぶMOBに対しては高い確率で『怯み』の状態異常にさせると言う付加効果がある。すなわち、常に空中に浮くキラービーに非常に相性が良い。


 つまり、『ハウリング』の効果と由利や孝章のバカみたいな火力が、勝つのは不可能と言われたキラービーの大群を蹂躙しているのだ。


 ただ、危ない場面がなかったわけではないので、勇人たち後方組にとっては止めてほしいことでもある。


『逃がすか!!』


 勝てないと判断して蜘蛛の子を散らしながら逃げるキラービーたちに向けて、孝章が『ハウリング』で拡声させた声で吠える。その声は洞窟内でもないのに幾重にも反響し、あれだけ世話しなく動いていた蜂たちの動きが止まる。


「おりゃぁ!!」


 そこへ由利が太刀を横凪ぎに振るい、軌道上にいたキラービーたちが断末魔を上げながら白いポリゴンとなっていく。


 そこに、運営からプレゼントされた虎柄の籠手でキラービーを叩き潰す孝章が不満そうに口を尖らせる。


『ハニー、左半分は僕の獲物だ。横取りは慎んでくれ』

「遠慮したら捌けなくて危なくなったのはどこの誰かしら?」


 そんな軽口を叩きながら、由利と孝章は疾風のごとくキラービーたちを蹂躙していく。成す術もなく蹂躙されていくキラービーたちを、勇人は心の底から同情していた。しかし、彼的にも経験値として美味しいので、襲ってきたキラービーを斬り捨てるその動きに躊躇はない。


「これで、最後!!」


 そう言って孝章が最後のキラービーを叩き潰した時、彼の声が普通の大きさに戻った。『ハウリング』の効果が切れたのだ。


「休憩の時間ですね」


 晴子がメイスを納めながらそう言うと、「はーい」と言う間延びした返事と共に勇人たちは武器をしまい始める。対キラービー用の技『ハウリング』の効果が切れたことは、勇人たちにとって休憩を意味していた。弓をしまい終えた時に肩に舞い降りたクリーの頭を撫でながら、勇人は傍の岩に腰を下ろした。


 時刻は十三時過ぎ。朝食から今まで何も食べずに激しい戦闘を繰り返して空腹度が空っぽに近い勇人たちにとって、昼ご飯がほしいところである。


「はい、お昼御飯です」

「あ、ありがとうございます」


 それを見越した晴子から、サンドイッチとフルーツジュース、クリー用のレタスを受け取った勇人はお礼を言って早速サンドイッチにかぶり付いた。


 晴子から渡されたサンドイッチは三つあった。


 一つは野菜サンド。少し硬めのパンにみずみずしいレタスとよく熟れたトマト、それを黒コショウのピリッとするソースがそれらの良さを引っ張る様に引き立てる。


 もう一つはふわふわの卵がたっぷりのタマゴサンド。プリプリの白身とマヨネーズでまろやかになった黄身がパンに染み込んで柔らかくなっている。


 最後の一つはサクサクの衣にタルタルソースが掛かったカツサンド。肉厚のカツから溢れる肉汁がパンに染み込み、それとタルタルソースが良く絡み、噛み締める度に衣が嬉しそうな音を上げる。


 そんな絶品サンドイッチに舌鼓を打ちながら、勇人は一心不乱にレタスを頬張るクリーの背中を撫でる。しかし、レタスを食べることに夢中なクリーは背中を撫でられても特に反応はしなかった。それほど、お腹が減っていたのだろう。


「勇人くーん」


 レタスを頬張るクリーに癒されていた勇人に、瑠璃が声をかけた。また「クリーを触らせて!!」とか言い出すのかと警戒した勇人であったが、その考えは彼女の腕の中にあるものを見た瞬間に何処かへ消え去った。



「この子、どうしよう……」


 そう不安げに問いかける瑠璃の腕には、彼女が運営からプレゼントされた帽子の入れられた一匹の小さな犬がいた。


 フサフサしていただろう毛は乾いた泥がこびり付いており、よく見ると小さな体の所々に擦り傷や切り傷を負っている。瑠璃に抱かれながらブルブルと身を震わす子犬の息は荒く、今にもこと切れそうなほど弱弱しい。


「この子は何処で……?」

「あ、あっちのほう……。貰ったサンドイッチを広げた時、岩陰から飛び出してきたの。でも、私を見る間もなく地面に倒れちゃって……それで、心配で……」


 勇人の問いかけに、瑠璃は子犬を動かさないように遠くの岩を指さす。恐らくそこから飛び出してきたのだろう。指した指を戻しながら、瑠璃は今にも泣きそうな顔で子犬を見つめる。


 そんな只ならぬ空気を感じ取ったのか、他のメンバーが心配そうに勇人たちの元へ近寄っていった。勇人はメンバーたちに状況の説明をし、子犬の判断を仰いだ。


「別に助けてもいいんじゃない? 攻撃してこないのなら問題ないでしょ」

「いいんですか? 手当した後に襲ってくることも考えられますけど……?」

「僕もハニーと同意見だ。さすがにMOBでも手当てしてもらった相手を攻撃しないだろう。それにもしかしたら瑠璃君の飼育MOBになるかもしれない」


 孝章の言葉に、勇人は再度瑠璃の腕の中で震える子犬を、そしてそれを心配そうに見つめる瑠璃を見つめる。


「まぁ本来なら倒しちゃうところだけど、さすがに無抵抗のMOBを攻撃するほど非情でもないわ」

「逃げるキラービーを蹂躙していた人が言うこと?」


 何故か胸を張りながら答える由利にツッコミを入れながら晴子はスペルを唱える。すると、子犬の身体に光が纏い始め、細かい傷が塞ぎはじめる。


 しかし、当の子犬は先ほどと同じようにぐったりとしている。


「ど、どうしよう……」


 傷が癒えたのにもかかわらずぐったりとしている子犬を見つめ、瑠璃は泣きそうな声を上げる。


 晴子の魔法でHPは全快の筈だから、恐らく倒れて理由はHPではないようだ。HP以外で倒れる、と考えたとき、あの事しか考えられないと勇人は思った。



「お腹が空いているんですかね?」


 そう呟いた晴子はポーチからサンドイッチを出して、子犬の鼻の前に差し出した。子犬は目の前に差し出されたサンドイッチの匂いを嗅ぐと、小さく口を開いてサンドイッチを食べた。


「がぅ!!」

「わっ!?」


 サンドイッチを食べた瞬間、子犬がいきなり飛び起き、それにビックリした瑠璃は思わず子犬の身体を離してしまう。子犬は瑠璃の腕からフワリと着地すると、直ぐ様落ちたサンドイッチに飛び付き貪るように食べ始めた。


 その様子に一同は唖然とした反面、子犬の食欲にホッとした様に胸を撫で下ろした。そんな中、由利が訝しげに孝章の袖を引っ張った。


「ねぇ孝章、普通のMOBにも空腹度って設定されているの?」

「いや、飼育MOBでない限りは設定されてない筈だ。たぶん、あの子犬は何かのイベントMOBなのかもしれない」


 そう言う孝章の言葉に、サンドイッチの欠片を食べる子犬とその背中を撫でる瑠璃を、由利は訝しげな目で見る。その顔には『あれだけ騒動に巻き込まれたんだ、もう面倒事は懲り懲り』と言う表情が浮かんでいた。そんな顔を向けられている子犬はサンドイッチを食べ終わり、他にも食べ物がないかと鼻を地面に押し付けて臭いを嗅いでいた。


「……あまり面倒なことには巻き込まれたくないのだけど」

「見た感じ、襲ってくることは無いみたいだし、瑠璃くんもだいぶ気に入っているみたいだしいいじゃないかな?」

「そうかもしれないけど……ん?」


 そう由利が不安げに言った時、子犬が彼女の元までトコトコ歩いてきた。不意に現れた子犬に由利が上から見下ろすと、子犬は「ワン!」と鳴くと、甘える様に彼女の足にスリスリし始めた。


「…………」


 突然のことに目をパチクリさせる由利。固まる由利を他所に子犬は彼女の足元でゴロンと寝転がって、お腹を見せた。そして、一昔前に流行った某チワワの如く潤ませた目で見上げ、由利の瞳を射抜いた。


 その視線に由利はビクッと身体を震わせた後再び固まり、ゆっくりとしゃがんで子犬のお腹を触る。それが気持ち良かったのか、子犬は気持ち良さそうに目を細める。


 その姿を見た由利は再び身を震わした後お腹を撫で続け、ゆっくりと子犬を抱きかかえた。すると、子犬は嬉しそうに由利の顔を舐めはじめた。


「…………瑠璃」

「はい?」


 顔を舐められながら、由利がポツリと呼ぶ。瑠璃は顔を舐められる由利を羨ましそうに見つめながら返事する。


「この子、連れて行ってもいいわよ」

「…………ホ、ホントですか!!」


 由利の言葉に瑠璃は目を輝かせて喜んだ。その様子に何を悟ったか、子犬は「ワン!!」と元気よく鳴くと更に由利の顔を舐めまわし始めた。そんな由利の手の平返しに、孝章が何処か心配そうな顔で彼女に近づく。


「ハニー、良いのか?」

「別に私はどっちでもいいけど、瑠璃がどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉしても連れて行きたい!! って言うんだもん。主として、使用人の希望は叶えないとね!」

「そ、そうか……」


 由利の言葉に何処か納得がいかない様子の孝章を尻目に、そんな二人の様子を見ていた勇人は、周りに気付かれないように小さく笑いをかみ殺した。


 孝章の言葉に由利がチラリと振り返った際、ふにゃふにゃの笑顔を必死に隠そうとしている彼女の顔が見えたからだ。


「ん?」


 先ほど由利に行われていた子犬の愛嬌攻撃に感化された他のメンバーも子犬に触ろうとその周りに群がりだしたとき、勇人の目に子犬の首の辺りに何か光るものが見えた。しかし、それはすぐさま見えなくなり、もう一度見ようとしても子犬は近づいていったメンバー全員に愛嬌を振り撒き始めたために見えることはなかった。


 一瞬見えたそれは恐らく宝石の類ではないかと勇人は思った。しかし、ほんの一瞬だけだったのでその答えに確証を持てるはずもなく、それを確認するために勇人も由利の元へと近づいた。


「お嬢様、ちょっとよろしいですか?」

「お、勇人も触りたいの?」


 勇人が近づいてきたことに気付いた由利は勇人の言葉を聞くと、抱えていた子犬を勇人の目の前に出した。


 勇人が子犬の首元を注目してみてみると、首輪のようなものが付けられていた。そしてちょうど顎のところに青い石のようなものが付けられていた。


「何だ……これ?」


 そう呟きながら勇人は子犬の首元に手を伸ばした。その行動に、子犬の頭が一瞬ブレた。



 次の瞬間、勇人の手は子犬の首元ではなく、犬歯が光る口へと飲み込まれていた。


「痛ってぇぇ!?」


 そう叫んだ勇人は腕を思いっきり振る。しかし、子犬は一向に離すまいと言いたげに唸り声を上げながら噛み付く力を強めた。それに合わせて更に勇人の悲鳴は大きくなっていく。


「あだだだだだだだぁ!!」

「ちょ、勇人!?」

「わわっ!?」


 突然のことに由利と瑠璃は慌てて勇人の手から子犬を引き離した。鋭い痛みから解放された勇人は噛み付かれていた手を庇い、その手をすぐさま晴子が回復し始める。対して、興奮した様に唸り声を上げる子犬を瑠璃が抱えて大人しくさせた。


「勇人、大丈夫?」

「……ええ、何とか」


 晴子のスペルが詠まれている時、由利が心配そうにのぞき込んだ。勇人が気のない返事を返すと、由利は心配そうな表情から一変してジト目になる。


「あんた、何やったのよ……」

「いや、あの犬の首元に首輪みたいなものがあったので……」


 勇人の言葉に由利は「首輪?」と言って瑠璃に近づき、その胸に抱えられた子犬の首元を注目した。


「首輪……ね、たぶん。それに付いているのは……勾玉?」

「勾玉だったんですか」


 首輪を掴んで確認しながら、由利はポツリとつぶやいた。それに勇人は噛まれた手を振りながら彼女に近づき、同じように首輪に手を伸ばす。


「がぅ!!」

「うぉ!?」


 しかし、子犬は差し出された勇人の手に噛み付こうとする。慌てて手を引っ込めた勇人に向けて、唸り声を上げて睨み付けた。明らかに敵と認識しているようだ。


「……嫌われているわね」

「マジですか……」


 由利の言葉に勇人はため息をつきながら肩を落とす。その間も、子犬は絶えず勇人に向けて唸っている。


 あれだけ愛嬌を振りまいていた子犬が、自分だけは敵意剥き出しで手を伸ばせば噛み付こうとする。その事実が、勇人のメンタルを盛大に抉った。


 そのダメージを代弁するように、勇人は無意識のうちに深いため息をこぼしていた。


追記&修正12/26


各キャラが運営からプレゼントされたもの。


勇人…メイド服 DEF+23、MDEF+15、SPD+30 

        麻痺、毒耐性、料理成功率0.1%UP

        スキル:パンチラ

        (注)脱衣不可


由利…風切のピアス DEF+3、SPD×1.5倍

          スキル:(アーツ)キャンセル


晴子…魔法鉄のガンレット DEF+24、MDEF+12

             スキル:MP吸収


瑠璃…羽根つき帽子 DEF+12、SPD+20

          スキル:空中散歩(エアウォーク)


孝章…タイガーフェイス(籠手) ATK+38、SPD+27

               習得技:ハウリング


真張…白金の胸当て DEF+23、MDEF+29

          スキル:魔法反射(マジックカウンター)


群青…ニードルシールド ATK+3、DEF+28

            スキル:蜂の針(ビーニードル)

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