ゲリラ雷雨
街にポンポンと号砲が鳴る。街中に提灯が飾られ、商店は旗を掲げ、祭りの中心会場となる市民広場には舞台が造られた。会場内には屋台が並び、子供達は浴衣で走り回る。
市民広場の一角で町内すごろく大会の参加者を募っている。並んでいるのは子供が中心だ。これは街の子供達に楽しんでもらう催し物だから。
受付で子供達に参加証の『すごろく地図』を配っている怒鳥に愛が歩みよる。
「愛さん。どうしました?」
「私も参加しようと思って」
「え?」
「年齢制限はないでしょう」
「ありませんけど、ゲームバランスは子供に合わせているので、つまらないと思いますよ」
「それを判断するのは私」
喜多郞が近づいてくる。
「俺も同行しましょう」
「二人で参加してもいいの?」
「チームに人数制限はないんで、いいですよ」
愛と喜多郞は参加証『すごろく地図』を手に入れた。
スタート場所の広場でサイコロを振る。出た目の数だけ、すごろく地図の場所まで進む。
「最初は郵便局」
「すぐそこだね」
郵便局に行くと、既にたくさんの子供がいた。すごろくのマス目に『大切な人に手紙を書いて出しましょう』と書いてある。切手を貼る必要はない。なるほど。手紙を書かせるのが目的か。備え付けのポストカードに愛は家族への想いを書いた。喜多郞もなにか書いたらしい。手紙を局員に渡すと、地図にスタンプを押してくれる。
サイコロを振って次へ進む。
次に行ったのは神社。『神様にお願いをしましょう』二人で柏手を鳴らす。神主に地図へスタンプを押してもらい、サイコロを振る。
次は本屋。『立ち読みして一回休み』
「休み?」
「何分待てばいいんだ?」
本屋のお婆さんが一冊の本をさしだす。
「短編集だ。好きな話を一話読みな」
愛と喜多郞はそれぞれ一話を読む。
次の目は『ふりだしに戻る』
ふりだしに戻ってきた二人を怒鳥は拍手で迎える。
「お帰り」
「あるとは思っていたけど、このタイミングで踏むとは思わなかったよ」
「さっそくサイコロ振る。はやくサイコロ貸して」
「ダメだ」
「なんで?」
「ここで俺と勝負して欲しい」
「なんの?」
「将棋だ」
怒鳥は愛に瞬殺され、コマを進める。
『学校で将来の夢を書く』
用意された半紙と筆で、将来の夢をしたためる。喜多郞は『画家』。愛は『愛を知る人』と書く。
「愛を知る人って、自分の名前のままだな」
「愛にもいろんな愛があるでしょう。家族愛。友愛。恋愛。博愛。慈愛。恋愛。それを知りたい」
書いた半紙と引き換えにスタンプを押してもらい、サイコロを振る。
校庭を横切ったとき、体育館から音楽が聞こえてきた。
「誰か楽器を弾いてる」
「楽のバンドだろう。明日、広場のステージで演奏するから」
「ちょっと覗いてみよう」
「すごろくは?」
「時間制限があるわけじゃないし」
体育館の扉を開けると、楽とメンバーが練習をしている。みな、汗を振り乱して楽器を奏でている。ふと、二人の存在に楽は気がついた。
「いつからそこにいたの?」
「さっき」
「演奏なら明日の本番を聴いてよ」
「いいじゃん」
楽はちらっと喜多郞を見る。汗と演奏で着崩れたシャツが、突然、恥ずかしくなり、顔を紅く染めた。
窓の外が一瞬、パッと光る。遠くから雷鳴が轟いてくる。雷鳴は演奏にかき消されて、愛の耳に届いていない。やがて、窓に雨粒が吹き付け雫となって流れ落ちる。
練習が休憩に入ったので、愛はすごろくを続けることにした。
「楽。おじゃま。本番がんばってね」
「聴きにきてね」
「もちろん。それとドラムの娘」
「ドラムがなに?」
「体調悪いみたいだから、今日の練習は終わりにしたほうが良いと思うよ」
「え?」
「じゃあね」
バンドのメンバーは、ドラムの娘を見た。その時初めて、彼女の不調を知った。
「だいじょうぶ?」
「なんで言わなかったの?」
「だって、明日本番だよ」
「わかった、今日の練習はここまでにしよう」
その時突然、一閃の雷光と雷鳴が轟き、大粒の雨が屋根を叩く音が体育館中に響いた。
「ゲリラ雷雨?」
「まいったな。傘持ってないよ」
「みんな汗かいたから、身体冷やさないようにしながら帰るしたくをしよう」
メンバーは楽の言うとおり片付け始める。ふと、硬く目をつぶってうずくまる愛が目に入った。
喜多郞は愛をみつめる。
「どうした?」
「私、雷苦手で」
「へ~それは驚いた。完全無欠の人生愛に弱点があったなんて」
半分、冗談だと思ったが、身体全体を小刻みに震わせている。
その時また、雷光と雷鳴が轟く。愛はとっさに、喜多郞の腕にしがみついた。ドキッとした喜多郞だが、愛の顔をのぞきこむと、恐怖で引きつっている。
「だいじょうぶ?」
「しばらくこのままでいて」
愛の腕に手を乗せる。
「わかった」
ゲリラ雷雨は小一時間で収まった。遠ざかる雷鳴に暗雲の隙間から、陽が刺してきた。
練習を終えたバンドのメンバーが、硬くよりそっているふたりに近づく。楽が嫉妬の目で見つめる。
「愛。だいじょうぶ?」
「雷は?」
「もうだいぶ遠ざかったよ」
恐る恐る目を開けると、雲間から刺す陽にホッと胸をなでおろす。
その時初めて。自分が喜多郞の腕を強く握りしめ身体をよせている事実に気がついた。顔を真っ赤にしてパッと飛び退く。
「喜多郞、ごめん」
「俺は平気だよ。愛は?」
空を見上げる。
「もうだいじょうぶ」
不快な楽。
「帰ろう。雨も止んだし」
翌日。良い天気だ。楽の演奏を観に、愛、喜多郞、怒鳥の三人がやってきた。控え室を覗くと、暗い顔のメンバーが頭を垂れている。
「どうしたの?」
「バンドの娘が倒れて」
「え?」
意を決して楽は声を出す。
「今日の演奏は中止しよう」
「そうだね」
みんなが暗い顔で立ち上がる。愛は置いてあったドラムのスティックを持ってメンバーを見る。
「私が代打で出るよ」
「愛が?」
「練習もしていないのに」
「練習なら昨日聴いた」
「ドラムの演奏歴は?」
「う~ん、三ヶ月ぐらい?」
ニコッと微笑む。




