ふたつの勝負
市民広場造られた舞台では、朝から街の勇姿による出し物が催されていた。
街の紋章を染めた法被に袖をとおし、大太鼓、小太鼓、鈴や鐘を鳴らして和を踊る。舞台前の前では観客が踊りと音楽を鑑賞している。最後に一同、ポーズをとって踊りが終わる。奏者、演者が大きな声をあげる。
「「「ありがとうございました!」」」
観客から拍手が鳴り響く。
「ただいまの舞台は、街の勇姿による創作和舞踏『釧路の海』でした。次のステージまで15分の休憩になります」
太鼓が片付けられ、ドラムセットが用意される。会場に、喜多郞と怒鳥が入って来る。
「次は楽と愛の演奏か。愛ちゃん、ドラム経験三ヶ月って言ってたけど、ちゃんと演奏できるのか」
「だいじょうぶだろ」
「どうしてそう思う」
「今まであの娘の超人ぶりは何度も見てきた。また俺たちの心を持っていっちゃうよ」
そこに、心がやって来る。
「あれ? テニスの試合があるから練習って言ってなかった?」
「試合前に練習しすぎてへばっていたら意味ないからね。休憩よ」
ステージにメンバーが上がって来る。楽がメインボーカル兼ギターを担当。メンバーが各々、音を出して楽器の調整をする。愛はドラムセットの前に座り、軽く音を出して、セットの場所を調整している。
楽の目に、会場にいる喜多郞が目に入った。喜多郞はきっと、あたしのことより、愛の方を観ているんだろうな。愛のことだから、きっと良い演奏をするだろう。でも、あたしはあたしの演奏をするだけ。少しでも喜多郞に観てもらいたい。
愛がスティックをカンカンと奏でる。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
演奏が始まる。
愛が奏でるドラムは力強く、それでいてリズムを正確に刻む。これが経験三ヶ月? まったく、どんな練習をしたらそんな腕前になるのよ。
楽がギターを弾きながら歌う。オリジアル曲は片思いの歌。あたしが作詞作曲した、喜多郞への想い。届けたい。あなたの心に。
「愛ちゃんのドラムすごいね」
喜多郞は真剣に曲を聴きながら、熱い目線を愛に送っている。
あたしのギターが負けている。愛のドラムに。圧がちがう。背後から襲いかかる力強いドラム。ちらっと振り返って愛を見る。ニコッと微笑んで演奏を続ける。喜多郞の目線は愛を見ている。かなわないのか。悔しいな。でも、演奏は続ける。これがあたしの愛情表現だから。
ゲリラ雷雨の時に湿ったテニスコートはほどよく乾いた。今日は街のテニス大会。世代別テニス大会の高校生部門で出場した心は、順調にトーナメントを勝ち進み、決勝で因縁の先輩と対峙する。
愛、喜多郞、楽、怒鳥の四人が観戦している。
「次はいよいよ先輩ね」
「ちょっといってくる」
愛は心の元に駆けより、二言、三言話して、帰ってくる。
「なに話したの?」
「必勝法」
「なにそれ」
試合は先輩のサーブから始まった。相手のボールにしがみついて、心は必死で打ち返す。お互いに譲らない一進一退の攻防が続く。勝負は拮抗してファイナルセットを迎える。
先輩もあたしも疲れている。サーブもお互いにダルブフォルトの連続。先輩のリターンに追いつくのが精一杯。最終セットはデュースの連続。あとワンポイント。そのワンポイントがとれない。先輩のミスショットが緩く返った。あたしはネットについてボレーで返す。返ったボールはコートの真ん中にポトッと落ちた。
「ゲームセット! 一心選手の勝ち」
「やった!」
「やりやがった」
コートから降りてくる心を四人で出迎える。
汗を拭きながら、疲労困憊の心の目に、含みのある笑顔の愛が映った。
「なに?」
「高校生部門優勝おめでとう」
「ありがとう」
ニヤニヤしている愛。
「さっきからなに? 言いたいことがあるならはっきり言えば?」
「私のアドバイス聞いてくれたんだ」
「まあ…」
「私が買ってあげたテニスシューズのおかげでもあるけどね」
真っ黒に汚れたテニスシューズ。
「まあ。ありがとう」
「デレた」
「うっさい!」
「プッ」
「アハハ」
「「アハハハハ!」」
ふたりは大声で笑いだした。




