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第30話 はじめてのプレゼント

 ある日、美月の家での家庭教師バイトの帰り道。


 御影(みかげ)七海(ななみ)と美香は、美香を中心とし、手をつないで歩いている。


 七海が足をとめ、鞄から論文を取り出し、御影に手渡す。


七海「自習のとき、図書室で調べて、プリントアウトしてきた」


御影「なに?」


七海「(れん)くんの……歌が下手な件について」


御影「……」


 御影は、少しムスッとした。


 ちょうど公園の近くだったので、3人は、公園のベンチに腰掛ける。


七海「違うの。そうじゃなくて」


御影「なに」


七海「蓮くん、歌が下手ってわかって、みんなの好感度が上がった」


御影「そうなの?」


七海「私も、蓮くんに対する親しみが増した」


御影「それ、なんで? 知りたい」


七海「だから、その論文なの。私からのプレゼント。あ、はじめてのプレゼントだね」


 御影は、手渡された論文のアブストラクト(論文の要点まとめ)を、その場で読んだ。美香も、読めるはずのない英語の論文を御影から奪って、「ふんふん」と読めているフリをする。


御影「有能者+小失敗=好感度↑/平均者+小失敗=好感度↓(※1)」


七海「蓮くんは、なんでもできる有能者だと、みんな思ってる」


御影「そんなことないのに」


七海「そういう有能者は、みんなからすると、近寄りがたいんだよ」


御影「……」


七海「私だって、そう感じるとき、あるもん」


御影「俺もまえは、七海に対して、近寄りがたいって感じてた。でも、七海の色々なことを知って、七海の弱いところにも触れて、そう感じなくなった」


七海「でも蓮くん。普段のあなたには、弱いところがみえない。完璧な人。だから、歌が下手っていうのは、あなたにとって、すごく大きな武器になるの」


御影「そう何度も下手って言われると、ちょっと(へこ)むけど……」


七海「こっちの論文(※2)も、アブストラクトだけ読んでみて」


 御影は、新たに手渡された論文のアブストラクトを読む。美香は、自分が持っている方の論文ではなく、新しい方の論文を御影から奪おうとする。


 御影は、アブストラクトを読み終わって、論文を美香に渡す。


御影「社会的に距離が遠い相手に、弱点が伝わると、その相手の好感度が上がる」


七海「正確には、自分の弱点をユーモアにすると、だけどね。蓮くんの場合は、『あいつ、完璧イケメンかと思ったら、歌が下手らしいよ』って伝わって、学校中からの好感度が上がると思う」


御影「なるほど」


七海「(れん)くんを呼び出した先輩も、『おまえ、歌、下手なんだって?』って声をかけてくる」


御影「ありそう……」


七海「そのとき、無視とか威嚇するんじゃなくて、『残念ポイント、バレちゃいましたか(てへぺろ)』みたいに笑って切り返すと、先輩も、きっと敵じゃなくなる。そんな簡単にはいかないかもだけど」


御影「七海のことが、少しこわくなってきたよ……」


 七海が、3本目の論文(※3)を御影に手渡す。また、美香がそちらの論文に手を伸ばす。


 美香と格闘しながら、なんとか、御影は、3本目のアブストラクトを読み終えた。


御影「弱点にも、限度がある。問題になるような弱点とか失敗では、好感度は下がる。それと、わざとらしく弱点を演出するのもダメ」


七海「そう。だから、『歌が下手』くらいの弱点がちょうどいいの。しかも(れん)くんの場合、わざとじゃなくて……」


御影「ほんとうに、下手だから……」(しゅんとする御影)


七海「ごめん……」


美香「ねえ、帰ろうよー。美香、お腹すいたー」


七海「そうだね、帰ろう」


御影「論文、ありがとう。家で、アブストラクトだけじゃなくて、全文読んで、感想を伝える」


七海「感想とか、いいよ。その時間を、生物のこと考える時間にして。ガン治療の研究、頑張ってほしい。私のためにも、その方が嬉しい」


 また歩き出す三人。


 夕暮れ時の住宅街には、幸せな家族の気配が漂う。


 ほんとうは、みんな苦労してて、それぞれの困難があるのだろう。


 ただ、みんなが幸せであって欲しいと感じる。


七海「誰の人生にも、応援してくれる人が必要だと思う。誰からも好かれるのは、きっと無理。だけど、なにかを成し遂げたいなら、人に好かれる努力はすべきだと思う」


御影「そうだね。ありがとう、七海」

第30話です。ここまでお読みいただいた方であれば、きっと、最後まで読んでいただけるのでしょう。本当に、ありがとうございます。


少しでも、読めるところがあったなら、是非とも☆評価をお願いしたいです。執筆の励みになると同時に、明日もまた頑張っていこうという気持ちになります。


さて。


今回は「有能者+小失敗=好感度↑/平均者+小失敗=好感度↓」について、簡単に触れただけの回になります。七海と御影の日常みたいなイメージですが、本当は、もっと、イチャイチャしてます。そこら辺は、もっと終盤で、描きます。


引き続き、よろしくお願い致します。


参考文献;

1. Aronson, E., Willerman, B., & Floyd, J. (1966). The effect of a pratfall on increasing interpersonal attractiveness. Psychonomic Science, 4(6), 227–228.

2. Cao, Y., Li, H., Jiang, T., Dang, J., & Hou, Y. (2025). Laughing off cyber spoofing: the role of self-deprecating humor in enhancing celebrities’ interpersonal likeability. BMC Psychology, 13, 501.

3. Helmreich, R. L., Aronson, E., & LeFan, J. (1970). To err is humanizing—sometimes: Effects of self-esteem, competence, and a pratfall on interpersonal attraction. Journal of Personality and Social Psychology, 16(2), 259–264.

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