第40話 崩壊(6)
そんな張り詰めた空気感の中、ガーリングの低く柔らかい声が会議室に響く。
「なら、魔族の犯罪の都度それを警戒しろと?そしてもしこれを見逃したことがバレれば人類は魔族に舐められてしまう」
アイクが静かに応じる。
「もちろん、罰は必要だ、だが必要最小限であるべきだ。こっちのためにもあっちのためにもな」
ヴィアラがアイクへと視線を向ける。意図を図りかねるような眼差しだったがすぐに問いかける。
「なら、どのような処罰が妥当だと?」
ザンブルクは見え見えのアイクの誘導に乗ったヴィアラにため息を吐く。
だがここでそれを聞かないのも不自然だったのもあ確かだ。
ヴィアラもそれに気づいたのはいいが、発言を撤回することはできない。
「なのでここで一つ提案を。この調査委員会をモデルとした、検討会の設立を提案します。議題は、魔族へのどのような処罰が適当か」
数秒の沈黙。
ガーリングは少しの時間で、あらゆる可能性を考え、腕を組む。
「・・・まあいい。つまりマイクがここでの議論をより詳しくより実現性の高い方へと導く委員会。そこでの結果なら民衆も評議会も納得するだろう」
その言葉に反応したのは隣に座っていたルーカスだった。
彼の顔には大量の疑問符が浮かべられている。
ヴィアラはすぐに反応した
アイクの意図を読み、先手を打つ。
「新しく発足する必要があるとは思えません。この調査委員会で可能だと思えますが」
だがアイクがザンブルクと目を合わせた後に彼が発言した言葉で決着はついた。
「・・この委員会の目的はすでに達成された。用が済んだものは処理しないとコストの無駄でしかない」
身内の裏切りと、自分が予想だにしていない方向に進行し始めたことに困惑し、ヴィアラは立ち上がって怒鳴る。
「なぜ?! こんなの、ありえない。アイクが来た途端全員が態度を変えるなんて・・・」
室内が沈黙に包まれる。誰も反論も同調もせず、ただ彼の言葉を受け止めるだけだった。
その静寂を破ったのは、ガーリングだった。
「ヴィアラ」
低く、そして静かに。
「アイクではなくーーーマイクだ」
その一言で、ヴィアラは言葉を失った。
自分が、会議の空気を、そして戦況を見誤っていたことをようやく悟った。
崩れるようにその場に座り込むヴィアラ。その姿を見つめながら、ザンブルクが静かに進行を引き継ぐ。
「その委員会は我ら聖邦連合による正式なものだと思ってもらっていい。人選と予算の兼ね合いはこちらがつけよう」
「それでいい」
それを聞き、反論が挙がらないことを確認したアイクは一言だけ言ってその場を後にした。
それを見守ることしかできなかった者たちはマイク・ジェームズと書かれたネームプレートが置かれた席を見つめていた。
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