第39話 獣人の乱入(6)
「遅かったな」
魔法協会の誰でもなく、軍部のガーリングがそう言った。
まるでマイクではなく、アイクが来ることを見越していたかのように。
「クソが長引いた」
アイクは悪びれもせず、そんな騙す気が一切ない嘘を言い訳にする。
ガーリングは聞き流しながらも少し笑っていた。
「アイクのこともお前が許可したのか?」
ヴァアラが隣にいるザンブルクへと問う。
「流石に俺でもそこまではしない」
だが彼でさえもこれ以上ない悪評のあるアイクをここに呼ぶことはしないと否定する。
「だがら、俺は獣人のマイクだと言ってるだろ、ほら耳も尻尾もある。触っていいぞ」
そう言いながらアイクは見るからに急造であろうことがわかる獣人装備を指差して見せた。
「議長!」
たまらず軍のルーカスがアイクを見ながらそう叫ぶ。
「獣人差別はやめろ、俺も仲間に入れてくれよ」
おどけたようにルーカスを煽る。
挑発と受け取ったルーカスは、アイクへと突っかかりに行く瞬間―――ルーカスをガーリングが手で静止する。
それだけで怒り心頭だったルーカスは糸が切れたようにように黙り込んだ。
会議室に奇妙な静寂が訪れる。
「・・・つまり、俺の出席を認めるってことでいいのか?」
そんなアイクの言葉にヴィアラが冷え切った声で言う。
「認められると?あなたは獣人ではないし、.マイクでもない。それで通ると思っているのですか?」
「だが誰も反証できない。俺が誰よりもマイクであることは知っているからな」
そこでワシントンが助け舟を出す。
「そもそもここに入ってきている時点で、本人確認は済んでいるはずだ。今更ここでやる必要もないだろう」
少しずつ不機嫌になってきたヴィアラが続ける。
「ならいつもあなたが見ているマイクはこの方だと?」
ワシントンはおぼつかない口を動かし答える。
「そ、そうだ」
ヴィアラはマイクのことを一度実物で見ている。
つまり、どこからどう見たって以前見たマイクと今ここにいるマイクが一致しないことはわかるだろう。
だがたとえ身分証などを提示させたところで本物のマイクの証明書が出てくるだけだ。
「・・・もういいだろ。先に進めろ」
ヴィアラと同じぐらい複雑な顔をしたザンブルクは会議を進めさせる。
アイクにかける時間は無駄と判断し、切り捨てた。
「・・・では裁定を下します」
ヴィアラが改まって判断を下そうとするが、もちろんそれはマイク(アイク)が止める。
「おっと、最低を確定させる前に一つ、私は先程この事件においての重大な証拠を掴みました」
魔族侵攻派の全員が忌々しそうな顔をする。
だが調査委員会という手前、アイクの意見を無視することはできない。
「・・・なんでしょうか」
「ズバリ、真犯人です」
スキャンダルに目のないジェシーがすぐに口を開く。
「真犯人?」
アイクは素直に頷く。
ジェシーはこの場では中立であるものの、センセーショナルな話題に弱く、記事になる方へ平然と肩入れする。
「この一連の事件の首謀者―――それは現将軍職におられるルミナスさまのご子息、クロック殿だったのです」
ジェシーはすぐに胸ポケットから手帳を取り出し、ペンを走らせる。
少しの思案の後、ガーリングが口を開く。
「それは確かな証拠があってのことなのでしょうね、推測でそんなことをおっしゃるのはクロック殿、果てはルミナス卿への侮辱に当たりますよ」
アイクはその程度では動じない。
「もちろん。その証拠もしっかりとここに」
演技がかった風にアイクが喋りながら、手に持った護衛隊による正式な礼状を見せる。
ガーリングが上から順番に文字を走り読みしていく。
アイクの態度にイライラしていたメリーヌがつい口を出す。
「なら動機はなんだ。魔族を使って人を襲わせ、彼は何がしたかったのだ」
大量の文字を一瞬で読み終えたガーリングが彼の言葉に呆れた顔をする。
撒かれた餌に引っかかった愚者を見つめアイクが話し続ける。
「こうなることがですよ。クロックは魔族を利用し、この場所をセットさせ、彼らを滅ぼすように仕組んだ。俺たちに魔族侵攻を決定させることすらも作戦の内だったということです」
ジェシーの手が止まることなく、アイクの言葉を書き綴る。
「それこそなぜなんだ。そこまで彼が魔族を恨んでいたように思えないが・・・」
メリーヌが続けるが、ガーリングがこれ以上思い通りにさせないために黙らせる。
彼に睨まれたメリーヌは口を縫い付けられたかのように喋らなくなった。
「・・・そのようにクロックを魔族が利用した可能性もあるのでは?」
ガーリングが魔族侵攻派を代表してアイクと相対する。
「もちろんある、だがらこそそれが罠だと言うんだ」
アイクとガーリングの視線がバチバチと火花を散らす。
それを静観していたライが横槍を入れる。
「では、仮にクロック殿の犯行とするなら彼が所属していた魔法協会の全体としての行動だと受け取ってよろしいのでしょうか?」
ライは話をクロック個人から魔法協会へ責任の所在を拡大する。
「もしそうだったとしたらもう魔族侵攻は決定済みのはずだだが?」
だが、アイクがそう言って一蹴する。
反論しようにもできずライが黙り込む。
「ならアイク、お前は何が言いたいんだ」
聖邦連合のザンブルクが苛立たしげに問いかける。
「性格が悪いな、俺はマイクだって言ってるだろ。・・・言いたいのはまだ根は深いということだ」
「軍との関係が強く、魔法協会に所属し、それなりの実力者であるクロックが魔族連中に利用されたのだとしたら、それは相応の相手だということになる」
全員がアイクの言葉を聞き続ける。
「そんな相手が俺たちに侵攻されるように誘導しているとしたら、奴らは人類に勝てるという確信、もしくはそれの規模の罠を用意しているだろう」
誰も何も言うことができない。
「それを考慮せず、頭を空っぽにして魔族圏へと侵攻し、敗走でもして帰ってきてみろ」
会議室に、緊張が極限まで張り詰める。
「その責任は侵攻を決定したこの調査委員会が問われることになる、その責任を取れる奴はこの中にいるか?」
それを最後に会議室が静寂に包まれた。
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