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第38話 遅れてくる切り札(5)



「そんな話は伺っておりませんが」


予定にないことが起こり、ヴィアラの声が少し揺れる。


「申し訳ありません、魔族の行く末を決める委員会なので魔族側の意見がないと公平ではないと思いまして」


ワシントンが静かに助け舟を出す。

伏された手札が場に出た以上有効利用しないといけない。


「参考人の出席要請は伺っておりませんが」


少しずつ落ち着きを取り戻したヴィアラが反論する。


「俺が受けた」


隣に座る同じ聖邦連合のザンブルクの一言がヴィアラを混乱させた。


「・・なぜ俺に黙っていた?」


「現場の判断を重視したんだ。彼女へ椅子を」


ザンブルクは速記者に目配せをし、椅子を持って来させフランの出席を正式に認めた。


「現在、世間で話題となっている魔族による火災事件疑惑。それに少し遅れて発足した魔人共栄連盟は、今までにない魔族との平等な共存を目指した組織です」


フランが堂々と真っ直ぐに、自分の組織について説明する。


「馬鹿らしい、誰が望んでいるんだ」


メリーヌがすかさず切り捨てる。


「少なくともここに一人」


フランはそんな毒を受け流し、説明を続ける。


「魔族との共同繁栄はこれからの人類の未来にとって必要不可欠だと確信しています。魔族には魔族の、人類には人類の長所と短所がありそれを補い、研究し、共に発展していくべきなのです」


フランの乱入から未だ落ち着かない空気の間に決着をつける。

だが思わぬ人物が口を挟む。


「では問います。なぜ人類の発展に魔族が必須なのですか?我々には彼らの存在なくともここまで進歩してきた。それを考慮した上で、彼らと並んでいた歩いた方がいいと?」


それは唯一の中立国であるジェシーだった。


「もちろん、現在の文明は人類の努力の賜物です。しかし、戦後期の魔族への恐怖があったからこそ、防衛や魔法の研究が進み、今の生活基盤が築かれたのも事実。魔族の生態や魔力に学び、模倣し、進化してきた部分は否定できません」


だがその言葉に別の火種が燃える。


「だからと言って、そのため彼らを放し飼いにするには危険すぎる存在だと思いますが?」


監査院のライが冷たく言い放つ。


「放し飼いとは不適切です。魔族は人類と同様、尊厳のある存在。家畜ではありません」


場が一気に静まる。


「人類が以前の大戦に勝てたのは偶然。逆に魔族が人類を支配している可能性は依然としてありました。彼らの統治はここまで酷いものじゃないでしょうけどね」


フランが急いで畳み掛ける。

だが、そう簡単にはいかない。


「だからこそ危うい。万が一にでも魔族がかつてのような力を持ってしまったらそれこそ人類は滅びてしまう」


メリーヌがフランと目すら合わせずに言い捨てる。


「なぜそこまでして敵対しようとするの?そしてそれが報復ねあるならーー仕方のないことでは?」


フランの言葉が会議室に深い静寂をもたらした。

そしてフランがそこに少しの希望を見出そうとした時、柔らかだが棘のようにも感じる声が響く。


「お前、人じゃないな。・・・エルフか?」


それはルーカスの隣にいた聖統護国連隊のガーリングだった。彼は笑いながらフランに問いかける。


「ご名答、半分ね」


そこでフランは自分の出自がハーフエルフであることを開示する。


「あなたの考えは理解できる。だがこんな事件が起こった今魔族に何の報復もなしというわけにはいかない」


それを聞いた上でガーリングが続ける。


「なぜ?私たちが譲ればあちらも譲歩することを覚えるはずよ」


「それでは民衆が納得しない。君が全ての民衆を扇動し、みんなで我慢しましょうと言い、そうですねとなるのなら問題はない。だが今回はそうはならない」


ガーリングの参戦によって場が落ち着き出す。

フランは焦り、ヴィアラはそれに乗じる。


「それでは条約問題は何も解決しません。かつての大戦後、魔族は人類への攻撃を二度としないことを誓ったのですから」


「いい話だったが、理想だけで現状はついてこない」




ガーリングが場を収束へと導こうとする。

こうなってはもうフランの理想で殴ると言う手段は選べないだろう。


「なら、この理想を世界に落とし込むだけよ」


だがフランはそこで諦めたりはしない。

たとえ絶望的だとしても、自分の中で踏ん切りがつくまで挑戦し続ける。

そうやって彼女は生きてきたのだから。



「もし魔族と敵対した場合、エルフは魔族側に付くということを断言するわ」


静かな声が空気を裂く。


「なぜわかる?」


ガーリングが口を開く


「・・・私がエルフだから」


「はったりだな。君らは種族意識が薄い。個体値が一人一人高く、寿命も長い。だから共同で行動することが珍しい。そんなエルフが歴史上、協調することができたのは大戦時のただの一度だけ。それも複数の偶然が重なって起きた奇跡のようなもの。今も国として成立しているのが不思議なぐらいだ」

 


フランは諦めない。


自分の中で納得するまで。


「なら実行犯だけを民衆に引き渡すのは?」


「無駄だな、それで収まる限界はすでに過ぎた。そしてもしこれが組織的犯行ならそれをわざわざ見逃すことになる」



フランは諦めない。


例え、無理筋であったとしても。


「ならいっそのこと人による犯行だとして・・」


「本末転倒だ、それでは何も解決していない」


フランは諦めない。


それが・・・


「もう諦めろ。君が今できることは戦争に備えるように同族に口添えすることだけだ」



フランはーーー


   




「失礼」

 


ワシントンは既視感を感じた。

しかしそれはワシントンだけではなく、他のメンバーもだった。


先程と同じように空気が変わるのを耳で聞いたからだ。


全員が声の主がいるドアの方へと顔を向ける。


「相変わらず弱いものいじめが好きか、ガーリング」


その姿を見て、それぞれが感じたものが交錯する。

畏怖に、敬意、安堵、あるいは危機感。


だが、その当人はおそらく何も感じていない。

自分以外の他人がどう思おうと気にすることはないし、起きている出来事もほとんど予想内だったからだ。



「申し遅れました。私は世界最高の魔法先駆者であるアイク先生の元で、光栄にも部下をさせていただいているマイク・ジェームズという獣人です。以後お見知りおきを」


そう言ってドアの前に立っていたのは、自前の耳と尻尾をつけた魔法協会の第二の切り札であるアイクだった。



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