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わたくしの婚約者は他人の婚約者に横恋慕


 わたくしにはレオ・ギルベルトという親が決めた婚約者がいる。


 ギルベルド伯爵家の嫡男ちゃくなんである彼は、若干子供っぽい性格をしている。


 なにかとすぐ感情が顔に出るところは将来爵位を継いだ後が心配になる。


 だがそんな子供っぽい素直な性格と黒髪、だいだい目のぱっと見クールな外見のギャップにやられる女生徒が多いようで、主に先輩方に大変人気だ。


 そんな彼とは同じ学園に通うものの、交流は一切なし。


 別にまわりの嫉妬しっとが怖いとかそんな理由ではない。



……


「アンナ嬢、またレオ・ギルベルトが僕の婚約者に話しかけてくるんだけど」


 放課後、王立学園の中庭にて、光を透過するような金髪にみどりの瞳を持つ青年が、傍目はためにはにこやかな雰囲気を出しながら、親切にも(嫌味)わたくしに忠告してくる。


 彼は学園で天使のようだと騒がれる美青年だ。


 わたくしも傍観者として彼に熱をあげていたころは彼を天使のようだと思っていたが、彼の婚約者に対する狂気をはらむ執着からうかがえる彼の本性を知ってしまってからはもうそんな風には見えない。


 そして、なんとまあ、わたくしの婚約者は彼の婚約者に横恋慕よこれんぼしているのだ。


 お邪魔虫というやつである。


(顔が引きつりそう)


 目の前の彼は天使のような微笑ほほえみを浮かべるも目の奥は笑っておらず、口元はひくついている。


 苛立いらだちを隠しきれていないのだろう。


「まあ、それはご迷惑をお掛けして申し訳ございません」


 わたくしの心を込めた謝罪は、ルカ・ハニエルの黒い笑顔によって一刀両断された。


「謝ってすべてが丸く収まらないから、世界のどこかで今日も紛争が起きているんだよ」


 ああ、悪魔のようだ。

 金髪、碧目の悪魔。


 その悪魔の隣、彼の半歩後ろには、茶髪、黒目の爽やかなイケメンが立っている。


 目の前の華やかな顔立ちの彼のそばでは印象が薄いもののこちらもなかなかのイケメンだ。


 しかもわたくし好みの塩顔である。切れ長の瞳は困ったように細められている。


「ルカ、アンナ嬢に八つ当たりしても仕方ないでしょう。大人げないことを」


 しかも声もいい。穏やかで染み渡るようだ。


「ジョー、君には分からないだろうね。僕にとっては一大事なのだよ」


 ジョーと呼ばれたこちらの青年は、ジョー・マーカス。


 マーカス伯爵家の次男坊で、ルカ・ハニエルの友人であり常識人だ。


 ルカ・ハニエルがわたくしに嫌味を言いに来るときにはいつもかばってくれる。


 「……もう時間もないですよ。早く移動しないといけないのでは」


  ジョーが腕時計をルカに見せて自然な様子で話の流れをかえる。


 「ああ、あと十分後にはメアリが渡り廊下を通るはずだから行かないと」


 さすがのルカ・ハニエル。さらりと気持ちの悪いことを言ってのける。


 誰にもできないことをやってのける、そこにしびれる。もちろん悪い意味で。


 きびすを返してルカ・ハニエルは駆けて行ったが、ジョー・マーカスは彼には珍しくルカについていかなかった。


 わたくしのことをじっと見つめては申し訳なさそうに淡くほほ笑んでいる。


 「ついていかれなくてもよろしいのですか?」


 心配になって思わず声を掛ける。


 ルカ・ハニエルのことだからまた婚約者のところでもひと騒ぎ起こしに行くのだろう。


 それに巻き込まれる友人の彼も苦労人だ。同情する。


 「ええ、まあ。すぐに追いつきますよ」


 (すぐ追いつくって……もう後ろ姿も小さくなっているのに?)


 渡り廊下というと、中庭からだと校舎に入ってさらに階段を登らなくてはいけない。


 けっこう距離がある。


 あと十分ならば今から急いでいかないと間に合わないだろう。


 なかなかその場を動かないジョーに他人事ながらはらはらする。


 アンナがやきもきしていると、ジョーはすっと頭を深くれた。


 謝罪の姿だ。


「アンナ嬢には、苦労をかけてしまっていつも申し訳ないと思っています。私にも責任がある」


 まあ、なんということでしょう。彼にも責任があるだなんて。


 わたくし全然そんなこと思っていないのに。


 友人の奇行の対応にここまで誠意をもってあたっているなんて……。


 その爪のあか、少しでもあのルカ・ハニエルにお与えください。


 「アンナ嬢に幸せが訪れるよう、私も微力ながら応援させてください」


 その言葉だけで十分ですわ。


 「では、私ももう行かなくては」


 ジョーは名残惜しそうに言った。


 やはり友人を止めにいくのですね。


 (でももう姿も見えなくなってしまったルカ・ハニエルには、追いつけそうにもないのですが……)


 わたくしが心配していることなんてお見通しなのだろう。


 彼はマリーゴールドの花壇かだんの上を差して茶目っ気のにじむ声でこう言った。


 「実はすぐそこの渡り廊下なのですよ」


 (ええ、間に合わないじゃない)


 中庭からの直線距離では目と鼻の先に位置しているが、彼がこれからそこに向かうには遠くの玄関口から入ってぐるりと遠回りしないとたどり着けない。

 

 「ふふっ」


 わたくしの反応がよほど嬉しかったのが、彼はえきれなかったとばかりに笑みをもらす。そんな唐突に笑顔をみせられたら心臓に悪いのでやめていただきたい。


 急に、彼はふと思いついたかのようにポケットを探り、あめをひとつ投げて寄こした。


 ゆるやかな放物線を描きわたくしのほうにとんでくる。柑橘系の飴だ。


 わたくしが落とさないようにと思ってあわててキャッチすると、なげてよこした張本人は一瞬目を離した隙に忽然こつぜんと消えている。


(え……?)


 慌てて周りを見渡すと、ジョーは二階の渡り廊下の中からこちらに手を振っていた。目を凝らし、よくよく見るとなんとルカ・ハニエルに追いついているではないか……!


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