第84話 戦いの後、聖女認定されました。
戦いには勝利しましたが、犠牲が多すぎました。
(1月30日です。)
アメリカ合衆国のニューヨークは、日本と13時間の誤差がある。今は、現地時間の午後8時位だ。
戦闘が終わり、魔物の脅威が確実に無くなったことを確認してから、地上に降り立った。目の前の小山の洞窟の入り口は、土魔法で塞ぎ、分厚い岩盤で蓋をしておいた。
公園を西側に出ると、そこにはたくさんのテントと軍用車両が止まっていた。私は、まだ銀仮面の姿のままだ。
空から次々と軍用ヘリが飛来して来ている。空色の機体に白頭鷲のイラストの書いてある1機のヘリから、太ったおじさんが出てきた。このおじさん、見たことがある。テレビにしょっちゅう写っているおじさんだ。
着ている迷彩の軍服がキツそうだった。
女性の軍人さんが、私達を案内してくれた。私達を見て、周囲の兵隊さん達が、
『SILVER MASK』
『HAKU』
と、しきりに囁いている。銀仮面はわかるけど、『HAKU』じゃあないんですけど。でもそう言われてみれば、髪の色以外は、あのアニメの男の子にそっくりだった。
日本人のような顔立ちの軍人さんが通訳をすると言っていたが、断ることにした。アオちゃんも『念話』で話ができるのでいらないらしい。
案内されたのは、大きなテントの中に設けられた壇上だった。アメリカ国旗と日本の日の丸が飾られていた。
これから叙勲式を行うそうだ。え?聞いてないんですけど。
貰える勲章は『名誉勲章』で、軍人以外に授与されるのは私が初めてみたい。あのおじさんが、勲章を私にくれる時、ハグしようとしたので、『瞬動』で逃げてしまった。アオちゃんにもくれたんだけど、感謝状の宛名が『HAKU』となっていたのには笑えた。アオちゃんは、何も気にしていないので、文句は言わなかった。
受賞後のスピーチがあったけど、マスクをかぶっていたし、英語だったので大して恥ずかしく無かった。
「叙勲、ありがとうございます。私は、このような立派な勲章をもらうようなことは何もしていません。それよりも魔物により尊い命を犠牲にした人、そのご遺族の無念を思うと喜んでばかりもいられません。」
そういえば、怪我人はどうしたんだろう。魔障による怪我は、呪われた傷となり、一生苦しむことが多いと言う。うん、聞いてみよう。
「ところで、魔物にやられて怪我をされた方々はどうされたのでしょう。きっと苦しんでいると思うのですが。」
赤い十字の腕章をした軍人さんが、前に出て説明してくれた。
「魔物にやられて、負傷したものは、一般人659名、軍人1438名です。でも、治療方法が見つからず、教会に手伝って貰っています。」
それって、治療を諦めているってこと?この国は、キリスト教の国、最後の懺悔をするために、教会の牧師さんに来て貰っているのかしら。
「私達を、そこに案内してください。」
早々に叙勲指揮を終え、私達が向かった大きなテントの中は、さながら野戦病院だった。重傷者は、もう長くはない事が明らかなほど衰弱していた。また、軽傷者も安心はできない。魔障による怪我は、壊死を招き、あっという間に命を落としかねない。
私は、軽傷者はアオちゃんにお願いして、重傷者を見て回ったが、もう壊死が広がっていて敗血症を起こしている負傷者には、何もしてあげられないような気がした。
それでも、まず、傷口の魔障を聖なる力で取り除いてあげる。続いて、身体中の毒素を治癒の力を使って取り除いてあげた。しかし、私の出来ることはここまでだった。腐ってしまった組織を元に戻すことはできない。
あれ、腐ってなければ大丈夫なのかな?私は、軍医にお願いして、壊死した組織の除去をお願いした。結構大掛かりな手術だったが、大部分の壊死部分を取り除かれた。
私は、『復元』の力で、取り除かれた筋肉組織や皮膚、血管それに神経細胞を元の形に戻してあげた。かなり時間がかかったが、全て終わった。さっきまで、瀕死の重傷だった患者さんは、静かに眠っている。それからは、流れ作業のようだった。アオちゃんが、聖なる力で、魔障を取り除く。医師達が、壊死した部分を取り除く。骨が見えるくらい取り除いた部分もあったが大丈夫だ。
周囲には、牧師やシスターが膝まづいて祈っている。イエス・キリストの再臨のような光景だったのだろうか。アオちゃんの聖なる青い光、私の治癒と復元の白い光。見る見る塞がって行く傷口。神の力以外の何ものでもないだろう。
腕を切断されている女の子がいた。傷口には、噛み切られた跡がある。きっと食べられてしまったのだろう。
私は、女の子の太腿に手を当てて、無くなった右腕をイメージした。力を流し込む。太腿の一部が盛り上がってきて、腕の形になってくる。見た目は少しエグいが、構うもんか。この力は、初めて使う力だった。父様が良く使っていた『錬成』という力かも知れない。
完成した右腕を切り取り、右肩に当てる。『復元』と『治癒』の力を流し込む。血流が復活し、筋肉が腱で繋がれ、皮膚の継ぎ目が消えて行く。最後に、太腿の傷を治して終わりだった。
400人以上の治療をしたころ、流石に疲れてきた。お腹も減ってきた。もう何時だろう。アオちゃんが、異次元クロークからおにぎりを出してきた。単なる『塩むすび』だったが、炊き立てのままの温かさだったので、とても美味しい。
銀仮面を少しだけ浮かせて食べていた。ずっとテレビカメラがその様子を撮影していた。日本と違って、報道規制は緩やかなようだ。
レポーターが、『HAKUのおにぎり』と騒いでいたが、否定するのも疲れるので、放っておいた。まだまだ負傷者はいっぱいだ。結局、重傷者だけを治療するのに、明け方までかかってしまった。最後の男性兵士の欠落した眼球を復元して視力を戻したのが最後だった。
脳に深いダメージを負ってしまって助けられなかった人達も大勢いた。ごめんなさい。力が足りなくて。元の世界の父様や、フランおば様なら助けられたかも知れない。そう思うと涙が止まらなかった。でも最後の仕事がある。全てのテントの中に『治癒』の力を流し込むことにした。
『お願い、みんな元気になって。』
この言葉は、居合わせた者、全員に伝わっていく。皆、両手を組み天を仰いで祈り始めた。アオちゃんが光り始める。皆の祈る気持ちを受け、龍神の力がフルチャージされているようだ。
アオちゃん、テントの外に飛び出し、ニューヨークの上空を、光を撒き散らしながら飛び回った。セントラルパークから外に出て、潜り込んでいるかも知れない魔物達に『聖なる力』を降り注いでやっている。なんて親切なんだろう。
ニューヨーク・マンハッタンの人々は、摩天楼の間を飛び交う不思議な少年を目撃し、皆、祈りを捧げたのだった。
もう、良いだろう。日本に帰ることにする。セントラルパークの上空に飛翔する。途中までドローンが追いかけてきたが、追いつけない高さまで上昇した。西に向かって飛行を始める。朝日を浴びてニューヨークの街は光り輝いている。ついでに自由の女神の周りを1周してから、最大速度で西を目指す。風が冷たいが、シールドが防いでくれている。50キロ位飛翔したところで、日本の自分の部屋につながっているゲートに飛び込んでいった。
日本に帰ってみると、もう夜の9時だった。2階に降りていくと、ちょうどニュースでニューヨークの事件について報じられていた。
空を飛び回るアオちゃんの姿が、色々な角度で撮影されていた。解説の人が、『この服装は昔の『水干』という着物で、何故それを着ているのか分からない。』と言っていた。
銀仮面については、魔物の攻撃よりも、負傷者の治療について説明していた。ローマ法王庁は、銀仮面を『聖人』認定したそうだ。
以前、調査団が日本に来たが、証拠が見つけられずに、そのままになっていたのだ。しかし、今回は大勢のキリスト教の聖職者や信者の目撃と映像がある。そこで『聖人』認定なのだろうが、キリスト教徒でもない私でもなれるのか、よく分からなかった。
シズちゃんやサヤちゃん達からラインが入っていた。
『あの男の子、誰?』
今度の日曜日、我が家に全員が集合することになった。彼女達、絶対に興味本位だけだから。
今回の事件で幾つかの新事実が明らかになった。魔物の大発生の前に、おかしな傷害事件や行方不明事件が、特定の地域で増加していることだった。
夜、歩いていると突然、怪我をする事が頻発したそうだ。おそらく闇に紛れてゴブリンどもが暗躍したのだろう。行方不明は、可哀想だが、餌として狩られてしまったのかも知れない。
後、国連が今回の事件を受けて、緊急魔物防衛隊を編成するそうだ。各国が専門部隊を編成して、今回のような状態の時に支援しようというのだ。特別隊員に『銀仮面』と『HAKU』を指定したとあったが、本人達の同意はいらないんですか?それに『HAKU』じゃあないし。
もっと驚いた事があった。アメリカ合衆国から、今回の活動に関して、1000万ドルの報償金が日本政府を通じて銀仮面とアオちゃんに授与されるそうだ。それだけではなく、銀仮面達の活動を支援するための基金が創設され、寄付が1億ドル以上集まっているそうだ。
あのう、支援って何をする気ですか?
それに銀仮面をアメリカ合衆国の名誉国民にして、ワシントンで暮らして貰おうと言う運動も起きているらしい。絶対に無理ですから。
あと、自分が銀仮面だという人がテレビ局に殺到しているらしい。中には、2m近い大男で、毛むくじゃらの足にミニスカセーラー服を着た、絶対に間違えているおじさんもいたらしい。
父様にお願いして、報償金は全額、今回犠牲になった人たちの支援に当てていただくよう政府からアメリカ合衆国に申し伝えてもらった。
後、基金のことは良く分からないが、魔物の研究に使って貰うようにお願いした。現在のところ、魔物の実態について全く分かっていない状況であった。
この日のピアノの練習はパスして、夕食後お風呂に入って、すぐに眠ることにした。
次の日、今日は、学校をお休みさせて貰った。自分では、大丈夫のつもりだったが、かなり疲れていて、ベッドから起き上がれなかったのだ。
お昼前に、内閣危機管理室長が、我が家を訪ねてきた。用件は、今回、国連の防衛組織が結成されるが、その結成式に参列して貰いたいと言う事と、日本の派遣部隊に訓練して貰いたいとの事だった。
訓練は良いけど、式典は嫌だなと思ったが、父様の私を見る目に、お願いの気持ちがありありだったので、受けることにした。
お話は終わったはずなのに、なかなか帰ろうとしない。どうしたのかと思ったら、アオちゃんに会いたいそうだ。
3階の私の部屋にいるアオちゃんに『念話』で連絡してあげた。アオちゃん、直ぐに了解して、あの男の子の姿で2階に降りて来た。
室長は、自己紹介をして、アオちゃんの名前を聞いた。アオちゃんの目が怪しく光ってから、
「僕の名前は、『那岐井草新湖西宮不二見碧命』と言います。実態は、井草川と新西湖を統べる龍神です。」
と言った。目が光ったのは、名前を伝えても、触りの無いようにしたらしい。室長は、目が点になってしまった。龍神が実在するなど信じられないらしい。でも、現実に目の前にいる男の子の実力は、昨日のニュース映像で知っているので、疑う訳にもいかない。
「あのう、昨日のニュースでは『HAKU』と呼ばれていたようですが。」
「うん、誰かと間違えているみたい。僕は『AO』って呼ばれているんだよ。」
アオちゃん、そこだけ英語の発音だけど、間際らしいからやめなさい。
あの有名なアニメ映画が、再上映されるそうだ。ブルーレイディスクも売り切れになってしまったらしい。それって、絶対、転売目的だから。
地球防衛軍みたいなものを創設していく予定ですが、活躍はほぼできないでしょう。




