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第80話 ワイちゃんは、ドラゴンです。

今回は、マリアちゃんの同居人達のお話です。

(1月17日だ。)

  ワイちゃんは、マリアちゃんの部屋のタンスの上に置かれたふかふかのマットの上で昼寝をしていた。どれくらいここにいるだろう。もう、狩りなどしなくても良い。1週間に1度、豚か鳥の肉をくれる。


  たまに、鳥の骨もくれるが、これは破片が硬くてあまり食べたくない。できれば豚の骨が良い。それなら二つに折って、中の骨髄をしゃぶってから、骨をガリガリ齧って食べれるから、いつまでも楽しめる。


  前の小さな家には、ネズミもいたので、たまには狩りをと、運動をしたのだが、新しい家に引っ越してからは、ゴキブリ1匹さえいやしない。だから、とても暇だ。


  下では、クロとコンがじゃれている。というか、圧倒的にクロが強いようだ。まあ、もともとは、狐やタヌキ、トムソンガゼルなどを狩っていたジャッカルと、ネズミやウサギ位しか狩ることができない狐では、最初から勝負になる訳がない。


  上から覗いていると、また、クロがコンを下敷きに押さえつけている。かわいそうに、コンが泣いているじゃあないか。どれ、少し、助けてやるとするか。


  ワイちゃん、おもむろに羽を広げると、タンスの上から下に滑空を始めた。狐は、本能的に上空から飛来する者を認めると、一目散に逃げ出す習性がある。だが、今、コンはクロに抑えられているので、逃げられない。ああ、失禁している。ちゃんと綺麗にしておけよ。


  馬鹿なクロは、ワイちゃんが接近しているのに気が付かずに、コンを虐め続けている。そのクロの頭を2つの足でガッシリと摑まえる。


  もう、逃げることは出来ない。本当なら、ここで爪の毒腺から毒液を垂らすのだが、今回は、そんなことはしない。クロでも殺せば、ご主人様に叱られるからだ。


    キャイーン!


  クロが悲鳴を上げる。その隙に、コンちゃんは、ベッドの下に潜り込む。いつもならナギさんに『来るな。』と怒られるのだが、今はそう言っている場合ではない。


  タンスの上の絶対支配者が動き出したのだ。これは逃げるしかない。こんな時に守ってくれるマリア様は、未だ帰ってきていない。


  コンちゃん、ベッドの下からワイちゃんとクロを見ている。あ、可哀そう。1m位の高さから、クロが落とされた。猫じゃあないから、受け身なんか取れる訳が無い。グシャッと落ちてしまった。でも、大丈夫そうだ。良かった。自分の立場を忘れて安心しているコンちゃんだった。


  ワイちゃんは、クロを落とすと、部屋の中を2周して、タンスの上のベッドに戻った。床の上には、コンちゃんの失禁の跡が広がっている。タンスの上から見ていると、クロが人間のような者に変身した。皮膚が真黒で、頭がジャッカルだ。それで、階下に降りて行って、バケツに入った水と雑巾を持ってきた。そうだ、この中で唯一、人間に似た姿になれるのはクロだけだ。


  本当は、ナギさんもなれるのだが、自分の出自である井草川が川としての機能を失ってからは、霊力が足りずに人間の姿にはなれないそうだ。


  自分も1000年以上生き続けることが出来れば、魔力レベルが上がって変身できるかも知れないが、体力が持たずに300歳位が平均寿命だそうだ。


  北の山の黒龍様達は、古の龍種で自分達とは違う種だと言われているが、その黒龍様達だって、きっと太古の昔には自分達と似たような龍種だった筈だ。それが長く生き続けたおかげで身体も信じられない位大きくなって、魔力も半端ないレベルまで上がったようだ。


  自分だって、もう随分長く生き続けている。人間の言葉だって、話すことは出来ないが、理解できるようになった。


  この世界に来て、身体を小さくする事が出来るようになったし、『念話』もマリアさん相手なら出来る。まあ、あんな弱い狐でもできるんだ。私に出来ないわけが無い。


  後は、勉強と練習

だ。今日は、このまま眠ろう。部屋は暖かいし、まだ食事の時間まで間があるし・・・・


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  ナギさんは、マリアちゃんの部屋のベッドの下でジッとしていた。いつもの白蛇の姿だ。本来は、竜神なので中国や日本に伝承される竜の姿なのだが、さすがにその姿では、日常生活に支障があるので、白蛇の姿に変えている。


  ナギさんは、『那岐井草山見清州命』と言う井草川の龍神だ。井草川は、青梅街道と早稲田通りの交差点のそばにある『杉並区立切通し公園』内の池の下からの湧水が源流となっている。しかし、池の外に出るところから暗渠化され妙正寺川に合流するまで地上に現れることはない。


  川の主は、川の周辺からのあらゆる力を受けて、存在を維持している。川に依って生きる者達の力や、恐れと信仰などを力の源にしているのだ。それらが完全に失われた時、川の主は存在を失ってしまう。井草川は、存在こそすれ、その力を失いかけている。わずかに妙正寺川と合流する事によって、力を分けて貰っている。


  だが、ここに居ると、毎日僅かだが力が蓄えられてくる。何故だろう。この力は、川の力とは違う力だ。マリアちゃんの持っている力が、溢れ出しているのだろう。


  この分だと、早晩、天を飛翔する力や、人間に仮態する力を得る事が出来るかも知れない。


  元々、小川に毛の生えたような川だった。大雨で氾濫しても、たいして被害など発生しないため、人々に畏怖心などなかった。ただ川のほとりに咲く満開の桜と、大勢の人々の喜びの気持ち、それだけで満足だった。


  昭和の中頃、川の土手に無粋な護岸が作られ、生活排水や雑多なものが捨てられて、川は汚水路と成り果ててしまった。


  異臭とメタンガスを吐き出す川となった時、私は消滅しかけたが、そのうち、川に蓋がされて雨水しか流れ込まなくなった。消滅の危機を脱した私は、それから50年以上も、この土地で糧を得てきた。


  幸い、隣の富士神社の氏神も同居を許してくれたし、ひっそりと生きながらえてきた。この前までは。


  マリアちゃんに名前を教えてから、自分が少し変わった事がわかる。今まで、誰かのために役立ちたいとか、声を掛けて貰いたいなどと思ったこともなかった。太鼓の昔からそうだった。


  しかし今は違う。マリアちゃんの役に立ちたい、それで褒めてもらいたいと思うのだ。もとより龍神は誰にも与せず、隷従もしない存在だったはずだ。だが、今は、心からそう思うようになったのだ。


  力ある者に名を知られてはならない。しかし、マリアちゃんの場合には、悪用されることもなく、快適な生活が保証されるだけなら、名前を知られても構わないとも思っている。


  うん、きっと間もなくちゃんとした竜神に戻れるのだろう。そんな気がする。


------------------------------------------


  アリスちゃんが帰ってきた。部活をしていないので、毎日、午後3時半には帰ってくる。帰ってくると、マリアちゃんのドアを開けて、クロとコンちゃんの散歩だ。冬の寒さが厳しいが、コンちゃんにとっては、雪がないアスファルト道路は、春先の道路並みだ。クロは、寒いのが超苦手のため、直ぐに抱っこをしてくれと哀れな目でアリスちゃんを見上げる。でも無視して歩き続ける。


  自分が小さかった頃は、2匹は脅威以外の何者でもなかった。しかし身長150センチの体になると、恐怖はなくなり、可愛いペット2匹になってしまった。


  クロとコンちゃんは、この散歩の後は餌を貰える事を知っているので、舌を伸ばしハアハア言いながらアリスちゃんを引っ張っている。


  約1キロの散歩コースだ。途中、必ずウンチをする。基本的に1日2回ウンチをする。アリスちゃん、ペット用のウンチ袋に入れていく。家に帰ったら、中身だけトイレに流すのだ。


  家に帰ると、2階のキッチンの脇のお皿にペットフードを入れる。太らせないために、量を計量していた。まあ、5分の1カップが1回の食事量だ。テーブルの上に骨付きマトンと、小さな切り身があった。それを持って3階に上がっていく。クロ達も、一生懸命階段を上がっていく。もしかしたら自分たちの分もあるかも知れないと、意地汚い思惑だ。


  ワイちゃんには、大きな骨付きマトンをあげる。ナギさんには小分けした肉だ。ナギさん、一気に丸呑みだ。ワイちゃん、タンスの上から滑空してくる。何度見ても、少し怖い。コロボックルにとって、空を飛翔する猛禽類は天敵だ。音も無く飛来し、かぎ爪で掴まれたら、もう逃げることは出来ない。何人もの仲間が犠牲になっている。


  ワイちゃん、床に降りてから、ヨタヨタと歩いてくる。足のかぎ爪で肉を抑え、器用に肉だけを剥ぎ取っていく。


  本来の大きさだったら、大きくなったアリスちゃんだって、餌になってしまうだろう。そんな事をボンヤリ考えていたら、誰かの声が聞こえてきた。


  『アリス 食べない。』


  え? 誰? 頭の中に、声が直接聞こえてくる。変な感覚だ。


  『僕 ワイ アリス 食べない。』


  ワイちゃんの『念話』だった。アリスちゃんにとって、初めての経験だ。それからは、皆とお喋りの時間だ。楽しい。時間が、あっという間に過ぎてしまう。いけない。お勉強しなくっちゃ。


  アリスちゃん、自分の部屋に行って、お勉強を始めた。漢字の書取りと、声を出しての本読みだ。後、理科と社会のドリルを解いていく。最近、だいぶできるようになって来たけど、まだまだ分からない事が多い。


  読めない漢字が出た。うーん、何だっけ。この漢字、何処かで見た気がするんだけど。漢字辞典で調べる事にした。漢字辞典って、物凄く面倒くさい。部種別なんだけど、その部首がよく分からない。でも調べるのもお勉強だってマリアさんが言っていたから、きちんと調べなければ。あ、あった。そうか、『にっしょく』か。この『蝕』の字が難しい。


  アリスさんのお母様が帰ってきた。夕飯のお手伝いをしないと。


  新垣家の3階は、1日中、賑やかでした。

皆、徐々に力をつけて来ております。

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