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第79話 え、アメリカ公演って?

今回は、戦いはありません。歌手活動が発展します。

(1月13日です。)

  今日は、『シルバー・プリンセス』のライブ公演の日です。品川の常設劇場で、ウイークリーコンサートに出るの。


  私達の出演は最後で、持ち時間も他の出演者の倍の30分もあるの。レコード大賞新人賞受賞とNHKの年末番組出場と言う歌手にとっての絶対的ステータスを得ているみたい。まだ、CDも出ていないアイドルグループでは、太刀打ちできないそうなの。


  というか、新しく、このコンサートに参加する子達が、皆、私達の楽屋に挨拶に来るの。サヤちゃんが対応しているので大丈夫だけど、私一人だったら絶対に嫌だったと思う。


  サヤちゃん達は、出演後の握手会があるんだけど、当然、私だけは参加しない。CDに同梱されている握手券も、私の分は入っていないみたい。というか、入れないようにお願いしたの。ファンの方には申し訳ないと思っているけど、あんな怖いことできるわけが無い。


  コンサートは、いつものように『シルバープリンセス』の持ち歌と、今度2月にCDリリースする新曲を1曲、それにスタンダード曲の弦楽3重奏プラスピアノの曲だった。最後に、アメリカのスタンダード曲のピアノ弾き語りをする。カーペンターズのナンバーから1曲を選んで歌うんだけど、事前にファンから希望を聞いている曲を即興で歌うことになっている。勿論、英語で歌うの。楽譜に歌詞がふってあるので、大体対応が取れる。今まで歌ったことがなくても、楽譜さえあれば大丈夫。


  今日は、変なおじさんが前の方に座っていた。背の大きい銀髪の人で、日本人ではないようだ。演奏が終わって、楽屋に戻ると、その変なおじさんが米良さんと一緒に入ってきたの。サヤちゃん達は、すぐに握手会に行かなければならないので、私だけが楽屋に残ってしまった。とっても嫌な予感がする。


  そのおじさんは、アメリカのサニーミュージック社の人で、3月にアメリカ公演をして貰いたいとの事だった。米良さんは、ある程度は英語は話せるが、細かなところになると通訳してあげなければならなかった。学校の授業もあるし、家族とも相談しなければいけないし、それにサヤちゃん達が一緒に行ってくれるかどうか分からない。米良さんが、既にサヤちゃん達には了解をとっているし、学校のスケジュールにも影響が無い事を確認済みだと言っていた。


  あ、それじゃあ私が判断することって、とっても少ない気がする。どうしよう。行きたくない。そんな知らないところは怖いし。でも、きっとサヤちゃん達は、絶対に行きたいって言ったんだろうな。行かなければダメなんだろうな。


  そう考えていたら、涙が溢れてきた。その男の人は驚いていたが、米良さんは慣れたもので、『この子は泣き虫で、難しい事を言うとすぐに泣いてしまうんです。』と言っていた。間違いない事なので、何も言えなかったが、それでもっと悲しくなってしまった。


  サヤちゃん達が、握手会を終えて帰ってきた。私達の様子を見て、すぐ事情を察したらしく、私の頭を優しく撫でてくれた。うん、何か涙が止まってきた。明日、我が家に来て、父様達に相談すると言う事で、この日は解散となった。いつもの通り、ハイヤーで帰ることになっているが、ハイヤーの中で、サヤちゃんが、『心配しないで。あなたなら、どこに行っても大丈夫よ。』と、絶対に慰めにならない慰めを言っている。でも、その言葉の裏に行く気満々の気持ちがこもっているような気がした。


  すでにスケジュールもある程度決まっていて、ハリウッドの有名なホテルで公演をして、ディズニーランドを見て、ニューヨークのブロードウエイで公演をしてから帰国するらしい。日程は、1週間なので結構ハードな気がするが、大体そんなものだと言っていた。日本テレビのクルーも同行するらしいのだ。


  アメリカと言う国が、この日本の遠く東にあることは知っているが、そんな所に行ってピアノなんか弾かなくっても、ここで弾いているだけで満足なのに。


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  翌日、米良さんと一緒にその男の人が訪ねてきた。その男の人の名前は、ダンカンさんと言うそうだ。身長が180センチ以上ある大きな体で、我が家のリビングのソファでは小さそうだったので、レッスン室のソファに座って貰った。父様と母様、それに私が一緒に座る。アリスちゃんが紅茶を入れて持ってきてくれた。


  ダンカンさんが、お礼を言うと、アリスちゃん、綺麗な英語で応答をしていた。ダンカンさん、米良さんと何かコソコソ話をしている。嫌な予感がする。アリスちゃんも、綺麗な金髪と白い肌、薄い灰色がかった瞳をしていて、いわゆる超絶美少女だ。


  でも、ピアノだってまだ弾けないし、歌だって歌えるかどうか分からない。芸能界デビューなんか絶対に無理だから。


  ダンカンさん、父様に、アメリカ公演についてお願いしていた。片言の日本語は話せるようだが、詳しいことになると米良さんが説明していた。父様は、最初、渋い顔をしていたが、サヤちゃん達が行く気になっていると聞いて、半分あきらめていたようだ。


  でも、アメリカ公演を何故、今、やるのか分からない。日本だって、本格的なコンサートをしたことが無いのに、アメリカで成功するとは思えないと母様が言っていた。うん、私も、そう思う。


  米良さんが、私のソロ・シングルがアメリカのヒット・チャート上位になっているらしい。綺麗なクイーンズ・イングリッシュで歌う日本人美少女、日本人離れした容姿でピアノも超絶上手とくれば、注目されないはずがない。米国サニーでは、私の楽曲が常に売り上げトップ3に入っているらしいのだ。それで、各地の劇場や興行企画会社からオファーを貰っているが、通常の支配権を有していないサニーとしては、お願いして、了解をいただいてからオファーに答えることになっているそうだ。勿論、アメリカツアーに関する細かな契約書も交わさなければならない。


  父様は、あきらめて親権者欄に署名をした。それを見て、私も自分の署名欄に署名をした。これで契約成立だ。渡航費用、向こうでの滞在費用は、全てサニー持ちだ。そしてチケット売り上げの30%がこちらの取り分で、その3割がサニー・アーティスツ事務所がとることになっている。


  それから、全米でのテレビ放映権は、これからになるが、それも同様の支払い条件になるらしい。あ、そう言えば日本テレビの撮影もあるが、その件については、事務所に一任することになる。アメリカと違って、日本では広告代わりにテレビ出演することが良くあるからだ。


  契約が終ったら、ダンカンさんがアリスちゃんに話しかけてきた。年齢や、我が家との関係を確認してから、歌を歌ってみないかと言ってきた。アリスちゃん、少しだけ、考えてから


  「As I have not sung a song, I don't know whether I can sing.(歌を歌ったことはないので、歌えるかどうか分かりません。)」


  と答えた。では、ぜひ歌ってくれと言う事で、私の伴奏で、カーペンターズの『イエスタディ・ワンス・モア』を歌う事になった。この歌は、コンサートでも良く歌うし、テレビでも歌ったことがある。アリスちゃん、ピアノの曲以外では、カーペンターズの歌をよく聴いているみたいだ。


  前奏に続いて歌い始めた。勿論、英語で歌っている。母様が吃驚していた。まるでカーペンターズの『カレン・アン・カーペンター』が生き返って、少女時代に戻って歌っているみたいだったのだそうだ。最後まで歌い終わると、ダンカンさん、涙を流している。え、どうして。


  実は、ダンカンさん、少年時代には熱烈なカーペンターズのファンだったそうだ。カレンさんが死んだときには、1週間ほど学校を休んでしまったほどだと言っていた。それもどうかと思うけど。それで、第二のカレンさんを見つけたくて、この業界に入ったそうだ。


  もう一曲歌ってくれないかと言われたので、『遥かなる影』を歌う。とても綺麗な曲だ。詩も良い。『鳥や星々もあなたの側に居たがるくらい、私もあなたの傍にいたいの』という意味の詩だ。でも、アリスちゃん、お歌なんか歌っていて大丈夫。お勉強しなくっちゃいけないでしょ。また、虐められるわよ。


  とりあえず、今度の土曜日の午前中に、六番町のスタジオに行って、録音することになった。父様が、アリスちゃんは、まだ14歳なので、CDデビューだけにして貰いたい。テレビ出演とか写真集は、基本的に認めないと申し入れていた。


  米良さんが、動画を、動画サイトにアップしても良いか確認している。なるべく顔出しはしないで、歌声を世界中の人達に聞いて貰いたいと言っていた。うん、上手い言い方だ。でも、それで楽曲の売り上げが上がることは言わないようだった。


  肝心のアリスちゃんはどうなのか聞くと、やってみたいと言っている。うん、そうだろうね。あれだけ歌が上手なんだもの。歌うのが大好きなはずだ。でも、今まで歌ったことがないのに、どうしてあんなに上手く歌えるんだろう。きっと、才能なんだわ。天は二物を与えるものなのよ。


  ダンカンさん達が帰ってから、アリスちゃん、カップを片付けながら、


  「私、麻里亜さんみたいに、ピアノを弾きながら歌を歌ってみたいな。」


  と言った。伴奏なんか、簡単で誰でも弾けるのだが、基礎が無ければ難しいだろう。やはり、アリスちゃん、お勉強がきちんとできるようになってから、バイエルとハノンを始めましょうね。


  サヤちゃんからラインが入った。契約がどうなったか気になっているのだ。契約は上手く行き、アメリカ公演に行くことが決定したと言ったら、これから私の家に来るというのだ。


  え?何で?


  私の家のレッスン室で、英語の歌の特訓をするそうだ。どうして、我が家なのかと思ったが、ピアノがあって、これだけ広いレッスン室があるのは、私の家だけだそうだ。マコちゃんやキョウちゃんはそうだろうけど、サヤちゃんのお屋敷は、あんなに大きいのに。聞くと、ピアノはあるけど、応接間の狭い所に置かれているらしいのだ。うん、ピアノって、本格的に練習しない限り、とても邪魔な存在になっているみたいなの。


  午後、サヤちゃん達が来た。私の作った歌は、英語の歌詞にして、プリントしておいた。それと、スタンダードナンバーの曲、ビートルズやサイモンとガーファンクル、カーペンターズの曲も幾つかプリントしておく。


  とりあえず、歌ってみて貰った。うん、ひどい。日本人の英語だった。特にサヤちゃんとマコちゃんが酷い。キョウちゃんは、英語は得意な方で、小学生まで英語教室に通っていたそうなので、合格点だった。


  お手本にアリスちゃんに歌ってもらう。サヤちゃん達、吃驚していた。北海道の函館ってレベルが高いと感心していたが、それ、絶対に違うから。日曜日の楽しい時間があっとという間に過ぎてしまった。

アメリカ公演、成功すれば良いですね。

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