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第46話 音楽プロデュース

マリアちゃん、いよいよメジャーデビューです。

(2月18日です。)

  今日、函館から杉並の自宅に帰って来た。結構、報道の人達も自宅に押しかけて来ていたそうだが、単独取材は、全てお断りしていたそうだ。


  久しぶりに客間に置いてあるピアノで、少し練習した。ハノンを3回、通しで弾く。最初は動きがぎこちなかったが、3回目には滑るように弾くことが出来た。


  未央ちゃんが帰って来たので、お土産の木彫りのアイヌ人形をあげたら、微妙に喜んでくれた。


  夜、父様が帰って来て、大事な話があると言う。母様が、明日、薫先生のところへ行ってからのお話だった。


  薫先生のレッスン場に、先生が専属契約を結んでいるサニー・ミュージックの人が来るそうだ。用件は、私と専属契約を結びたいそうだ。


  それが、どう言う意味なのかよく分からなかったが、要するにプロのピアニストになると言うことだそうだ。


  でも、私の本当の気持ちは学校に行ってみたいけど、もう働かなければいけないのかと思ってしまった。我が家は、そんなに生活が苦しいのかなあ。なら、家計のために働かなければならない。そういえば元の世界では、小学校を卒業すると、見習いとして働くことができるし、15歳になると成人して働くのが普通だったように思う。


  私は、両親に自分の気持ちを伝えた。


  「分かりました。高校に行くのは辞めます。働いて、少しでも家の生活の足しになるように頑張ります。」


  父様も、母様も目が点になっていた。最初は、意味が分からなかったようだ。暫く静寂が流れた。


  傍で聞いていた未央ちゃんが、口を開いた。


  「えー!お姉ちゃん、学校行かないの?何で?」


  「だって、プロになって働くんでしょ。学校には行けないじゃないの。」


  ようやく、私の言っている事が理解できたらしく、両親が大笑いしている。え、何で?


  「麻里亜ちゃん、専属契約してプロになっても、学校には行けるのよ。と言うか、麻里亜ちゃんは働かなくても良いのよ。プロって、そう言う意味じゃないから。」


  それから、母様が細々と説明してくれたが、私にはよく分からなかった。


------------------------------------------------------------


  次の日、午後2時に薫先生のご自宅にお邪魔した。客間には、すでにサニー・ミュージックの人が来ていた。男性のプロデューサーの人と、私の担当になる女の人だった。


  私は、薫先生に、お土産の「白い恋人達」を渡して、後はピアノ練習室でピアノを弾いて時間を潰していた。


  契約の細かな事は、母様と薫先生で決めて貰った。私は、今までの生活とあまり変化はないようだ。


  でも来月、中学を卒業したらレコーディングがあるそうだ。オリジナルCDとショパンのエチュード集らしい。


  オリジナルCDは、組曲『アーモンドチョコの思い出。』と、今までチョコチョコ書いていた曲を薫先生がアレンジしたもので構成するそうだ。


  ショパンのエチュード集は、演奏するのに問題は無かった。作品10も作品25も、殆ど暗譜している。技術的にも全く問題が無かった。


  録音は、麻布の録音スタジオで行われる事になった。ガラコンで演奏したものは、主催者側の会社が提供してくれないので、ダメだったようだ。


  難問がいくつかあった。CDのカバージャケットのために、写真を撮らなければいけないそうだ。それとテレビ出演もするそうだ。日曜日の朝のクラシック専門番組で企画があるらしい。


  それとCD発売日に、銀座のレコード店でサイン会をするそうだ。それは絶対に無理だ。涙目で母様を見たら、状況を察した母様が、サイン会は無理なので座っているだけにして貰えないかと言ってくれた。


  最後に、写真集を出したいと言って来た。絶対に嫌だったが、これだけは相手の男の人に諦めて貰えなかった。


  CD発売日に、同時発売するそうだ。母様が、いくつか条件を出していた。水着や極端に肌の露出の多い写真や扇情的なポーズはダメだし、出版前に母様が点検するそうだ。


  細かなところを詰めて契約交渉は終わったらしい。母様が、私を呼びに来た。客間のテーブルの上には、何枚も書類が置かれていた。全部に署名をするらしい。手が痛くなるほど署名をしたところで、契約成立だった。


  早速、カメラや機材を持った人が何人か入って来た。これから写真撮影らしい。今日は、中学の制服に、例の眼帯をしていたら、そのままでピアノを弾いて貰いたいとの事だった。


  ピアノを弾くだけだったら、簡単な事なので、いつものように弾いていたら、ドンドン写真が撮られていた。薫先生も、私の脇に立って指導している様子を撮影されていた。どおりで、薫先生は素敵なドレスを着て、お化粧も濃い目だった訳だ。


  来週、日曜日には、例のテレビ番組の収録があるので、午後0時までに六本木のコンサートホールに来てくれとの事だった。ハイヤーを回すので、それに乗って来て貰いたいと言われた。薫先生も、立ち会うのでハイヤーがもう1台必要だった。


  薫先生は、私の代理人として音楽関係の折衝をしてくれる事になっているそうだ。私への報酬の5%が、手数料らしい。それに専属契約料が1000万円で、それにも薫先生の代理人手数料が発生するらしい。


  ただ写真集とか、音楽関係以外の収入は、薫先生はタッチしないそうだ。薫先生に指導を受けるだけで、年に百万円以上の謝礼を支払うそうなので、特に高いとは思わなかった。


  家に帰ってから、父様に契約書を見せていたが、父様も内容が良く理解できなかったそうだ。ただ、写真集には難色を示していた。何故、ピアニストが写真集を出す必要があるのかと言っていたが、変な写真集にはさせないからと言う母様の言葉で渋々納得していた。


  次の日、昨日の担当さんが、我が家に来ると言う連絡があった。父様に挨拶したいらしい。今日は、父様もお休みなので、都合が良いとのことだった。


  担当の女性は、米良さんと言い、昨年、大学を卒業したばかりらしい。いわゆる新人社員だ。米良さんは、新宿の高野パーラーで買ったメロンを持って来た。何て良い人なんだろう。


  米良さんと、お互いにライン登録をして置いた。その後、BWHのサイズを測られた。来週のテレビ収録の時に着る、ドレスを準備するそうだ。


  結局、米良さんは夕食を一緒に食べてから帰って行ったが、帰る頃には、ある程度会話ができるようになっていた。


  次の日、学校に行ったら、一昨日のカメラマン達が来ていた。学校内で撮影するらしい。校長先生に了解を貰っているとのことだった。え、準備が良すぎるんですけど。聞けば、先週初めには撮影の許可を申し込んでいたらしいのだ。


  結局、教室内はダメで、音楽室でピアノの練習をしているところと、美術室で絵を描いているところを撮影する事になった。


  お絵描きは、描く対象が思いつかなかったので、カメラマンさんを描き始めた。最初、何を描いているか分からなかったらしいが、自分だと分かってからは、ビデオも撮影させていた。


  カメラマンさんは、30歳位のおじさんで、目が大きく、口髭が特徴の人だった。あっという間にラフが出来上がり、絵具で色を付けていく。おじさんがカメラを構えている姿を描いている。1時間位で完成したので、おじさんにあげようとしたら、署名を入れてくれないかと言って来た。特に断る理由もないので、筆で名前を書いて渡したら、助手の人達が羨ましそうな顔をした。でも、もうお昼休みになりそうだったので、これでお終いにした。


  教室に戻ったら、クラスの皆がソワソワしていた。どうしたのかシズちゃんに聞いたら、一緒のところを写真に撮って貰いたいそうだ。


  カメラマンのおじさんが、校長先生と交渉して、午後の授業風景を撮影する事になった。授業といっても、もう自習ばかりでまともな授業は無い筈だが、急遽、授業をする事になった。


  時間割に無い国語の授業になり、国語の先生がお化粧バッチリで授業をしてくれた。クラスのみんなも緊張気味だったが、数え切れない位、シャッターが押されストロボが焚かれた。一体、あの中で何枚の写真が採用されるのだろうか。


  カメラマンが帰った後で、クラスの皆と一緒に写真撮影会になってしまった。でも男子と一緒の撮影は、シズちゃんにお断りして貰った。


  その週は、音楽室でピアノの練習ばかりをしていた。ショパンのエチュード27曲を全て通しで弾く練習だ。もう楽譜は見ない。でも、一番好きな曲は


  エチュード イ短調 Op25-5


  かな。歯切れが良い、不協和音が、美しい旋律を奏でて行く矛盾が、何となく気に入っている。


  あ、そういえばテレビ収録で演奏する曲が、決まっていなかったことを思い出した。でも何とかなるだろうと思っている。


------------------------------------------------------------


(2月27日です。)

  今日は、少し早めに起きて、テレビ収録の準備をする。と言っても、未央ちゃんに髪をブラッシングして貰うだけだが。


  午前11時、玄関チャイムが鳴った。ハイヤーが来たらしい。母様と未央ちゃんの3人でハイヤーに乗り込む。


  黒色の大きなワゴン車だった。シートがとても大きく、ふかふかだった。あっという間に六本木のコンサートホールに到着した。ウイスキーの会社の名前がついたホールだった。直ぐに楽屋に入ったら、もう米良さんと薫先生が来ていた。


  収録は、午後6時からだった。その前に、衣装合わせなどがあるので、こんなに早く楽屋入りするようだった。


  今日の衣装に着替える。普通に着替えようとしたら、まずブラジャーを付けるように言われた。平素は、シャツのような下着しかつけていないのだが、言われるままにつけたら、パットをブラの中に詰め込んでくれた。それからホワイトグレーのドレスを着たら、胸がピッタリだった。


  それから、メイクさんが来て、軽くメイクして貰った。メイクさんが睫毛の長さを褒めてくれたが、元の世界の母様やシェル母様の睫毛を見たら、きっと気絶してしまうだろう。


  化粧は薄くしただけだったので、余り変わり映えしなかった。


  最後に、ヘアスタイリストの方が、髪をブラッシングしてくれて、髪飾りをつけてくれたが、あまり感動は無かった。


  楽屋のテーブルの上に、お弁当が5つ置かれていた。


  私達3人と米良さん、それに薫先生の分だそうだ。有名な牛鍋屋さんのお弁当だった。朝が早かったので、少しお腹が減っていたので、皆で一緒に食べる事にした。


  時間になったら、係の人が呼びに来た。米良さんと一緒にステージに向かう。母様達は、観客席の方に向かう。


  ステージの上には、薫先生がいて、ピアノとマイクの位置などを調整していた。ディレクターさんと司会の方や、他のいろんな方達と打ち合わせをするが、勿論のこと、私は何も喋らない。でも、胸元にピンマイクを付けられた。


  ディレクターさんが、眼帯を外してみるように言われたので、外してみたら、外して演奏してくれるように指示された。


  今日の演奏は、ショパンのエチュード『木枯し』と、例の『アーモンドチョコの想い出』第1楽章で、エチュードと自作曲の間に、司会者との会話があるが、『はい』と言う返事と自作曲の紹介だけだそうだ。


  いよいよ、収録が始まった。

歌手や音楽家の人達の契約条件ってよく分からないので適当です。実際は、きっと全然違うと思います。

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