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第45話 ガラコンサート

マリアちゃん、スターへの道を歩き始めました。

(2月5日です。)

  今日、薫先生の自宅を訪問する。中野にお住まいなのだが、最寄駅は高円寺駅だった。高円寺駅と野方駅の中間あたりだ。私と母様の2人でお邪魔する。


  薫先生の自宅はお屋敷だった。大きな門を入っていくと、庭木に囲まれた煉瓦作りの洋館があった。玄関ホールも広々している。


  薫先生は、ピアノ関連の本も出版しているし、客員教授やコンサート審査員でかなりの収入があるのだが、この家は著名なピアニストの父親が購入したものらしい。


  ピアノ練習室から、微かにピアノの音が聞こえている。防音がされているのだろう。激しいショパンの曲なのに、ほんの少ししか聞こえない。


  でも、この弾き方。記憶にある。あ、あの子だ。清野詩乃さんだ。タッチが荒い所がある。あの癖を直さないと、ショパンが可愛そう。


  30分位経った時、ドアが開き、清野さんが出て来た。中学の制服を着て、左目に黒い眼帯をしている私を見て、直ぐに分かったらしく、キッと睨まれてしまった。この人、嫌い。私は、何も悪い事していないのに。


  薫先生は、白いニットセーターを着ていたが、とても胸が大きい。ツンと飛び出ていた。もう50歳は過ぎている筈だが、ピアノ演奏は激しい運動量だ。そのため、いつまでも若い身体を維持しているのだろう。


  先生が、ガラコンで演奏する課題曲を渡してくれた。それは、あの組曲だった。


--------------------------------------------------


(2月12日です。)

  今日は、ショパン国際ピアノコンクールインアジア優勝者達のガラコンサート通称『ガラコン』の日だ。


  場所は、都立大駅の近くの『めぐろパーシモンホール』の小ホールで行われる。


  先週、薫先生から、課題曲を貰ったら、私の書いた組曲だった。でも赤ペンで真っ赤になっており、リストの超絶も真っ青な位に演奏レベルが上がっている。


  でも、自分の作った曲なので、初見でノーミスに弾くことができた。と言うか、とても弾きやすい。自分がこう弾きたいと思う所が、赤ペンで加筆されているのだ。


  ショパン国際ピアノコンクールのガラコンなので、ショパンでなくても良いのかと思ったら、事務局とは話が付いているらしい。


  今日の会場は、200名位しか入らない小さなホールだ。私は、最後の方だったので、午後3時に会場に入った。観客は、ほぼ出場者の関係者ばかりだった。まあ、有名なピアニストがいる訳もないので、仕方がない。


  母様と未央ちゃんの3人で会場に入り、コートを母様に預けて控室に行った。控室はガラガラだった。ほとんどの人が、演奏を終えて出て行ったらしい。


  私の後ろには、コンチェルト金賞の男の人だけだった。直ぐに私の番だ。自作の曲を弾くとアナウンスされた時、明らかに落胆の声が聞こえた。『今日は、ショパンを聴きに来たのに、つまらない自作曲を聴くなんて。』と言う雰囲気が会場内に満ちていた。


  前の方に座っているのは、来賓の先生達だったが、薫先生も座っていた。私を見てにっこりしていた。


  今日は、新しいドレスにした。真っ赤なワンピースだ。それに、髪を後ろにまとめるシュシュも赤に統一している。


  組曲『アーモンドチョコの想い出』


  第1楽章を弾き始める。16分音符が右から左へと駆け巡っていくが、主題はきっちりと聞こえている。しかし、全体としては甘美で優しい主旋部が繰り返されていく。


  うん、入りは完璧だった。私は知らなかったが、来賓の先生達は目を見張っていた。山上教授から、うちの学校に素晴らしい生徒が入って来ると自慢されていたが、まさかこれほどとは思わなかった。


  それに演奏技術もさることながら、なんだ、この曲は。超絶にして甘美。リストの再来か?


  演奏が終わった。会場内は万雷の拍手だった。私は、静かに立ち上がり、綺麗なカーテシを決めて退場した。


  特に、成績発表があるわけでも無かったので、もう帰ろうとしたが、係の人が、慌てた様子で駆け寄って来た。


  アンコール・コールが止まらないらしい。3分程度の曲を弾いて貰いたいとの事だった。え、結構、無茶振りなんですけど。


  仕方がないので、3分程度の作品を弾くことにした。何にしようか考えて、思いついたのがこの曲だった。


  エチュード 第5番『黒鍵』Op.10-5CT18変ト長調


  ある程度、超絶だが認知度抜群、演奏技術の巧拙が直ぐにわかる曲だ。


  

最初の入りから上手くできた。それから右手の動きは、理想的だった。あ、ショパンのおじさんがニコニコ笑っている。もう、タクトを持っていなかった。


  演奏が終わってから、今度は深々と一礼をして舞台の袖に下がった。


  直ぐに、母様のところに戻り、コートを羽織って会場を出ようとしたが、ロビーに出たら大勢の報道陣に囲まれてしまった。


  まだ眼帯をしていなかったので、素顔の写真を取られてしまった。いろいろ聞かれたが、答えられる訳がない。全て、母様が、質問に答えてくれた。未央ちゃんは、離れたところに逃げていた。


  ようやく報道陣から逃れて、タクシーで自宅まで帰った。後で知ったのだが、演奏の模様は、直ぐに動画サイトにアップされたらしい。


  『超絶美少女天才ピアニストが組曲を作曲』


  とか、


  『超絶美少女の超絶技巧』


  なんか、とても恥ずかしいタイトルだ。でも、勝手に映像をアップされて、肖像権とか著作権なんかどうなっているんだろうか?


  自宅に戻って、夕食を食べている時に、私のことがニュースで流れてきた。


  『天才ピアニストが、自作組曲を演奏する。』


  このタイトルも、超恥ずかしいが、演奏風景が20秒ほど流れていた。今、中学3年生で、4月から東京芸大附属高校に入学すると紹介していた。


  直ぐに、シズちゃんとノエルちゃんからラインが入ってきた。


  『天才ピアニスト、テレビ出演おめでとう。』


  『有名になっても、私たちのこと忘れないでね。』


  忘れるわけがない。私の、たった二人のお友達だもん。ノエルちゃんは、近くの都立高校推薦が決まっているが、シズちゃんは、これからお茶の水女子大附属高校の入学試験だ。桜庭学園女子高校への特別編入との併願だ。合格したら、皆で遊びに行くことを約束した。


  食後、ショパンコンクールや、今回のガラコンサートを主催した会社の方から、電話がかかってきた。


  今日、演奏した曲をCDとDVDで出したいと言うのだ。そう言えば、この会社はアジア大会の優勝者達の演奏をCDで出しているそうだ。


  大会の時の演奏をCD化することには、出場時に承諾しているが、今回の自作曲は、著作権があるので、直ぐには返答出来ない。


  母様が、検討してからご返事したいと言っていた。私は、眠たくなっていたので、後の事は母様に任せて眠ることにした。


  月曜日、学校に行ったら、報道の人が大勢、校門の前に集まっていた。私は、直ぐにUターンをして自宅に戻った。


  母様は、まだ仕事には行っていなかった。学校の状況を話したら、今日は学校に行かなくても良いと言ってくれた。


  母様が、学校に電話をして状況を説明して欠席の許可を貰っていた。


  その後、薫先生に電話をして、昨日のCD化の話を相談していた。


  薫先生が、その件で相談したいことがあるので、中野の自宅に来て貰いたいとの事だった。今度の土曜日、ご自宅に伺うこととなった。


  その後、函館のお祖父様に電話して、今日の夕方から、私一人で遊びに行くことになった。


  今から飛行機のチケットは取れないので、内緒で『空間転移』で行く事にした。向こうにあったピアノは、こちらに持ってきてしまったので、練習はできないが、まあ、しょうがない。


  クロとコンちゃんも一緒に行く事にした。2月の函館はかなり寒いので、冬毛の少ない2匹は辛いかも知れないが、まあ、大丈夫だろう。


  夕方、陽が落ちてからお祖父様の自宅前に転移した。薄らと雪が積もっている程度だが、気温はかなり低い。


  玄関のチャイムを鳴らすと、お祖父様とお祖母様が出て来てくれた。テレビのニュースで知っていたらしく、深い理由は聞かれなかった。


  それからの4日間は、なんか充電期間となった。寒い朝、クロとコンちゃん2匹を連れて森に散歩に行く。森の中で、久しぶりに剣の型の稽古をしてみた。


  最初は、なんかしっくり来なかったが、何回か繰り返していたら、思うように動き始めた。剣に『気』を込めてみた。


  斬撃が、飛んで行く。コンちゃんが、怖がってオシッコを漏らしていた。クロは、気を失ってひっくり返ってしまった。情けないエジプト神だ。


  ふと気が付くと、あのコロボックルのコロちゃん達が集まっていた。最初は、異様な『気』の充満を感じて逃げ出そうとしたのだが、私の『気』だと気がついて集まって来たらしい。


  私は、あらかじめチョコレートとビスケットを持って来ていたので、プレゼントしてあげた。


  クロとコンちゃんも欲しがっていたが、完全に無視をした。コロちゃん達を見ると、かなり痩せている。冬の間は、食べ物が取れないので、貯蔵している穀物や木の実、干し肉、干し魚それに乾燥した葉っぱだけで遅い春を待たなければならないらしい。


  コロちゃん達の家に行ってみると、大きな楠の木のウロの中に家があった。灯は、光苔を採取しているらしいが、冬場は採取できないので、夜は真っ暗らしい。


  一旦、家に帰ってから、朝ごはんの後、お祖父様とホームセンターに買い物に行く事にした。光発電のLEDランタンと玄米5キロ、それにコーンフレークの大袋を買って貰った。お祖父様は、何も聞かずに買ってくれた。どうやら、私があの銀仮面で、人外の力がある事は母様から聞いているらしい。


  お昼過ぎに、荷物を持って森の中に入っていく。クロとコロちゃんは、付いて来なかった。朝、余程怖かったのだろう。


  コロちゃん達の家の前に行くと、30人位のコロちゃん達が出て来た。玄米の袋を渡すと、年配のコロちゃんが泣いて受け取った。これだけあれば、夏まで大丈夫らしい。コーンフレークの3キロ入りも喜んで貰えた。


  そして一番喜んだのは、ランタンだった。それほど大きくないので、一人でも何とか運べるだろう。昼間、外に出しておけば、4時間以上点灯するらしい。もう光苔の灯りをあてにしなくても良いだろう。


  時々、様子を見に来ることを約束して、家に戻った。丁度お祖母様がホットケーキを焼いている。クロとコンちゃんが尻尾を振って欲しがっている。床が、涎だらけだった。


  お祖母様は優しいから、あげるつもりで多めに焼いていたので、2匹の分もあったが、こんなのばっかり食べていると絶対虫歯になってしまう。


  今度から、無理やり歯磨きをしてやる。


  

北海道の冬は、厳しいようです。

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