8 旅立つ準備を
「そんなわけで、魔法レベルも3に上がったので、旅に出ましょう」
ちなみに光属性だけ、まだレベル2だ。
「そうだね。なんだかんだ、一年間修行しちゃったね」
「ほんとにね。ごめんなさい弱くて」
「ううん。シュガーはがんばってたよ」
「レティもたくさん頑張ったわね」
レティは村では爪弾きにされている。それを聞いてからもう何か月も経ってしまった。
もっと早く強くなれていれば、こんな子供に辛い思いをさせずに済んだのに。
「最後に確認するけど、本当に旅に出ていいのね?」
「うん。シュガーと外を見に行きたいし、お父さんを探しに行きたい」
「長い旅になるわよ?」
「シュガーと一緒ならいつまででもいいよ」
「わかったわ。じゃあ、準備をしないとね」
準備しなければいけないことはたくさんある。
近くの街、わたしの存在、今後の生計だってどう立てていくか。
「冒険者っていうのになるしかないと思う」
「ああ、やっぱりあるんだ。そういうの」
異世界の定番よね。
「ん? うん。あるんだって。街に行けば登録できると思う」
「そうね、それじゃあまずは近くの街に行きましょうか」
「うん。セラっていう街が一番近いらしいから、そこに行こう」
「そういえばレティ、お金持ってる?」
「少しだけなら…この村だとあんまりお金使わないから」
基本的にエルフの村では物々交換らしい。
街に入るのに通行料とか取られるかもしれないし、お金はあっても困らない。
持って行けるようなら持って行くように言っといた。
正直、変化してレティの家まで行きたいんだけど、みんな顔見知りレベルの親しさらしいので、見慣れない人は結構目立つらしい。
わたしの存在のせいでレティが酷いことでも言われたら大暴れしそうなので、自重することにした。
「ねえシュガー」
「ん?」
「村の人達にね、旅に出ること話した方がいいよね」
「うーん…食べ物を分けてくれている人がいるのよね。そういう人には話した方がいいかもね」
「うん…うん。話してくる」
「大丈夫? どうにかして、ついて行こうか?」
「ううん。だいじょうぶ」
出発は明後日。
だから明日話してくるそうだ。
「無理しないでね」
「うん」
明後日の段取りを決めて、今日は別れた。
明日日持ちする木の実でも探しておこうかな。
次の日の夕方。
今日はいつもの場所に集まらなくてもいいと言っていたので、レティは来ていない。
でも、わたしはなんだか心配だったのでここまで来ていた。
「うーーー。レティ大丈夫かな」
心配だ。何か心無いことを言われたりしていないだろうか。
やっぱり様子を見に行くべきだろうか。
「…………ちょ、ちょっとだけ…」
自分も随分過保護になったものだと思いながら、姿を小さくして村の方に向かうことにした。
ヒトに変化しようかと思ったけど、小さいキツネになる方が怪しまれないだろうと思ったからだ。
それに、こっちの方が匂いや耳が効くからね。
こそこそと村の方へ向かう。
しばらく行くと、森を抜け、木で作られた人工物が見えてきた。木の家がたくさんある。他には畑や井戸があるみたいだ。
さらに近づくと、エルフの姿が見えた。当たり前だが、大人エルフもたくさんいる。
レティしか見たことがなかったので、大人のエルフを見たのは初めてだ。やっぱりエルフって美形なんだね。
レティを探すが、この辺りにはいそうにない。匂いで追ってみよう。
こっちかな。
「うーん…ここかな?」
匂いを追ってみると、ポツンと建っている家に着いた。
あんまり手入れしていないのか、草が伸びていて、家の汚れが目立つ。
「窓、窓…あった」
窓から中を覗き込む。
すると、レティの姿が見えた。
荷物をまとめているらしく、テーブルにはごちゃごちゃといろんなものが乗っていた。
あれ全部持って行ったら大荷物じゃないの…。来てよかったかもしれない。
中に入れてもらうべく、窓をひっかく。
「? あ! シュガー!」
レティが窓を開けて入れてくれる。
「来ちゃったの?」
「心配で…」
「平気なのに」
「ま、まあまあ、いいじゃない。それより、荷物まとめてたの?」
テーブルの上の物を見る。
「うん。あれもこれもってやってたら増えちゃった」
「あれ全部はさすがに多いわ。少し減らしましょう」
それからふたりで荷物をまとめた。
お金、火種を出す魔道具、水筒、着替え…確かにあれもこれもって思うと増えてっちゃうなあ。
それにしても魔道具なんてあるのね。
「火属性魔法が使えない人には必需品ね」
「生活魔法で火種出せないけどね」
ハント・ヒートは温めるだけだからなあ。
「…村の人達には話したの?」
「うん。村長さんに話してきた」
村長か。村なんだからそりゃあいるわよね。
「何か言われなかった?」
「別になにも。『わかった。村の連中には伝えておく』って言われただけ」
冷たいなあ。会ったことない人にこんなこと言うのもあれだけど、もう少し何とかできないのかしら。
「平気だよ。シュガーが来てくれたし」
「…旅に出ればきっと、気の合う友達もできるわ」
「そうかな」
レティは良い子だもん。きっとできる。
とりあえず、一通りまとめたころには夜になってしまった。
「これ、わたしが背負っていった方がよさそうね」
「いいの?」
「これくらい軽いからいいわよ」
わたしが背負いやすいように荷物袋を改良しといた。
「それじゃあ、わたしはそろそろ帰るわね」
「泊って行かないの?」
「持続時間がギリギリだからちょっとねー」
寝ている間もスキルは有効だ。
でも今日は動き回ったから一応ね。朝までなら大丈夫かもしれないけど、何かで足止め食らって、ここで元のサイズになるのは困る。
「明日からずっと一緒だから大丈夫よ」
「そうだね。それじゃあおやすみシュガー」
「おやすみなさい」
そう言って窓から飛び出し、森へと戻った。
次の日の朝。
レティは来なかった。
「どうしたんだろう。もう来ているはずなのに」
レティがいつもの場所に来ない。ここが待ち合わせ場所だったはずなのに。
「見に行こう」
姿を小さくし、レティの家まで走った。
昨日来たレティの家にたどり着く。
窓から中を見る。レティの姿はない。
「ごめんレティ」
爪で窓を静かに切り、中に入る。
テーブルの上には、昨日まとめた荷物が置いてある。
家の中を探し回ったが、レティはいなかった。
ただ、
「争ったあと、レティじゃない足跡、それと匂い」
何があったか想像は可能だ。
「待っててレティ。すぐに行くわ」
昨日まとめた荷物を持ち、家から出て、姿を戻す。
こんなに怒ったことなんて、今まであったかな。
昨日ここから森に戻った自分が憎い。




