53 決意
今回は終始レティシア視点です。
シュガーが見張りの手を躱しながら扉の中へ消えていく。そうして、漸くといった具合にレティが見張りの元へとたどり着く。フードを被り、なるべく顔は見えないように。疲れている演技を忘れない。
見張りの一人がレティに話しかけてくる。
「あのキツネは嬢ちゃんのかい?」
「うん……いきなり走り出しちゃって……」
そう言って扉の方を見る。シュガーは無事に中に入れたようで、扉の中へ追いかけていった見張りが戻って来た。
「すばっしこいし小さいから見失っちまった」
頭を掻きながらそう告げる見張りに気づかれないように安堵する。次はレティが中に入らないと。
「あの、中に入って探していいですか?」
「うーん……」
渋る見張りに精一杯お願いをする。ちゃんとお願いすれば少しくらい見逃してくれるだろうってシュガーが言ってたから、ちゃんとお願いをする。
そうしていたら根負けしたのか、中に入れてくれることになった。
「この中にいるのは戦闘を控えた強さ部門や総合部門に参加する魔物たちだ。怖いかもしれないが、刺激したりしないようにな」
一応、従魔だからヒトに対してはそんなに敵意を向けたりしないように躾られているそうだけど、魔物同士ひしめき合っているから、気は立っているだろうと。
ゆっくり深呼吸して、覚悟を決めて中に入る。
「……っ」
一斉に見られているような感覚がする。怖いけど、震えるほどじゃない。この中にはシュガーがいるし、ここにいる魔物はこの後のコンテストでシュガーと戦うのだ。レティが負けたらダメだ。
「シュアリー。帰ろう」
シュガーの偽名を呼ぶ。コンテストの参加者だとバレて、ここに入ったのが不正扱いされたら困るから、バレないように気を付けようとシュガーと話し合って決めておいたのだ。
キョロキョロとシュガーを探して歩き回る……フリをしながら、檻に入っている従魔達を盗み見る。
檻の中には多種多様な魔物達がいる。じっと見つめてくるものから興味を失ったかのように眠りにつくものもいる。
ただ、どの魔物も強そうだ。噂のワイバーンもいるし、一つ目のあれはサイクロプス? 翼の生えた馬……もしかしてペガサスかな。あんなのテイムできるの?
思っていたよりも珍しい魔物がいて驚く。そもそもこんなに大きな魔物に出会うことが滅多にないのだから当然だろうけど。
もう少しサイズの小さい魔物はここにはいないらしいので、コンテストでどの魔物と戦うことになるかはわからない。シュガーがケガをしなければいいけど。
「あ……」
「ん? 見つけたかい?」
見たものに思わず声が出てしまい、すぐ近くにいる見張りに聞こえてしまった。でも、見つけたのはシュガーじゃない。
「ううん。ごめんなさい」
「そうか。早く見つかるといいんだが」
なんでもないように装いながら、見つけたものをもう一度見る。
ワイバーンだ。――さっき見かけた普通のワイバーンとは全然違う。
これは確かにユニーク個体のワイバーンかもしれない。普通のワイバーンの色は濃い緑色だったけど、これは濃すぎて黒に近い。身体も一回り以上大きいだろう。レティに興味は無いらしく、眠った状態から動かないけれど、身体を起こしたら更に大きく見えるだろう。起きてくれれば動作なんかでシュガーみたいに賢いかもわかるかもしれないのに。
鑑定をできないのが残念。
その後もしばらくうろついてみたけれど、ユニーク個体の可能性があるのはあのワイバーンだけのようだ。
目的は達したので、シュガーを呼ぶ。
「シュアリー、出ておいで」
すると、物陰からのそのそとシュガーが出てきてレティに走り寄ってくる。予めこう言えば姿を見せるように打ち合わせ済みだ。
シュガーを抱きかかえたのを確認した見張りの人と一緒に外へ出る。
「もう離すんじゃないぞ」
「はい、ご迷惑をおかけしました」
見張りにお礼と謝罪を述べてその場から離れる。仕事の邪魔をしてしまって申し訳なかったけど、仕方のない事なのでもう忘れる。
人気のないところまで移動してからシュガーに話しかける。
「おかえりシュガー」
「うん、ただいま」
ギューとシュガーを抱きしめてもふもふの毛に顔を埋める。ふわふわしていて気持ちがいい。
「レティ、大丈夫だった?」
「何が?」
しばらくそうしていたらシュガーが尋ねてきた。何の話だろう。
「わたしが中に入った時、すごい殺気だったわ。レティは怖くなかった?」
シュガーは相変わらず過保護だ。でも、この心配のされ具合が心地いい。
「大丈夫だったよ。ヒトにはそんなに敵意を向けないように躾られているんだって」
「そうだったの……レティが無事で良かったわ」
ホッと安心した様子のシュガーはもしかして、怖かったのかな?
「シュガーがあれと戦うんだから、レティが怖がってちゃダメだもん。ね」
「そ、そうね! レティもわたしも強いし大丈夫に決まってるわ」
年下で年上なレティの可愛いパートナー。こう言えばいつだって強がってくれるし、強くなってくれるのだ。
「それで、例のワイバーンだけど……」
レティは中で見つけたワイバーンについて話す。ユニーク個体である可能性が高いことも。それ以外にもいろいろな魔物がいたけど、正直鑑定できないとユニーク個体かどうかの確証は得られない。
「大きさも結構ね……ルーファスさんが狙う可能性はあるわね」
シュガーがお父さんの名前を呟く。
お母さんを生き返らせるために行う儀式、それに必要な無色透明の魔石……お父さんは来るのかな。
会えるのかな。会えたらどうしよう。こんなときじゃなかったら、シュガーのことを紹介するのにな。本当にお母さんを生き返らせようとするのかな。生き返るのかな。
お母さんか……会いたいなぁ。
「レティ? どうかした?」
「ううん。ヴィックさんたちにも知らせておいた方がいいかなあって」
「そうね。泊まっている宿屋は聞いているし、後で行ってみましょうか」
腕の中にいるシュガーに、考え事がバレないように誤魔化す。
シュガーは転生したんだってね。ヒトは死んだら生まれ変わるんだね。
たぶんね、お母さんはもう転生したと思うんだ。だってもう、死んじゃってから三年くらい経つんだもん。
お母さんは生まれ変わって、新しい人生を歩んでると思う。お父さんのことも……レティのことも、きっと覚えてない。
シュガーは前世の記憶があるけど、それは神様が特別にくれたものであって、普通なら覚えてないはずなんだ。
きっとレティにだって前世があったはず。前世のレティの死を悲しんでくれている人がこの世界のどこかにいるかもしれない。でも、レティはそんなこと覚えてない。
もう戻れないんだよ、お父さん。お母さんには会えないの。
お父さんがやろうとしている儀式は、きっとお母さんを生き返らせてくれるような素敵な力じゃないよ。
だから……。
「シュガー」
「ん? なあに?」
「お父さんに会えるかな?」
必ず会いに行くね。
「そうね、きっと会えるはずよ」
「うん……そうだよね」
レティの、大切なパートナーと一緒に。




