32 模擬戦Ⅱ
視点があっちこっち行ってます。
ルース → シュガー → セレーナ → シュガー → ルース → シュガー
になってます。書き直したほうがいいかなって思ったけど面倒なので…ごめんなさい。
「いくぞ!」
「お願いします!」
掛け声と共に模擬戦が始まる。
すぐさまクレアがスキル・隠密を使おうとしたところ…。
「! 鑑定された!」
「魔法無し。隠密と索敵」
どうやらレティシアのスキルは鑑定のようだ。なるほどね。確かに戦闘には使わないけど、情報っていうのは勝負事では大事なものだわ。なかなか便利なスキルを持っているわね。
「ウォーターアロー」
シュガーがクレアに向けて水魔法を唱える。ごく普通の水の矢は、すかさずヴィックが剣で斬り伏せる。シュガーは水魔法も使えたのね。
「水6、風7、土5、魔法攻撃力倍増…?」
「なにそれ怖すぎる」
セレーナもやられたみたいね。反則的な能力に思わずつぶやくシュガー。わかるわ。
もうセレーナ一人でいいんじゃない? って思うときが正直何度かあったもの。言わないけど。
そうこうしているうちに、ヴィックがシュガーの方へ走り出す。あたしはまだ動かない。
それを見たシュガーも前に出るのが見える。
「ウィンド・エレメント」
「ウォーターシェル」
レティシアの風魔法がシュガーに、セレーナの水系防御魔法がヴィックに付与される。
シュガーが振り下ろした爪から斬撃が飛ぶが、剣と魔法防御効果のせいでヴィックに届くことはない。
「ヴィックさん光5、直感」
どうやらヴィックも鑑定されたようだ。少し前にレベル5の光魔法を覚えていた。確か身体能力を上げる魔法だったはず。仲間からしたらなかなか頼もしいけど、敵からしたら厄介なことこの上ないでしょうね。
!
「ルースさん火5、耐性」
あたしも鑑定されたようだ。そんなに不快感がしなかったのは、あの子のスキルレベルの高さか、信頼か。
スキル・耐性は昔に手に入れたものだ。
毒や痛みに強くなるもので、冒険者としてはそれなりに重宝するスキルだ。まあ、怪我は普通にするから、却って大きな怪我に気が付きにくくなったりして困ったんだけど。
それより、そろそろあたしも参加させてもらおうかしら、ね!
●
やっぱり強い。ステータスも経験も、今のわたし達とは比べものにならない。
でも、だからといって諦めたくない。
ヴィックさんとルースさん二人がかりで攻撃されているため、避けることしかできていないけど、そろそろ現状を打破したい。
次の手を使ってみよう。通用するかな。
「アースウォール」
「む!」
目の前に土の壁を出す。この一瞬のスキに高くジャンプして上空へ。
壁はすぐにヴィックさんに斬り捨てられたが、問題ない。
上空でヒト型に変化する。問題なく服も着ている。
「あら、服を着たまま変化できるようになったのね」
「良いものが手に入ったので」
そのまま上空で尻尾を2本出す。
この服は想像以上に便利で、使用者の体型に合わせて大きさがある程度調整されるのだ。つまりこのまま尻尾を出しても平気ということ!
自分じゃ見えないからどんな風になっているのかさっぱりだけど。
レティに見てもらったら「…まあ、平気だよ」という返事をもらったので信じることにした。むしろ尻尾と耳を常に出しておいて、獣人として過ごす方が楽なんじゃないかとも言われた。いい案だと思ってる。
それはさておき、2本の尻尾を伸ばし、重く、硬く、二人に叩き付ける。
ドゴォン!!
その衝撃で地面が割れた。わたしにもオーガ並みの力はちゃんとあるようだ。
二人は難なく避けている。当然か。
あの二人から少し距離をとって地面に降り、中距離から尻尾を鞭のようにしならせて攻撃する。
やっぱりヒト型の方が動かしやすいな。
まあ、人間として二十年近く生きてたんだから当然よね。まだ魔物生は2年も経ってないし。
生まれ変わったし、人間じゃないっていうのもちゃんと理解してる。魔物の身体を嫌とも思ってない。
でも、それとこれは別よね。
2本の尻尾を手足のように使い、叩き付け、薙ぎ払い、突き刺す。レティが言ったように手足のように使えば2本でもそれなりに動かせる。
でも、ヴィックさんもルースさんも危なげなくさばいている。
地面すれすれを薙ぎ払うと、ジャンプして避けられる。
突き刺せば剣で軌道を逸らされる。
叩きつければ避けられて尻尾に攻撃される始末。
たまにレティからウィンド・エレメントが付与されているので、それで手数が一時的に増えるが、運動量を増やして体力を削っているくらいにしか活かせていない。
レティの姿を確認する余裕はあまりないが、魔法が付与されるということは、むこうはまだ無事ということだろう。
そう祈るしかない。
硬くしているので痛みはあるけど斬れたりはしていない。でもじわじわとダメージは溜まっている。
もう少し太くしたりもできるが、その分遅くなるので使いどころに悩む。今はやめておこう。
とりあえず、次だ。
「ストーンバレット」
手をかざし、魔法を唱える。ヒト型になった理由がこれだ。
元々動きやすいというのもあるが、これなら両手が空くから魔法にも集中できる。もちろんキツネの姿でもできるけど、イマイチ精度が悪いのだ。
飛んでいく石の礫は剣で叩き落されるが、すかさず尻尾で薙ぎ払う。
ヴィックさんには避けられたが、ルースさんは避けきれずに吹き飛ぶ。ただ、防御はされたようでダメージは少なそうだ。
「やるじゃない!」
表情がなんだか嬉しそうだ。
むしろ火をつけたのかもしれない。
●
「意外と粘りますね」
シュガーさんとヴィックさんとルースさんが向こうで戦っている中、私達は魔法対決をしている。レティシアさんの魔法が私のところに届いてくることは、今のところない。
全て打ち破り、彼女の元に着弾している。
ギリギリ避けているのだから、瞬発力はあるのでしょうね。
「ウォーターアロー! ウィンド・エレメント!」
連続して魔法を唱えるのは、簡単そうに見えて難しいことです。それを行っているということは、彼女にはかなりの才能があるということでしょう。
きっと、私くらいのレベルには、すぐに追いつけるでしょう。
でも、今はまだ勝ちを譲るつもりはありませんよ。
ウォーターアローを避けて、魔法を唱える。
「ウィンドカノン」
エアショットの上位互換、レベル5のウィンドカノンは殺傷力はそこまででもないですが、速さ、大きさはなかなかのものです。
私がスキルを使いながら唱えれば、尚更。
ゴォ!
バキン!
「あああああ!」
どうやら避けきれず、左腕に当たったようですね。殺傷力は低くても骨くらいは折れます。痛いでしょうね。
こんな子供に怪我をさせるのは不本意ですが、模擬戦ですから仕方ありませんね。
「降参しますか?」
「しない!」
強い子ですね。
「では……!? これは!?」
●
「シャイニングアロー!」
「フレイム!」
ヴィックさんとルースさんが魔法を唱える。
レベル3の光の矢はわたしも覚えている。といってもつい最近だけど。矢の速度がそれなりに速いので避けるのが大変なのだ。そして当たると熱い。地味に怖い魔法だ。
フレイムは確かファイアーボールの上位版の魔法だったはず。大きな炎の玉が飛んでくる。速さはそんなでもないが、大きいし熱いので大きく避けなければいけない。
なので私の選択肢は…空へ逃げる。
尻尾をバネのように利用し、高く跳びあがる。
攻撃するのも忘れない。
「ウォーターアロー」
何本かの水の矢を空から降らせる。
おかげで追撃を防げたようだ。
着地を狙われないよう、尻尾を地面まで伸ばして跳ねるように移動する。尻尾が力持ちで助かる。
しかし、このままでは負けてしまう。なにせわたしのスキルには持続時間があるのだから。その前にどうにかしないと。
レティはどうだろう、あの子は大丈夫だろうか。
そうしてレティを見た瞬間、レティが吹っ飛ぶのを見た。
わたしの耳が、彼女の骨の折れるバキンという音を聞いた。
『敵』を見る。
あのエルフは何をしている?
●
「「「!!!」」」
シュガーからどす黒いオーラが噴出した。
シュガーを見る。視線の先はセレーナだ。まずい。
シュガーの尻尾が器用に曲がり、反動でセレーナの方へ撃ちだされた。
あたしもヴィックもすぐに向かうが、間に合わない。
セレーナはシュガーに気が付いている。しかし、シュガーの方が早い。
セレーナがシュガーに殴り飛ばされた。
「うっ…」
「セレーナ!」
「セレーナちゃん大丈夫!?」
セレーナに駆け寄る。攻撃はなんとか腕で防いだようだが、防具にヒビが入っている。骨に響いていなければいいけど。
いつの間にかクレアもいる。さすがに心配になったようだ。
「あれは…死の威圧か」
ヴィックが離れたところにいるシュガーを見ながらつぶやく。シュガーは今レティシアの傍にいる。
あれはヒール? シュガーは光魔法も使えるのね。
「闇魔法の素質はあったみたいだけど、まさかここで開花しちゃうなんてね」
やはり、シュガーの逆鱗はレティシアのようだ。信用していないわけじゃないんだろうけど、感情としては抑えられないのだろう。レティシアの怪我であれほど怒るなんて。
闇魔法は習得すると強力な力を得る。その代わり、精神が汚染されるかのように憎悪が湧き上がると聞く。
あのまま飲まれてしまえば、そのときは…。
●
「レティ」
「シュガー…?」
レティに駆け寄り、しゃがみ込む。
「ヒール」
レティが抑えている腕に回復魔法をかける。
「ん、痛み引いてきた」
「そう…」
立ち上がって自分の両手を見る。
わかる
力が濁流のように溢れてきている
「あは」
素晴らしい
これは
流された方が楽しそう
「あはは!」
皆殺しにしてやろう。高揚感が堪らない。ズタズタにしてやる。この力があれば誰にも負けはしない。潰してやる。よくもレティを。必ず殺してやる。この世の全ての害悪が消えればレティは一生安全だ。
全員死ね!!!
早速『敵』に向かって走り出そうと足を踏み出す。
「シュガー!」
閲覧ありがとうございます。
次回からはちゃんとシュガー視点に戻る…はず。




