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20 ヴァイスフックス

 門番に言われたように入って右に向かう

 王都は下流区、中央区、上流区の三つに概ね分かれている。


 門から入ると左右と真っすぐに道が分かれていて、下流区は左右の道に行くとお店や住居、冒険者ギルドなど、平民向けの建物が並んでいる場所になっている。


 門から真っすぐ行くと左右に道が分かれており、そこは商業ギルドや少し高めのお店などがあり、平民の富裕層や下位貴族などが利用しているのが中央区。


 さらに真っすぐ行くと貴族街になっているらしいが、わたし達が入った門からは真っすぐ進んでも行けない。

 貴族専用の門があり、そこから貴族街に直結した道が作られているそうだ。

 まあ、じゃないとただでさえ混雑した門がさらに混雑しそうだものね。あとはまあ、貴族の矜持とかいろいろあるんでしょう。


 その三つの区域以外には、下流区と外壁の間に空間があり、そこの一部がスラム街になっているそうだ。

 レティに近づかないように伝えておかないと。




「セラの冒険者ギルドより大きいわね」

「うん。すごい」


 セラの冒険者ギルドも大きかったけど、やっぱり王都の方が大きい。

 中に入ると、いくつかある受付の全てに列ができている。なかなかの込み具合だ。

 今日ここに来た理由は、来る途中で手に入れたウルフの肉やら薬草やらを売るのと、従魔も泊まれる宿について聞くためだ。

 レティが列に並ぶ。わたしはというと、非常に目立つ上に場所を取っているので、端っこで大人しくしている。

 もちろん、レティから目を離すことはない。


「デカイ魔物だな」

「なんて魔物だ?」

「誰の従魔なんだ」


 などなど声がするが、無視である。

 レティが無事に受付を済ましてわたしのところに来る。

 すると。


「あのエルフの子供がテイマーなのか?」

「すげえな。スキルかなんかか」


 どうやら馬鹿にしたりしてくるやつはいなさそうだ。

 何事もなく、冒険者ギルドを後にした。







「はあ、忙しい」


 もうすぐ寒冷期を迎える、ここチェルテラの王都は、冬越えのための蓄えを購入するために連日冒険者が依頼を受けに来る。皆物資を購入するための金を今稼いでおきたいのだ。

 おかげで俺も忙しい。


 コンコン


「入れ」


 ガチャリ


「ギルマス。こちら、頼まれていた書類です」

「ああ、助かる」


 入ってきたのは受付嬢のイルゼラだ。頼んでおいた書類を持ってきてくれたようだ。

 いつもならこのまますぐに部屋から出て行くのだが、その様子はない。

 その場合は、何かしら情報を持ってきている時だ。受付嬢をしていると、いろいろな情報を見聞きするからな。


「なにかあったか? Aランクパーティが帰って来たか?」

「あの方たちはまだ戻ってきてませんね。でも、すごかったんですよ」

「…なにがだ」


 こいつはいつも感想から入るんだ。要件から言ってほしい。

 それなりに受付嬢として経験を積んでいるのだが、こういうところがあるんだよなあ。


「先ほど、従魔を連れたテイマーがギルドに来たんですよ」

「別に珍しくないだろ」


 テイマーは意外と多い。ここから南にあるマルセール国の王都はテイマーの都と言われているくらいだからな。


「連れている魔物がすごいんですよ」

「南に生息している魔物でも連れていたのか?」


 まあ、それもそんなに珍しくはないが。マルセールで従魔コンテストが行われた後、この王都についでに訪れるやつがいないわけじゃない。そういうやつの中には南の暖かい地域に生息している魔物を連れていることもある。


「逆です逆。ヴァイスフックスを連れていたんですよ」

「は? ヴァイスフックスってあのヴァイスフックスか?」

「そうです」

「いや…ヴァイスフックスって…そんなのテイムできるものなのか?」

「知りませんよ。でも、連れていたからできるんじゃないですか?」


 ヴァイスフックスっていったら、一年中雪が降るような寒い土地にしか生息が確認されていない、かなり希少な魔物だぞ。

 ヒトがそんな場所に長時間いるのも難しい上に、ヴァイスフックスは賢くて警戒心が強い魔物だ。人前になんて滅多に姿を見せないだろう。

 それをテイムできるなんて…一体どんなテイマーなんだ。


「有名なテイマーなのか?」

「11歳のエルフの女の子が連れていましたよ」

「は」


 いやもう…ええ……


「…スキルか?」

「スキル報告は自由ですからね。何のスキルを持っているかはわかりません」


 冒険者登録の際に、任意でスキルを申告できる。まあ、申告するやつは少ないが。情報は厳重に守られるが、それでも知られたくないやつは多い。

 それに、申告した際のメリットはギルドからスキルを使った特殊な仕事を請け負ってほしいときに指名依頼を出すことがあるってくらいだ。そういうことは少ないから、あまり旨味がない。だから申告しないやつの方が多いのだ。


「後ろ盾とかありそうか?」

「見た感じ、そういうのはなさそうですね」

「そうか…」


 ヴァイスフックスのことを知っていれば、どれだけその従魔が貴重かわかる。しかも、連れているのは子供だ。後ろ盾もないとなると、狙われやすいし、かなり危険だな。

 ただ、ヴァイスフックスのことを知っている者は少ないだろう。発見されたのはかなり昔だ。知っているのはよほどの魔物好きか変人くらいだろうな。


 でも


「一度会っておきたいな」

「そんなこと言って、本当は近くで見てみたいだけでしょう」

「うるさい。冒険者を守るのもギルドの仕事だ」

「はいはい」

「ええい。もういい、仕事に戻れ」

「わかりました~」


 イルゼラが部屋から出て行ったあと、今後について考える。


「仕事が増えたな…」


 忙しい時期にさらに忙しい事が舞い込んできた。

 だが


「ヴァイスフックスか…」


 まあ、一目くらい見てみたいよな。







 冒険者ギルドを出たわたし達は、ギルドで教えてもらった宿に来ていた。


「ここ?」

「そうみたいね」


 セラの宿屋は半分が納屋だったが、ここは違うみたいだ。あるにはあるみたいだけど。そんなに広くない?

 宿屋自体は綺麗な作りだし、全体的に大きい。

 中に入ると、あまり物は置かれておらず、シンプルな感じだ。

 女性の従業員が出迎えてくれる。


「いらっしゃいませ。お泊りですか?」

「うん」

「食事付きで一泊800Gになります」


 セラのときの宿屋に比べると大分高い? でも食事付きだし、こんなもんかな。

 レティがお金を渡す。


「お食事は隣にあるレストランで無料でいただけますので、いつでもご利用ください」


 そう言って食事券と書かれた札を渡された。どうやらそこで従魔も一緒に食事が可能のようだ。

 受け取り、部屋に案内される。従魔はどうするのかと思ったが、なんと同じ部屋で寝ることができるという。


「うれしい」

「それは良かったです。お嬢さんの従魔は少し大きいですが、入れないほどではないので大丈夫かと思います。もし気に入らないようでしたら、もう少し広い納屋がありますので、そちらをご利用ください」


 まあ、わたしは入れれば大丈夫だ。

 普通の従魔だと狭いと気に入らないとかあるのかね。



「ごゆっくりどうぞ」


 案内された部屋は、ドアが大きいし、部屋も広い。わたしでも問題ない広さだ。

 ベッドの他に床にマットがひかれていて、従魔はそこで眠れそうだ。


「シュガーと同じ部屋」


 レティが嬉しそうにしている。

 セラでは別々だったから、こそこそと夜中に潜り込んだりしていたけど、ここではそんなことをする必要はない。堂々と一緒にいられる。

 わたしもレティから離れずにすむのは安心する。


「ここも従魔が入れるお風呂があるみたいね」

「! 一緒に入ろう」

「はいはい」


 ふたりでお風呂に入り、一緒のベッドで早めに就寝した。



ようやく20話です。

閲覧ありがとうございます。

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