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憤怒の代行者  作者: KKSY
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 長く離れていたので、細かい設定がうろ覚えです。初期設定はきちんと覚えているというのに。

 温泉街に来てから三日。魔王様と侍女はふやけていた。


「はぁー、極楽極楽」


「あぁ~、この電流風呂良い感じですー。体の筋肉が解れていく」


「……」

「……」


「ほう? では少しお邪魔して……。おぉー、これはこれは、よきかなよきかな」


「ちょっと魔王様ー、体大きいんだから少しは遠慮してくださいよー」


「仕方ない、ほぅれー」


「わはー」


「……あの、この状況は一体」

「……知るか、俺はもう慣れた」

「ソデスカ」

「そうだ」


 場所は温泉宿のひとつ。電流を帯びた湯を引き、疲労回復の効能がある有名な店舗である。ただし立地の関係で混浴である為、男女でよく揉めている模様。勿論電流のない風呂が男女別で用意されているが、それでは高いお金を払って来る意味がなく、日夜店主とその女房が口喧嘩を繰り広げている。


 そして現在、ロランと少年の眼前には電流風呂に浸かる魔王様と、その膝上に座る侍女の姿があった。


 ふたりの視線に気がついた魔王様がむっとする。


「なんだ貴様等。さっきからちらちらと、見るならはっきり見るが良い、ほれ」


 と言い、キャンのタオルをぺろーんとひっぺがす魔王様。がしかし、当のキャンは無反応どころかぽへーっとしている。完全に逆上せている模様。


 それも仕方ない。このふたり、ロランと少年が来る半日前から入っているのだから。


 語弊がないように言うと、温泉宿巡りをしていて累計で半日なのだ。完全に温泉という文化にドハマりした模様。




 先日、街の有名人となってしまったキャンは、野次馬にたかられて観光どころではなくなってしまった。その為、魔王様とロラン達は別行動を取り、宿だけは共にする生活を送っていた。


 合流する度に、魔王様と侍女は当たり前の様に風呂を一緒にしているのだから最早慣れてしまっている。ロランは早々に受け入れ、年頃の少年は未だに顔を赤くしていた。と言うよりも蒼白にしていた。


 何故かと言うと、初々しい反応を示す少年に、悪乗り三人組がやらかしたと言う他ない。なんせ、タオルで隠さずに三人で手を繋ぎ少年を囲うという意味不明な行動に出たのだ。それも、超良い笑顔で、である。イジメか。




「な、なんでキャンさんはそんなに恥じらいがないんですか!? 歳は僕とそう変わらないでしょう貴女!」


 と少年。頬を赤くしながら顔面蒼白という芸当を見せながらの極一般的な意見。が、キャンの見た目は少女ながら、生まれてからの歴史は長い。更には、人間などそこ等の生ゴミ程度の認識である。


「あ?」


 風呂場に氷河期が訪れた。


「冷やすな馬鹿者」


「あ、すみません」


 溶けた。


「……なんだろう、今温度差が視認できた」


「安心しろ、俺もだ」


 諦めたようにため息を吐き、体を洗ったふたりは電流風呂にお邪魔する。鋼の様な体のロランともやしの様な少年が並ぶと対比が酷い。思わず魔王様は哀れに感じついつい口を出す始末である。


「貴様、少し鍛えてやろうか」


「うえっ!?」


「へぇ」


「……」


 少年吃驚仰天。ロランもビックリ興味津々。キャンもビックリ般若顔。


「……魔王様」


「うむ?」


「わざわざ魔王様が手を煩わせる事もありません。気になるのでしたら私が鍛えます。それはもう魔王様の言葉にはいしか言えなくなるまで鍛え抜きます」


「ほう」


「怖いよこのひと! 助けてロランさん!」


 ロランはにやにやと厭らしくにやけるだけで何も言わない。


「大丈夫ですよ」


 涙目で震える少年に、キャンは慈母の様な微笑みと声音で言う。


殺戮兵器(戦う男の顔)にしてあげますから」


「怖さかさ増し!!」


「まぁ、少年の人間性はどうでも良いとして」


「良くないよっ。全然良くないですよっ! このままだと僕、人格崩壊させられちゃう!」


「それはそれで見てみたいと思う自分がいる」


「ロランさーん!!??」


 ロランに掴み掛かり、なんとか助けてもらおうと訴えかける少年だが、当のロランはケタケタ笑うのみで助け船を出さない。


 まるで、友人に意地悪でもするように。


「しかし、妙な組み合わせであるな」


「俺もそう思う」


 ロランは、武芸者という関係もあり学習能力に長けている。言語の習得も早く、現地という環境もあり日常会話程度なら問題なく話すことが出来ていた。


 それでも、ロランと少年が仲良くなる事は魔王様的に予想外で、意外にも思う。元々ロランは人当たりが良い人物である。加えて少年は貴族ではない。


 何事にも真っ直ぐなロランと、すれていない少年は相性が良いのだろう。


「……滅ぼし甲斐のない奴等め」


 そう、つまらないと吐き捨てる。


 とその時、脱衣所へ続く戸がガラガラとスライドした。


「あれま、ひと居るのか。お邪魔するよー」


「うむ」


 そこから、ひとりの青年が入ってきた。黒髪に、野性味を帯びた瞳を持つ筋肉質な人物。彼は洗い場で一通り体を洗うと、躊躇う事なく魔王様の隣へと腰を落ち着ける。


「あぁー、やっぱ実物は良いね~」


 ぐでぇー、と顎まで浸かる青年。ひとつ大きな欠伸をし、余程疲れているのか、瞼が半分程降りていて、今にも居眠りしてしまいそうである。


「ほれ、寝るでない若いの。寝ても起こさんぞ」


「えぇ~、タクさんは長旅でお疲れなのです。放っておいてもらっていいから、眠かせ、て……」


 魔王様の忠告も聞き入れず、限界が来たのか静かに眠り始める青年。寝息は穏やかなもので、眠っているというのに姿勢も安定している。余程でなければ溺れる事もないだろう。


 腹も空いてきたので、長風呂を切り上げて四人は脱衣所へと移動する。放っておけと言われたので、青年はそのまま寝かせたままであった。


「あ、そういやマオウ。明日も風呂だけなら山登らね?」


 唐突に、ロランは提案してきた。筋肉の具合を確かめているロランの隣でこれ見よがしにマッスルポージングをしていた魔王様は少し考えてから返答する。


「不死鳥か」


「そそ。燃える鳥、死なない鳥、永遠を生きる鳥。もしも実在すんならよぉ」


 そこで、ロランは邪悪な笑みを浮かべる。


「一回ぶっ殺してみたくねぇか?」


「ふむ。殺す、か」


 呟いて、魔王は遠い目をした。何か引っ掛かるものを感じ、それを思い出すようにしばらくの間静止する。


 かつての彼女との約束。内容は鍵が掛けられたように思い出せないが、とてつもない疼きがある。同時に、少しの悲しみと、怒り。そして、殺意。


***


 むかしむかし、ある所にひとりの研究者が居ました。


 目が覚める様な赤く輝く髪を伸ばした、綺麗な女性でした。


 彼女は故郷である村を離れ、首都に腰を据えました。


 日々を、研究の為に費やしました。


 ある時、彼女に不幸が降り注ぎました。


 彼女の故郷に魔物がやって来たのです。


 村は崩壊し、首都に居た彼女以外の村人は死んでしまいました。


 彼女は怒りに身を焦がしました。彼女は憎しみに囚われました。彼女は悲しみに暮れました。


 そんなある日の事です。


 彼女は不思議な男女の二人組に出逢いました。


 血の様な赤が印象的でした。


 男は言いました。魔族に成らないか、と。


 男は魔王でした。魔を統べる王。人類はそう教えられていました。


 けれど、彼女は魔王と言葉を交わす内に気づいたのです。


 目の前の男は、正しく王なのだと。


 魔王は言いました。貴様が真実を知った時、また同じ問を投げる、と。


 こうして、不思議な二人組は彼女の助手になりました。


 二人と過ごす内に、彼女は怒りは和らぎました。彼女の憎しみは薄れていきました。彼女の悲しみは、心のずっと深い場所に沈殿していきました。


 そうして、真実を知った彼女は、魔王を哀れみ、魔族に同情し、人類の罪深さに潰れてしまいした。


 彼女は、ひとの道から外れ、呪われた輪廻に加わりました。


***


 手入れを怠り、ボサボサになった赤い髪を掻きむしりながら、ロサンティーヌは一枚の紙に目を走らせていた。

 その後ろで、ゴーレムが忙しなく部屋の中を歩き回っている。

 乱雑に積み重ねられた紙の束を整え、埃を掃き、ゴミを捨てる。ゴーレムにしては精緻な作業を苦とせず、まるで人間の様に動く土塊。

 それもその筈、彼女の回りを世話するゴーレムには人間の魂が入っている。それは魔王の怒りを買い、死して尚こき使われる愚かな魂だった。

 魔王城の一室を研究室として利用し、彼女は日夜研究に明け暮れていた。

 彼女の得意とするゴーレムの魔術。魔王から課された魔物の研究。そして、ゴーレムを見て興味を持った魂の研究。


 魂の研究を進めていく内に、分かった事がある。

 人類に輪廻転生という概念は存在しない。

 魂は死んだ体と共に地へと埋められる。

 だから生まれ変わり等は起こり得ない。

 だが魔族は違う。

 死んだ体から魂が弾き出され、天へと還る。そこで女神と会話し、改めて肉体を得て地へと戻る。


 少なくともロサンティーヌの前世はそうらしい。


 先程、彼女が目を走らせていた紙に綴られているのはロサンティーヌの魂の記憶だ。

 勇者に挑み、そして敗れ、女神と紅茶を飲み交わしたとある。


「……はっ。笑える」


 紙をくしゃ、と丸めて投げ捨てると、すかさずゴーレムが拾う。

 革張りの椅子から立ち上がり、凝り固まった体の筋肉を解していく。


「ふぅ……。先代の魔王は神を殺して、大願を果たした。女神は死んで、じゃあ、死んだ魔族の魂は何処へ行く?」


 呪われた輪廻は崩れていた。先代魔王がその手で破壊したからてある。

 女神亡き後、魔族は滅びるしかないのだとしたら、魔王様の誓いはどうなる。記憶を引き継げる魔王は知っていた筈だ。分かっていた筈だ。魔族に未来がない事を。

 ならば、どうして魔王は誓いを立てたのか。


 そこまで考えて、ある事を思い出した。


「人間を魔族にするのも、また繁栄、か」


 魔王について、魔族について、果ては魔術についてもロサンティーヌは何も知らない。

 魔王城の図書館に、彼女の求める叡知は無かったのだ。


 もしも有るのだとしたら、図書館の開かない扉が怪しい。


「うーん。もうちょっと頑張ってみますかな、と」


 ロサンティーヌは研究室を後にし、図書館へと向かった。

 開かずの間を、開ける為に。

 魂の扱いについて。

 注意、ナチュラルなネタバレあり。

 魔族以外の魂は体と共に地へと眠ります。転生とかないです。生まれ変わりもないです。

 あるのは魔族と魔王と侍女と女神とラスボス(予定)だけ。

 なんでかと言うと、女神が思い付きで魔族にだけ転生システムを付けたから。尤も、先に下界に降りた魔王が羨ましくて色々と余計な事をした結果ではあるけれど。

 魔族の魂は魔王が初代魔王になる前に創った特別製。

 本編でロサンティーヌが転生について悩んでますけど杞憂です。産めば転生システムにストックされている魔族の魂が魔術****によって徴収されている*を消費して肉体に収められます。

 魔王と女神が創った魂にだけはラスボス(予定)は何もしません。寧ろ守ります。手を出そうものなら絶対に赦さないでしょう。

 何故ならラスボス(予定)は【ここから先は自主規制されました】

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