玉璽と権力
は~い、わたしは絶賛魔王さまの王宮内に潜入中で~す。
恐らく警備を固めているのはガチの選りすぐられた精鋭の近衛兵たち。
きっとキビキビ動き回り、不審物や不審者を見つければハチの巣をつついたような騒ぎになることでしょう。
そして不審なセールスマンなど見つかり次第に良くて牢獄、まあ普通にあの世行きになるでしょう。
幸い此処の主との秘密アポはありますが、それは見つからずに入り込む事が前提。
いかがわしい物を売りさばく訪問販売が来たとして、それを母親に見つかったら?
『知らぬ、存ぜぬ。追い返せ』となるのは必定。
『マオ、君の任務は王宮警備兵が警護する中、一度も見つからず不審な痕跡も残さずに潜入し、王宮最奥に居住している魔王さまに面会することだ。ステレス迷彩無しの完全サブスタンスで当然非殺傷だぞ』
等と脳内少佐が命令を発するような状況である。
当然、警備兵は2クラス先も見えない近視兵やエロ本にホイホイ釣られる性持て余し兵ではないし。
自分以外誰もいない事を不審に思わないくせに仮眠台で薬で熟睡してる奴に即座に気付く微妙な警戒力を持った連中ではない。
仮想世界でそんな連中が守る拠点ですら、ランボープレイで潜入(笑)しているわたしがどうするって?
答えは”ダンボール”だ。ダンボールみたいな箱に隠れていれば見つかることはない。
もちろん、ダンボールがいきなり道端に現れたら完全に不審物扱いで爆破処理されても文句を言えん。
ダンボールが歩くなどもっての他だ。変態扱いされてひと際ヒドイ拷問を受けるだけである。
だが警備の手により目的地に運ばれ、中身を検められる事もない。
そんな”ダンボール”があれば、どんなに厳重に警備された場所であっても、誰でも潜入など容易くできるのだ!
わたしはそんな箱の中に隠れ、今まさに魔王さまの居室に運ばれる事で順調に潜入している。
いや~精密機械だと丁寧に扱ってもらって移動が楽ですな~
そうこうしているうちに目的地に着いたようだ、耳を澄まして周囲の音を慎重に聞き取る。
魔王様とその側近なら見つかっても問題ないが他の人間の手が入っているのがいると台無しだ。
慎重にならざるを得ない。
う~ん、このダンボールの欠点は周囲を観察することが全くできないことだな。
「ここには僕以外入れないから出てきても大丈夫ですよ」
等と考えていると、外から声をかけられる。
え~、なんでタネがバレてんの? いやバレずに密談することが目的だからこれがベストなのか?
ええい、ままよ。
レバーを操作するとチェス人形の台座がせり上がる。
人工知能など存在しない世界で、達人のようにチェスを指す人形の正体はなんと(・・・)!
中に人間が隠れて人形が操作することで成り立っていたのだ!!
えっ何それ詐欺じゃない? 出鱈目じゃねえか?
失敬な! 中の狭い空間で操作パネルをコントロールし続ける事がどれだけ大変か分かるか!!
はい、その通り。これはカラクリではなく手品で御座います。
などと反発の言葉に対する返しを色々考えていたのだが。
魔王様はこのカラクリの本質が手品だと気づいていたようである。
改めて魔王様を見ると、随分と若い気がする。
というか商館でのお披露目式の時控室でチェスを指した小姓だった。
もしかして、別の部屋に連れて行かれた?
部屋を見わたすと、最良の調度品が小奇麗にまとまり、さながらモデルルームみたいな部屋である。
ところどころに置いてあるカラクリの品々がやや趣を損なっているような気がするが、それ以外には生活感が全くない。
「心配しなくても僕がクルルベラその人だよ。また会ったね、お姉さん。いや大陸最東部で勢力拡大中のマオさんと呼んだ方がいいかな」
「いつからこの人形の仕掛けにお気づきに?」
「昨日君と対局したときだね。人形の打ち筋と全く同じだった。それに展示会でも見せてもらったけど中のカラクリは無意味に複雑に作ってあったけどその実、意味を持たないモノがほとんどだった。だから隠された何かがあるんじゃないかとは思っていたんだ」
ちくせう、カラクリジャンキーの目を誤魔化すことは出来んかったか⋯⋯⋯
「でもまあ、あの時君と対局しなければ人形が意志を持ちチェスを指したと言う話を信じてたと思うよ。そのぐらいあの人形はよくできていた」
「お褒めの言葉をありがとうございます。うちの職人たちも喜びますわ」
取りあえずの挨拶に満足したクルルベラは台の上の杯に手を伸ばし茶を口に含む。
「それで、イケイケ新興勢力のマオさんはそんな風に特に執務もなく、権力もないこの”魔王”クルルベラに何の用なんだい?」
「わたしはあなたが望んでいる物を提供することができますわ」
「僕が望んでいる物? 何かな?」
「”力”ですよ陛下」
「力⋯⋯力ねえ? 僕にはスレイジ公の騎馬軍団という心強い力がある。彼に庇護されているのになぜ僕が力を求めるんだい?」
「なるほど、彼はあなたの”権威”を重視されていますね。あなたの権威をうまく使えば利益を得られると彼は知っている。では、必要無くなったら? あなたに形だけの忠誠を誓うのも面倒だと感じたら?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「あなたにとってスレイジ公とは何ですか? 信用が置ける人間? 同じ文化を共有する人間? 判子を押す紙を送ってくる人間?」
クルルベラは戸棚から杯をもう一つ取り出しわたしに茶を注ぐ。
「お客に茶も出さずに済まないね。こういう事には慣れてなくてね」
「いえいえお気になさらずに」
「そういえば、力といったね。スレイジ公の力を不要とする力⋯⋯⋯それは君の国がスレイジの末端部隊を壊滅させた力かい?」
「⋯⋯⋯よく知ってますね」
「時間だけはあるからね。これで言う事聞いてくれる人はそれなりにはいるんだ。僕が生きていることで得をする人間は多いけど損をする人間はあまりいないからね」
「君の商品を見せてもらおうか。戦闘の専門家を打倒したという力を」
マオは輸出用に調節された火縄式マスケット銃を人形から取り出し見せる。
ストックを切り落とし、少し銃身を切り詰めた銃だ。専用の銃剣を装着することができる。
精度と射程は多少犠牲になったがそんなことでこの銃というものの本質はいささかも失われない。
熟練の剣士と素人の銃士が戦えばどうなるか? 10回戦えば6回ぐらい銃士が負けるだろう。
では熟練の剣士と素人の銃士が戦えば? 素人は1・2回勝てればよい方なのでは?
騎馬はもっと単純だ。
スレイジ公は今いる騎馬兵力を練度を保ったまま増強することは不可能だ。
損耗を出すたびに彼の軍団は縮小し弱体化してゆく。
そこらの民兵を徴集しても槍では騎馬突撃の圧力に耐えられない。
逃げ出し、背中から刺され、踏みつぶされ轍となって横たわることだろう。
騎馬もそう確信しているから突撃の足を緩めることはない。
では銃があれば? 銃があればどうなる?
騎馬兵には『死ぬかもしれない』という認識が生まれ突撃の精彩さを失い突撃は失敗する”かも”しれない。
まあ何にせよ銃の本質は、鍛錬一生ものの近接スキルを有象無象を集めただけで無力化できることだ。
魔王陛下はスレイジ公という粗暴な貴族の兵力に頼らなくても軍事力を獲得できる可能性が生まれた。
歴史の流れではそれも紛争を制した者が力と技術を貯えることで成り立つ道だが⋯⋯⋯⋯
わたしという”工場”があってわたしという”スポンサー”があれば意志があるだけで革命は成り立つ。
王権が暴力に対して革命する。なんだかあべこべな話だな~と思っているとクルルベラは銃をみて
「クロスボウよりも単純な構造だな。これで鎧を貫く性能を持たせれるのか⋯⋯⋯引き金を引くだけで」
「でっ君はこれを僕にどれだけ売り込むことが出来るんんだい? スレイジもバカじゃない。この町に入る物資はほとんど奴の検問を通過するそんなに大量に通過させることは出来ないよ」
「そこは我々の手腕をご覧あれ」
(゜∀。)y─┛ やっと本格的に陰謀を進めることができるZOY




