ある関所役人の一日
レンダックに向かう馬車道。スレイジ公の命令でレンダックに入る荷物は検められる事になった。
関所の管理などどれだけ荷を通すかによって稼ぎが決まるというのに上から迷惑なことである。
ここ最近レンダックにはいる荷が増えたことと何か関係があるのかもしれないが⋯⋯⋯⋯。
スレイジ公は王都で何か問題が起きるとでも思っているのだろうか?
彼の自慢の騎馬軍団を蹴散らそうと思ったならばその数倍の槍や剣が必要となる。
レンダックには確かに機械職人はいるが大量の剣や槍を作れるような鍛冶場はない。
他でもないスレイジ公が自前の鍛冶場でマカイ内部の武器製造を行っているからだ。
他の地域からかき集めたとしても大した量にはならないだろう。
スレイジ公は何を恐れているのか⋯⋯⋯⋯⋯?
今日も一日、精神を削るような関所の仕事が始まった。
午前、ベネクのレガリア商会の馬車が現れる。お偉いさんなのかやけに凝った馬車だ。
仮にも俺は貴族だというのに明らかに商人の方が良い生活をしている。暗雲とした気持ちになる。
上からのお達しでレガリア商会の荷は厳重に調べよとの仰せだ。適当に調べることにする。
「書類を」
商人は書類を渡す。通行許可証など書式はすべて整っている。
まあここでミスをするヤツが大商会のお偉いさんになれるとは思えないが⋯⋯
「目的は?」
「商談だ。荷物は贈答用の品だ」
「無作為抽出の結果あなたの荷物を検めてさせてもらいます」
今日も多くの通行者がいるのだいちいち全部の通行者の荷物を検査することなどできない。
この場合は無作為ではないが⋯⋯⋯
贈答用の品が入っているのだろうか? 荷物のいくつかを開けて中身を検める。
中身は酒やら高級そうな装身具————問題なし。
そのことに商人から不満の声が上がるがこれも無視。
問題はないようだ。
「通ってよし!」
二人目は商人の荷馬車のようだ。
「書類を」
通行許可証に商業許可証すべてそろっている。
「商人の様だが積み荷はなんだ?」
「へえ、雑貨類でさ」
中身を検めると細かい鉄片やらネジ、バネに訳の分からん木片がゴロゴロと出てきた。
その他、荒縄に絨毯とまとまりがない。
鉄の流入も規制しろとの公は仰せだがこんなガラクタ通したところで問題など起きないだろう。
「部品類が随分と多いな⋯⋯」
「何でも都で腕の良い職人が外に引っ越しちまったそうですが、腕を見込んで変わらず注文してるそうでさ。でっ商業税は物納でしたな何にしやす?」
「こんな何に使うか分からんもん貰っても仕方ない。そっちの絨毯を置いて行け。言っていいぞ」
三人目はやたらとテンションの高い変人だった。
「いざ行かんカラクリの町レンダット!」
「書類を」
「慈悲深い領主スレイジ公が治める町レンダットに通行許可証はいらない。でしょう?」
「⋯⋯⋯帰れ」
そんなこんなで、日夜大量の通行者を効率よく通さなければいけないのだ。
ちょっとした書類ミスを多少の心づけで許してやることも大事だが勿論不正を許してはいけない。
今日も麻薬の持ち込みをしようとした不届きを拘束する。
我々は完全に潔白という訳ではないが通してはいけないものを通ることを許すほど腐敗していない。
すべての関所がそうであればいいのだが⋯⋯⋯
日も傾き景色が赤ばみ始めたころ、関所を占める直前に怪しげな荷馬車が現れた。
書類は整っているがどうも怪しい。積み荷は樽が4つで、かかすかに酒精の香りがする
「中身は何だ」
「へい、近隣から集めたワインで御座います」
ふん、妙な話だ。レンダットの酒類を扱っているのは領主が認めた大店だけ。
酒場自体が領主の出先機関見たなモノなのにな⋯⋯⋯当然、取引先は決まっている。
門番の一人が”役得”を得ようと確認と称して栓を開け中身を口に含む。
その瞬間、その門番は口からワインを吹き出し何度も唾を吐いて舌の上から味を追い出そうとする。
場が一瞬、騒然となるが
「なんじゃこりゃ! こりゃ腐ってんじゃないか?」
飲んだ門番は特に問題はなさそうだ。
微妙な空気が商人と門番達に流れる。
「ここだけの話ですが、さる御方から安くワインをとにかく大量に手に入れてくれとのお達しでして」
「こんなひでえモン飲ましやがってタダじゃおかねえぞ!」
「勘弁して下せえ、お口直しにこちらをどうぞ混ぜ物・・・なしの上物ですぜ。そしてこれは不快な目にあわせた詫びみたいなもんでさ受け取って下せえ」
御者は門番達に小金を握らせてゆく、酒場に何日か通えるような金額だ。
酒場を預かる人間のケチな混ぜ物事件⋯⋯あるいは錬金術師気取りの材料集めか⋯⋯
兎に角、それ以上荷について追及する気にはなれなかった。
「わかった、わかった。”ここに不審な物を詰んだ荷馬車は来なかった”、さあ行け」
荷馬車がレンダックに向かって進んでゆく。
「くそ、あんなクズワイン掴ませようなんてひでえ店だ!?」
「まあ、落ち着けよ。当分の間はエールでも飲んでいればいいだろ。それにレンダックの奴らが飲むわけで俺たちが飲むわけじゃねえからな」
不審物を探すだけで手間なのに、公の鶴の一声で仕事が馬鹿みたいに増えて物流が滞っている。
それで文句を言われるのは俺たちだ。まったくやりきれん⋯⋯⋯
それならばもっと人員を雇える予算をよこせと言う話だ。
この関所は事実上俺のポケットマネーで運用されているのだ。
無為に仕事を増やされては俺が破産してしまう。
※※※※※※ ※※※※※※ ※※※※※※ ※※※※※※
月夜の下、関所を通った荷馬車のうち何台かが町はずれの城館に集まってゆく。
ガラクタの中から鉄片、ねじ、板バネが集められマスケットの撃鉄が作られてゆく。
荒縄は硝酸をしみ込まして作った火縄をより合わせて作られていた。
最後に到着した荷馬車がクズワインの樽を蹴とばすと中には銃身が大量に入っていた。
どれもこれもバラバラな道筋を通ってきた部品がそれぞれのパーツをより集めて一つの形になってゆく。
切り詰められた銃床に少し短い銃身。
ファウンダーズ製輸出用火縄銃、アークタイプマスケットだ。
これと似たような流れでレンダットに運び込まれた銃が町はずれの秘密武器庫に次々運び込まれてゆく。
(゜∀。)y─┛ 大量の銃火器の流入。マスケットがもたらすものとは!! 次回、決壊(予定)




