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二人の休日は波乱の予感

ジャックは休日になると映画を観る。誰かと? いや一人でだ。あれからロックとは会っていない。

「ロックの奴、何してるだろう……」

と虚空に向かって疑問を投げるも、所詮虚空だ。誰も答えてはくれない。今まで清掃作業中にロックと会った事がないから、ロックとは清掃区画が違うのだろう。それに、区の管理下にないと思しきロックは、いつもどこに帰っているんだ。まだ出会ったばかりだから、ジャックもロックもお互いの事を深く知らない。しかし、これだけはハッキリしている。ロックは秘密を抱えている。

ポップコーンをむしゃむしゃとしながら、ジャックはサブスクにある恋愛映画を観ているが、ジャックの心は熱くならない。

「なんでこんな金はないけど、誠実な男がモテないんだよ、意味わかんねーーー!」

そうくさくさして、ジャックは女優に向かってポップコーンを投げ、文句を言って、映画を途中停止した。ジャックなら、今は清掃員だが、女性を守れるほどの金は心もとないけれど筋力はある。そして、何より誠実だ。誠実に一人の女性を愛する。だが、現実は酷だ。なんでこの誠実な俺が、女やAIに好かれないんだ!と思い、神を恨みそうになった時、携帯が鳴った。誰だろうと思い、塩のついた指を舐め、ポップコーンのボックスをサイドテーブルに置いて、ソファから身体を起こした。ソファに置いてあった携帯を手に取り、液晶画面をみるも、着信番号に心当たりはない。一応、出てみるかと思って、「もしもし」と電話に出る。すると、背後から、ざざざっと何かが津波のように流れる音がする中で。

「あ、ジャックさん?」

あの無機質な音声が響いてくる。

「え、何、お前、ロック?」

「そうです」

「なに、どうしたの急に」

「いえ、私、仕事が終わったので、今、ちょっといい事をしているんです。ジャックさんもどうかと思いまして」

「いい事? 何それ」

「Y区画のごみ処理場に来てください」

「ごみ処理場? そんな場所に何が」

「兎に角、来てください!」

そう言って、電話は一方的に切れた。全く、ロックの奴、一方的だなと思うけど、なに、ロック、実はそんなに俺に会いたかったの? 嬉しい! と、孤独で寂しい心は沸き立ち、内心喜び勇んで、ジャックは部屋着のスエットからパーカーとジーンズに着替えると、ゴミ処理場と言っていたから、いつもの防護服を持って、処理場へと荷台つきの中古車を走らせる。呼ばれた現場へ行くと、ロックが家庭ごみと思しきゴミの山を漁っているところだった。

「うわっ、くっせぇ……。ここ何扱ってんの? すげぇ腐乱臭」

「一般ごみですね。家庭の。ほら、もう肉なんて腐ってドロドロで……」

「突くな馬鹿!」

手足のない大きなルンバ型のロックが、箒に跨り、箒の先でゴミを突き、より分けている。

「で、いい事って何よ?」

「その前に、探し物を手伝って貰えませんか?」

 それにジャックは目を剥いた。

「はぁ? こんな何が入ってるかわからないものの中を俺が探せるわけねーだろ? 違法な医療器具とかもあるかもしれないぜ? 俺、よくわからない菌やウイルスに感染するのやだよ」

 そう言って、ジャックは眉を顰める。けれど、どこかしゅんとしたようなロックに。

「それでも探さなきゃならないものなのか?」

そう嫌々ながら問うてやると。

「はい」

気落ちしたように聞こえる、ロックの無機質な声。

「何捨てちゃったの?」

「それが捨ててはいけない大切な手紙を捨ててしまったのです」

「ちゃんと管理しとけよ」

 その言葉に無言になるロックに。

「ったく仕方ねぇなぁ」

ジャックが車に戻ると、作業用の厚いゴム手袋をする。

「手伝ってやるよ」

「ありがとうございます」

「ったく、いい事ってこれかよ」

ロックに遊びに誘われたというより、これじゃロックの仕事を手伝うじゃねーか。誘って貰えたのは嬉しいが、それなら最初からいい事なんて言わず、頼って欲しかった。けど、まだ物事を頼むなんて関係になっていないから、超優秀高性能補助ロボットAIロックにとっては言い難いことだったのかもしれない。

「へへへ。いい事は、○○スーパーのレシートをあと三十枚見つけることです。今日から始まった百枚集めようキャンペーンに参加すると、コーラ一本の価値になりますので」

途端、饒舌になるロックに。

「そのレシートを探すのがいい事、とは言わないよな?」

「……節約、大事」

「全くお前って奴は……」

「お礼は約束します」

そう言われるも、嫌な予感がする。

「ったく」

そう文句を垂れながら、ジャックが、がさがさとゴミを奥へ奥へと漁っていると、何枚かレシートが出てくる。それを脇へとどけつつ、更に口が開いたゴミ袋を漁ったり、どかしたりしていると、ロックが。

「ありました! ジャック! 思っていた通り、下の方に埋まっています。掘り出してください!」

野菜くずやペットの砂の入ったゴミ袋の下になっている袋を、ロックが指す。それに従って、ロックが箒で指す一つのゴミ袋を掴み上げると、地面に置いた。

「中、開けて貰えますか?」

「そうか。お前、手がないから……」

だからジャックを呼んだのか。とジャックは理解する。

「はい。今回はジェームスがコンクリートの上以外のものを拾える外殻の使用を許可してくれませんでしたので」

ジェームス? 知り合いか? と思いつつ。

「一応聞くが、これはお前が出したものだよな?」

もし違うなら犯罪だぞ、と言いかけて。

「そうです。ジェームスが出してしまったものです」

「さっきも言ってたが、ジェームスって誰?」

「私に住居を提供してくれているおじいさんです」

「お前、本当に区の管理下にないAIなんだな」

「はい。区からお金も住処も貰っていませんので、ジェームスおじいさんのお世話になっています」

「じゃぁ、手紙はジェームスおじいさんの?」

「そうです。わたくしの機密事項に抵触するお手紙で」

「機密事項ってなんだよ!」

「機密事項は機密事項です」

それにジャックは、ロックには踏み込めない領域があるのを理解して。

「そうか。わかった。兎に角、大切なものなんだな。なら、拾ってやらなくちゃ」

ゴミ袋の口を開け、中を探ると、確かに一通の手紙が出てきた。

「ジャック。やりましたね」

「やりましたね。じゃねーだろ。次からは気をつけろよ」

「はい」

「けどよ。お前、どうやってここまで来たんだ?」

「ジェームスおじいさんの家がここの近くなのです」

ジャックがさっき思った、ロックとは清掃区画が違うから会わないと思った直観は正しかったらしい。

「ロック、お前なぁ、なんでこんな汚れ仕事の清掃員なんてやってるんだよ。もっと別にお前ならいい職あるだろ」

「いえ、ロックは清掃員として、ある任務を遂行中なのです」

「それはジェームスじいさんとやらも関わってんのか?」

「機密事項です」

「ふーんそう……」

ジャックは面白くない気持ちになる。折角、ロックと仲良くなれた気がしたのに。

「じゃさ、そのジェームズおじいさんに会わせてよ」

「なぜですか?」

「ロックと俺は友達だろ? だからロックの管理人の事は知っておきたいわけよ」

「私はジャックと友達になったつもりはありませんが」

「マジで? じゃぁなんで今日、いい事あるなんて言って誘ったの?」

「誘ったは正しくありません。正確には、レシートの情報と引き換えに、捜索を手伝って貰ったのです。さ、お礼はそこのゴミ袋に貯めたレシートです。あと三十枚足りませんが」

「礼って、結局レシートかよ!」

「まだ一度しかお会いしたことのない人と、友達にはなれません」

「その友達じゃねー奴をわざわざ休日に呼び出して仕事手伝わせてんのか? ロック……。お前ってやつはなぁ……超優秀高機能補助型AIロボットの名がきいて呆れるわ」

「だって、今はお父さんに会う事で頭がいーっぱいで……あ、いえ……」

「なに?お前、親父に会いたいの?」

「機密事項です」

「ははぁん。そのジェームスさんが、お前の親父さんってわけだ」

「違います! ジェームスさんは優秀ですが、違います! お父さんはもっと偉大で権威があって素晴らしくて……」

「わかったわかった。にしてもお前に人の心みたいなのがあるなんて、驚きだよ」

「いえ、私にはそんなものは備わっておりません」

「ふーん?」

ジャックが胡乱気な目をロックに向ける。

「それでは今日はこれで」

「手紙、どうすんの?」

「私の頭上にあるポケットの中に入れてください」

言われるがまま、ジャックがロックの頭上を探ると、蓋が開いて、その中に図鑑ぐらいのサイズなら仕舞える空間がある。そこに手紙を入れてやると、嬉しそうにロックは身体を左右に振った。

「それでは今日はありがとうございました。またお会いしましょう……」

とロックが言ったところで。

「R!」

ゴミ集積場の入り口で、しわがれた男性の声が響いた。それに。

「ジェームス……」

そうロックがぽつりと囁いた先にいたのは、車いすに乗った老人だった。

「あの手紙は捨てたんだ! 駄目だ! 拾っては駄目だ!」

「けど、ジェームス、あれにはお父さんの手がかりが!」

「まだそんなことを言って! お前の父、アダムは死んだんだ!」

「嘘です。嘘です。生きてます。アダムは生きてます! ジェームスの嘘つき!」

そう言って、ロックは老人の横を通り過ぎると、表通りへと走り去っていく。

「R、全くあの子は……」

やれやれと怒っていた老人の肩から力が抜けていく。

「貴方は?」

そう聞かれて。

「R……いえ、ロックの清掃員仲間兼友達のジャックと言います。なんだか、お取込み中のようですけど、俺、帰った方がいいですか?」

「お友達? あのRに!?」

「いえ、俺がそうだといいなぁと思ってるだけで。R……私は勝手にロックと呼んでいるのですが、ロックには俺にそんな気持ちは微塵もないみたいなんですけどね」

「けど、貴方に今日の事を頼んだのは、いえ、頼めたのは貴方だからだ」

それは褒められているのだろうか? いまいち実感がわかないが、老人は目を丸くしてジャックを見ている。そして。

「ロックか。いい名前を付けてもらった。私もこれからは、あの子の事をそう呼ぶことにしよう。さ、ロックの我儘に付き合ってくれた礼をしよう。コーヒーでいいかな?」

「はい。勿論。ブラックで」

「はは。君は面白い子だね」

まさか、ジェームスに誘われると思っていなかった。ロックをもっと深く知る機会を逃すまいと、ジャックは意気込むも。

「あ、けど、俺、車が……」

と一瞬ためらう。それに。

「私の家はすぐそこだ。そこからも見えるだろ? 道路の角の、青い屋根の家だ。家政婦の一人に、今から話を通しておこう」

もしもし……と電話し始めたジェームスを見て、機会を逃していない事にほっとするも、飛び出していったロックの事が気がかりだ。何もないだろうが、ロックが関わっている機密事項の件、何か嫌な予感がする。警察官時代、散々不条理は経験した。もう厄介ごとはごめんだ。けれど、厄介ごとセンサーがビンビンに反応している。ロックは次の戦場では可及的速やかに目的達成率を上げると約束していたが、それは本当なのだろうか? こんなゴミ漁りを手伝わせるロックに? それに、ロックが父親に会いたがっているというのは初耳だ。

「父親か。ま、父親は誰にとっても大事な存在だわな」

そうジャックは独り言ちると、防護服を脱ぎ、手袋を外して荷台に放り込むと、運転席に乗り込む。ジェームスの家を確認してから、エンジンをふかす。そして。

「俺も会ってみてーよ。会えるもんなら、自分の父親に……」

ロックの話を聞いて、ジャックもまた、苦虫を嚙み潰したような気分になる。今日はロック音楽を聴く気になれない。ただジャックはセンチメンタルな気持ちのまま、一路、ジェームスの家へと中古車を走らせたのだった。


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