討入り開始
「ヴァンさん達大丈夫かな……」
西の丸から城本体へと続く道を走りながら独り呟く
「何かあったら信号弾飛ばしてくれるしきっと大丈夫だよ。私達は目の前の目標に集中しよ」
虎織が我輩の独り言に反応する。
あの二人は強いけどやっぱり心配になる。でも虎織の言うことは正しいし前に進む他ない
「ここの門は開くだろうか」
久野宮さんが門を開けようとしたがガタガタと音が鳴るだけだった。
そりゃそうだよな。攻めてくるの分かってたらそりゃ閉めるよ
「致し方ない。ここの城壁を登る他無いか」
なかなか恐ろしい事を言ってくれるな久野宮さん。
さっきの西の丸への道のりでも手裏剣のような何かや石が飛んできた。また何かしら飛んでくるのでは?
我輩はヴァンさんの様に問題点を指摘する
「久野宮さん、なにか飛んで来たら危ないんでそれは」
「他の手はあるのか?」
言い終わる前に久野宮さんは問いを投げてきた
「1分ください」
「わかった」
とりあえずこういう門は木製の閂が使われているはずだ。なら振動を与えて行けばズレるのでは?と考えガタガタと久野宮さんと同じように門を揺らす。
試行錯誤してみるがなかなか落とせない。
するといきなり門が開く。勢い余って我輩は転けてしまった。
「そんなにガタガタしたら門傷んじゃうじゃないですか」
開いた門の先には不機嫌そうな顔をした日々喜さんだった
「あーこんばんは」
「はい、こんばんは。そしてさようなら」
日々喜さんの手元から手裏剣が飛んでくる。
転けた状態から身体を丸め前へと回避するが避けきれない。腕に手裏剣が刺さり激痛が走る。刺さった箇所は熱くなり鋭い痛みが襲ってくる。
その痛みに耐えながら体勢を立て直し、虎徹を鞘から引き抜き構える
「頭に刺されば一撃だったんですけどね」
怖い事を言ってくれる
「日々喜さん、なんで!?」
虎織が声を荒らげ日々喜さんに問う
「なんでと聞かれたら恩を返す為ですかね。ここの門を護るのがわたしなりの恩返しなので」
恩返しか。そりゃ納得だ。日々喜さんにとっては先代は命の恩人なのだからその恩に報いる為にここに居るというわけだ。
平然と味方、いや、今の彼女からすればただの敵に手裏剣を淡々と投げていく。
何故か我輩にしか投げないのは何か恨みでもかってしまったのだろうか?
飛んでくる手裏剣を刀で弾きどうやって倒すかを考える。
ここは狭いから風切は使えない、虎徹も椿流の型を使えば引っかかるだろうし。
考えている間も手裏剣は飛んでくる。
虎織が作ってくれた魔術式の発動回数が残っていれば楽に乗り切れただろうに……
「仕方ないよね……日々喜さん、ここであなたを殺します!」
虎織の声が響く。
虎織が悩んでから出した答えなのだろうが我輩はそれを否定しなければならない
「虎織!手出し無用だ!それと人は殺さないって約束は守ってくれ!」
「っ!でも……」
手裏剣を弾きながら話をするのはなかなかにしんどい。
これ以上話をしながら弾くのは難しいかもしれない。
「弾くのに精一杯なんですか?そんなのじゃ天守閣にいる仄様に一太刀浴びせるのも難しいんじゃないですかね?まぁどっちにしろその長い刀じゃ仄様の身体を傷つけることすら叶わないでしょうけどね」
もしかして遠回しに情報をくれてる?
天守閣に先代が居るのは初耳だし室内は虎徹を振り回せる程の広さはないという事だろうか
というかもしかして恩とか一切感じてないパターンですか日々喜さん。
それならなんで殺しに来るような手裏剣投げるんですかねぇ……
今もめちゃくちゃ痛いんだけど
「そもそもこの先にそれなりに強い人間モドキが居ますし、ここで引き返す方が身のためだと思いますよ」
「ならそいつらに我輩達を殺させればいいんじゃないか?」
「それもそうですね。わたしがわざわざ殺さなくてもアレらがやってくれるでしょうしわたしは仄様の元へと戻ることにしましょうか」
手裏剣を1つ投げ置き日々喜さんはまるでさっきまでいなかったかのようにスっと消えた。
置かれた手裏剣には紙がくくりつけられており内容はこの先では太刀類の使用は難しいから取り回しの利く短刀や魔術、武術での対応を勧める、先代の後ろには誰か居るから気をつけろ。
という内容だった
「全く、演技かどうか分からないのは困り物だな」
一発目の手裏剣はどう考えても殺しに来てた気がしたがまぁいいや……
「将鷹、手を出して」
「はい」
怪我をした方の手を差し出す
「いってぇ……」
消毒液をだばだばとかけられた。それが傷口に染みる
「我慢して。全く、最近無茶し過ぎだよ……」
「ごめんな」
虎織がガーゼをしてから包帯を巻いてくれた
「ありがとう」
「うん」
少し間を空ける。言うべきかどうか迷ったが言うべきだろうと思い口を開く
「1つ、言いたいことがあるんだけどいいか?」
「なにかな」
「あの約束は絶対破らないで欲しい。約束というより契約みたいなものだけどさ」
「わかった……」
申し訳なさそうな顔で虎織は頷いた。
「あれ?久野宮さんは?」
「さっきまで居たはずなんだけど」
久野宮さんはこの場から姿を消していた。
もしかして城壁を登って上へ向かったのだろうか?
そうなると久野宮さんと先代及びその後ろに居る誰かとの戦闘が始まってしまうかもしれない。
一対一ならまだしも一対二となると分が悪いのではないだろうか
「虎織、天守閣へ急ごう!」
「うん!」
我輩と虎織は天守閣へ向かうため城の階段を急いで駆け上がる
広く拓けた所に1つの影があった。
「おいおい冗談だろ……」
そこには首から上がない人間モドキが1匹徘徊していた。咄嗟に腰に差した刀へと手をかけ何時でも応戦出来る様に構える
「首なしの人間モドキか……」
首の無い人間モドキが柱が乱立している場所で迷いなくこちら側に向かってくる。
相手の獲物は太刀。それと腰に小刀1本。広さ的に縦になら刀を振る事の出来る広さだしこちらも太刀で応戦するべきか?
いや、ここは銃で応戦……待てよ?発破音でもしかしたら敵側の増援がくるかもしれない
なら刀で斬り伏せるのみ!腰から手を置いていた刀を振り抜き構え人間モドキの動きを見据える。やはり真っ直ぐこっちに来ている。
耳も目もないのにこちらに気づいているのだろうか?
「どうする?ここで闘って倒しておく?それともスルーして久野宮さんの所へ急ぐ?」
虎織が我輩に質問を投げる。
答えは分かっているだろうに。だがまぁ確認も兼ねてるだろうからな
「倒す。それ一択だ」
「そう言うと思った!」
嬉しそうに刀を構えながら虎織は人間モドキの前へと出る。
我輩は虎織とは反対側から人間モドキを討ち取る為走り出し人間モドキの後ろを取る。
この広さなら刀は振れなくても突きはできる
「椿流。丑の番。牛刀割鶏」
普通は技名など言う必要はないが、師匠に相手に椿流の恐ろしさを知らしめるために必ず言えと耳にたこができる程言われ、今では直せない癖みたいな物になってしまっている。
牛刀割鶏。椿流の中でも最も単純だが最も対処しにくいただの頭への突きを繰り出す。まぁこいつは頭が無いから心臓付近への突きなんだけど
「なっ!」
刀を使って突きを逸らされた。真後ろからの奇襲なのに対応できるとかこいつマジで人間辞めてるな。
技名を声に出すのが良くなかったか?でもこいつ耳はないぞ?
考えている最中人間モドキの身体がくるりとこちらを向き刀を刀を振ってくる。
それはまるで剣道の面を打つかのような動作だった
「横に振るには狭くても縦で振る分には十分な高さだもんな!」
振り下ろされる刀を咄嗟に刀の鍔で受け止める。
刀の鍔が広くなければ受け止められなかっただろう。
鍔迫り合いではないが鍔で刀を受け止めている状態がしばし続く。
人間モドキの後ろには虎織が八相構えで近づいき刃を振り下ろす
「おいおい嘘だろ……?」
人間モドキは後ろに目があるかのように何故か虎織の一撃を腰に差していたもう一本の小刀で受け止めたのだ
「これは思ってた以上に厄介かもね。申で行くよ!」
「だな。さっきの不意打ち2発防がれたのなら我輩達2人の本気見せてやろうぜ!」
「「椿流、申の番。猿臂之勢」」
猿臂之勢は2人以上で行う攻守自在の型であり基本は1人が敵の攻撃を弾き、もう1人が隙を見て攻撃を行う型だ。
まずは我輩が先陣を切って袈裟斬りをするが弾かれてしまう。我輩は1歩引いて虎織が逆袈裟を、これも弾かれたので2人で突きを行うが防がれてしまった。
人間モドキは2本の刀を駆使して我輩達に斬り掛かるが1人ならいざ知らず、2人なら余裕で捌ける技ばかりだ
「こいつ我輩達の動き全部見えてるのか?」
「そうとしか思えないよね。それにこいつ器用に柱のない所で刀振ってるしね!」
我輩が一太刀防いで虎織が突きを入れるがそれもいなされる。
どう考えてもおかしい。こいつ先読みができるのか?それとも……
「虎織、少し防御に専念してくれ」
「わかった。アレやるなら頭気をつけてね」
「おう。椿流。戌の番。犬斬刃朱。」
体勢を極限まで低く、刀を逆手に持ち、片手を地面に付ける。
そして勢いよく飛び出し敵の脚を切り裂く。とはいかなかった。やはり刀で弾かれる。なら次の一手だ
「椿流。酉の番。刃隠奇襲。」
本来なら袖に刀を隠して刃の長さを隠蔽及び誤認させる技だが正面のこいつからは見えないが後ろからは見えるように少々工夫した。
結果としては当然の如く防がれた。
このことから分かるのはこいつが風などを感知して攻撃を防いでいる、または身体から頭を離し何処かから我輩達を見ているというところだろうか。
人間モドキは言わばゾンビのようなものだし頭が身体から離れていても動くというのもできるだろう。
次の技で感知しているのか見ているのかはっきりさせよう
「虎織、ちょっと自慢できる技やるから見ててくれよ」
「おっけー。じゃあかっこいい所魅せてね!」
仕事口調ではなく日常会話の口調で虎織は応えた。
かっこいい技ではないが面白味はあるかもしれないな。
ただ刀の軌道とかを感知してて防がれたならかっこ悪いぞこれ!
敵に袈裟斬りで斬り掛かる。もちろん敵は刀を弾くため刀を構えるが我輩の刀はスルりと構えられた刀をすり抜ける様に通り過ぎ人間モドキにはじめて刃で傷をつけた
「えっ、何その技!刀がすり抜けたよ!」
虎織が凄い!と興奮気味に言う
「この戦いが終わったら教えるよ」
口で説明してもいいのだが敵地で技の種を明かすのは愚行だろう
「それ死亡フラグだよ」
虎織が笑う。我輩も敵の前ながらも少々頬が緩んでしまった。
さすがに人間モドキはさっきの一撃で倒れることはなく、こちらにまた攻撃を仕掛けてくる。
おおよそさっきので何処からか我輩達を見ているのがわかったがそれが何処からかなのかはまだ分からないままだ。
攻撃を捌き反撃の隙をうかがっているその時だった。
天井から血がポタリ、ポタリと落ちてくる
「虎織!天井の血が落ちて来てるところに攻撃仕掛けてくれ!」
「了解!」
虎織は風の魔術で天井の一部を吹き飛ばす。
そしてそれは降ってきた。
「うわっ!生首だ!きもっ!」
いかにも落ち武者という感じの男の頭が口から血を吐きながら落ちてきたのだ。思わずきもいと言ってしまったがまぁ仕方ない事だろう。
まさか頭を天井に置いてたとはな
「とりあえず頭潰せばあの身体は止まるか」
我輩は無慈悲に冷酷に人間モドキの頭であろうものに刀を振り下ろす。
こいつが人ならば我輩は殺せない。しかし人から外れればこの刃はこれの灰さえ残さないだろう。
刃に触れた頭は跡形も無く消え去り身体の方も崩れ落ち砂へと変わった
「よし。終わったし先に進もうか」
「うん。やっぱりこういう人型の人外相手だと将鷹強いよね」
「まぁ色々とあるからな」
「そうだったね。神様と仲がいいからこそだね」
「かもな。たまに困りはするけどな」
我輩達は目の前の廊下を進み階段の前で歩みを止める
「あーやっぱりここからは虎徹も風切も使えないな」
「魔術でどうにかしていくしか無さそうだね」
「あぁ」
目の前の階段を登り上を目指す。そこにはまた人間モドキが居た。各階に居るとかゲームみたいな配置しやがって。しかもこっちに気づいてないとか無能なのか?
我輩は内心毒づきながら階段を登りきる前に袖口から銃を取り出し身構え勢いよく階段を登り人間モドキに銃口を向け驚愕した
「あの人ってまさか……」
見覚えのある顔をした人間モドキがそこに立っている
「あれって旧拾弐本刀の白浜さんだよね…?」
虎織が人間モドキを見て我輩と同様に動揺しアレの元になった人間の名前を口に出す
「そうだな。どう見てもアレは白浜のおっさんだ」
白浜征従朗。確か拾弐本刀の中だと拾壱番目、あの頃の番号は強さの指標だったはずだ。それを考えるとまだ倒せる範囲なのか?でも仮にも拾弐本刀の危ない人ばっかりの頃の11番目だしこれはスルーした方がいいのでは?
しかも広さ的には刀振れないんだよな。さてどうしたものか……
でもアレを避けて進むことは難しそうだしやるしかないか。
「ここじゃ刀振れないから虎織は援護頼むよ」
「まさか素手で……」
「それは勘弁してくれよ。流石に素手じゃ倒しきれないし何より人間モドキって皮膚ぐちゃぐちゃだから殴りたくないんだよ」
「確かにあれは……うん。素手は嫌だね」
この様子だと多分殴ったことあるな。
かく言う我輩も殴ったことがあるが溶けた皮膚に腐りかけの肉の為殴った手応えがマジで気持ち悪い
「素手は嫌だから文明の力に頼るとしようか。あんまりここでぶっぱなしたくはないけどな」
袖から拳銃を取り出しロングマガジンをセットする。
人間モドキはこちらを向いてはいるが見えていないのか一切の攻撃を仕掛けてこない。こちらにとっては好都合だが不気味で仕方がない。
拳銃のスライドを引き照準を定め発砲する。
乾いた音、手に伝わる反動、硝煙の匂い、飛び出す薬莢、いつになってもなれない物ばかりだ。
間髪入れずもう一度引き金を引く。
撃ち出した弾は人間モドキの前で水に呑まれ地面へと落ちる。
カランと弾頭が地面に跳ねた音を皮切りに人間モドキの右手から水が吹き出す。
吹き出した水はウォーターカッターというのだろうか鉄をも切り裂く様な勢いで我輩達へと襲いかかる
「将鷹、下がって。やっぱり私が前にでるよ」
虎織が1歩前へ出て我輩に下がるよう促す。
我輩もそれに応えその場から下がる。
虎織の後ろに下がり虎織が髪留めへと手を伸ばすと後ろから強風というか暴風が吹き抜ける。
あまりの強風に虎織の髪を後ろで纏めていたリボンが解け宙を舞い、灰色の綺麗な髪が大きく靡く。
こちらに向かってくる水は周囲に飛び散り木の床や柱にシミを作りながら吸収されて行った
「使う魔術が水だけなら私一人の本気で十分足りるからね。将鷹はいざって時の援護お願い」
どうやら魔術師としての本気を見せてくれる様だ。
先代と戦った時は制約や枷があったが今回はそれが一切ない。
本気の虎織を見るのは随分と久しぶりだ
「油断は禁物だぞ?」
油断などしないというか油断しないからこそ本気なのだから、こういうのも野暮というものだが
「大丈夫。今日は昨日みたいにならないから」
虎織の手元に目視できるだけでも10種類を超える魔術式が展開されていた。多分見えていないだけで他にも展開しているのだろう。一気に発動させるとなると脳が処理落ちするだろうけど展開するだけなら問題はない。
虎織が手を挙げてから下ろしたその瞬間、風が束になっていく。
風が見える訳では無いが埃などの地面に落ちていた物が束ねられていきその場に留まり塊となった。
それが見えたのか人間モドキは両手を前に出し左右に大きく開いてから柏手を打つ。
柏手の音が響いた瞬間空気中の水分が減っていく。
これも目に見える訳では無い肌の水分が無くなり乾いてカサカサし始めた。
乾燥肌なんだからマジでこういうのやめて欲しいんだけど。
そんな事を思っていると我輩達を囲うように大きな波が押し寄せてくる
「爆ぜろ」
虎織のその一言と共に虎織の目の前に溜まっていた風が轟音と共に弾け大波を跳ね除けると共に正面に居た人間モドキの両腕を風の刃が切り落とした。
跳ね除けられた波は冷たい雨のように我輩達へと降り注ぐ。
慌てて拳銃を袖へと仕舞い羽織と一緒に入っていた短刀に持ち替える
「将鷹、構えて。上から何か来るよ」
虎織の声と共に我輩は身構える。何かとはなんだろうか?日々喜さんは人間モドキは三体居ると言っていたしもう一体が来たか?
「すまん風咲、雪城。しくじった……」
降りて来たのは久野宮さんだった。身体に目立った傷等はない。しくじったとはどういう事だろうか?
考えていると久野宮さんが凄い勢いで我輩へと向かってくる。
なるほど。そういう事か……
おおよそ誰かしらに身体の主導権を握られたのだろう
「一人で先に行くからこうなるんですよ」
直線的に突っ込んで来た久野宮さんを蹴り飛ばす。
蹴りで吹っ飛んだ久野宮さんを助けるかのように人間モドキが久野宮さんを身を呈して受け止めた
「全く……老体は労るものであっていたぶるものではないぞ」
「これは仕方ないじゃないですか。操り人形になってる久野宮さんが100%悪いです」
「ぐうの音も出んな」
久野宮さんはまた直線的にこちらへと突っ込んできた。しかし今回は虎織の方へとさっきとは比べ物にならない速度で向かってくる
「せぇい!」
掛け声と共に虎織が突っ込んで来た久野宮さんの服の首元を掴み地面へと叩きつけた
めちゃくちゃ痛そうだ。それよりも虎織の髪留めに仕込んだ御守りの魔術式が発動して久野宮さんと虚空に蒼い炎が走る
「虎織!怪我してないか!?」
心配になり思わず大声を上げてしまった。
「平気平気。ピアノ線か何かで怪我しかけたけど将鷹のコレのお陰で無傷だよ」
虎織は髪留めを触りながらそう言った。怪我がなくてほんとに良かった。
胸を撫で下ろす最中久野宮さんの声が聞こえた
「ワシの心配は?」
「しませんよ。自業自得です」
「お前なんか今日辛辣過ぎぬか?」
「そんなことはないですよ。久野宮さんが一人で先に行ったからちょっと怒ってるだけです」
「それはほんとにすまんかった……」
「おーわりっと」
久野宮さんと言い合ってる間に人間モドキの方は片付いた様だ。
旧拾弐本刀とはいえ虎織が本気を出したら一瞬だったな。相性が悪かったが故かそれとも人間モドキになって能力が劣化したか。
どちらにしても短時間でケリをつけた虎織は凄い
「お疲れ様。やっぱり虎織が本気出すと一瞬だな」
「褒めても何も出ないよ。さて、久野宮さん。上で何があったか話してください」
「それがだな、城壁を登っておったら急に身体が引っ張りあげられてそのままさっきの状態になったという感じで全くもって有益な情報がないのだ」
それは困った。未知の相手と先代と戦う前にやり合うとか苦労しそうだ。分かっているのはピアノ線を使うという事だけ
これは慎重に上へ登った方が良さそうだ
「まさか行方知れずだった白浜が人間モドキになっていたとはな」
先を急ごうと階段を登ろうとした時久野宮さんがぐちゃぐちゃとなった人間モドキだったものを見つめながら呟く
「大して関わりの無い無愛想なやつじゃったからなんとも思わぬのだがな。いつもこちらを見るだけでなにもいってこなかって正直めちゃくちゃ怖かったからな」
そうは言うが久野宮さんはそこにある肉塊に手を合わせていた。
その刹那さっきまで転がっていた肉塊がこちらへと飛来する
「まだ動くのかよ!人間モドキって頭潰せば止まるんじゃないのかよ」
生きることへの執念とでも言うべきかそれとも道連れにするという強固な意思なのか。
飛んで来た肉塊を短刀で切り裂き袖から拳銃を取り出す
「風咲!後ろから来ておるぞ!」
「しぶといっての!」
飛んでくる肉塊に銃弾を撃ち込むが全くと言っていいほど効いていない。
素直に短刀で斬っておけば良かったと思いながら寸前で肉塊を躱す。
目線の先では肉塊が寄り集まり形を成そうとしていた。
それは元あった姿ではなくただの腐った肉の塊であった。
蠢き、時に生気のない眼の様な何かがこちらを覗き消える
「そうまでして生にしがみつくか……それとも誰かに生かされているのか……」
人間らしく死ねないというのはなんというか可哀想とも思えてくる。
拳銃を袖に仕舞い回転式拳銃を取り出す。
普通の銃弾では肉にくい込むだけだろうし威力の出るこちらに持ち替えることにした。
本来なら先代との戦いまで隠しておきたかったのだが仕方ない。
虎織にもまだ見せた事なかったんだけどな
「将鷹、それは?」
虎織が珍しい物を見るような目でこちらを見る。
実際回転式拳銃自体が華姫では珍しいというか我輩以外で使う人を見たことがない
「回転式拳銃、RSH-12だ。いつものよりは威力があるけど弾数が少ないのとうるさいって感じのやつだ。今からぶっぱなすから耳塞いどいてくれよ」
「了解」
虎織が耳を塞いだ瞬間撃鉄を倒し引き金を引く。
轟音と共に肉塊の一部が吹き飛ぶ。
威力は1級品だがその分反動も大きい為ここぞという時に使う他ないな。
もう一度構え直し撃鉄を倒し引き金を引く。
さっきと同様一部を吹っ飛ばしたが時間が逆戻りしたかのように吹き飛んだ部分が戻っていく
「吹っ飛ばしたのにまた集まってきやがった!?」
「時間逆行……まさか噂は本当だったというのか」
久野宮さんの口から驚きの言葉が発せられる。
時間逆行って術者が望む時間に戻れるってやつか?それを身体にかけて身体の時間を戻したのか?
「時間逆行って勝ち目ないんじゃないですか……?」
「聴いた話ではやつの時間逆行は特殊で自ら決めた所までしか戻れんはずだ。それに戻せるのは身体だけだと聞いている」
あからさまにやばい能力だ。
気になるのはその決めた所というのだ。人間モドキは本能で動いているようなものだから普通に考えれば理性ある人間の姿に戻るはずだ。
何故肉塊の状態で戻ったんだ?
「風咲!ぼーっとするな!奴が人間の姿に戻り始めたぞ!」
「えっ……?あっ。すみません」
考えすぎたようだ。時間差で人間の姿に戻ったか。
でもあの気持ち悪い肉塊の状態を経由して時間逆行を行うものなのだろうか。他の何かが関わっている気もしなくもない
「将鷹、柏手1つお願い」
「わかった」
大きく柏手を1つ。これは魔術や身体が強くなるようなおまじないではない。ただの精神的なブーストをかける様なものだ
「さて、きっちり人型になったことだし仕掛けるとしようか」
「そうだね。今度は塵一つ残さないぐらいに切り刻まないとだね」
「物騒だな」
「そうでもしないと先代様の所には行けないからね」
「違いない」
銃の撃鉄を倒し短刀を握りしめ目の前の魔術師目掛けて走り出す。
炎で塵も残さず燃やし尽くすのが1番手っ取り早いのだろうが我輩にはそれが出来ない。
普通ならここはスルーして先代を倒してから妖刀の心中で殺しきるのがベストなのだろう。
魔術師が手を挙げたのを見て走りながら後ろ以外を確認すと無数の水の針が我輩を囲んでいた。
そんなものは構わず一直線に走る
「虎織!頼んだ!」
我輩は叫んだ。そしてそれと同時に風が吹き水の針はただの水へと形を変え地に落ちる。
魔術師の首に短刀が当たる距離まであと6歩
「お前は随分と面倒なモノ。持っているな。」
「人間モドキが喋ったァァァァ!」
魔術師が口を開く。さっきまで爛れ剥がれ落ちそうだった肌は人間らしい健康的な肌に変わっていた。
驚愕のあまり叫んでしまった
「失礼極まりないな。お前は。」
魔術師はボソリと消え入りそうなほど小さな声で呟いた。
短刀を魔術師の首に突き立てようとしたが寸前のところで腕が止まる。
飛び退き距離を取り魔術師を凝視する。
どうやら完璧に人間に戻っているようだ。こうなると厄介極まりない。
魔術師はボソボソと何か言っているが全く聞こえない。
マジで声が小さい。
人間に戻っているのなら我輩に殺す事は不可能だ。人間は殺せないそういう呪いというか加護がかかっているらしい。
これは何故か虎織にも影響があるらしく人は殺させないようにと久那さんから言われている。コイツは久野宮さんにも殺させたくはない。
甘い考えなのは分かってるけどこの魔術師は戦闘不能にする他ない。
魔術師を見つめながら虎織の所まで飛び退く。
「虎織、アレ人間に戻ってるぞ」
「てことはとっ捕まえて縛り上げるしかないね。縄抜けされると厄介だけど」
「大丈夫だ。あやつにそんな器用な事は出来んはずだ。昔捕まっておったのを助けに行ったことがある」
縄の類は一応袖に入っている。あとはどうやって縛り上げるかだ。
柏手が2回聞こえる
「あの大波が来るよ」
虎織が呟く。
今からじゃ風を集めるのも難しい、これは一点突破でどうにかする他ない気がする
「一点突破で切り抜けるぞ。我輩があの波が来たら斬るから2人はそこを通って捕縛を」
「わかった。じゃあ頼むね」
虎織に頼まれたらやる気が出てくる。短刀を構え大波に備える。
しかし、柏手が響いてから数秒経つが一切波が出てこない。
そう思ったその時だった。階段から大量の水が流れて来る
「来たか」
大量の水が目の前まで迫りくる。
それは目の前で左へと曲がり階段の方へと流れた
「えっ?なんで?」
身構えただけあって唖然としてしまう。マジでなんで?
水が引いた後魔術師は何かを引きずりながらこちらへと向かってくる
「これ、俺を人間モドキにした元凶。俺そんなに力ないからこいつ殺して。それにこいつ。俺に糸括りつけて人に戻るの阻害した。」
魔術師はボソボソと言葉を紡ぎながら大型の人間モドキをこちらに投げる。
いや、そいつ投げられるなら力はあると思うんだけど?
「こいつを殺せばよいのだな?」
久野宮さんの問に魔術師はコクリと頷く
「ちなみにそいつ。久野宮を操ってた元凶。」
「そうか。こいつがか。蹴られ、投げられ、焼かれた恨み、ここで晴らすとするか」
久野宮さんが倒れている人間モドキの頭を躊躇なく、さっきの恨みを込めて大袈裟に足を上げ踵で思いっきり踏み潰す
「白浜、お前今まで何をしておった。3年前から行方をくらませおって」
久野宮さんが魔術師に優しく問う
「監禁されてた。人間モドキになる薬の投与も。」
「そうか。それは大変じゃったな。それでお前を監禁した者の名前はわかるか?」
「そーぎいん。拾弐本刀の拾番の息子。」
「左右偽陰、やはりその名前か」
「久野宮は覚えてないの。あの人の事。」
「残念じゃが」
「そうか。俺もあんまり覚えてないけど。あいつは拾弐本刀の。あれ。思い出さないや。誰だったかな。えっと番号でいいや。漆番と仲良かった。」
これは大きな情報を得られたのではないだろうか?
「君達には礼を言う。1度殺してくれてありがとう。君達のおかげで時間逆行できた。」
「礼を言われる立場には居ませんよ。我輩達は貴方を殺しただけですから」
「それもそうか。あの鉛弾痛かったしな。じゃあ俺はここから出るから。」
そう言うと魔術師は水に溶けるように床に消えていった。
なんなんだあの人は?それにしても最後まで声小さかったし
我輩達は天守閣を目指しまた歩を進め始める




