決戦開始
我輩達は水浸しになった階段を登っていく。
日々喜さんの情報だと人間モドキはもう居ないはずだ
「こっからは慎重に進まないとな」
あと1つ階段を登れば天守閣だ。
確か屋根裏に刑部姫という妖怪が住んでいたとかは聞いたことあるな。
今はそんなことどうでもいいことなのだが。
くだらない事を考えていると天守閣へとたどり着くと
「あのー上がってきて早々申し訳ないんですけど降ろして貰えませんか?」
日々喜さんが逆さに吊るされながらブランブランと揺れている。
しかも縄での縛り方がアニメでよく見かける全身に縄をグルグル巻にしているあれだ。
そんな光景を目の当たりにすると笑いが出てくる。こんなの現実世界であるのかよ
よく見ると額に私は悪い子ですと書いてある。
多分あれは油性ペンだろうな。綺麗な丸文字なのもまた……
「風咲君。笑うの辞めないとはっ倒しますよ」
「だってそんなアニメでしか見たことないミノムシ状態で吊られてるとかもう……ブフッ……しかも額に私は悪い子ですって……ダメだ……」
思わず吹き出してしまった。だめだ……笑いが堪えられない……
ふと虎織の方へ目を向けると我輩の羽織をぎゅっと掴んでプルプルと笑いを堪えていた。
そりゃそうだろこんなの笑うしかない
「あとで殺す。絶対に殺す。というかさっき殺しておけばよかった・・・百歩譲って虎織ちゃんはいいですけど風咲君は殺します」
日々喜さんが物騒な事を言いながらブランブランと揺れているのがさらに笑いを誘う。やめてくれ……それ以上は我輩の腹筋に効く……
「日々喜、そう暴れるでない。今降ろしてやるからな」
久野宮さんが笑いながら日々喜さんを吊っている縄を解こうとした時暗がりから声が聞こえた。
「日々喜の縄は解かぬ方が良いぞ?日々喜には今死ぬほど恥ずかしい服を着せておるからなぁ」
「仄様、いつの間に?」
「縄で括って目を瞑らせたあとじゃな」
「なるほど。下着だけで吊られてるかと思ってました」
「男子が多く攻め込んで来ておるのに娘のようなお前の下着姿など晒せるものか」
日々喜さんと先代は楽しそうに話している。
そもそも敵に情報流してたからそこに吊ってるのでは?もしかして違う?
てか下着姿はダメとか言いながら死ぬほど恥ずかしい服着せてるとか言ってるけどそれはそれでどうかと思う
「仄様、お久しぶりでございます」
「久野宮、か……お前の顔はもう見とうない。出来れば帰れと言いたいがまた妾の首を取りに来たのであろう?」
「ワタシは貴方様を殺してなどおりません!」
久野宮さんの力強い声が響く。今まで聞いたことの無い程その声には力強さがあった
「殺したではないか!妾の首を落として!不敵に笑っておったではないか!痛かった!苦しかった!もっとも信用しておったお主に殴られ、首をもがれた時胸が張り裂けそうな程辛かった!それがなんじゃ!開口一番言い訳か!?ふざけるな!」
暗闇でも分かるほど先代の髪は紅く、燃え上がる炎のように朱く色付いていく
「信じてはもらえませんか……しかし真実なのです!それにあの事件の2日前から1週間、仄様直々に美作への出張を命じたではありませんか!」
「はぁ?そんなこと妾は指示しておらん!」
「そんなはずはありません!」
言った言わないの口論状態だ。なんというかその夫婦喧嘩みたいだなと思ってしまう
「どうでもいいんですけど早く縄解いてください。さすがに連続して逆さ吊りはキツイので」
日々喜さんは呆れ気味に言った。昔から2人はこうだったのだろうか?
縄を短刀で斬り虎織に日々喜さんをキャッチしてもらった。斬った時に縄が緩んだのか黒地に白のフリルが付いた服、アニメや漫画でよく見かける胸元がガッツリと開いたメイド服が着せられていた
「メイド服だね……えっ?これって死ぬほど恥ずかしい?いやでも胸元とかガッツリ開いてるし確かに恥ずかしいかも……」
虎織が困惑しながら口を開く
「うわぁ……仄様こういうご趣味で……」
日々喜さんはくるりと回ってみたり手鏡で自らの姿を確認していた
「虎織こういうの似合いそうだよなぁ」
つい本音が出てしまった。ドン引きされそうだなぁ……
「検討してみる……」
予想とは反対方向の回答が来て少々驚いた。虎織は顔を赤らめながらそっぽを向いてしまう。
かわいいかよ
「イチャつくのは勘弁してください。ただでさえあの二人もイチャついてるのに」
日々喜さんは呆れながら言う。あの二人というと久野宮さんと先代の事だろうか。そう思い2人の会話に耳を傾ける
「そもそもお主は昔からそうじゃ!妾が酒嫌いなのに馬鹿ほど日本酒買って市長室で酒盛りしおって!」
「それをしたのは白鷺と城ヶ崎でしょうが!ワタシはその酒を貰って事務しながら飲んでただけです!それに日本酒ではありません!あれは泡盛です!」
「そんなもの大差ないわ!てかお主、仕事しながら酒呑むなよ!」
「いいえ!泡盛と日本酒は違うんです!そしてあんなのは誤差です!飲んだうちにはいりません!」
「阿呆かお主は!」
思った以上に普通の内容で喧嘩してらっしゃる
「あぁ!もうよい!ぶっ殺す!」
「仄様であっても手加減致しません!」
「なんでいきなりそうなる!?」
「「お前は引っ込んでろ!」」
何故か自然な形で戦闘が始まってしまったがこの状況、かなり異常である。
口論からの殺害はたまに事件としてあるが流石にここまで酷い物はないだろう。
そして止めに入った者のお約束、両方から殴られるを受けてしまった。
ちなみ殴り飛ばされたあと日々喜さんにも何故か殴られた
「大丈夫?」
「平気、だと思いたい」
殴られ倒れ込んだ我輩の視界に虎織が写り声をかけてくれる。
身体を起こすと日々喜さんはその場から消えていた。
睨み合う2人、ドスンと地面を踏みしめる音が2人分鳴ると共に先代と久野宮さんの闘いの火蓋が切って落とされた
2人の戦闘は至ってシンプルな殴り合いであった。
先代もそうなのだが久野宮さんが容赦なくボディブローとかをぶちかましている。
仮にも女性にそれはどうかと思うが仕方ない。闘いは無常だからな。
まぁ先代はノーダメージっぽいからこんなこと言えるのだろうけど
「せい!」
先代が蹴りを入れようとするが久野宮さんは寸前でそれを躱す。
その蹴りに男として少々寒気がした
「金的はなしでしょうが!」
「殺し合いに金的は無しもクソもあるか!最後まで立っておれば良い!」
そう。男の最大の弱点でなりふり構わない喧嘩なら真っ先に狙う金的である。
ちなみにモロに食らうと大の大人でも蹲る程痛い
「卑劣!卑怯!男の敵!」
「ガキの言い分じゃぞそれ!」
楽しそうに笑みを浮かべ2人は喧嘩をする。マジでただの喧嘩である。
先代は得意であろう八極拳と腕の鋼鉄化を使わずただ殴り蹴るのみ。
久野宮さんもそれに応えるようにステゴロの喧嘩をしている
「ウォーミングアップはもうこれで終わりで構いませんかね」
久野宮さんの口から放たれたその言葉でここまでのただの喧嘩が準備体操である事が明かされた
「えっ?今の準備体操?えっ?それは真か……?」
「そうです。ウォーミングアップです」
先代がキョトンとした顔で呆け、久野宮さんはにこやかに笑う。
絶対これ先代の戦意喪失を狙ってるな。これが1番良い手なのかもしれない
「道理で力が拮抗する訳じゃ……というか長らく相対する事もなかった故忘れておったがお主八極拳使っておらんかったな……」
「えぇ、そういう仄様も硬化使っていなかったじゃないですか」
「お主に硬化を使ったとて鋼をも打ち砕くその拳で無意味であろう?」
「なるほど。それでどうしますか?殺し合いますか?それともここで辞めますか?」
久野宮さんの言葉に先代は間髪入れずに答える
「やめる!死ぬのはもう嫌じゃし」
「そうですか。では、ワタシの話を1から聞いてください。そして知っている事を全て話してください」
「いきなり不意打ちで殺したりしない?」
「しません。というか大人しくしてれば殺しません。」
「ならそこの2人と一魔術式が殺しに来たりとかは?」
「ないです」
先代の朱くなった髪は白へと変わる。
戦意が無くなったと捉えてもいいだろう。
それにしても一魔術式って数え方が随分と独特だな
まぁあれを1人とカウントしていいのかはまだ分からないしな。
さっきと比べて先代の表情は随分とさっぱりしている。
さっきまでは憎悪を燃料に動く鬼という感じではあったが今では1人の朗らかな女性のような顔をしている
「久野宮さんの質問の前に1ついいですか?」
虎織が口を開く。いつもよりも声のトーンが低い気がする
「よい。なんでも答えよう」
「なんでそんなに平気そうにいられるんですか?もしかしたら私が久野宮さんの言葉を無視して襲い掛かるかもしれないんですよ……?」
「久野宮の言葉を信じることにしたからだ。原始的な殴り合いという方法ではあったが久野宮が妾を殺していないというのは何となくわかったからな」
すごい原始的だ……いや、でも昔から暴力で物事解決できる場面も多いしな。
でもそれで伝わるのかどうかは謎だ
「それにお前はその童の前では荒れ狂う姿を見せたくはなかろう?」
「昔のお父さんと一緒にしないでください」
「昔ということは今は随分と丸くなったというわけか。いやはや、あの華姫で屈指の獰猛者が今ではすっかり丸くなったか」
「えぇ、優しいお父さんですよ。まぁちょっと気に食わない所も有りますけど」
どうやら虎織のお父さん、虎吉さんは昔凶暴だったようだ。そんな感じはしないんだけどなぁ
「そして今から言うのはなんだが、そこの名も知らぬ童よ、昨晩はすまない……この程度の詫びでは気が済むはずはないだろうが本当にすまない」
「えっ?あぁ、別に気にしてませんよ。ただ虎織に怖い思いをさせたのは赦しません」
「ははっ、自分より他人、いや、世界より娘という方が正しいか。随分と狂っておるな……童、お前名はなんという?」
「風咲将鷹です」
「風咲……あぁ、幸三郎殿の孫か。しかし幸三郎殿は娘しか居なかったと記憶しておるが?婿養子でもとったのか?」
「俺に父親は居ない」
「これは失礼な事を聞いた。すまない……」
感情が昂って一人称が俺になってしまった。もう使わないって決めてたんだがな……
「もう良いか?特に何も無ければワシが質問を始めるが」
「お主一人称ワシなのか……変わったな」
「変なところで突っ込まないでください」
久野宮さんが口を開き先代が茶化す。
もうなんかマジで夫婦の惚気茶番に付き合わされてる気がしてならない
「もう大丈夫です」
虎織が答える
「ではまず1つ目、何故あのような上納金制度を設けたのですか?」
「上納金制度?なんぞ……身に覚えがないぞ」
「市民が一揆起こした原因ですよ!?身に覚えがない事なはずが」
「それが原因で妾殺されたのか!?冤罪と言うやつだぞそれ!妾何もしてないし、というか絶対そういう系はお主に話通すし!」
これは色々と厄介だな。誰かが先代に化けて制度を作り殺される原因を作り、なおかつ久野宮さんに出張の命令を出した。
そして誰かが久野宮さんに化けて先代を殺した
「嘘は言っていないな……次の質問に移ります。どうやって生き返ったのか」
「それがさっぱりなのだ。気づいたらここで目が覚めて手紙が貼り付けられておった。手紙に昼には外に出ないようにという内容だったな」
生き返った原因不明か。
先代の話を聞くと何故か見えていた物が遠ざかり違う所へと進んでいる気がする
「将鷹、難しく考え過ぎちゃダメだよ」
「あぁ、分かってる」
「これはこれは仄様、随分と怨敵と仲良くなっていらっしゃる。ダメですよそいつらは殺すべきなのですから」
金髪ロン毛の男が階段を登ってきた
「お前は城ヶ崎!?」
「おやおや、華姫の英雄久野宮さんではありませんか。これはこれは名前を覚えていただけて光栄ですね」
「その喋り方とその飄々とした姿を忘れるはずがなかろう」
「それはそれは、そこまで特徴的でしょうかねぇ?」
「あぁ、殴りたくなる程にな」
城ヶ崎、旧拾弐本刀の陸番だったか。まさかこんなウザイ喋り方する人だったとはな。
この人は確か白浜のおっさんが失踪する前から行方不明になっていたか。
まさかとは思うけどこの人が元凶だったりしないよな?
「おやおや、そこの黒髪の君はまさか風咲家の長男坊ですか?」
こちらを見ながら城ヶ崎は口を開く。風咲家というか我輩の爺様は有名なのだが我輩自体は名が知れるほどの功績は立てていない。
そんな我輩を何故コイツは知っている?
「怖い怖い。そんな恐ろしい目で見ないでください。でもでも、今の君は覇気が足りませんねぇ?」
城ヶ崎は何枚か札を取り出す。
符術士か。厄介そうだがやる他ないか
「風咲、さがっておれ。ワシがこやつの相手をする!」
「ほうほう、それは随分と面白い提案ですが、被検体3号。貴女の獲物です。殺しなさい」
城ヶ崎の言葉でさっきまで白かった先代の髪がさっきの朱色とは打って変わって深紅へと変貌する。
それと共に紅い光が蛍のように先代の周りを舞う
「るぅぁぁぁ!」
先代は咆哮と共に久野宮さんに噛み付くように襲い掛かる。
その目に生気はなく亡者と同じ目をしているように思える程濁りきり、赤い文様が腕と顔に走り呪いの魔術でもかけられているようだった。
なりふり構わないというかなんというかそれは鬼というより化け物と表現するのがいいかもしれない
「仄様!そのような物に呑まれてはいけません!どうか目を覚ましてください!」
攻撃を躱しながら久野宮さんが叫ぶがその声は届かず久野宮さんの喉を切り裂くように爪を立てたり、掴みかかろうとしている
「おやおや、よそ見している余裕があるとは。余程余程、私は甘く見られているようですねぇ?」
目の前に雷が落ちる。
本格的にやらなきゃだな。敵の実力は未知数。勝てる保証はない。だが勝てないと決まっているわけでもない
「虎織、力を貸してくれ!」
「うん!例えどれだけ拾弐本刀が強かろうが私達なら倒せるよ!」
「面白い!面白い!2人で私に挑みますか。実に実に面白い!いいでしょう2人まとめて相手してさしあげましょう!」
刀を引き抜き我輩達は旧拾弐本刀の陸番、城ヶ崎と相対する。
我輩達は動かない。相手の出方を見てそれを対策しながら戦わなければ多分この相手には勝てはしない
「おやおや、啖呵を切った割には随分と慎重ではないですか!」
城ヶ崎はそう言うと共にこちらに札を投げ雷を落としてくる
「虎織」
「うん!」
2人揃って落雷を躱し城ヶ崎の懐へと飛び込み、そして2人でボディブローをくらわせる
「こふっ、これはこれはお見事、どうやら私は君をいや、君達を舐めていたようですねぇ?」
城ヶ崎は口から血を吐きながらニコリと不気味に笑った。
我輩達は不気味さと危険を感じ虎織の手を掴み元いた場所へと飛び退く。遠距離相手には悪手かもしれないが近くにいた方がさらに危険と判断した結果の一手である
「実に実に、随分と察しが良い2人ですねぇ。せっかく2人仲良く連れていけたというのに・・・」
悲しそうな表情をしているが瞳には狂気を宿していた。
まさに狂人と言うに相応しい存在なのかもしれない
「虎織、バックアップは任せた」
「無理だけはしないでね」
「保証は出来ないな。でも死にはしないから」
我輩は厄介な狂人目掛けて走り出す
「こらこら、ヤケで突貫はいけませんよ?」
真っ直ぐこちらに雷撃が飛んでくる。どう避けるべきか、そんなこと考えなくても大丈夫だ。
横から強風が吹き我輩を吹き飛ばす。
狭い場所なのと咄嗟に魔術式を発動させた為虎織でも風の加減が効かないようだ。あまりの暴風で柱に身体をぶつける事になるが感電するよりは幾分もマシだ
「ほうほう、それは面白い避け方ですねぇ?自らの身体などどうでもいいと言わんばかりの回避方ではありませんか!ではでは、これはいかがですか!」
城ヶ崎の周りに雷を内包する球が城ヶ崎の周りをクルクルと回り始め、余裕と言わんばかりに自らの爪を眺めていた。
雷球などに構わず城ヶ崎の居る方へと我輩は跳ぶ
「愚か愚か、コレを警戒しないとは実に愚か!空中など身動きも出来ぬ空間に逃げるなど……」
「もう射程圏内なんでな」
「は?」
城ヶ崎はキョトンとしていた。それもそうだろう我輩の足が目の前まで迫っていたのだから
「馬鹿な馬鹿な……さっきまでもっと遠くに……」
「風の魔術師が居るならこういうのは警戒するべきだったな!」
跳んだ瞬間に暴風で一気に距離を詰め蹴りを入れに行く。遠距離相手の1度きりの初見殺しとも言える技だろう。
パッと見、昔から憧れているヒーローの必殺技みたいだから我輩はこの技が結構好きだ
「ぐっ……」
城ヶ崎の顔に足がめり込む。周りの雷球はそれと同時にスっと消える。
離れる為に城ヶ崎の首を蹴り元いた場所より5歩ほど手前の場所に降り立つ
「ごめんね。勢いよく柱にぶつけちゃったけど大丈夫……?」
「問題なし!」
「随分と随分と、厄介ですねぇ……さすがとだけ言っておきましょう……2人揃うと手間取るとは言われていましたがまさかここまでとは……致し方ありません。実に実に、残念ですがここは撤退しておきましょう」
「先代様を元に戻してから帰りやがれ!」
逃げる気か!とか言えばかっこいいんだろうけど残念ながらそんな余裕は今の我輩には一切ない。
という訳でダメもとで先代を元に戻せと言ってみた。
ぶっちゃけ今の先代を止める手段は一切ない。
殺してしまえば楽だろうが久野宮さんが傷だらけになりながら防戦一方で頑張っているのだ。できれば殺したくはない。というか殺せるかすら怪しいのが現状だし
「これはこれは、なかなか恐ろしい事を言う人だ。しかししかし、あの人にたまらなく似ているではありませんか!いいでしょういいでしょう、お望みとあらば仕方ありません」
城ヶ崎は指をパチンと鳴らす
「久野宮、お主傷だらけでどうしたのだ?って腕が止まらん!避けろ久野宮!どうなっておる!?身体が言うことを聞かん!」
「何しやがった城ヶ崎!」
「おやおや、これは異な事をおっしゃる、私は君が命じた通り和煎仄を戻しましたよ?ああ、なるほどなるほど、君達は知らないのでしたね。その体は和煎仄の頭と心臓以外は別の物でしてね。いやー可哀想だなぁ?君が戻せと言うから戻した結果ですよ。どうですか?自分の予期せぬ事態になる気分は?」
「最悪だな。気が変わった。ここでお前を捕まえて牢獄にぶち込む」
本当に最悪だ。我輩の余計な一言で最悪の事態になった。口は災いの元と言うやつか
「妾の身体は偽物か……ははっ……悲しいがしっくりくるな……そりゃ死んだ妾が蘇るはずもないか……虚しいな」
制御の効かない身体に振り回され、久野宮さんへの攻撃を続ける先代。
その表情は全てを諦めているような、しかし、まだ諦めきれないそんな表情をしている
「仄様、身体が偽りであっても貴女様はここに居ます!脳と心臓、人として成り立つ為に必要不可欠な物は貴女の物なのです!ならばそれは和煎仄と言っても問題無いはずです!」
久野宮さんは叫びながら攻撃を躱す
「ははっ、言ってくれる」
「ちょっと動きが鈍くなってきたのではないですか?」
確かに最初程勢いは無くなってきた気がする。
おっと、余所見している暇は我輩にはなかったな。城ヶ崎を倒さないとな
「虎織、もう少し力貸してほしい」
虎織の方を見ると少し汗をかいて血色が悪い。
この感じは魔力の使いすぎだ
「やっぱり大丈夫だ。虎織は休んでてくれ」
「平気だよ。今は疲れよりあいつを倒したいって気持ちの方が大きいから」
虎織は目に見えて疲弊していた。そんな虎織に力を貸してほしいとか我輩は最低な人間だ。
そんな時タッタッタッと魔術式を蹴る独特な音が鳴り響く
「虎織!将鷹!大丈夫!?」
片手に槍を携えた黒髪の女性、吉音月奈が窓から内部へと飛び込んで来た
「月奈!?お前別件で遠出してたんじゃないのか!?」
「桜花さんから皆がピンチだって聞いたら急いで帰ってきたの!」
これは頼もしい助っ人が来た。しかし、大量の人間モドキをヴァンさんとローズさんが相手している。
そっちを手伝って貰う方がいいだろう
「広場でヴァンさんとローズさんが……」
「安心して。もう片付いてるから」
言葉を遮るように月奈は言う。その遮り方はめちゃくちゃ不吉なんだけど。あとあの数こんなに早く片付くのか?
「あっ、一応聞いておかなきゃね。なんか人間モドキが一気に塵になったけどこっちで親玉みたいなの倒した?」
親玉……多分白浜のおっさんを人間モドキにしたってやつかな?
「多分久野宮さんが」
「なら大丈夫だね!これでこの目の前の凄いウザそうな喋り方しそうな外道っぽいやつに専念できるね!」
「おやおや、それは私の事でしょうか?」
「えっ、貴方以外にいますか?」
「なるほどなるほど、確かに私しか居ませんね」
納得するなよ……
「将鷹、虎織を休ませてあげて。限界近いみたいだし」
「分かった。あとは任せる」
「任された!」
月奈は槍をクルクルと回してから穂先を敵に向ける。
我輩は虎織の方へと走り今にも倒れそうな虎織を抱え天守閣の端に向かう
「ごめんな、こんなになるまで付き合わせて」
「気にしなくていいよ、将鷹の力に成りたいって私の意思で戦っただけだもん」
「でも……」
「そうだなぁ、なら昨日結局パフェ奢ってないし、2人で割り勘してカップルパフェの大盛り食べに行くってので」
「分かった」
端で虎織を降ろし袖から水の入った水筒を取り出して虎織へと渡す。
虎織は渡した水筒に口を付け一気にそれを飲み干す
「ぷはっ……少し生き返った気がする……ありがと」
そうは言っているがお世辞にもマシになったとは言い難い。
魔力不足の主な症状に強烈な眠気というものがある。
虎織はその眠気に今まさに襲われている
「虎織、今は寝てもいいよ。ゆっくり休んで明日また遊びに行こうな」
我輩は虎織にそう声を掛けると虎織はコクリと頷き眠りにつく
「将鷹!危ない!」
月奈の声が天守閣に響く。振り向くとこちらに向かってくる雷撃が近くに迫っていた。
虎織を連れて避けるのは難しいだろう。受け流しも出来ない。
電流が全身に流れないことを祈る他ないか
「間に合ったか……城ヶ崎め、動けぬ者を狙うとはとんだ外道だな」
「先代様……なんで」
目の前に先代が飛び込んできた。そして間髪入れず雷撃が直撃する
「痛っ!ちょっと強めの静電気みたいで微妙な嫌がらせみたいな痛さだが思ったほどでもないな。妾がわざわざ庇ってやる程でもなかったか」
「もしやもしや身体の主導権を握られてしまいましたか……実に実に厄介ですねぇ。こうなってしまったからには禁じ手を使う他ありますまい」
城ヶ崎は赤黒い札を取り出し、それを高く掲げる。
「その札は神降ろし……!しかも普通のやつじゃない!?」
月奈の声からやばい代物だというのは分かった
「それをどこで手に入れた!」
珍しく月奈が激昂しながら城ヶ崎へ一撃を加えに行く。
城ヶ崎はそれをヒョイっと避けながら赤黒い札を燃やす
「札の対象は和煎仄に。降ろすモノは荒れ狂うモノならどれでもよろしい!」
「それ以上口にするな!それはお前が口にしていい句じゃない!」
月奈が荒れ狂う如く槍を振り回すが城ヶ崎はそれを余裕の表情で避ける。
「うぅ……せっかく身体が言うことを聞くようになったというのに……」
「仄様!風咲、城ヶ崎の口を閉じさせろ!」
先代はその場に倒れ込み苦しみはじめた。
あの金髪を黙らせれば止まるのか?
なんとなくあれの動く道筋が見えた気がした。我輩はそこに短刀を投げ、銃を構える
「私は傍観者。そして華姫に仕える神子な」
短刀は城ヶ崎の手首へと深く突き刺さり言葉が途切れる。
刹那、視界が眩む程の閃光が辺りを包む
「あぁ、なんとなんと、やってしまいましたねぇ?不完全な神降ろしほど恐ろしいものはありませんよ?」
「くそっ……今日はこんなのばっかりだ……なんでこうなる……」
阻止出来なかったというよりさらに厄介な状態になってしまったらしい
全てが裏目に出て最悪な状態にしかならない。
どうしてこうなった……
「将鷹、気にしないで。身体が完全に乗っ取られるより随分とマシだから。不完全な分なんとかできるはず……」
月奈はこう言うが事が終われば腹を切って詫びなければならない程の失態だ
「すまない風咲、ワシが黙らせろと言ったばかりに……」
「そうだそうだ。さっきのは久野宮が悪い」
地面に突っ伏したまま先代は言う。
恐ろしくシュールな光景だ。
ムクリと先代は起き上がりこちらを見る
「先代様、大丈夫なんですか……?」
「そうだな、もってあと5分だろう。神とやらは今は大人しいがそのうち暴れ、荒れ狂うだろう。華姫を危険に晒すのは嫌じゃ。お前達に頼むのは気が引けるが手遅れになる前に妾を殺してはくれんかな?」
先代は酷く悲しそうにそう言った




