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第5幕 喫茶青空

 先代との戦闘から約半日。

 太陽が気持ちよく照る昼下がり我輩達は喫茶店で会議をしていた


 「ハーイ。コーヒーお待ちどうサマー」


 カタコトの日ノ元言葉を喋っているのは金髪サイドテール、外国人のお姉さん、ローズさんである


 「ローズ、貸切で私たちしかいないんだしそのカタコトやめたらどう?」


 琴葉ちゃんが珈琲にダバダバとガムシロップを入れながら言う


 「失礼、接客中となるとつい癖で」


 先程のカタコト喋りはなかったかのようにとても流暢な日ノ元語でローズさんは話す


 「それで、ウチで会議するって事は結構な大事でしょ?お姉さんが知恵を貸してあげましょうか?」


 クスクスと煽るように笑いながらローズさんは席に座る。その瞬間厨房の方から怒声が響く


 「おいローズ!サボんな!サンドイッチもうあがるからテーブルに持ってけ!」


 黒髪の大男、この店の店主、ヴァンさんが厨房から顔を出しながらカウンターにサンドイッチが乗った皿を手際よく並べていく


 「仕方ない店長だこと……」


 ローズさんはそう言いながら席を立ちサンドイッチが綺麗に盛り付けられた6枚の丸皿を器用に運んできてテーブルへと置いていく


 「凄いバランス感覚ね」


 驚愕というような表情を浮かべながら琴葉ちゃんは言う


 「お姉さんはただ面倒だからこうして一気に運ぶ術を修得しただけよ。できる限り歩きたくないもの」

 「横着する為なら努力を惜しまないその姿勢を仕事にも活かして欲しいものだがな」


 そう言いながらヴァンさんがエプロンで手を拭きながら我輩達の座る席に向かってくる


 「結果的に仕事に役立ってるからいいじゃない。頭が堅いと若い子に嫌われるわよ」

 「特に好かれたいとも思わんがな」


 ヴァンさんはどかりとソファーに座り脚を組みバンダナを外す。バンダナで隠れてみえなかったが生え際に金色が見える。

 元々金髪だったのだが風土に合わせて黒髪にしているそうだ


 「全員席に着いた事だし会議を始めさせて貰うわ。各々よく聞くように」


 琴葉ちゃんの声で全員が背筋を伸ばす


 「今白鷺城は先代鬼姫、和煎仄に占拠されている状態なの。放置する訳にもいかないし、何よりそのうち市民にまで被害が出るかもしれないから捕縛または討伐を行うわ。それにあたって作戦会議というのが今回の目的よ」

 「それでめずらしく華姫の英雄たる元拾弐本刀の壱番がいるわけか」

 「ワシは英雄などでは無い。ただの1人も護れなかった無力な老いぼれだ」


 久野宮さんは俯きそう呟いた


 「くのみー、後ろを向いても仕方ないわ。話を進めましょう。白鷺城の敷地の見取り図はこれで正門がここね」


 琴葉ちゃんは丸めていた紙を広げ門の部分を指さした。

 白鷺城の見取り図を見るのはこれが初めてな為よく分からない部分が多い。

 そしてその見取り図には墨で黒く塗りつぶされた部分があった


 「ここの部分はなんで黒塗りに?」


 我輩は黒く塗られた部分を指さし何か知っているか聞いてみる


 「そこは元西の丸ね。危ないから封鎖したと聞いているわ」


 答えたのは琴葉ちゃんだった


 「老朽化とかか?」

 「いえ、そこには幽霊が出るそうよ」


 場が少々冷え込む。

 えっ?そんな理由なのか?

 いや、でも悪霊とかやばいやつが出るのかな


 「はっはっはっ!ジャパニーズホラーか!そういう所にはウィジャボードを持って行きたいものだな!」

 「ヴァン、会議の場で騒がないの。しばくわよ。それにアンタそういう場所でろくな目にあわないでしょ」

 「すまん」


 はしゃぐヴァンさんを窘めるローズさん。それにしてもしばくってローズさんほんとに外国人か?

 日ノ元の方言なんだけど……


 「どこから乗り込むのがいいのかしらね……」

 「面倒だし正面突破でいいのではないか?」


 久野宮さん、それはいくらなんでも……


 「ある意味それが正しいのかもしれないわね。魔術で空を走って奇襲するより意外性があって先代様も驚くかもしれないわね」


 それでいいのか琴葉ちゃんよ


 「でも正門くぐっても広場と坂があるよね?」


 虎織がド正論をかます。

 そういえば橋の先の門って広場に繋がっててそこからもうひとつ門をくぐって城の中だったよな。

 さて、どうしたものか


 「そこも正面突破でいいだろう。相手は仄様1人。ならばそこまで警戒する必要などはない」


 この人は我輩が思っていたより脳筋系なのかもしれない。

 しかし他の案が思いつくわけでもないので反論することも出来ない


 「ヘリで降下した方が早いんじゃないか?というか遮蔽物もない所を走り抜けるのはなかなか危ないと思うんだがそこんとこどうよ」


 ヴァンさんが髪をかきあげながらココアシガレットを咥えてポリポリと食べ始める。

 サンドイッチあるのにそっちを食べるのか……


 「ヘリは落とされると色々大変じゃない。それに目標は先代様1人だけなら飛び道具とかは気にする必要はないんじゃないかしら?」


 反論する琴葉ちゃん。確かに先代1人なら飛び道具を警戒する必要は少ないのかもしれない。

 だが日々喜さんの気が変わって向こう側に本当に着いたとした場合は飛び道具への対策は必須だろう


 「甘いんだよ琴葉様は。対策し過ぎなくらいが人間相手ならちょうどいいんだぜ。相手が1人であっても遮蔽物がないならスナイパーの存在を警戒するのがまず第一だな」


 流石傭兵だっただけある。的確に問題点を挙げていく


 「じゃあヴァンならどう攻めるのかしら」


 琴葉ちゃんの問にヴァンさんは待ってましたとばかりにニヤリと笑う


 「まずは西の丸の石垣の方から登るだろ、そっからは簡単だ。ここが道として通じてるはずだから白鷺城の中に侵入して出来れば柱に身を隠しながら進んで先代を討つ。以上だ。」

 「その西の丸へ登る時はどうするつもりよ。狙撃手が居ると仮定するのなら登っている最中は無防備よ。そこを狙われてしまえばひとたまりもないわ」


 ローズさんもヴァンさんの作戦の問題点を挙げる。


 「それは確かにそうだな。雪城、魔術で弾除けとかに使えるようなものを全員分札で作れるか?」

 「一応は可能ですけど防げて50口径3発ぐらいですかね」

 「よし、それなら速攻石垣登って物陰に隠れれば問題ないな。とりあえず固まって動くのがいいだろう」


 固まって動けば弾除けの回数も増えるという感じだろうか


 「それで制圧できるのかしら?」


 琴葉ちゃんが見取り図をたたみながら言う。

 納得しているというかこの作戦で行こうという感じだろう


 「おおよそは。あとは先代のスペック次第としか言いようがないな」

 「この人数でかかれば大丈夫だ。仄様1人ならな」


 ヴァンさんの問に久野宮さんが答える。


 「ヴァンの作戦で攻め込む、それで異論はないかしら?無いようなら短いけど会議は終了よ。みんなの準備が出来次第作戦を決行するから声をかけてちょうだい」


 何か引っかかるものがあるがここで会議は幕を閉じた

 引っかかるものの正体が分からないがきっと何か後で分かるはずだ


 少し頭を冷やして物事を整理するとしよ。こういう時は……


 「ヴァンさん、ちょっとつきあって貰ってもいいかな」

 「いいぜ。手合わせだろ?獲物は何時ものでいいんだろ?」

「助かります」


喫茶青空には裏庭がある。そこでヴァンさんと向かい合い睨み合う事無く攻防を繰り広げる。

 武器は木製の自分が得意とする物、我輩は木刀2本を、ヴァンさんは西洋系の武器を使っている


 「将鷹!もっと攻めてこい!防御も大事だが攻めないと相手は倒れないぞ!」


 木製のハルバード?というのだろうか長い持ち手に斧のような刃が着いた形状の物を振るいながらヴァンさんは言う。

 確かに攻めないと倒せないがヴァンさんは攻める隙を与えてはくれない。

 まぁ隙は見つけてつくもので与えられものではないのだが。

 今もヴァンさんの猛攻は止まることはない。受け流すだけで手一杯だ。

 そう思った矢先ヴァンさんがハルバードを大きく振りかぶった。

 チャンスという訳では無い。1歩、2歩と飛び退き間合いを取る


 「雪城なら突っ込んで来たかもしれんが、お前は一筋縄ではいかないか」


 やはり誘いだったか。

 もし突っ込んでいたのなら槍で言うところの石突の部分をくらっていたのだろう


 「それにしても二刀流は使わないのか?お前刀2本差してる癖に二刀流1回も使った事ねぇよな」

 「二刀流は向いてないんですよ!っと!」


 間合いを詰め木刀を振り抜く。

 しかし持ち手の部分で見事に防がれた。が、握った木刀を離し1歩、そしてもう一本の木刀でヴァンさんの横っ腹に一太刀浴びせる


 「やるじゃねぇか。でも気を抜くなよ!」


 ハルバードを地面に刺しそれを基軸にぐるりと蹴りが飛んでくる


 「っ!」


 油断し、判断が遅れ木刀を弾き飛ばされてしまう。

 急いで距離をとったがここはむしろ詰めておいた方が良かったと自分の判断ミスを責める他ない。

 横っ腹に一閃ではさすがに追い詰めた、または打ち倒した判定にはならないか・・・

 まぁ人間その程度じゃ死なないしな。

 さてどうしたものか。現状我輩は丸腰、徒手空拳でどうにかできるものなのだろうか?

 魔術が使えるならなんとかできるかもしれないがただの手合わせで魔術を使うのはちょっと気が引ける。

 この手合わせでヴァンさんを打ち負かすには多分捨て身で攻めるのが最善手だろう。

 そうなればヴァンさんに先に動いて貰う他ない。我輩は構えず脚を開きいつでも走り出せるようにしてその時を待つ。

 お互い一定の距離をとり相手の出方を伺う。

 永遠とも感じられるほど長い時間を過ごしたそんな気にさえなる。

 痺れを切らし先に動いたのはヴァンさんだった。

 大きく振りかぶり横薙ぎにハルバードを振るう。

 めいっぱい息を吐きハルバードの持ち手部分にぶつかりに行く。刃さえ避けられるなら打撃を食らうだけで済む。

 腕で持ち手部分を受けた瞬間、形容し難い痛みが左腕を襲う


 「なんのこれしき!」


 痛みを紛らわせる為に声をあげながらハルバードを払い除ける。

 正直めちゃくちゃ痛い!

 拳を腰付近に構え脚に全力を込め踏み込み突き出す。

 昨日自ら食らった技をヴァンさんの胸へとトンと軽く当てる


 「これはお前が全力なら死んでたってやつか」


 ヴァンさんは髪をかきあげながら言う


 「どうですかね?実戦なら我輩の拳はヴァンさんに届かなかったかもしれませんよ」

 「謙遜はいい。今回はお前の勝ちだ。まさか中国拳法まがいの技を使って来るとはなぁ」


 昨日の一件がなければこの勝利はなかっただろう。

 やはり対人戦は学べる事が多いな。

 でも、もう死にかけるのは御免蒙るが


 「手合わせはもういいかしら?」

 「おう。俺の完敗だ」

 「そう、次は勝てるといいわね。風咲くん。これ、東雲さんが持ってきてくれたわよ」


 ローズさんが手合わせが終わったのを確認してから我輩に風呂敷を渡してきた。

 東雲の名前が出た時点で中身に察しはついた


 「ありがとうございます」


 ローズさんにお礼を言って風呂敷を受け取る。受け取った瞬間ずしりと腕に重さを感じる。

 中身の物はこんなに重くはないはず……

 そう思い風呂敷の結び目を解く


 「短刀?」


 今朝頼んで直してもらっていた破けた羽織と共に入っていたのは白木の鞘に収まった刃渡り30センチほどの短刀だった。

 そして手紙がはらりと舞い上がり目の前で開かれる。

 手紙の内容は護身用にこの短刀を入れておくから使ってくれという内容とちょっとしたお叱りの文面だった。

 本当に昨日の一件は色んな人に迷惑と心配かけてるな……

 反省しないと


 「そういえば桜花のおっちゃんが言ってたがお前、グロックのロングマガジンが欲しいんだって?」


 どうやら桜花さんが昨日の昼の出来事を重く見てそういう武器商人とのコネがあるヴァンさんに相談してくれていたようだ


 「そうなんですよ。昨日の昼盛大にやらかしまして……」

 「聞いてるぜ。黒影用の弾丸と対人用の弾丸を同じマガジンにしてたから間違えて普通の弾を黒影にぶち込んだらしいな」


 はっはっはっとヴァンさんは大笑いしてから


 「そんなおバカさんにはプレゼントだ」


 そう言って黒く長い物をこちらに投げた


 「これロングマガジン!」

 「おうよ!最近拳銃類あんまり使ってないからやるよ。俺の使い古しだがまだまだ使えるから使ってやってくれ。なんならマグナム弾が撃てるハンドガンもいるか?」

 「では有難くいただきます。あっ、でもデザートイーグルは遠慮しておきます」

 「なんだ知ってたのか。まぁお前のRSH-12がありゃ必要ねぇか。しかも特殊カスタムまでしてあるしな」

 「我輩の虎の子の存在が露見してる!?」

 「武器の流通はある程度把握してるからな」


 なるほど。納得……できねぇ!

 普通の商人から買ってるならまだしも東雲雑貨で仕入れて貰ったやつだぞ!?あの人は顧客の情報を渡すはずもないし……


 「不思議そうな顔してるな。答えは簡単だ。華姫に入ってくる武器の検品は俺が少々手伝ってる。東雲雑貨の名前で銃が入ってくりゃ買うやつは俺かお前の2択なんだよ」

 「あー……なるほど」


 今回は納得した。検品してるならそりゃバレるか。

 まぁバレたところで特になにも問題はないが


 「他のやつには言ってねぇから安心しろ。それとそいつまた撃たせて貰ってもいいか?マテバみたいな見た目で結構俺好みなんだけど買うか悩んでてな」

 「ならまた射撃場行きましょう」

 「おう!そうだなぁ、先代倒したら休暇貰って行くか!」

 「うっす!」

 「無茶して倒れて行けないはやめてくれよ」


 ヴァンさんは笑いながらそう言って我輩の背中を叩く。

 約束は果たす主義だ

 必ず無事帰ってくるぞと心に誓い羽織に袖を通す。

 短刀を羽織の内ポケットに仕舞い刀を腰に差しいつでも戦える準備が完了する。

 まぁまだおやつ時だから早すぎるくらいの準備だな

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