7 夜、寝室、美少女が二人……何も起こらないはずがなく!?
大変長らくお待たせしました……!
……時刻は流れて夜。
あたしは念のため屋敷内の構造を頭に入れておこうかと、あてどもなくふらふらしていた。
……ついでに百合も探してみたんだけど、収穫はなし。
こんなにメイドさん達がいるのになあ……。
……なんて思いながら探索を続けていると……あたしの百合豚アンテナにピーン! と引っかかるものが!
方角は……お嬢さまの部屋!!
マジか、夜のイベントとくれば……?
あたしは勇んでシルヴァリア様の私室を目指した――。
***
そこは、貴族にふさわしい豪奢な部屋。
天蓋付きの、いわゆるお姫様が使っていそうなベッドには――当然のごとく、シルヴァリアお嬢さまが横たわっている。
……そして、そのかたわらにはレイが控え――ってキタコレ!!
間違いなく百合的シチュエーションじゃん!
さっすがあたしの嗅覚、頼りになるぅ!
万が一にも二人に気付かれないよう窓の外に陣取り、可能な限り自分の存在を希薄にする。
……よし、ベストアングル確保!
……そして、二人の会話が聞こえてきた――。
「……ねえ、レイ」
「なんでしょうか、お嬢様」
「少しだけ……話をしてもいい?」
「…………なんなりと」
……そう言うシルヴァリア様の姿は、侯爵の前での凛とした姿と異なり、ひどく弱々しそうで。
「……レイ。わたくし…………怖かったの」
その瞳は儚げに揺れ。
美しい銀髪は月の光を反射して微かな光を放っていた……。
「……父上に、魔術研究の道を反対されて。
それでも、それを突っぱねてここまで来たわけだけれど……。
だんだん、周囲がみんな敵にしか思えなくなってきて。
『本当にこれで正しかったのかな』って、不安になることばかりで……」
「……お嬢様」
「……けれどね?
今日、エリアと契約を結ぶことができて。
そして、父上にわたくしのことを認めさせられた……。
嬉しいのよ、今、とても」
「然様でございますか……」
……そっか。
お嬢さまは大人びていて、侯爵相手にも毅然とした態度を貫いていたけど……、実のところはまだ子供。内心は不安でしかたなかったんだ……。
あたしみたいな百合クズが、その不安を払拭するのに役立ったのであればこんなに嬉しいことはない。
けど……。
「……ふふ。変な人――いえ、変わった精霊ではあったけれど……エリアには感謝しないといけませんわね……?」
「……はい。おっしゃる通りかと」
お嬢さま……睦言の最中に他の女の名前を出すもんじゃないですよ?
レイが微妙に嫉妬した表情になってるじゃないっすかやだー。
しかし、そこは我らがお嬢様。
「そうそう……もちろん、レイにも……ね?」
「……ぁぇ?」
レイにもきちんとフォローを……、ってレイ、驚きのあまりまともに返事できてないじゃないのさ。
だが、それに構わずお嬢さまの追撃は続く!
「さっきも言ったけど……周りにいる人、誰もが敵にしか思えなくなっていた。
けれど、レイは……レイだけは、ずっと変わらずに、わたくしの味方でいてくれたもの」
「……いえ、私は当然のことをしたまでで」
「だとしても、よ。……あなたがいなければ、わたくしはきっと折れていた。
もしかしたら、今頃はどこぞの嫁にでも納まっていたかもしれないわね……」
「お嬢様……」
そして、お嬢さまは薄く微笑んで。
「今までありがとう、レイ。……これからも、よろしくね?」
そう、告げたのだった……。
……いやっはぁーーーっ!! 最高だねこれは!!
レイが明らかに照れながら、「……勿体無いお言葉です、お嬢様」とか答えてるのも萌えるぅ〜〜〜っ!
いいわぁ……。主従の確かな絆、いい……。
――などと、あたしが悶えているうちにも話は移り変わる。
「……ですが、感謝せねばならぬのは私の方です。
かつて奴隷であった我が身を拾ってくださったのは、他でもないシルヴァリア様。
ゆえに、この命果つるまでぜひお傍に――」
「……だから、それについてはもういい、と言ってるでしょう?
わたくしは護衛を必要としていただけで、レイを救おうとしたわけじゃない、って」
……ほーん。なるほどなるほど。
レイはただの使用人じゃなくて、元・奴隷でもあると。
忠誠心がやたらと高いのはそれゆえか。
……ヤバい、めっちゃ滾る!
奴隷という立場から救われ、主人に抱いた深い感謝の念……それが、いつしか恋心に変化し! 身分違いの愛に身を焦がす!!
あたしの大・大・大好物シチュだぁぁぁぁぁ!!!
興奮するあたしを尻目に、二人の会話は続く。
「……それでも、です。
たとえ、それが偶然に過ぎないとしても――あの時、お嬢様は確かに私を救ってくださったのですから」
「……もう充分、返してもらったと思うのだけれど」
「いえ! まだ全く足りません!」
「……もう。レイったら……」
お嬢様は困ったように笑う。
「それに……シルヴァリア様にお仕えすることは、私の喜びでもありますゆえ。
そして願わくば、お嬢様の行かれる道の果てまで、私をお供させていただきたく…………」
キターーーーー!!!
プロポーズじゃん!! プロポーズだよこれ!!
……いかん、あまりにも濃厚な百合に息が苦しくなってきた。
そして、レイの言葉にお嬢さまは。
「……そう。ではレイ、ひとつ命令をしてもいい?」
「……なんなりと、お嬢様」
シルヴァリア様が、レイに向かって手を差し出す。
「…………決して、わたくしの手を離さないように」
「…………かしこまりました、お嬢様」
「さしあたっては……わたくしが寝入るまで……」
「…………承知しました」
……そして、レイは。
その顔に慈しみを浮かべながら。
いつまでも、いつまでも、シルヴァリア様の手を握って離さなかった………………。
……え? あたし?
そりゃあ……あまりの尊さに、窓の外でひとり悶死してましたともさ。
故郷の家族には、百合を見守りながら死んだと伝えてくれ……。きっと、立派な死に様だと喜んでくれるはずさぁ……。……ガクリ。
すみません、マジですみません。
『待て、次号!』と言ってからどんだけ待たせるんだ、って話ですが、昨年は色々とありまして……。
4ヶ月以上もお待たせしてしまい申し訳ないです。
今後もたぶん亀の歩みのごとくノロい更新になるかと思いますが、見放さず気長にお付き合いいただけると幸いです……。