第1話 最強になるため選んだスキルは
カクヨムで掲載していたのですが、あまりにも読まれないので泣きました。
そこで、なろうにも掲載します。
しばらくは高頻度での更新となります。
ヤバい。
ヤバい。
控えめに言って、異世界に来てから最大級にヤバい。
俺――山田大輔、三十八歳。
いま、目の前でお姫様が死にかけている。
白いドレスは真っ赤に染まり、胸には見てはいけないサイズの穴が開いていた。心臓の鼓動に合わせて、血がドク、ドク、と地面に広がっていく。
普通なら助からない。
普通なら。
「早く治せ! 貴様、治癒魔法が使えると言ったな!」
お供の女騎士が、俺に向かって叫んだ。
銀色の鎧。
金色の髪。
いかにも「姫様を守るためなら命を捨てます」みたいな顔をした美人騎士である。
その美人騎士が、いまは涙目で俺を睨んでいる。
剣の柄に手をかけながら。
「聞こえないのか! 姫様を治せと言っている!」
聞こえている。
めちゃくちゃ聞こえている。
使える。
治癒魔法は使える。
むしろ俺は、火も水も風も土も、光も闇も、時空魔法も使える。ついでに鑑定も収納も使える。自分で言うのもなんだが、かなり盛った。スキル取得時に、欲望の限りを尽くした。
だから、瀕死のお姫様を救うくらいならできる。
問題は、治せるかどうかではない。
問題は。
治したあと、俺が社会的に死ぬ可能性が高いことだ。
女騎士が一歩近づいてくる。
「貴様……まさか、できぬと言うつもりか?」
「いや、できます。できますけど」
「ならば早くしろ!」
「ただ、その、発動条件がですね」
「発動条件?」
女騎士の目が細くなる。
まずい。
説明すればするほどまずい。
この世界の王族相手に、俺の魔法の仕様を正直に説明していいのか?
いや、ダメだろう。
説明した瞬間に斬られる気がする。
お姫様を助けても斬られる。
助けなくても斬られる。
詰んでないか、これ?
お姫様の顔色が、みるみる青白くなっていく。
時間がない。
女騎士の声も震え始めた。
「頼む……! 姫様を助けてくれ……!」
その声を聞いて、俺は胸が痛んだ。
いや、助けたい。
本当に助けたい。
俺だって、別に鬼ではない。
三十八歳のしがない元サラリーマンだが、人の命がかかっている場面で知らんぷりできるほど心は腐っていない。
ただ。
俺にも尊厳というものがある。
どうしてこんなことになった?
俺は冷や汗を流しながら、すべての始まりを思い出していた。
そう。
あの日。
あのスキル選択画面で、俺がちゃんと説明を読んでいれば――。
---
「それじゃあ、好きなスキルを選んでね」
自称神様は、ファミレスで注文を取る店員みたいな軽さでそう言った。
真っ白な空間。
壁も床も天井もない。
なのに、なぜか俺は立っている。
目の前には、ゆるいローブ姿の青年が浮かんでいた。
顔は整っている。
声も良い。
雰囲気も神々しい。
だが、態度が軽い。
「えっと、つまり俺は死んだんですか?」
「死んでないよ」
「死んでない?」
「うん。手違いで異世界に飛ばすことになっただけ」
「それ、死ぬより雑じゃないですか?」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと特典あげるから」
何が大丈夫なのか、まったくわからない。
俺は山田大輔。
三十八歳。
独身。
都内の中小企業で営業職をしていた。
最後の記憶は、帰宅途中の駅前だ。
スマホを見ながら歩いていたら、突然、目の前が真っ白になった。
トラックに轢かれた記憶もない。
通り魔に刺された記憶もない。
落雷に打たれた記憶もない。
なのに、気づけばこの空間である。
「いきなり異世界に行けと言われても困るんですけど」
「まあ、そこは運命だと思って」
「運命を担当している側がそれを言います?」
「細かいことを気にする人だね」
「人生がかかってるんですよ」
「異世界だよ? 楽しいよ? 魔法あるし、モンスターいるし、冒険者ギルドあるし」
「危険要素の方が多くないですか?」
「でも、スキル選べるから」
自称神様が指を鳴らした。
すると、俺の目の前に半透明の画面が現れる。
スマホのアプリみたいな画面だった。
いや、正確にはソシャゲのキャラメイク画面に近い。
左上に所持ポイント。
中央にスキル一覧。
右側に取得予定スキル。
下には大きな決定ボタン。
こういうの、嫌いじゃない。
むしろ好きだ。
俺はさっきまでの不満を一瞬だけ忘れ、画面に見入った。
【所持ポイント:一〇〇】
少ない。
だが、まあ初期ポイントだ。
ここからうまくやりくりするのがゲームの醍醐味だろう。
スキル一覧には、夢のような名前が並んでいた。
【火属性魔法:二〇〇】
【水属性魔法:二〇〇】
【風属性魔法:二〇〇】
【土属性魔法:二〇〇】
【光属性魔法:三〇〇】
【闇属性魔法:三〇〇】
【時空魔法:五〇〇】
【鑑定:二〇〇】
【収納:二五〇】
【最大MP増加・小:一〇〇】
【最大MP増加・中:三〇〇】
【魔法威力強化・小:一〇〇】
【魔法威力強化・中:三〇〇】
【詠唱短縮:四〇〇】
【身体能力強化:三〇〇】
【自動翻訳:一〇〇】
「自動翻訳は必須だな」
異世界に行って言葉が通じないのは困る。
水をください、と言えないだけで死ぬ可能性がある。
俺はまず自動翻訳を取った。
【残りポイント:〇】
終わった。
「いや、終わるの早くないですか?」
「自動翻訳、便利だからね」
「便利とかじゃなくて、これを取ったら何もできないんですけど」
「バッドステータスでポイント増えるよ」
自称神様が再び指を鳴らす。
画面のタブに【バッドステータス】という項目が追加された。
嫌な予感しかしない。
俺は恐る恐る開いてみた。
【身長マイナス五センチ:+五〇】
【身長マイナス一〇センチ:+一二〇】
【顔面偏差値低下・小:+八〇】
【顔面偏差値低下・中:+二〇〇】
【頭髪がやや寂しくなる:+一五〇】
【頭髪がかなり寂しくなる:+四〇〇】
【空腹になりやすい:+一五〇】
【疲れやすい:+二〇〇】
【痛覚二倍:+五〇〇】
【女性からの第一印象が悪くなる:+三〇〇】
【夜中にトイレで目が覚めやすい:+八〇】
「最後のやつ、妙に現実的で嫌だな」
三十八歳にとって、それは笑えない。
あと頭髪系もダメだ。
絶対にダメだ。
異世界に行く前から未来の選択肢を削るわけにはいかない。
「ちなみに、顔面偏差値低下ってどれくらいですか?」
「小なら“なんか惜しい”くらい。中なら“良い人なんだけど”って言われるくらい」
「悪口の解像度が高い」
俺はバッドステータスを眺めながら、頭を抱えた。
身長は削れない。
顔も削れない。
髪は論外。
痛覚二倍なんてもってのほか。
女性からの第一印象が悪くなるのも困る。
異世界だぞ。
もしかしたらエルフの美少女や、獣人の看板娘や、ツンデレ女騎士と出会うかもしれない。
その初手で「なんか無理」と思われるのは避けたい。
「欲望に忠実だね」
「人生設計です」
俺は真剣だった。
異世界に行く。
モンスターがいる。
魔法がある。
ならば、できるだけ強くなるべきだ。
中途半端なスキル構成で森に放り込まれたら死ぬ。
だったら、少々のデメリットを背負ってでも、最強を目指すべきではないか。
俺はスキル一覧に戻った。
火属性魔法。
水属性魔法。
風属性魔法。
土属性魔法。
この四つは基本だ。
どれか一つだけなんて選べない。
火があれば攻撃できる。
水があれば飲める。
風があれば移動できる。
土があれば壁を作れる。
光属性魔法。
これは回復ができそうなのでいる。
闇属性魔法。
正直、何に使うかわからない。
でも名前が強いのでいる。
時空魔法。
これは絶対にいる。
収納、転移、時間停止。
どれか一つでも使えれば人生が変わる。
鑑定。
これも必須だ。
毒キノコを食べて死にたくない。
収納。
時空魔法と別枠なのは気になるが、荷物を持たなくていいなら便利だ。
最大MP増加。
魔法使いにMPは命だ。
魔法威力強化。
どうせなら火球一発で敵を吹き飛ばしたい。
詠唱短縮。
かっこいい。
無詠唱はロマンだ。
俺は欲しいものを片っ端から取得予定に放り込んだ。
【必要ポイント:三四〇〇】
【所持ポイント:一〇〇】
【不足ポイント:三三〇〇】
「住宅ローンかな?」
桁がおかしい。
俺はバッドステータス一覧に戻り、条件検索を使った。
【外見に影響しない】
【痛くない】
【日常生活に支障が少ない】
【女性から嫌われにくい】
【高ポイント】
これで検索。
画面に、いくつかの候補が出た。
【魔法発動時に変な音が出る:+一〇〇】
【魔法発動時に服が少し傷みやすい:+三〇〇】
【魔法発動時に軽い違和感がある:+五〇〇】
【魔法発動方向がやや不安定:+一〇〇〇】
【魔法発動姿勢に制限がある:+二〇〇〇】
【魔法発動部位が非標準になる:+三〇〇〇】
俺は画面を凝視した。
「非標準……?」
三〇〇〇ポイント。
かなり大きい。
「これ、どういう意味ですか?」
「普通じゃない場所から魔法が出る」
「普通じゃない場所?」
「そう。普通は手とか杖とか指先とかだね」
「じゃあ、肘とか膝とか?」
「可能性はあるね」
「肩とか?」
「可能性はあるね」
「背中とか?」
「可能性はあるね」
曖昧だ。
だが、考え方によっては悪くない。
手から出ないのは不便かもしれない。
でも、肘から火が出るくらいなら慣れれば何とかなる。
背中から風が出るなら、むしろ飛べそうだ。
問題は「非標準」の範囲だが、詳細説明を読めばわかるはずだ。
俺は説明欄を開こうとした。
その瞬間、自称神様が「あ」と声を上げた。
嫌な「あ」だった。
「あー、ごめん。そろそろ決めてもらっていい?」
「まだ全然決まってませんけど」
「私、このあと予定あるんだよね」
「神様の予定より俺の人生を優先してもらえません?」
「十秒で」
「短い!」
「じゅーう」
カウントダウンが始まった。
嘘だろ。
まだ説明も読んでない。
スキル構成も詰めてない。
ポイントも全然足りない。
「きゅーう、はーち」
俺は焦って画面を操作した。
まず全属性魔法は外せない。
鑑定も収納も外せない。
自動翻訳も外せない。
最大MP増加も欲しい。
威力強化も欲しい。
「なーな、ろーく」
足りない。
圧倒的に足りない。
俺はバッドステータスの高ポイント順を開いた。
【痛覚五倍:+一五〇〇】
【全身の毛がなくなる:+一五〇〇】
【魔法発動姿勢に制限がある:+二〇〇〇】
【魔法発動部位が非標準になる:+三〇〇〇】
【一日に三回、突然くしゃみが止まらなくなる:+八〇〇】
「ごーお」
痛覚五倍は論外。
毛も論外。
くしゃみも戦闘中に出たら死ぬ。
「よーん」
発動姿勢に制限。
これは危ない。
戦闘中に土下座しないと魔法が使えない、みたいな可能性がある。
「さーん」
だったら、非標準だ。
肘でも膝でも背中でも、出ればいい。
魔法が使えないよりずっとマシだ。
「にーい」
やばい。
もう選ぶしかない。
俺は【魔法発動部位が非標準になる】を選択した。
それでもポイントが足りない。
「いーち」
俺は追加で【魔法発動時に服が少し傷みやすい】も選んだ。
ポイントがギリギリ足りた。
決定ボタンが光る。
「ゼロ」
俺は反射的に、それを押した。
次の瞬間、視界が暗転した。
気づくと、俺は森の中にいた。
夜だった。
「……マジか」
最初に思ったのは、それだった。
木々の隙間から青白い光が差し込んでいる。
空を見上げると、月が二つ浮かんでいた。
月が二つ。
つまり、ここは地球ではない。
「本当に異世界かよ……」
胸が高鳴った。
不安もある。
当然ある。
だが、それ以上に興奮していた。
俺は三十八歳だ。
現実では、もう人生のだいたいの道筋が見えていた。
朝起きて、会社へ行く。
上司に頭を下げる。
取引先に頭を下げる。
意味のあるようなないような資料を作る。
帰って、コンビニ飯を食べて、寝る。
そんな毎日だった。
それが今、異世界だ。
魔法だ。
モンスターだ。
冒険者ギルドだ。
美少女との出会いだ。
「いや、まずは生き残ることだな」
俺は自分に言い聞かせる。
夜の森。
これは普通に危険だ。
武器はない。
防具もない。
食料も水もない。
財布もない。
あるのは、取得したばかりの大量の魔法スキルだけ。
ならば、まず確認すべきは魔法だ。
俺は右手を前に出した。
体の中に意識を向ける。
すると、わかった。
ある。
これまでの人生で一度も感じたことのない力が、体の奥に流れている。
温かくて、少し重い。
血液とは違う。
呼吸とも違う。
だが、自分の一部だとはっきりわかる。
魔力だ。
「おお……!」
自然と声が漏れた。
俺は魔法使いになった。
本当に。
だったら、最初に使う魔法は決まっている。
火だ。
異世界初魔法で、いきなり回復とか収納とかは地味すぎる。
男なら火。
最初はファイヤー。
これはもう法律で決まっている。
俺は右手に魔力を集めた。
集まる。
めちゃくちゃ集まる。
いける。
俺は確信した。
「ファイヤー!」
何も起きなかった。
「……あれ?」
森は静かだった。
木々が風に揺れる音だけが聞こえる。
俺の右手からは、火の粉一つ出ていない。
「発音か?」
異世界語に自動翻訳されているはずだが、念のため言い方を変える。
「ファイア!」
「火よ!」
「燃えろ!」
「炎よ、我が敵を焼き尽くせ!」
何も起きない。
最後のやつは、言ってから少し恥ずかしくなった。
「いや、魔力はあるんだよな」
右手に集めた魔力は感じる。
でも、出口がない。
俺は左手に魔力を集めてみた。
「ファイヤー!」
何も起きない。
両手。
何も起きない。
指先。
何も起きない。
手のひらを上に向ける。
何も起きない。
腕を振る。
何も起きない。
漫画のキャラみたいに片目を押さえる。
何も起きない。
「これはまずい」
冷静に考えると、かなりまずい。
魔法が使える前提でスキルを取ったのに、その魔法が発動しない。
これは、剣士が剣を抜けないのと同じだ。
いや、剣士にはまだ剣で殴るという選択肢がある。
俺には何もない。
「非標準部位って、どこだよ……」
説明を読んでいない。
完全に自業自得だった。
俺は体のあちこちに魔力を集めた。
肘。
出ない。
膝。
出ない。
肩。
出ない。
背中。
出ない。
胸。
出ない。
額。
出ない。
口。
出ない。
「火を吐くとか、ちょっとかっこいいと思ったんだけどな」
出ない。
鼻も試した。
出ない。
耳も試した。
出ない。
だんだん不安になってきた。
もしかして、俺はとんでもない外れバッドステータスを選んだのではないか。
その時だった。
ガサリ。
森の奥で、茂みが揺れた。
俺は固まった。
ガサリ、ガサリ。
音が近づいてくる。
暗闇の中から、黒い影が現れた。
狼だった。
ただし、俺が知っている狼よりも一回り大きい。
目が赤く光っている。
口元からは涎が垂れている。
牙は長く、爪は鋭い。
そして明らかに、俺を食べ物として見ている。
「グルルルル……」
狼が唸る。
俺は一歩下がった。
「待て。話し合おう」
狼が一歩近づく。
「俺は三十八歳だ。たぶん硬いぞ。若い肉の方がうまいと思う」
狼がさらに近づく。
「あと、健康診断の数値も微妙だった。中性脂肪とか」
通じるわけがない。
俺は右手に魔力を集めた。
「ファイヤー!」
出ない。
狼が低く姿勢を落とす。
飛びかかる気だ。
「ファイヤー! ファイヤー! ファイヤー!」
出ない。
出ない。
出ない。
「なんでだよ!」
俺は叫んだ。
その瞬間、背後でも茂みが揺れた。
嫌な予感がした。
振り返るより早く、右腕に激痛が走った。
「ぐあっ!」
もう一匹いた。
背後から飛びかかってきた狼の爪が、俺の腕を裂いていた。
血が出る。
赤い血が、ポタポタと草の上に落ちた。
痛い。
めちゃくちゃ痛い。
痛覚二倍を取らなくて本当によかった、などと一瞬だけ思ったが、そんな場合ではない。
前に一匹。
後ろに一匹。
逃げ場はない。
しかも、血の匂いで他の獣まで寄ってくるかもしれない。
異世界初日。
チュートリアルなし。
武器なし。
防具なし。
魔法、発動せず。
敵、狼二匹。
難易度がおかしい。
「ふざけんな……」
俺は震えながら、魔力を全身に巡らせた。
死にたくない。
まだ来たばかりだ。
異世界に来て、まだ一時間も経ってない。
美少女にも会ってない。
ギルドにも登録してない。
屋台飯も食べてない。
俺TUEEEもしてない。
こんなところで、狼の晩飯になってたまるか。
「出ろ……出ろよ……!」
右手に魔力を集める。
出ない。
左手。
出ない。
肘。
出ない。
膝。
出ない。
胸。
出ない。
喉。
出ない。
頭。
出ない。
魔力が体の中で暴れ回る。
熱い。
苦しい。
内側から膨らんでいくような感覚。
どこかに出口があるはずだ。
スキルは取得した。
魔力もある。
だったら、出ないわけがない。
探せ。
出口を探せ。
体中を魔力が巡る。
腕ではない。
足でもない。
口でもない。
目でもない。
もっと下だ。
腹の奥。
いや、違う。
もっと下。
腰のあたり。
さらに下。
「……いやいやいや」
俺は本能的に否定した。
そこはダメだろう。
そこだけは違うだろう。
だが、魔力は正直だった。
体内を巡っていた魔力が、ある一点に集まっていく。
信じたくない。
認めたくない。
だが、そこが熱い。
めちゃくちゃ熱い。
前方の狼が、地面を蹴った。
同時に、背後の狼も動いた気配がした。
もう時間がない。
俺は目を見開き、半ばヤケクソで叫んだ。
「ファイヤー!」
その瞬間。
背後で、轟音がした。
ボッ――!!
「キャインッ!?」
狼の悲鳴が響く。
俺は恐る恐る振り返った。
背後の狼が、顔面に炎を浴びて転がっていた。
燃えている。
いや、正確には、炎を食らって悶絶している。
俺は何もしていない。
右手は前に出したままだ。
左手も動かしていない。
口から火を吐いたわけでもない。
なのに、背後の狼が燃えている。
そして。
俺の尻が、めちゃくちゃ熱い。
「……嘘だろ」
俺はゆっくりと、自分の腰のあたりを見た。
ズボンの尻の部分に、丸く焦げた穴が開いていた。
夜風が、そこを通り抜けていく。
スースーする。
前方の狼が、俺を見ていた。
いや、違う。
俺の顔ではない。
俺の尻を見ていた。
そして、明らかに怯えていた。
「グ、グル……」
さっきまで獲物を見る目だった狼が、一歩下がる。
俺も一歩下がりたかった。
自分自身から。
その時、視界の端に半透明の文字が浮かんだ。
【バッドステータスが発動しました】
【魔法発動部位が非標準に固定されました】
【魔法発動時に服が少し傷みやすい効果が発動しました】
そして、最後に小さく補足説明が表示された。
※発動部位は尻に決定しました
俺はすべてを理解した。
神様の説明は、ちゃんと読まなければならない。
そして、異世界初日の俺は。
最強の魔法使いになる前に、まず人としての尊厳を失ったのだった。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます!
この作品が「面白かった」と思ってくれた方、「続きを読みたい」という方は、
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よろしくお願いします!




