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第4章 - その代償は?

死ぬ前、私はいつも思っていた。より良い人生のためなら、何だって差し出すと。そして自問した。魂を差し出す覚悟はあるか?と。苦痛に耐え、自己憐憫に浸るばかりの時間は長かった……だが、真剣に考えたことは一度もなかった。もし、すべてを変えるチャンスが訪れたら、私はそれを掴むだろうか? より良い人生という希望のために、自分自身を犠牲にできるだろうか? 今、一生に一度のチャンスが目の前にある。本当の問題は、私に「悪魔」そのものと契約を交わす勇気があるかどうかだ。

私は深く息を吸い込み、最後の疑念を重苦しい暗闇へと投げつけた。

「あんたが約束を守るなんて、どうやって信じればいい? あの絶望的な後悔のない人生を、本当に与えてくれるのか? 偽りの希望を見せているだけの嘘つきじゃないと、どうやって証明する?」

虚無が完全に静まり返った。私はただ漂っているだけではなくなった。暴力的な力で、隅にある光の方へと引きずり込まれた。それは導きではなかった。奴の意志は私の頭蓋に突き立てられたナイフとなり、私に「それ」を見ることを強いた。

その光は網膜を焼き切らんばかりに眩しかった。私は目を閉じたが、足裏に芝生の柔らかさを感じて、すぐに目を開けた。音が襲ってきた。絶叫、砲声、そして喉を詰まらせるような火薬の臭いが混ざり合った、吐き気のするような騒音。 私は血の海の中に立っていた。男たちが古めかしい武器を手に殺し合っている。銃弾が耳元をかすめていく。死にゆく者たちの祈りは騒音にかき消された。動きたかった、助けたかった。だが、恐怖に縛り付けられ、足が凍りついた。

その時、奴が見えた。一人の男が私に向かって走ってくる。その顔は虚無の黒に塗りつぶされていたが、あの恐ろしく巨大な「白いニヤけ面」だけがそこにあった。 奴が私に届く直前、世界がひび割れた。周囲の兵士たちが一斉に弾け飛んだ。男は赤い霧と化した。血と骨の雨が降り注ぎ、私の体を濡らした。叫ぼうとしたが、口からは情けない、くぐもった音しか出ない。私の声は奪われていた。

惨状が変貌した。肉塊が不自然な速さで縫い合わされていく。時間が逆行したのだ。兵士たちは後ろ向きに歩き、悲鳴は飲み込まれた。世界は芝生から泥へ、そして泡立つ溶岩へと巻き戻り、気づけば私は太陽が照りつける輝く海の上に浮かんでいた。奴はその光景をひったくるように消し去った。

私は宇宙の海へと引きずり込まれ、美しく、あり得ないほど巨大な銀河へと運ばれた。その回転する光に見惚れたのも束の間、背景にあの馴染み深い白い光が現れた。「白いニヤけ面」だ。それはより近く、すべてを見透かしていた。

銀河全体が砕け散った。音は耳から来たのではない。何億という命が死に絶える悲鳴が、私の精神を切り裂いた。十億の命が消える最期の静かな熱を、私は自分の痛みとして感じた。あのニヤけ面の黒い男が再びそこに立ち、私を凝視していた。それは奴が支配する力の、最終的かつ絶対的な証明だった。

私は引き戻され、再び空虚な暗闇の中に漂っていた。銀河が、何事もなかったかのように完璧に再構築されるのを私は見た。存在を破壊し、作り替える力。 視界が元に戻ったとき、奴の声は平坦で冷酷な命令となって響いた。もはや抗うことのできない、否定しようのない真実を突きつけて。

「こいつが、すべてを支配している」私は鈍く重くなった頭で考えた。「こいつなら、後悔を消せる。失ったものを取り戻せる。代償なんて、もうどうでもいい。他に道はないんだ。私は一度死んだ男だ。これは、無惨な人生の軌跡を修正する唯一のチャンスなんだ」

かつての人生なら、私はここから逃げ出していただろう。戦うのではなく、隠れることを選んでいたはずだ。痛みに慣れはしても、破滅的な喪失からはいつも逃げていた。だが、今回は違う。これは逃げられる戦いではない。いま目撃した力が本物なら、私はすべてを懸ける。戦ってやる。

降伏の言葉を口にしようとしたその時、息を吸い込むよりも早く、奴の声が暗闇を殴りつけた。

「黙れ、小僧」奴は宣言した。「貴様の同意など形式に過ぎぬ。人生よりも後悔を重んじた瞬間に、貴様の選択は決まっていたのだ。今から言うことを聞け。我らの条件は単純だ。これが『代償』であり、これが貴様の『目的』だ」

「貴様のアイデンティティに価値はない。記憶は封印した。貴様はただ、我らの意志を運ぶ『器』としてのみ知られることになる。この企てを完遂させるため、貴様に『アンドカー(Andhkar)』を授ける。これは原初の虚無、形を与えられた影だ。それは貴様の盾となり、武器となり、そして鎖となる。それは貴様のものではない。その使用は、厳格に我らの望みによって制限される」

「我らは最初であり、唯一であった。絶対的な現実。我らはただ存在するだけで、存在そのものを定義した。貴様が見ているような、あの無惨な光や構造物が生まれる前、そこには虚無しかなく、我らこそが虚無の統治者たる意識であった」

「器よ、我らは敗北したのではない。辱められ、貶められたのだ。あの存在ども――あの不届きな何者でもない者どもが、我らに反旗を翻すなど、宇宙規模の暴挙である! 我らは奴らを決して忘れぬ。サットヴァ(Sattva)、ルタ(Ṛta)、プラーヴァ(Prāva)。奴らは我らの玉座を奪い、我らの周囲にこの『代替現実』を編み上げた。それは、我らの無限の性質を封じ込めるためだけに設計された、有限のルールの牢獄だ。小僧、貴様の短絡的な痛みなど、我らの投獄という事実に比べれば微々たる結果に過ぎぬ」

「よく聞け、小僧。貴様の目的は魂を集めることでも、戦争をすることでもない。目的はただ一つ、基盤を外すことだ。鍵や秘宝など必要ない。弱点は、看守どもそのものだ。サットヴァ、ルタ、プラーヴァ、これら三つの核となる本質エッセンスを探し出し、不安定化させよ。三つの本質が崩れれば、この無惨な存在の殻を繋ぎ止めている法則は失われる。ひとたび牢獄が壊れれば、我らは無限の領土である『ガリクトス(Galictous)』を奪還し、この宇宙は元の静寂へと解けていく。それが、貴様が息を吹き返す唯一の理由だ」

「条件を話す前に」奴は告げた。「アンドカーの仕組みを教えておこう。アンドカーは虚無そのもの――統治的な闇だ。それを引き出すとき、貴様は『未創造』の力を操り、想像しうるあらゆるものを一時的な実体として生み出すことができる」

「しかし、絶対的な制限がある。創造したい物体や存在について、その形態と機能を明確かつ完全なイメージとして持っていなければならぬ。正確な知識なしに創造を試みれば、生み出される構築物は制御を失った虚無によって汚染される。その汚染は暴走し、周囲のすべてを即座に破壊するだろう。そのような破壊は我らにとってはどうでもいいことだが、ほんの些細な過ちが我らの静かな帰還の計画を狂わせる可能性がある。このルールを破ることは許されぬ」

「我らの器として、貴様の動きは一時的なものであり、その存在は必要な撹乱である。我らが貸し与える力は贈り物ではない、枷だ。アンドカーを私的な復讐や好奇心のために浪費することは許さぬ。その使用が許可されるのは、この領域を繋ぎ止める『本質』の破壊という目的のためのみである。我らの存在に注意を向けさせるな。簒奪者ども――サットヴァ、ルタ、プラーヴァ――が追跡できるような、我らの力の痕跡を残してはならぬ。制御、沈黙、そして絶対的な集中。それが、貴様の束の間の命における掟だ」

奴は宣告した。「我が力を行使する代償は苛烈だ。貴様の存在そのものが、今、我らへの奉仕に縛り付けられた。アグナ(Agna)よ、貴様は非の打ち所がない宿主だ。人間でありながら、アンドカーを使う負担は貴様の魂と肉体に重くのしかかるだろう。我らの力に限界はない。それを使えば貴様の魂は削られ、破壊される。だが、完璧な宿主である貴様の死は先延ばしにされ、最期まで我らの目的に仕えることが保証されている。貴様は我が掟に縛られ、日々、永遠とも思える苦痛と苦難に耐え続けることになる。貴様は自らのために『永遠の幸せ』を求めた。ならば我らに仕えることで、それを達成するがよい。その痛みは、永遠の安らぎを得るための一時的な対価に過ぎぬ」

「条件はすべて伝え終えた。これより、貴様の出発を開始する」奴はそう命じた。

第4章 終わり


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