巨大な冷凍庫と純水なココロ
浄水場は恵麻の根城なんです
時雨浄水場に到着すると恵麻が待っていてくれたらしいが、作業着しか着ていない為か本人は寒さなんて微塵も感じられ無いだろうが結愛と軍曹が【寒くないの?】って感じで不安そうな表情をしている。
というか彼女はまだ長袖長ズボンだから良いとしても私はあからさまにドレスであるから端から見れば作業着よりも見てて寒そうに思えるんじゃないかと感じるも、誰一人として私には心配はしてくれなかった。
それとも共に行動してたから見た目に慣れてしまったのかは定かじゃないが……ってコラ、その目は何だ!?
私だけ季節感の無いヤツと思ってる視線だな。
「結愛よ、季節感の無い大人になるとモテないとおにーさんが言ってくれたぞ……気を付けるよーに。」
「う、うん……わかったわ。」
コソコソと耳元でささやいてるのはわかる、けれども相手は子供だ……悪気はなくても私の反応を伺いつつこちらをチラチラ見ながら言うのはさすがに心がグサッと抉られる感じだな。
でもな、それ言ったら時雨の民も全員同じだからな?
いくら晴れてるとは言えど氷点下、そこら辺歩いてる老若男女は雪が積もってようが半袖半ズボン……はてまたは上半身裸のオッサン居るくらいだからなっ!!
「と、とりあえず皆さんよく来てくれましたね。 どうそどうぞです!!」
「恵麻、私に作業着支給してくれ……1発目から萎えた。」
私は好き好んでこのドレスを着込んでいるが反論は今はやめておこうと思うのだ、こう見えても心はガラスで出来ているようなモノだからこれ以上何か迎撃で言われればさすがにふて腐れちゃいそうで仕事に支障が出かねない。
子供と言うのは嘘を言わないで素直な代わりにストレートに物事を喋る、だがそんなことでいちいち目くじら立てても私の沽券に関わるから【あぁ、そう?】で済ませる……もしくは着替えれば良い話。
それが大人のナイスで素敵な対応、模範解答なのだよ。
時雨浄水場の場内の寒さは業務用冷凍庫みたいにヒンヤリしており、寒がりはお断りと言わんばかりの冷たさが容赦なく軍曹と結愛に襲いかかる。
建物の中だから外は珍しく晴れているとは言え、寒さからある程度は逃げられると思った?
残念でした、外よりもここは寒い氷点下20度の極寒の世界へようこそ。
「ゆ、結愛……軍曹はこんな寒いところに居たくないぞ。」
体感温度となればさらに寒く感じられ、いくらニンゲンの姿を借りて防寒はしてるとは言え元々はありふれた虫でしかないのだから想像を絶する寒さに身震いはおろか顔色が優れない。
かといって時雨まで来たのだ、玄弥のキャンピングトラックも今や遠くへ行ってしまった……今さら帰りたいと願っても無理な話だし避寒できる場所は限られているはずだからどうしようもないのは確かでしかない。
これがただの弱音なら一喝を入れれるのだが、彼女は自分に厳しく虫の世界であれば飢え死にしないためにも常に時給自走を強いられてきた軍人気質となればこの弱り様は危険と判断し得ないし、血の気の引いた顔色が物語ってるんだから無理をさせることは絶対にさせたくはない。
「い、医務室に連れていくわ!! あそこなら来客者のために暖房もつけれるはずよ!!」
あくまで来客者用を想定とした暖房器具であり時雨の民は暑がりなため本来暖を取ることは決してないがこういう非常事態のために存在するのは確かなこと。
気が付けば寒さに対応しようと無意識に結愛も髪が青くなって寒さを感じなくなっているのに気がついたのか不用になったダウンを軍曹に貸し与えてはおんぶして医務室まで搬送。
「結愛……軍曹はふがい無いダメダメなヤツだ。 こんな寒さごときで弱音を吐いて何1つもお手伝いできないとはおにーさんに会わせる顔が無いぞ……。」
「ならば会わせる顔を作らせてあげるわっ!! 最初は誰だって何もできなくたって怒ったりしないわ、だからそのためにもまずは温かくすることが第一優先よ。 医務室には私が買い置きしたとびっきり甘くて温かいコーヒーもあるんだからね!!」
軍曹が泣いている。
その涙はよほど本気でおにーさんとやらの役に立ちたい一心なのだろうな。
だから頑張るために遠路はるばる張り切って来たというのに時雨の寒さの洗礼に耐えられなくて惨めな自分が許せなくて悔しい思いをしてるのは、悪いが良い勉強になったんじゃないか?
それにしても心なしか結愛は妹分ができて嬉しいのか軍曹を諭す姿がどこかお姉さんらしくてこれまた私と恵麻の心をキュンっとさせ、成長とは美しいものだと今のカメラは場にそぐわなくても1枚だけ貰ってしまった。
許してくれ。
さて、ニンゲンと言うものは大きな苦難を乗り越えてこそ強くなる生き物であるがゆえに負の感情を持つこともできる素晴らしい生き物なんだ。
耐えて強くなっておにーさんを幸せにしてあげるのだ。
結愛もやっぱり成長してる




