シメー島で買いたい物
「こーちょー先生、しっかりしてくれよ……」
マルジュが俺の体を揺する。
「頼む、俺を殺してくれ。それができないなら動かさないでくれ」
「本当にだらしないな」
くそっ、なんでよりにもよって、俺たちが乗っていた地竜が産気づくんだよ。
代わりに、走竜と言う、地上を高速で走る竜が引く馬車を手配してもらったんだが、これの乗り心地が死ぬほど悪かった。
いや、俺は実際に死んでいるんだから、死ぬほどという表現はおかしいな。
だから、こう表現しよう。
殺人竜車だった。
「先生大丈夫なのかよ。ここ、美食の町なんだろ」
「あぁ、そうだ。安心しろ、空飛ぶ蜘蛛とか、人を襲うケーキとかはそんざいしないから適当に遊んでこい。集合時間には遅れるなよ。コメットちゃんも一緒に――」
「コーマ様の傍にいます」
「……うん、だよね……ごめん、アイテムバッグから冷たいタオル用意して――」
「はい」
コメットちゃんは俺のアイテムバッグから冷たいタオル(竜車に乗る前に用意しておいた)を取り出し、俺のおでこにあててくれる。
少し気持ちが落ち着く。
身体を起こし、俺は水面を見た。
シメー湖に浮かぶ島、シメー島。
様々な交易路の中継地点であり、様々な食材や料理が集まる。
ここが美食の町と呼ばれるのもそのためで、毎日のように様々な料理大会が行われている。
流石に、殺人料理コンテストは開催されていないようだ。
でも、今の俺の目に映るのは、とても綺麗な湖だった。
「全ての料理の元は水である。だから、この町の人は常に湖をきれいにする方法を模索し、湖を汚す行為はもっとも重い罪であるとさえ言われる(あくまで都市伝説だけど)。人間って凄いよな。多くの人が住んでいるのに、努力と思いだけで湖をこんなに綺麗に保てるなんて」
「そうですね。とても綺麗です……それに、綺麗なのにこの湖は多種多様の魚がいるそうですよ。ただし、許可を得ている人以外は釣りは禁止されていますけど」
「あと、魚の放流も禁止されているそうだ。ただ、ブラックバスはこの近くの川にまで侵食してきているそうなので、かなり危ないかもしれないけれど」
「ブラックバスって、コーマ様の世界の魚でしたっけ?」
「うん、俺と一緒に召喚されたんだけど、いつの間にか脱走していてね」
「あ、そういえば、私――グーがコーマ様と出会って直ぐ、水汲み場の中にいるピエールクラブを拾っている時に見た気がします。小さな魚がいっぱい泳いでいましたよ」
「あぁ、あの中ですでに繁殖していたのか」
あの水汲み場の中も調査しないといけないな。
あそこがラビスシティーの湖に通じているのは確かなんだろうけど。
「さてと、そろそろ行こうか」
「もう大丈夫なのですか?」
「うん、だいぶよくなったよ」
俺は立ち上がり、コメットちゃんと一緒に散策することにした。
さすがに食べ物は買う気にはならないので、コメットちゃんと一緒に喫茶店に入って、俺はハッカ茶を、コメットちゃんはカフェラテを飲むことにした。
ふぅ、やっぱり車酔いにはハッカ茶だな。さっぱりする。
そして、窓の外を見ると、大食いコンテストの看板があった。
「大食いコンテストか……そういえば、知り合いに大食いキャラっていないな」
「カリーヌちゃんはどれだけでも食べられますよ?」
「カリーヌってそんなに大食いだっけ?」
「えっと、自分に必要な分だけは消化して、残りは仲間にあげたりするそうです」
「……うん、親鳥が子供に餌を与えるみたいな想像にしておこう」
可愛いカリーヌのイメージを崩したくない。
「コーマ様のアイテムで大食いになれる道具はないんですか?」
「強力な消化剤はあるんだけどな、食べた物の栄養が即座に効率よく吸収されるから、食べれば食べる分だけ太るぞ」
「……えっと、胸の部分にだけ栄養が行く消化剤ってないですか?」
「あったら、とっくにメイベルにプレゼントしてるさ。あいつも気にしてるからな、胸の大きさは。女の子の魅力は胸の大きさだけじゃないと思うんだけどな。これから成長もするだろうし」
コメットちゃんも一年間で成長しているし。メイベルだって……成長してい……るのかな。
んー、考えないでおこう。
そう思っていたら、
「こーちょー先生! 見つけた!」
「おぉ、よくここがわかったな、マルジュ。どうした?」
「お願い、お金貸して!」
「どっかのバカ勇者じゃないんだから、子供の内から借金なんてするもんじゃないよ。無駄遣いのし過ぎだ。コメットちゃんも貸すんじゃないし、マルジュ、友達にも借りるなよ。うちの学校は生徒間の金の貸し借りは禁止しているんだからな」
「全員で金を出しても足りないから頼んでるんだよ」
「……一体、何を買おうって言うんだ?」
「お店を買いたいの」
……店を買いたいだと?
子供たちがこの町で店を買う?
「面白そうだな、詳しく聞かせろ」
俺がそう言うと、コメットちゃんが横で苦笑した。




