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異世界でアイテムコレクター  作者: 時野洋輔@アニメ化企画進行中
Episode Extra03 修学旅行

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聖戦の始まり

 俺の名前はヨハン。

 俺の父はアークラーンの牧場を纏め、そこで手に入れる肉の流通を担うことで財をなした。俺も牧場をひとつ継ぐことが決まっていて、今後はスウィートポテト学園で学んだ経営学を礎に、今後の西大陸の肉の流通の一部を担うことになる。

 最初は、牧場主が学校に行くなんて、とか思った。父も同じ考えを持っていたのだが、それでも俺を学校に行かせたのは、校長のコーマが、六神子、そして養豚王に強いコネを持っているからだ。


 最初は校長とコネを作ることに尽力しようとしたのだが、そこで俺ははじめて、同年代の女性と出会う。

 家で女性といえば40歳近いメイドや母親だけであり、兄弟も全員男。そんな環境に育った彼は同年代の女性と出会ったことで、15年間溜め込んだ性欲を一気に膨らませた。


 もっとも、この学校はマルジュのような平民の出の人間もいれば、それこそ政治の中枢を担うような大臣の息子まで多種多様の人がいて、校長とコネを作る前からここで問題を起こせば、下手をすれば俺は両親から絶縁されかねない。そう思っていた。

 ヨハンは最初、この修学旅行で校長であるコーマとコネを作っていたのだが、配られたシオリを見て、彼はのぞきをする決意をした。


 そこに裸体があるから。

 そんな単純な理由で。


 だが、それも全てコーマによって阻まれた。

 15年間溜め込んだ性欲を解消するには、水着では不十分だったのだ。


 だが、先ほどまでのようにうまいこといかない。


 コーマによって覗きは犯罪であり、学校側の処分の方針を聞かされた現在、共犯者を大っぴらに募ることはできない。

 秘密裏に共犯者を集める必要がある。


 だが、共犯者候補を決めるのは簡単だった。。

 この修学旅行、女子が6人、男子が9人。

 つまり、男女ペアを作ろうと思えば、どうしても男子が3人余ってしまう。そのうちのひとりは俺だったので、残り2人を誘おうと決めた。


 夕食の時間になった。十四のテーブルが並べられ、四人席と三人席に分かれていた。


 厄介なのはコーマとマルジュだが、夕食の時、コーマはいなかった。

 なんでも、女湯に入ったことがバセロナードにばれてしまい、それを先導したのがコーマだということになり、彼ひとりで処罰を受けていた。

 具体的には、バセロナードによる説教コースらしい。校長が先生に怒られるというシュールな図を想像すると、ほんの僅かだが、コーマへの怒りが薄らぐ。


 マルジュは、カリエルナと一緒にいて席が離れている。

 ならば、とバセロナードは級友に頼んで、あぶれ者三人で並ぶことにした。


「……よぉ、残念だったな」


 俺が声をかけたが、ふたりは男女ペアを作れなかったことはそれほど悪いと思っていないのか、


「いや、水着でもおいらは嬉しかったよ」

「うん、あれは見ごたえがあった。青春の一ページにはちょうどいい。校長に感謝だ」


 と俺とは違った感想を述べた。

 さすがは気の弱い二人。

 デグとドッタ、勉強ばかりしてきた勤勉家で日頃から学ぶ場所を提供してくれたコーマに対して感謝している。

 こんなふたりが役に立つのか? とも思ったが、単独犯より複数犯のほうが罪も軽くなるという根拠もない考えと、こんな気の弱いやつらなら先生に密告することはないだろうと思い、誘うことにした。


「……この後、一緒にもう一回女風呂に入らないか?」


 俺の誘いに、ふたりは逡巡し、


「おいらは……やめる。校長先生言ってた。覗きは犯罪だって。結構罪は重いって」

「俺も断る。校長への恩義に背くことになる」


 ちっ、やっぱりそう来たか。


「それに、女子生徒の入浴時間は終わっただろ」

「あぁ、そうだな。悪い、ちょっと試したんだ。お前等が俺の誘いに乗るようだったらいさめるつもりだったんだ。ほら、俺たち三人ペアを作れなかったからな。ヤケになって変な気を起こさないかって心配になったんだ。どうだ? 明日三人で一緒に自由時間回らないか?」

「そうだね。おいらもドッタとそうしようって話してたんだ」

「ああ。パートナーがいない同士、ともに楽しもう」


 ヨハンは笑って言うと、ドッタに対していった。


「そうだ、ドッタ。お前、ジャグリングが得意だったよな。みんなの前で見せてくれよ」

「そうだな、余興にはちょうどいいか」


 ドッタは舞台に上がる。彼がジャグリングが得意であることを知らないコメット以外は、彼が何をするために行ったのか勘付き、拍手して彼に注目した。


「どころで、デグ。覗きを断ったのは、お前は校長の恩義ではなく、罪を恐れてのことだよな?」

「……え? うん」

「なら、一緒に覗こう。安心しろ、見つかったところで大した問題にはならないよ」

「え? それってどういうこと?」

「いいか? 俺が狙うのは夜中の25時。その時間は従業員の入浴時間になる。お前も見てるだろ? ここの従業員のレベルはかなり高い。うちの女子生徒にも勝ると劣らぬ美人揃いだ」


 俺はあたりを見回して言った。


「仮に見つかったところで、金を払って見逃してもらえばいいさ。そうだな、銀貨3枚でも掴ませればいいだろ。中には裏でそういう営業をしている従業員もいるくらいだからな」


 俺が聞いた情報はあくまでも噂話でしかないのだが、自信満々に言う俺の言葉にデグは息をのむ。


「それに、バセロナード先生は超がつくほど真面目で、22時には完全就寝しているから、さっきみたいにマルジュに足止めさせる必要もない。この宿は貸し切りだから、一般客が入ることができる25時までは女性従業員が入ってくることはない」

「で……でも、あの蒸し暑い中に待つのは」

「これを見ろ」


 俺が出したのは宿のパンフレットだった。


「蒸し風呂は魔石を使うから、利用時間は22時までって決まっているんだ。25時ならあそこは誰も入ってこないし、蒸し暑くもないぞ」

「……で……でも」

「いやなら俺ひとりでいく。絶対に失敗しない作戦だからな、俺だけ成功したら悪いと思ってお前を誘ったんだが、イヤなら別にいいよ。俺が言ったことは忘れてくれ」


 俺はそう言って、今度はデグを一度突き放した。

 デグの中でいろいろな葛藤が渦巻いているのを知りながら、俺は待った。


「行くよ、おいらも」

「そうか。じゃあ、24時50分決行だ」


 こうして俺は共犯者を得た。


    ※※※


 男子8人(コーマはまだ帰ってこない)全員でバカ騒ぎをし、明日の自由時間に思いを巡らせていたが、22時に消灯。

 そのあともバカ騒ぎは続く。やれ、誰が好きだとか、やれあの水着はよかっただとか、やれ修学旅行最高だとか、実りの無い話ばかりだ。

 そんなバカ騒ぎも一時間続いたころには終わった。昼の覗き騒動の疲れが残っていたのだろう。


 俺とデグはこっそりと部屋を抜け出す。

 部屋は暗いが、廊下はところどころに魔力灯が灯されていて明るい。

 魔石は高価な品だが、ラビスシティーから近いこの町では日常的に使われているようで、魔道具の中でも安価の魔力灯もそれなりに揃っている。


「行くぞ、デグ」

「……おいら……」

「どうした?」

「おいら、やっぱりやめる」

「あ? 今更何言ってるんだ、お前、ここまできて」

「だって……もし見つかってお金渡しても許してくれなかったら停学になる。そしたら、おいらの母ちゃんが泣く」


 そう言うと、デグは俺の言葉を待たずに部屋に引き返した。

 ぐっ、裏切り者め。だが、ここでデグを呼び止めて騒げば他の男子に見つかる。

 そうなったら計画は終わりだ。


「いいさ、俺一人で楽園を見て来てやる」


 俺はそう呟き、ひとりで女風呂を目指した。

 そして――


   ※※※


 蒸し風呂の中は多少熱が残っていても予想通り涼しくなっている。

 これだと一時間や二時間待てる。

 浴場の中も魔力灯のおかげで明るく、それでも昼間よりは薄暗いのでますます蒸し風呂部屋が見えにくくなった。


 これは思っている以上にやりやすいな。


 そう思っていたら、誰かが入ってきた。


「……おぉ」


 思わず声が漏れ、思わず口を押さえる。

 入ってきたのは、黒髪の女の子だった。

 顔はよく見えないが、15、6歳くらいだろうか? 胸はそれほど大きくないが、全くないというわけでもない。


(タオル、邪魔だ)


 他の女性従業員は入ってこないが、それでも俺はただひたすらに彼女を見続けた。

 椅子に座って体を洗う彼女を見て絶対にあの椅子を舐めると決意する。


 そして――


(うぉぉぉぉぉ)


 彼女が蒸し風呂近くにある水風呂の水を桶で掬った。

 その時、俺は彼女の顔を間近でみることができた。


 うちのクラスメートなんて目じゃない。シミひとつない肌に可愛らしい目、小さな顔と小さな鼻。

 年齢は俺たちとそんなに変わらないか、少し年上くらい。


 首には首輪をしている。奴隷だった。

 こんな可愛い子が奴隷として売られているのか。でも、そんなことは関係ない。

 奴隷だろうとそうでなかろうと、俺の中で彼女の評価は決まった。


「天使だ」


 思わずつぶやいた俺の言葉――それがあろうことか彼女の耳に届いてしまった。

 彼女は急に視線をこちら――蒸し風呂へと向けた。


「誰かいるんですか?」


 透き通った可愛らしい声。あんな声で耳元でささやかれてみたいが、今はそんな願望を口にできない。

 危ない……ピンチだ。


「……誰も……いないですよね?」


 足音が少しずつこちらに近付いてきた。

 俺は床に這い、蒸し風呂の窓の死角に入った。


 だが――


 扉が開き、


「きゃぁぁぁぁぁっ!」


 彼女の悲鳴が聞こえて思わず上を見た俺は、つまりは真下から彼女の裸体を見上げてしまった。

 しかし、それを拝めたのはわずか一瞬。

 直後、俺の視界を、彼女の持っていた桶が当たり、俺の意識は一瞬のうちに失われた。


    ※※※


 次に俺が気付いた場所は宿の救護室だった。

 そこにいたのは宿のオーナーの男とコーマだった。


「………………」


 コーマが俺を睨み付けている。どうやら覗きの件がばれたようだ。

 でも、俺は満足だ。俺は天使の全てをこの目で見た。

 停学になろうと、退学になろうと、親から勘当されようとも自業自得だし、それで十分満足だ。


「お客様」


 オーナーが立ち上がる。怒られるんだろうな。まぁ、仕方ない。


「うちの従業員が大変失礼なことをいたしました」

「……え?」

「お客様に対し、暴力を振るうなどあってはならないことです」

「あ……え?」


 思ってもいない言葉に、俺は言葉にならない受け答えをした。

 怒られる覚悟はできていたが、謝罪を受ける覚悟はできていなかった。

 いや、謝るのは俺のほうじゃないのか?


「ヨハン、お前、何をしたのかわかってるのか?」


 オーナーとは逆に、コーマは俺を睨み付けて言った。

 こっちはやっぱり怒っているのか。当然だろうな。


「……わかっています。でも、どうしても我慢できていなくて。停学の覚悟はできています」

「……はぁ……お前は何もわかっていない」


 コーマが首を横に振る。

 わかっていない? 俺が何をわかっていないって言うんだ?

 もしかして、退学になるってことか? もちろん、その覚悟だって。


「反省文100枚だ」

「え? それだけ?」


 もちろん軽い罪ではないが、停学一カ月と比べたら大した罪ではない。


「オーナーさんがどうしてもって言ってな」

「……あ……ありがとうございます」

「いえ……あの、どうかうちの従業員が暴力を振るったのは内密に処理していただきたく――」

「いえ、さっきも言いましたけど、悪いのは俺なんで……こっちこそすみません」

「お前、謝る相手が違うだろ……まぁ、何を言ってももう手遅れだがな」


 謝る相手が違うって、あの天使に対して謝れってことか?

 手遅れってどういうこと?


「お前が覗いたあの子、クビになったよ」

「……え?」

「俺もなんとか頼んだんだがな、どんな理由があれ客に暴力を振るうような奴隷は置いておけないってオーナーさんが言ってな」

「そんな……待ってください、そんなつもり……俺……」


 あの子がクビ? そんな……え?


「オーナーさん、席を外してくれませんか? あとは俺が言って聞かせるので」

「かしこまりました」


 オーナーが席を外し、俺とコーマが残された。

 コーマは自分の首を人差し指でトントンと叩き、


「あの子の首輪を見ただろ。彼女が奴隷ってことは気付いているな?」


 と尋ねた。

 

「あ……はい」


 隷属の首輪と呼ばれる首輪のことだ。


「この国では奴隷は覗きをされたところで訴えることはできないんだよ。でも、奴隷が暴力を振るえば、それは大罪だ。その罪は彼女だけではなくその主人であるあのオーナーに降りかかる。問題が起こる前にあの子を処分するのは当然なんだろうな。ラビスシティーだったらそんなことはないんだが」

「処分って、まさか――」


 最悪の光景が俺の頭に浮かぶ。

 

「殺されはしてないよ。そこまで非人道な宿ならお前たちを泊めたりしない。でも、この宿にいさせることはできなかったようだ。……とりあえず、あの子の新しい主人は俺が見つけてやるよ。できればここよりもいい待遇の場所を探してやるつもりだ」

「コー……校長先生、俺に……俺にできることは?」


 せめて、何かしないと。

 そうだ、父さんに頼んであの子を……そう思って言った俺をコーマが突き放す。


「自惚れるな。金持ちの息子でも、ただのガキのお前にできることなんて何もないよ。何かしたいと思うなら、まずは何かできる大人になれ」


 そう言ってコーマは部屋を去り、俺がひとりで残され、そして悔いた。

 俺は覗きをするとき、自分のメリットとデメリットのことばかり考えていた。

 だが、覗かれる側の人のことを全く考えていなかった。

 最悪だ。


 俺の拳が床に打ち付けられた。


   ※※※  


 床を叩く声が聞こえて来た。


「コーマ様、あれでよかったでしょうか?」

「あぁ、オーナーさん、ナイス演技だ。悪いな、無茶言って。安心してくれ。今回の事は絶対に外部には漏れないようにするから」

「いえいえ、十分に見返りは貰っていますからこの程度は。それに、彼にはぜひ立派な大人になって欲しいものです」

「まぁ、軽いトラウマものだろうけどな。俺たち教師がなんとか立派に導いてやるよ」

「そうなることを祈っております」


 オーナーはそう言って去っていく。

 入れ替わりにコメットちゃんが来た。


「お疲れ様です、コーマ様。どうでしたか?」

「そうだな。反省はしているだろう。もう二度と覗きをしようとなんて思わないだろう。そして、あいつがどんな大人になるのかは、最終的にはあいつ次第だよ」

「いえ、そうではなく、覗かれる気分はいかがでしたか?」


 コメットちゃんの質問に、俺は嘆息して答えた。


「男の視線って気持ち悪いな。背中を向けていても見られているのがよくわかるよ……」


 俺はそう言って、性別反転薬の空瓶をゴミ箱に捨てた。


   ※※※


 ヨハンが奴隷解放の父と呼ばれ、女性の味方の政治家になるのは、それから五十年もあとのことだった。そして、そこに至るまでには、数々の政敵との戦いがあり、それは彼が死ぬまで、いや、死した後も続くことになる。いつ終わりが訪れるのかはわからない。

 でも、彼の聖戦が始まったのは、確かにこの時だった。

聖戦編終わりです。

次回からも普通に修学旅行は続きますが、ヨハンくんはもう旅行を楽しむことはできません。

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