忍頭の秘め事
~前回のあらすじ~
とりあえずお茶を飲むことにした。
出された湯呑の中で茶柱が浮いていた。
これは運がよさそうだ。
俺が持ってきたお土産を、グンジイはさっそく出してくれた。
皿に乗せられた干し芋を食べ、お茶を飲みながら、さっそく本題に入った。
「サクヤ暗殺の命令を解除してほしい。あんたなら可能だろ?」
「できかねます」
「彼女は何も知らない。何の情報も持っていない。殺しても意味はない」
「そうかもしれません」
グンジイはお茶を飲み、
「そうでないかもしれません」
と、先ほどと逆のことを言った。
その意味を理解し、俺は――
「お前は……お前は可能性だけで殺すっていうのか! サクヤを! それを姉であるシグレに殺させるって言うのかよ!」
「それが一族の掟です」
「いったい何なんだ! お前の一族がそこまでして守りたいっていう秘密は!」
激昂し、俺は立ち上がって叫んだ。
人の命を何だと思っている!
命よりも重い掟なんてくそくらえだ。
「それを言うことはできませぬ」
「……あぁ、そうかよ、そうかよ、チクショウ!」
俺は悪態をつき、マユを見た。
彼女は前もって伝えていた俺の意図をくみ取り、小さく頷いた。
「………………」
黙ってグンジイを見つめる。
「どうなされた?」
急に無言になった俺を訝しみ、グンジイが訊ねた。
「さっき、『ワシの家はあまり見せられないところにある』って言ったが、ここがお前の家なのか?」
「どういう意味ですかな?」
「言葉のままの意味だ。ここはあんたの家なのか? 違うんだろ?」
俺がそう訊ねると、グンジイも立ち上がり、杖を床についた。
その時だった。天井から、畳の下から、いたるところから忍び装束を纏った者たちが現れる。
殺気と敵意を込めて。
「メディナ、石化してもいい! こいつら全員俺達を殺す気のようだ!」
俺が叫ぶと同時に、畳の下に隠れていた忍者がクナイを投げてきた。
「秘技、畳返し!」
俺はそう叫び畳のヘリを踏み、畳の裏でクナイを受け止めた。
日本人なら一度はやってみたい防御法だ。
「まったく、米をご馳走してくれるんじゃなかったのかよ!」
俺はそう言い、畳を投げ飛ばした。
忍三人がその畳にぶつかり飛ばされる。
メディナの目が忍者七人を石化していた。
そして、マユの周りには水が展開していた。無詠唱による水魔法だ。
彼女の魔法が飛んでくるクナイを受け止め、反射して飛ばす。
その時、グンジイが飛んだ。彼の杖から刀が現れる。
スーの好きそうな武器だと思った。
「爺さん、足、元気そうだな。まぁ、仕込み刀なのは最初からわかってたけどよ」
俺は真剣白羽取りでその刀を受け止めて爺さんの鳩尾に蹴りを入れた。
「年寄りを大事にせんとは、最近の若者は」
グンジイは腰から二本のクナイを取り出して言う。
「はっ、俺の時代じゃな、キレる老人ってのが社会問題になってるんだぜ」
仕込み刀をくるりと回し、杖の取っ手を握り切っ先をグンジイへと向けた。
「主君の名前はなんていう?」
「なんのことですかな?」
「俺も忍者については齧った程度の知識しかないんだがよ、忍者って誰かに仕えてるものだろ? なのにお前が国の長って、妙じゃないか。全然忍んでないぞ」
俺は笑いながら言った。
「どこの武家大名か知らないが、幸せだな。死んだあとも、その子孫にまで忠義を持ってもらって。なぁ、ここにいる奴は全員知っているのか? あんたのいう主君っていうのが今はどうなっているのか! グンジイ、お前は知っているんだろ!」
「やめ、やめろぉぉぉっ!」
俺は叫んだ。
グンジイが知っている、そしてここにいる彼以外のほとんどが知らない秘密を。
俺達日本人なら誰もが知っているそのことを。
「あんた達の主君は、いや、武家という制度でさえももう既に取り壊しになっているんだよ! たとえ日本に戻ったところで、あんた達が仕える主君はもういないんだ!」
明治の世になり、武家は全て取り壊しになった。
そんな義務教育で習うことを俺は言い切った。
これが、グンジイが隠していた秘密。
その秘密を俺はマユに探らせた。
彼女の持つ友好の指輪で、グンジイの心を読んでもらい、その秘密を俺に伝えさせた。




